支援者の「バカの壁」 ―― 「どうせ・しゃあない」を乗り越えて

社会起業家精神をもった支援者が社会を変える

 

―― 現場での取り組みが、制度を変えることもあるわけですね。

 

そうなんですよ。

 

ぼくは博士論文を書くとき、京都府にいる117名の精神科のソーシャルワーカーにインタビューをしました。その調査の中で気がついたのですが、本気で現場を変えている人は、「支援者のバカの壁」に気がついて、自らのアプローチを変えた人でした。

 

例えば精神科病院で20年暮らしていた人が「ぼく、結婚したいんですよ」と言ったとき、「模範的」な支援者は「あなたは金銭管理ができていないし、薬もちゃんと飲めていないんだから云々」と「説教モード」にはいってしまう。でも現場を変えてきた支援者は「そうかあ、あなたは結婚したかったんかぁ……初めてあなたの本音を聞かせてもらったよ。さて、どうしよかー。まず退院して、彼女と出会うチャンスがないとなぁ。それに二人暮らしの場所も必要だし」って本人が結婚するためにどうしたらいいのか、本人の「したい」ベースにアプローチを変えるんですよ。

 

するとね、結局一つの現場、一つの福祉施設だけじゃ完結しないんです。「支援のバカの壁」に気づいた社会起業家的精神を持った支援者達は、「出来る一つの方法論」を模索するため、課題を共有する仲間を増やし、立場や所属を超えていろいろな人を巻き込んでいく中で、働く場や住まいの場などの社会資源を地域の中で作り出してきました。たとえば、有名レストランのシェフを引き抜いて、障害者も働くおしゃれなレストランを作ったりとか。そういう役割が提供されたら、病院の中で「無力化」されて「どうせ」「しゃあない」と諦めていた人が、キリッとしながらお客さんにサービスするようになって、誇りとやりがいを取り戻したり、とかね。

 

これって社会起業家精神(Social Entrepreneurship)そのもの、なんですよね。いま、社会起業家って、コミュニティービジネスなど、ビジネスの面が強調されることが多いですが、社会起業家はそもそも社会問題を先駆的に解決する手段をゼロから作ったり、そのために既存のシステムを作り替えたりした人々なんです。本気になって支援現場を変えてきた人々の営みは、社会起業家精神そのものなんですよ。既存の枠組みでは飽き足らず、イノベーティブな方法を見つけて、社会を変えてきた人じゃないですか。そういう意味で、社会起業家と支援現場を変えてきた人は共通点が多いんですよね。

 

 

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物語を紡ぐ支援が、社会を変える

 

―― 竹端さんはこの本をどんな人に読んでもらいたいと思っていますか?

 

ぼくは支援を諦めたくないんです。「どうせ」「しゃあない」で終わらせたくないんですよね。

 

支援が必要な人って、絶望的な苦悩に追い込まれて「どうせ俺なんて」って思ってしまっている。支援の醍醐味って、そういった人たちが再び物語の主人公に戻っていくところにあると思うんですよ。そのイノベーティブな要素が全然語られていない。そして社会を変える支援があるということも全然語られていないこともすごく残念なんです。

 

この本は、そして前著『枠組み外しの旅』(https://synodos.jp/welfare/848)も、僕自身が構成員として関わった国の障がい者制度改革推進会議の骨格提言が反故(https://synodos.jp/welfare/1805)になった瞬間に「書かなあかん」と思って書きだしたんです。社会を変えるには、49対51にもっていかなくちゃいけませんが、あのときはまだ49対51じゃなかった。

 

ぼくが今の立ち位置で出来ることは何か、を考えたとき、本人中心の支援システムへと変わっていくためにはどうすればいいか、それを考える起爆剤として、理論編の『枠組み外しの旅』と、実践編の『権利擁護が支援を変える』という二冊の本を書いたつもりです。もちろん、当事者団体も声をあげていますが、支援者だって自らの枠組みを外して、変わっていかないといけない。せっかく支援に携わるなら、専門家主導の支配的関係を超えて、当事者と支援者が一緒に支援の物語を構築し、社会を変えていこうよというメッセージを伝えたかったんです。

 

清水さんや駒崎さんなどの実践者がやっていることにはとても及びませんが、ぼくは研究者という立ち位置から、本というメディアを通じて、社会を変える方法論を少しでも整理して伝えられないか、を模索しています。支援はイノベーティブで、もっと価値あるもので、物語を一緒に紡いでいく面白さがある。絶望的な苦悩に追い込まれた人も、再び自分の人生を取り戻すことができる。そのことを現場実践に取り組む支援者にも、そして一般の方に伝えたいと思います。

 

*追記:序章の一部と目次はぼくのブログ(http://www.surume.org/2013/11/post-613.html)にもアップしております。

 

 

権利擁護が支援を変える -セルフアドボカシーから虐待防止まで

権利擁護が支援を変える -セルフアドボカシーから虐待防止まで書籍

作者竹端 寛

発行現代書館

発売日2013年11月8日

カテゴリー単行本

ページ数240

ISBN4768435254

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