社会をアップデートするために僕らができること

僕が引いた「くじ」

 

―― 最後に「あなたはいったいどうするのか」という問いを読者にぶつけていますね。

 

たまに「自分は何をしたらいいんですか」と聞く人がいるんですけど、そんな質問されても、僕は答えを持っていません。でも、そういった質問をする人というのは、恵まれていますよね。とくに当事者意識も持たずに、「戦わないと」と思わされる分野がなくて生きてこられたわけです。これは幸福ですよ。

 

でも、「問題意識を持つ」以前に、「問題当事者にさせられている」人がたくさんいます。これまで出会ってきた人たちのなかにも、マイノリティであることによって、苦しんでいる人がいるかもしれない。そういったことに気づくと、何をしたらいいのか分かることもあるかもしれない。

 

この本でも取り上げているのですが、難病患者である作家の大野更紗さんの「くじ」という表現を、僕は気にいっているんです。たとえば、何万人に一人の割合で難病になるように、たまたま大きなリスクを負ってしまうことがある。誰もが「くじ」を引く可能性があるんです。

 

たまたま、大野さんは難病のくじを引きました。じゃあ大野さんがくじを引かなかったら、大野さんが僕の知り合いじゃなかったら……。僕が今と同じようなスタンスで難病という問題に接していたのか分かりません。偶然の要素はとても大きいです。

 

水俣病の取材をしたときに、原田正純さんの記事を読みました。「見てしまった責任」という彼の言葉は、すごく腑に落ちました。出会ってしまった以上、見てしまった以上、知って、仲良くなった以上、その立場に立ってしまったから行動しなければいけないと。

 

だから、ある意味では僕も、くじをひいたんだと思う。たまたま「難病くじ」や「貧困くじ」はひかなかったけれど、「拡散くじ」「伝えるくじ」「繋げるくじ」を引いたんだなと。だからこれからも、多くの人に知恵を借りながら、「ポジ出し」をつづけられたらと思いますね。その前提となる概況、政治経済観は本書にまとめたので、あとはソリューションを出しつづけていくことだと思います。

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

・橋本努「新型コロナウイルスとナッジ政策」
・三谷はるよ「市民活動をめぐる“3つの事実”――「ボランティア」とは誰なのか?」
・五十嵐泰正「『上野新論』――「都市の時代」が危機を迎えたなかで」
・倉橋耕平「メディア論の問いを磨く――言論を読み解く視座として」
・山田剛士「搾取される研究者たち」
・平井和也「コロナ情勢下における香港と台湾に対する中国の圧力」