2017.01.27
インターネット上の誹謗中傷は、本当に削除できるのか?――『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』の使い方
スマートフォンの普及によって、多くの人がインターネットに常時接続された状態で生活しています。それは、あらゆる個人や企業が、ふとしたきっかけで、突然、インターネット上で誹謗中傷のターゲットになってしまう可能性があることをも意味しています。被害者は、精神的に大きなダメージを受けます。
『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第2版〕』では、被害者が誹謗中傷を受けたサイトにアクセスし、書込みを削除する方法を、実物のサイトの画面に沿って詳しく説明しています。この本の具体的な活用方法を、弁護士である筆者が受けた相談を再現しながら見ていきましょう。
※以下に登場する筆者以外の人物名や企業名などは、すべて架空であり、相談の内容は、複数の実際の相談をもとに再構成した架空のものです。また、対応法は、この本に掲載されている2016年10月15日時点のものです。
不倫の果ての思わぬトラブル
二俣 よろしくお願いします。二俣駆と申します。実は、1年半前から約半年間、同じ職場の新居純子さんという女性と不倫をしていました。新居さんとは1年ほど前に別れたんですが、別れ際にケンカになって、彼女が実名で登録していたTwitterに、私と不倫していた事実を書き込んだんです。
清水 具体的には、どのような内容ですか?
二俣 「私が勤める博電エージェンシーの二俣駆さんは、奥さんがいるのに、新入社員の私に手を出して、たった半年で捨てました。こんな男、最低です。」という書込みです。
清水 お勤め先と二俣さんのフルネームが出ていますね。このTwitterの書込みを消したいということですか?
二俣 いえ。このTwitterの書込みは、新居さんと別れる前、本人に削除してもらいました。彼女は上昇志向の強い人間だったので、この書込みが今後の出世に響くと思ったのでしょう。結果的に、どうやら、職場にも知られずにすみました。ただ、このTwitterは妻にばれて、新居さんと別れたのと同じ頃に、妻と離婚しました。彼女には、そういった狙いがあったのかもしれません。その後、私は転勤になって部署も変わり、新居さんとは会うことも社内で仕事のやり取りをすることもなくなりました。
ただ先日、何となく自分の名前をインターネットで検索していたんです。そうしたら、この書込みが、まったく知らない「極悪企業・博電エージェンシーを丸裸にする」というタイトルのブログに、削除したはずのTwitterが画像化されて掲載されていたんです。
清水 それが、今回ご相談にお越しになった理由ですね?
二俣 はい。新居さんとの不倫は事実ですので、私は何も言えません。妻とも別れましたし……。ただ、誰かわからない人のブログに、私の名前と勤め先が載っているのは気持ち悪いですし、何より今さら職場にばれたら、いろいろと面倒です。新居さんの出世にも影響があるかもしれません。どうにかこの書込みを消せないでしょうか?
清水 1つ確認ですが、このブログは、新居さんご本人や同僚が作ったものだと思いますか? もしそうだとすると、削除を依頼しても、ブログの管理者に削除を拒否される可能性があります。拒否された場合、裁判所に手続をする必要が出てくるかもしれません。
二俣 このブログの他の書込みを読むと、本社や各支社のいろいろな社員に対する悪口から、5年前にニュースにもなった不正経理事件についてまで、内容は様々です。ですので、社内の人間かうちの会社を最近辞めた人間が、ブログを作ったとは思います。ただ、このブログの最初の記事は約4年半前で、不正経理事件について社内の限られた人間しか当時は知らなかった話が書かれています。新居さんは入社前ですから、本人が作ったとは思えません。あと、彼女は非常にプライドが高いので、同僚に不倫のことを話したとも考えにくいです。
ウェブサイトのフォームを使って削除する
清水 わかりました。この「極悪企業・博電エージェンシーを丸裸にする」というブログは、新居さんご本人や同僚が作ったものではない可能性が高いということですね。
そうしましたら、このブログは、アメブロ(アメーバブログ)で作られていますので、アメブロに設けられているフォームから、削除依頼を行っていきます。
二俣 それだけで、本当に書込みは消えますか?
清水 これは、他のすべてのサイトにも言えることですが、100%削除依頼に応じてくれるとは、残念ですが言い切れません。ですが、Twitterに書かれた内容が事実であるとしても、プライバシー侵害であることに変わりありません。また、事実だからといって、名誉権を侵害していないとは言えず、名誉権侵害に当たると主張することも可能です。
要するに、この方法を試してみる価値は大いにあるということです。二俣さんがご自身で削除依頼をすれば、お金も一切かからないですよ。
二俣 お恥ずかしい限りです……。消し方を教えていただけますか?
清水 私のパソコンの画面を使って説明しますので、こちらをご覧ください。
まず、アメーバのトップページを開くと、右下に「お問い合わせ」というリンクがあります。こちらをクリックしてください。
清水 すると、ヘルプページに進みます。この中の「違反報告・通報」の部分にある「権利者向け窓口」というリンクをクリックしてください。
引用元:http://helps.ameba.jp/inquiry.html
清水 こちらをクリックすると、削除依頼フォームが出てきますので、必要事項を入力してください。早速、入力項目を1つずつ見ていきましょう。
引用元:https://cs.ameba.jp/inq/inquiry/right
清水 1つ目の「あなたのアメーバID」には、アメブロなどを利用していてアメーバIDがあれば入力しましょう。なければ空欄で大丈夫です。
2つ目の「メールアドレス」には、連絡がつくものを入力します。
3つ目の「サービス名」には、問題が起きているサービス(たとえば、「ブログ」)などをプルダウンから選択します。
4つ目の「あなたの権利が侵害されているページURL」には、フォームの中の「※記入例はこちら」をクリックすると記入例が見られるので、こちらに合わせて入力してください。
5つ目の「上記URLに記載されている侵害内容」には、具体的にどこが問題なのかを抜き出し、それが自分のどのような権利を、なぜ侵害したといえるのか、ということを説明してください。
6つ目の「侵害されている権利」には、この説明と合致するものを挙げてください。複数挙げてもよいです。
7つ目の「希望の対応」には、「削除」と「Amebaでの確認」という選択肢がありますが、確認してもらうだけでは削除されないので、「削除」を選択します。
8つ目の「あなたの立場」には、「本人(権利者)」か「代理人」を選ぶことができますが、弁護士以外が「代理人」を選択すると弁護士法に違反しますので、「本人(権利者)」を選択してください。ちなみに、企業が削除依頼する場合、担当者が対応するときも、「本人(権利者)」を選択します。
9つ目の「権利者であることを証明できるWEBページのURL」には、たとえば、著作権が侵害されているという場合であれば、もともとの権利が自分にあることを示すページのURL を記載するということです。音楽が無断使用されていたら、JASRACの登録ページのURL などを入力すればよいです。今回のご相談では関係がありませんが……。
二俣 ちょっと質問させてください。5つ目の「上記URLに記載されている侵害内容」と、6つ目の「侵害されている権利」の書き方が、よくわかりません。何か法律的なことを、専門用語を使って書かなきゃいけないのでしょうか? そうだと、私には書けそうもありません……。
清水 法律的なことに詳しくないのであれば、あえて専門用語を使わなくても大丈夫です。どうしても専門用語を使った方が、削除してもらえるのではないかと考えがちになりますが、あまり詳しくない言葉をもし間違えた意味で使ってしまうと、結果的に意味の通らない文章になってしまいます。そうなると、削除してもらえなくなる危険性が高いです。
ですので、5つ目の「上記URLに記載されている侵害内容」は、たとえばですが、次のように書いてはいかがでしょうか?
私は、二俣駆と申します。私の過去の不倫についてのTwitterの書込みが、アメブロに画像化されて掲載されており、そこには、「私が勤める博電エージェンシーの二俣駆さんは、奥さんがいるのに、新入社員の私に手を出して、たった半年で捨てました。」と、私の勤務先と名前が書かれています。なお、元のTwitterの書込みは、既に削除されています。
誰と交際していたのかということは、私生活上のことであり、このような内容をインターネット上で公開されるいわれはないと思います。そのため、この内容は私のプライバシー権を侵害していると考えます。また、私が既婚者でありながら新入社員を弄んで捨てた、と受け取られる内容の書込みは、私の社会的な評価を下げてしまうものですので、名誉権を侵害するものだと考えます。
つきましては、こちらの書込みに関する削除のご対応を行ってくださいますよう、お願い申し上げます。
6つ目の「侵害されている権利」は、この説明と一致するよう、「プライバシー権、名誉権」と書けばよいでしょう。ちなみに、名誉権というのは、一言で言えば社会的な評価のことです。
二俣 ありがとうございます。もう1つ質問ですが、9つ目の「権利者であることを証明できるWEBページのURL」には、何を書けばよいでしょうか? 私の場合、著作権は関係ないのですが……。
清水 ご指摘のとおり、著作権は関係がないので、本来URLを記載する必要はありません。ただ、入力必須項目とされているので、何か書かなければいけません。
アメーバの立場で考えると、この削除依頼が本当に本人からの依頼なのか、それとも第三者によるイタズラなのかを判断する材料がありません。そのため、後から本人確認書類として、運転免許証やパスポート、印鑑証明書などを求めてくることがあります。そこで、このような身分証明書をスキャンしたり写真に撮ったりして、インターネット上にアップロードし、そのURLを記載しておけば、後の手間を省けると思います。オンラインストレージサービスなどを活用しましょう。
二俣 何となくわかってきました。これで、削除してもらえるかもしれないのでしょうか?
清水 はい。入力した内容を確認して、「この内容で送信する」ボタンを押せば、削除依頼は完了です。ケースにもよりますが、アメーバの場合は、7~10日程度で削除してもらえるかどうかがわかります。
誹謗中傷を削除すれば、日常を守れる
二俣さんのようなインターネット上のトラブルは、表面化していないものも含めると、数えきれないほどあるでしょう。この記事を読んでくださったあなた自身やあなたの周囲の方々が、何らかの被害に遭っているかもしれません。
ですが、多くの有名なサイトでは、インターネット上で削除を依頼することができます。個別の削除依頼フォームが用意されていたり、削除依頼用のメールアドレスが用意されていたりして、サイトごとに削除を依頼する方法があります。各サイトの指示に従って、対応しましょう。
誹謗中傷を放置すると、その書込みが様々な形で拡がって、被害が大きくなってしまいます。できるだけ早く、書込みを削除することが、個人や企業を守ることにつながります。
プロフィール
清水陽平
インターネット上の誹謗中傷対策や炎上対策などを数多く扱う。2014年1月にはTwitter に対する開示請求、2014年8月にはFacebookに対する開示請求で、それぞれ日本初となる事案を担当。
2007年弁護士登録(旧60期)。東京弁護士会所属。2010年11月に法律事務所アルシエンを開設。
インターネット問題に関するメディアでのコメント多数。『企業を守る ネット炎上対応の実務』(学陽書房、単著、近刊)、『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務――発信者情報開示請求と削除請求』(新日本法規出版、共著、近刊)などの著書がある。