2013.04.20

4月28日(日)、LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティを讃えるパレード「東京レインボープライド2013」が開催される。さらに今年は、「Tokyo Rainbow Week 2013」も同時開催され、ゴールデンウィークの10日間が虹色に彩られることになりそうだ。今回はパレードを主催する東京レインボープライド代表の山縣真矢さんと、広報担当で共同運営委員長の乾宏輝さんにお話を伺った。(聞き手・構成/山本菜々子)

―― 東京レインボープライドも今年で2回目を迎えますね。

山縣 今年はパレードだけではなく、東京を中心に活動する他の団体と協力してゴールデンウィーク中に様ざまなイベントを行います。「Tokyo Rainbow Week 2013」と銘打ち、7団体がそれぞれパーティーや講演会、ピクニック、映画上映など、さまざまな催しが開催されることになりました。パレードもその一環です。

そのきっかけは、グッド・エージング・エールズ代表の松中権さんとの会話からでした。パレードの協力をお願いする打ち合わせの席で、松中さんの方から、東京にある他の団体にも声をかけて「ゴールデンウィークをレインボーウィークにしよう」というアイディアが出ました。

パレードは警察への届け出的には「デモ行進」ということになるので、色々と制限もある。しかも、集まる人数にも限界があります。去年の実績では、沿道の人もふくめて5000人程でした。

でも、1週間を「レインボーウィーク」に設定し、さまざまなイベントをやると、パレードトータルの人数よりも多くの動員が見込めます。1万人や2万人動員できれば、数としての威力も発揮できます。動員人数が多ければ多いほど、経済も動くし、LGBTコミュニティだけじゃない人たちも動いていく。そうなると社会への影響力も大きくなります。パレード単体でやるよりも発展性があるのではと感じていますね。来年以降もウィークをやっていくなら、テニス大会やバレーボール大会などもやってみたい。そして、将来的にはゲイゲームズを誘致できるまでになったら素晴らしいですね。

ゲイゲームズというのはセクシュアルマイノリティが集まるオリンピックのことです。とても大きな規模で開催されています。アジアではまだやられてないので、最初に日本に誘致できたらいいですね。

また、今後、パレードを継続して開催していくという観点から見ても、他の団体と協力してやっていくことが不可欠なのではとおもいました。たとえば、アジア最大のパレードをおこなっている台北では、いくつかの団体が協力して運営しています。

パレードの運営は、基本的にはボランティアベースでやっていますので、それぞれ本業がある中で、毎年開催をしていくのはとても大変なことです。ぼくは東京のパレードに10年ほど関わっていますが、とくに東京は色んな団体があったり参加する人が多かったりと、その分エネルギーが必要なんです。東京では90年から、どういうわけか3年つづくと立ち切れてしまうというジンクスがあって……。

まだ、4年以上東京でつづいたことがないので、少なくとも4年間はつづけたいですね。今回レインボーウィークもあって、他の団体とも連携できたので、その可能性も広がったのではとおもっています。

写真左から山縣氏、乾氏
写真左から山縣氏、乾氏

私たちはここにいる

山縣 日本では、ある意味、セクシュアルマイノリティは存在しないことにされてきました。たとえば、テレビでは「オネエ系」と呼ばれる人たちがもてはやされていますが、あれはメディア用にかなり誇張されている部分があります。ほとんどの当事者は普通に働き、普通に生きています。

日本企業ではとくに可視化されていませんね。日本の企業の中にもダイバーシティをうたい、その中に「性的少数者」という項目をあげている企業もありますが、なかなか認知されているとは言い難い。

日本企業に協賛をお願いしにいっても、「我が社では、とくに声があがっていないので……」という答えが返ってくるんです。セクシュアルマイノリティの数は約5%と言われていますから、どの会社にも必ずいるはずなのに、みんな周りにいないと思いこんでいる。実際は声が上げられないだけで、いないわけではないんです。みんなが異性愛者だとおもって接している人も、会社以外のところでは楽しくゲイライフを送っているのかもしれません。

欧米、とくにアメリカとかだと、ゲイに対するヘイトクライムがまだまだ多いんです。ゲイであることで殺されたりしかねない。でも、それは、ある意味ゲイの存在が可視化されているということでもあります。

日本では殺されてしまうほどのヘイトクライムは今のところほとんどありません。しかし、それは身近にそもそも存在しないことにされてしまっている部分も大きいとおもうんです。たとえば、進歩的な考え方をもっていると自認している人は「同性でも愛があれば一緒」というようなことをよく言います。でも、実際に身内にゲイがいたら、受容できなかったりする。なんとなく、みんな理解しているようなふりはしても、実際にはそんなこともないんです。

乾 ヘイトクライムがあまりないというのはもちろん良いことなのですが、一方でセクシュアルマイノリティが見えなくなっている部分もあります。その分、当事者が抱える問題も可視化されにくいです。

以前、シノドスさんでも報道(「セクシュアルマイノリティと自殺リスク」日高庸晴×荻上チキ https://synodos.jp/society/2252)していただきましたが、たとえば自殺念慮率が6倍高いとか、セクシュアルマイノリティとメンタルヘルスはとても大きなイシューです。また、制度としても、さまざまな恩恵や福利厚生を受けられません。たとえばパートナーがいたとしても、会社の中で転勤に一緒にいけなかったり、病院の付き添いができなかったり。法律上の“家族”ではないとできないことが色々あります。改善の余地がものすごく多い。

山縣 だからこそ、「私たちはここにいるんだよ」ということをわかってほしい。異性愛社会に対してアピールする部分もあるし、自分のセクシュアリティに悩んでいる人にも「仲間がいる」ということを知って欲しいんです。私たちは存在していると、みんなで声を上げる。別に恥じることもなく、こうやってみんな生きていて、こうやってパレードしているんだよと。パレードにはそういった意義もあるとおもっています。

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バトンをつなげる

―― なぜ、お二人はパレードに関わろうとおもったのでしょうか。

山縣 フリーランスで仕事をやるようになったことや、当時のコミュニティの状況もあったのですが、一番が、ぼくがこれまでに感じた不都合を、下の世代には少しでも減らしてあげたい。ひとつでもふたつでも、ぼくたちがした苦労をしなくなればいいなと。

ぼくは、「なよなよしている」とか、「オカマ」と言っていじめられたような経験はほとんどなく、自分がゲイであることに気づいたのも遅いんですけど、やっぱり社会で生きていく中で感じる不都合はありました。

すべてが一気に変わることは難しいとはおもっています。でも、少しずつ確実に変わっていくし、変わってきたとおもうんです。たとえば、今の60代以上の人ととかは、絶対にカミングアウトなんかできなかった。結婚し、子どももいて、その上で隠れて2丁目とかに通っていた人がほとんどです。でも、社会も変わり、だんだんとゲイのライフモデルも確立されはじめ、今はカミングアウトもしやすくなってきているとおもいます。もちろん、まだまだ生きづらいし、欧米に比べて制度も整っていない。でも、少しずつ前進している途中なんだとおもいます。

ぼくは10年以上東京のパレードに関わってきました。じつは、「もう10年やったんだからいいだろう。パレードからは身を引こう」とおもっていた時期もありました。でも、やっぱり、若い世代にちゃんとバトンタッチしていかないと、というおもいもあり、去年の秋から代表をしています。社会運動でも市民運動でも、10年、20年と継続していくためには、若い世代への引き継ぎは不可欠ですからね。

 とくに今年の運営体制はとても若いです。若い世代に引き継ぐということをかなり意識したので、20代の人や未経験の人でも、やる気があればどんどんコアスタッフになっています。去年は30代が中心でやっていたんですが、今年は20代も多いです。共同運営委員長にも20代がいます。どんどん若い人に活躍してもらおうと意識しています。

 

10年以上関わっている山縣さんとは違って、ぼくはまだまだ新参者で、去年から参加しました。ぼく自身も思春期に難しい時代がありました。好きな人がいても告白できなかったり、周囲にそれとなく悟られ、からかわれることもありました。そんな時に、セクシュアルマイノリティでも楽しく人生を切り開いていけるんだよということを知っていれば、もう少し違った思春期を過ごせていたのかなって。

今、一歩踏み出せない、苦しいと感じている当事者の人たちに、パレードを見てもらって、こんなに元気で胸を張って生きている人も沢山いるんだよと知ってほしい。また、一般の人にも、あなたの隣にいるような、喜びも悲しみも一緒に分かち合える人たちが、セクュアルマイノリティとして普通に生きているんだよと伝えたいです。パレードがそういうメディアになればいいなとおもっています。

みんなどこかでマイノリティ

乾 もうひとつの理由としては、どこか息苦しい感じのする日本社会をセクシュアルマイノリティの運動をきっかけに変えていけたらなとおもっているからです。

ぼくは記者・ライター業をしてきて、「息苦しさ」をテーマに取材を重ねていました。男は働いて女は専業主婦でといった「普通の生き方」のテンプレートってとっくに機能しなくなっているのに、どうしても次のモデルが出て来ないことに、もどかしさをずっと感じてきました。

LGBTの人たちが自分たちの生き方に誇りをもって自分らしくパレードしている。自分らしく生きるということを頑なに主張していったら、少しずつ社会の側が変化をしていく。その姿を広く社会に訴えていけば、少しずつ日本の社会の風通しもよくなっていくんじゃないかなという期待もあります。

東京レインボープライドは「LGBTの人々が住みやすい社会は、多くの人がそれぞれの可能性や幸福を追求できる社会でもある。」という信念を掲げています。ぼくたちが自分らしく生きるということを頑なに主張し、パレードというかたちで象徴していった先に、もっと多様な生き方に開かれ、さまざまなかたちの絆、お互いの違いを認め合える社会が待っているのではないかと信じているんです。

たとえば、分かり易いのがフランスのPACSというパートナーシップ制度です。1999年にできた制度で、要は事実婚でも結婚と同様の税制上、法律上の権利を認めるものです。もともと法的に結婚が認められていなかったセクュアルマイノリティ当事者の声にこたえるかたちでできたのに、利用者の90%以上が異性愛者になりました。LGBTの権利をきっかけに、社会のあり方が変わった一例です。

だから、当事者のコミュニティに閉じずに、より多くの人と連携しながら、「多様な社会を創って生きましょう」というメッセージを発信しつづけています。

山縣 マイノリティ当事者による運動というのは、マジョリティの人たちに支援してもらわないと、大きな力になっていきません。存在が認められないということがあります。マイノリティだけでかたまって、「こうしてほしい、ああしてほしい、差別するな」と言うだけではなくて、まずは、セクシュアルマイノリティである私たちがここにいることを知ってもらい、セクシュアルマジョリティの人たちからの支援を得て、一緒に手を携え大きな動きにしていきたいですね。

台北のパレードでは5万人が参加しますが、歩いているのはセクシュアルマイノリティだけではありません。それを支えるたくさんのAlly(海外でセクシュアルマイノリティの支援者を指す名称)と呼ばれる方たちも一緒に歩いています。やっぱり当事者だけが歩いても5万人にはなかなか到達しません。周囲の人も巻き込んでいるからこそ、大規模なパレードにできるんです。

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“Happy Pride!”

―― パレードはどのような様子なのでしょうか。

山縣 今回のテーマは“Happy Pride!”です。海外ではパレードの合言葉に使われており、“Happy Pride!”と言ってハイタッチし合うんです。今年はそれを取り入れ、みんなに仲良くなってもらうために、ハイタッチをし合うような“Happy Pride Time”を設けようとおもっています。一人で参加しても周りと打ち解けられるような、フレンドリーな雰囲気をつくりたいですね。

そして、パレード自体は、サウンドデモのような感じを想像していただければとおもいます。フロートと呼ばれる車が先導してその後ろに250人ほどの人が歩きます。車の荷台にはドラァグクイーンに乗ってもらったり、音楽をかけながら行進します。

パレードを歩く人はみんな、思い思いの格好をしています。所属しているグループの横断幕をもったり、プレートをもったりして、だいたい1時間弱くらい歩きます。

 去年は、「人生最高の日だった」とか、「ひきこもりだったけど出てきてよかった」という声を頂きました。

山縣 こういう感想を聞くだけでも、やって良かったとおもいますね。パレードって初心者でも参加しやすいんですよ。いきなり2丁目に飲みにいくよりもハードルが低い。毎年、必ず新しい参加者が来てくれます。昔よりインターネットなどが発達し、LGBTの情報を得る事が簡単になったとはいえ、実際に参加したり、目の前で見ることで得るものは大きいとおもいます。

パレードを見たことがきっかけで、背中を押され、今では運営委員としてバリバリ働いてくれている人もいます。関わった人が、一歩でも前に進むきっかけになればいいですね。このパレードは、シングルイシューで集まっているわけではないので、多様な方が来ます。参加する側もアイディアをもってこの場を上手く活用してもらえたらなとおもいます。

―― 最後に、読者の方に伝えたいことがあれば一言宜しくお願いします。

山縣 ぜひ、気軽に遊びに来てほしいですね。レインボーウィークでは様々な団体が面白いことをいろいろやっています。ぜひ、公式サイトでチェックしてください。パレードの会場には、50人近くのドラァグクイーンも応援に駆けつけてくれます。ステージでは、歌手の中村中さん(http://ataru-atariya.com)や、野宮真貴さん(元ピチカート・ファイヴ http://www.missmakinomiya.com)をはじめ、たくさんのパフォーマーが登場します。東京レインボープライドのオリジナルキャラクターであるトビーの着ぐるみも出ますので楽しみにしてください。

このレインボーウィークでセクシュアルマイノリティが存在するということを、当事者の方にも当事者じゃない方にもぜひ知ってほしい。とにかく、楽しい催しがたくさんありますので、ぜひ足を運んでいただきたいですね。

東京レインボープライドの詳細はこちら:

公式サイト:http://www.tokyorainbowpride.com

Twitterアカウント:@Tokyo_R_Pride

東京レインボーウィーク2013の詳細はこちら:

公式サイト:http://www.tokyorainbowweek.jp

Twitterアカウント:@TKORainbowWeek

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