支援者の「バカの壁」 ―― 「どうせ・しゃあない」を乗り越えて

「病気に疲れ果てた。退院したくない」

 

―― しかし権威主義的な構造では、支援を受ける側が、いったい自分が何に困っていて、何をしたいと思っているのかわからなくなってしまうとお書きになっていました。

 

そうなんです。大学院生のときに、NPO大阪精神医療人権センター(http://www.psy-jinken-osaka.org/)という、大阪府内にあるすべての精神科病院に訪問活動をしているNPOでボランティアをしていました。そのとき、衝撃的な「入院患者さんの声」に出会ったんです。

 

 

「病気に疲れ果てた。退院したくない」

 

 

論理的に考えてみてください。「病気に疲れ果てる」ことと「退院したくない」は、そのままではイコールでは結ばれないですよね。

 

うつ病や統合失調症になる方の中には、失恋や受験勉強、就職活動の失敗や結婚の破綻、リストラ……といった人生の危機によって、追い詰められる経験がきっかけになる人も少なくなりません。人生の危機で、たとえば眠れない日々が続くと「お前はバカだ!」といった幻聴が聞こえる人もいます。そして聞こえてくる声が嫌でなんとかしようと行動すると、「錯乱状態」と言われて、救急車に乗せられ精神科病院に強制入院させられるケースもある。

 

その頃には家族関係もぐちゃぐちゃで、下手をすれば絶縁状態になっていて、入院したら社会と繋がるチャンスがほとんどなくなっていたりする。さらに入院先が、長期入院を当たり前と考え、支配的な関わりしか出来ない病院なら、本人中心のケアなんてやってくれるはずもない。そんな絶望的な状況が重なる中で、「もう病気に疲れ果てた。自分の望みもかなえられないんだったら、何を望んでも仕方ない。それならもう、退院せんでええわ」となってしまうんです。

 

そして、その言葉だけを聞いて私たちはつい「これは自己決定だ」と思ってしまって「退院したくないならここでしっかりケアさせていただきます」と言ってしまう。でもね、ちょっとまてよと。それは「学習された無力感」、つまり抑圧的な構造の中にずっといる中で「ここしかないんだ」とすべてを諦めきった上での自己決定なわけですよね。それで本当にええのかと。

 

この医療や支援が構築してきた構造を、「どうせ障害者(認知症者、ホームレス……)だから、しゃあない(仕方ない)」ですませていいわけがない。その構造を明らかにした上で、新しいアプローチで支援していったら随分変わるんじゃないか。そのアプローチが、本書のタイトルにもある「権利擁護」あるいは「セルフアドボカシー」なんです。

 

 

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「~したい」を見つけてもらうための支援

 

―― 権利擁護は手法であって、目的ではないとありました。

 

権利擁護は、自分らしく生きられず「無力化」された状態に置かれている人自身に、自分たちの権利に気付いてもらい、支援を活かして、自分で選んだ、自分らしく生きる力を高めることを支援する手法です。

 

無力化された人に対して「~すべきだ」と言えば、簡単に支配者になってしまいます。一方、権利擁護とは、無力化されている人に「~したい」と思ってもらえるように関わる支援であって、権利擁護自体が目的ではないんですね。

 

例えば訪問販売に騙されるお年寄り、のことを思い浮かべてみましょう。その人がさらなる被害にあわないように金銭管理をする、だけでは、実は権利擁護上の問題が解決したことにはならない。高額な商品を騙されて買ってしまったお年寄りが、なぜ必要もない商品を買ってしまうか。それを紐解くと、「寂しさ」に突き当たる場合もある。お金はあるけど人との関わりがない中で、訪ねてきてくれた人が優しそうに声をかけてくれるのが嬉しいからつい買ってしまう。そういう場合、被害にあったお金を取り戻せば、それですべて解決というわけではないんです。

 

この本では薬物依存症からの回復支援に取り組む倉田めばさんの「薬物依存者が薬物をやめると依存が残る」という言葉を引用しました。薬物依存の人は、薬物依存という形でしかSOSの自己表現が出来ない状態に陥っている、ともいえるのかもしれません。だから薬をしてもいいというのではなくて、単純に薬物だけを抜いてしまったら依存が残ってしまって、アルコールやDVといった別のものでまた依存に陥るかもしれない。であれば、依存状態の構造を変えるような支援をしなくちゃいけないんです。

 

権利擁護は決して目的ではありません。権利擁護支援を通じて、依存構造とは違う、心からの「~したい」という自己表現の方法を見つけてもらうための手法なんです。

 

 

 

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