帰ってきた統合失調症 ―― 100人に1人のよくある話

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先回りをしないこと

 

南部 キックさんへの質問も届いています。家族に統合失調症の方がいらっしゃる方です。「キックさんは加賀谷さんが統合失調症だと知ったとき、どういう感情をお持ちになったのでしょうか」

 

松本 加賀谷は芸人の世界に入ったときに病気を隠していたんですよ。見るからに挙動不審で、鼻息は荒いし、「ふぅん、はぁん」って桃色吐息だったりするからなんだろうとは思っていたんですけど(笑)。

 

あるきっかけで加賀谷が薬をたくさん持っていることが発覚して、それまでの話を聞いて病気のことを知りました。でもぼくはいまでもそうですが、加賀谷へのスタンスはまったく変わっていません。「ああ、加賀谷という人間は病気を持っていて、そういう個性の人間なんだ」と思って接していました。

 

加賀谷 本当にキックさんは変わっていないですねー。ニュートラルです。

 

松本 「どんなことに気を付けていますか?」と聞かれたときは、「先回りをしないこと」とよく答えています。昔は情報があまりありませんでしたが、今って逆に情報があふれているじゃないですか。統合失調症がどういう病気で、どういう症状があって、どんな対処をしなくちゃいけないって頭に詰め込んで対応するんじゃなくて、加賀谷という人間から病気のことを知ればいいと思っていて。

 

加賀谷 なかなかそうやって考えられる人って少ないと思うんですよ。なんでこの人はずっとスタンスが決まっていて、まっすぐなんだろうって考えたんですけど、この人天然なんですよ!

 

松本 お前が言うなよ、お前が! おれも傷つくんやぞ!(笑)。

 

荻上 自然と受け入れるような方がいたからこそ、安心して一緒にお仕事ができたわけですよね。

 

加賀谷 芸人になったときぼくは17歳でしたので、まるで社会のことを知らなくて、病気のことを言ったらクビになるんじゃないかって思っていたんです。でもキックさんに出会って、しかも漫才でときどき変なことを言っても、お客さんが喜んでくれるってわかって。

 

松本 別に病気を茶化しているのではなくて、加賀谷のおかしな行動が面白いってだけで。それをお客さんが喜んでくださって。

 

加賀谷 それはものすごい救いでした。

 

荻上 本の中でも漫才を始められて、笑いがとれるようになってから、ここが居場所だと思う様になったとお書きになっていました。

 

加賀谷 強烈なものがありました。それまで「自分」というものがなかったので、「ここにいてもいいんだ!」って感触を得たときは、本当に嬉しかったです。

 

 

tougou

 

 

統合失調症のなりやすさについて

 

荻上 功刀さんにお聞きしたいのですが、統合失調症の方で初めて病院で診断を受ける方は、ご自身で診断に行かれるのでしょうか? それとも家族や友人に連れられてくる方が多いのですか?

 

功刀 統合失調症の場合、幻覚・幻聴を自分では幻覚・幻聴だという自覚はないんですね。ですから周りが疑問を覚えて、病院に連れて行くことが多いです。

 

荻上 例えばご家族が、「身内からこんな……」と恥ずかしそうに連れて行くことと、理解ある友人が連れていくことは、本人への影響に違いが出るものですか?

 

功刀 大きな違いがあると思いますね。加賀谷さんの場合、当時の加賀谷家は家庭としてあまり機能していなかったということですから、理解あるグループホームに移ったことは意味があったと思いますし、キックさんのニュートラルな対応もよかったのだと思います。対処の仕方によって変わってくるものはあると思います。

 

南部 統合失調症の方からメールが来ています。「いったい何が原因で統合失調症になったのかわからずにいます。薬は一生飲まないといけないのでしょうか? そして治るのでしょうか?」また「この病気は伝染するのでしょうか? 遺伝によるものなのでしょうか?」という質問も届いています。

 

功刀 最初の質問ですが、お薬は主治医とよく相談をして長期的に非常に具合がいい場合は、試しにやめてみる場合もあるとは思います。ですが、これは非常に慎重にしていただいた方がいいです。加賀谷さんもお書きになっていますが、加賀谷さんの場合、ご自身で薬の量を調整したことで症状が悪化して結果的に芸人を一度辞められるきっかけになっています。ひとりで勝手に薬をやめたりはしないことです。

 

また治るのかどうかですが、これは糖尿病や高血圧が薬を飲みながら血糖値や血圧を安定させるように、統合失調症も薬で症状を抑えることで人生をエンジョイしていただくことは可能だと思います。

 

次の質問ですが、まず伝染することはありえません。また遺伝についても、遺伝の面も関係あるのではないかとは言われていますが、誰が遺伝するのかといった遺伝子診断ができるかどうかはわかっていませんし、例えば「子供を作るべきではない」といったことはまったくありません。

 

荻上 遺伝的な要素だけでなく、逆に、統合失調症になったからといって、育った環境がよくなかったのだ、という話でも必ずしもないわけですよね。

 

功刀 そうです。育て方が悪かったんじゃないかとご自分を責められる親御さんも多いのですが、そうではなくて、体質的な面で少しなりやすかったということなんです。【次ページにつづく】

 

 

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vol.266 

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