帰ってきた統合失調症 ―― 100人に1人のよくある話

腋臭手術、グループホーム、お笑い芸人

 

加賀谷 高校受験の前に先生と母親とぼくで三者面談をしたとき、先生から「中学を卒業したらどうするんだ」って聞かれて「高校には進まずにホームレスになりたいです!」って言ったんです。義務教育は中学までだと知っていましたし、ホームレスなら臭いのは当たり前なんだからって。本気で思っていたんですよ。

 

松本 ホームレスでもいい匂いのするホームレスだっているかもしれないよ?

 

加賀谷 えー! ちょっとまってくださいよー!

 

でも母親にどうしてもここだけは受けて欲しいという高校があったので、絶対に受からない様に3教科のうち英語と数学は名前だけ書いて白紙で提出して、国語は最後の小論文だけサラサラっと書いて出したんです。「これで無事にホームレスになれるぞ!」と思っていたら、なぜか補欠合格の5、6番目くらいになっていて。結局繰り上げ合格でその高校に入学することになっちゃったんです。高校でもやっぱり同じように後ろから声が聞こえました。後ろから声が聞こえるのだからって壁に背中をべったりつけて壁伝いにズルズル歩いていたこともあります。

 

いつの日からか、母親に相談をしても埒が明かない状況の中で「これはいわゆる腋臭なんじゃないか」と思うようになったんですね。それで近所の皮膚科に行って「ぼくは臭いので腋の皮膚を切ってください!」ってお願いしたんですけど、「加賀谷くんは臭くないよ」と言われちゃって。「いや臭いです!」って言っても手術してもらえませんでしたし、勧められた神経科に行っても結局同じようなやりとりを繰り返すだけだったので、総合病院の皮膚科のある先生が診察をしている時間を狙って何度も何度も押しかけたんです。

 

松本 ストーカーだよな(笑)。

 

加賀谷 5、6回目になって先生が折れて、「そこまで言うなら加賀谷くんのためにも手術しましょう」って言ってくれて。嬉しくってマリオみたいに「ヤッホー!」と飛び跳ねました。無事に手術も終わって術後で突っ張る腋を感じながらうきうきと高校に行ったら、やっぱり「加賀谷くん、くさい」って聞こえたんです。喜んでいたぶん、ドーンッと落ち込みました。

 

当時、並行して思春期精神科に通っていてグループホームの誘いを受けていたんですけど、その頃はぼくも偏見があって「そういうところに行くほど悪くはない」って思っていました。でも手術をしてもダメで、「もうグループホームに行くしかないのかな」と思う様になったんです。しかもあの時は家庭もいろいろとごちゃごちゃしていたので、お医者さんもグループホームに入るべきだとおっしゃったんですね。それで16歳のときにグループホームに入ることにしました。

 

グループホームは、社会になかなか適応できない人たちが集団生活を通して社会復帰することを目的とした場所です。ぼくはそこでのんびりとした時間を過ごすことができて、救われたような気持ちになりました。でもグループホームって、長くなればいるほど焦りはじめるんですよ。社会にでたらいったいどうすればいいんだろうって悩みだすんです。ぼくもすごく悩みました。

 

ぼくは中学生のときからビートたけしさんのラジオが好きで、ラジオを録音したカセットを何度も聞いていました。それでグループホームをでたらお笑い芸人になろうって思っていたんです。当時はダウンタウンさんが大阪から東京に出てきた頃で、ダウンタウンさんを輩出した心斎橋筋二丁目劇場がすごく注目されていたので、実際に見に行きたいと思って近所のハンバーガーショップでバイトして資金をためて大阪までひとりで行ったんです。見に行った日は偶然ナインティナインさんが仕切りをやっていて、「きみどこからきたの」って客いじりされたんですよ。ぼく、馬鹿なんで「東京から来ましたー!」って浮かれて答えたら、「あ、こいついじったらまずいやつだ……」って会場がシーンって(笑)。

 

それからグループホームに帰って近所の本屋でオーディション雑誌を眺めていたら大川興業の案内があったんです。それで深く考えずに勢いだけで履歴書を書いたらなぜか受かってしまって。そこでキックさんに出会いました。

 

 

「業務用」が「加賀谷くさい」に聞こえる

 

南部 質問のメールを二通紹介します。「統合失調症はどんな病気なのでしょうか? うつ病とは違うのでしょうか? 発病するきっかけに特徴的な点などありましたら教えてください」「昔と今とでは、統合失調症になる要因はどのように変わってきているのでしょうか?」という質問です。統合失調症をご専門にされている功刀さん、いかがでしょうか?

 

功刀 そうですね。統合失調症には陽性症状と陰性症状という二つの症状があります。幻覚や妄想は陽性症状といって普通の人は持っていない症状です。もう一つの陰性症状には、意欲が低下する、友達づきあいができなくなる、いきいきした感情が鈍くなる、記憶が少し悪くなるといった症状があります。また、確かにうつ病と似ている部分もありまして、おそらく加賀谷さんもうつ状態になられたと思います。

 

加賀谷 あ、なりました。

 

功刀 うつ病の場合は大きな認知機能障害とか非常に目立つ幻覚妄想はでてこないというのが統合失調症との違いですね。

 

加賀谷さんの場合はおそらく最初は統合失調症ではなくて、思春期に多く見られる自己臭妄想症に苦しまれていたのだと思います。自己臭妄想症の方は往々にして、腋臭の手術をしたり高い化粧品を買ってみたりするのですが、結局解決せずますます落ち込んでしまって、酷い場合には自殺未遂をしてしまう方もいらっしゃいます。

 

南部 こういったメールも来ています。「統合失調症は幻覚・幻聴にさいなまれるとのことですが、プラス思考の幻聴・幻覚もあるのでしょうか?」

 

加賀谷 ぼくはないですねー。でも南部さん、ぼくのことずっと天才だって思ってるでしょう?

 

南部 (笑)。

 

松本 それは妄想だろう(笑)。

 

加賀谷 話は飛びますが、入院していたとき、患者さんの間で「業務用」という言葉が流行ったんですね。なぜか。それが極端になって「よう、業務用!」って。

 

松本 挨拶みたいになって。

 

加賀谷 そうなんです。でもぼくには「業務用」が「加賀谷が臭い」って隠語に思えたんですよ。だからムードメーカーの人に事情を話して使わない様にお願いをしたら「そういうことなら言わないよ、みんなやめよう」って言ってくれたんです。でもその後に、集まりに参加していなかった人が大きな声で「よう、業務用!」って(笑)。それでぼくがブチ切れちゃって、ちょっとした騒ぎになりまして(笑)。

 

荻上 なるほど。加賀谷さんには不快な幻聴が聞こえるんですね。やはり幻覚や幻聴はご本人にとって不快なものばかり見えたり聞こえたりするのでしょうか?

 

功刀 不快な場合が多いですね。ただなかには自分のことを褒めるような幻聴を聞いたり、さきほどの「南部さんが加賀谷さんを天才だと思っている」のように、自分のことをいろんな人が好きだと思っていると感じる人もいます。発症されてから何年も時間が経っている方に出る場合が多いですね。

 

荻上 もちろん、南部さんは実際に加賀谷さんを天才だと思っていると思います(笑)。

 

南部 (笑)。

 

松本 ずっと目の上にお釈迦様が見えているという人もいましたね。【次ページにつづく】

 

 

 

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