2013.10.04

池袋出会いカフェ女子大生殺人事件 裁判傍聴記録

要友紀子 SWASH代表

社会 #セックスワーク#SWASH#池袋出会いカフェ女子大生殺人事件#出会い喫茶

風俗で働く人たちが安全・健康に働けることを目指し活動しているSWASH(Sex Work and Sexual Health)。メンバーの要氏による、「池袋出会いカフェ女子大生殺人事件」の裁判傍聴記録を掲載する。

池袋出会いカフェ女子大生殺人事件とは

 

2010年9月26日深夜、女子大生のA子さん(事件当時22歳)が、池袋の出会いカフェ「キラリ」で知り合ったK(29歳・住所不定無職(2011年当時))に、ラブホテルで首を絞められ殺された。Kは、翌日中に知人に付き添われ渋谷警察署に出頭し、容疑を認めた。A子さんを殺害した動機については、「シャワーを浴びている間に財布の中にあった1万円がなくなり、A子さんが盗んだと思い、口論になり、その際A子さんから、『レイプされたと警察に言う』と脅されたため、腹を立て、首を絞め殺した」と供述。裁判では、Kは容疑を認めているため、身上や犯行の非計画性、罪の隠匿など悪質性、心証などの点が争われることになった。

2011年2月15日 初公判(9:00~16:00)

 

裁判員の構成…裁判員6名(サラリーマン風男性3人、フリーター風若い男性2人、初老の男性1人)、補充裁判員2人(若い女性1人、まじめそうな若い男性1人)

 

●検察官の冒頭陳述(検察官は秋葉原事件のときの検察官)

 

・事件の概要について

お金のことで口論になり立腹。首を絞め殺し、逃げるとき、6万円が入った被害者のバッグを盗む。

 

・被告人の身上

29歳。福島県出身。高校中退。前科なし。

 

・被害者の身上

22歳。大学生。3人姉妹の末っ子。都内で両親と姉と暮らす。

 

・被告人と被害者が出会った経緯と犯行状況

2010年9月25日午後11時25分、池袋「キラリ」(※出会いカフェの説明が入る。「風俗店です」と説明)で二人は出会う。被告人は被害者に2万を支払い、飲食。さらに3万を支払い性交。シャワーの後、「1万がなくなっている」と被害者を問い詰めた。被害者は、「クレジットカードの支払いに困ってた。貸してほしい」「無理やりホテルに連れ込まれたことにして警察に言う」「帰る」と言ったので、被害者を帰らせまいと捕まえようとしたら手が首にあたり、「首しめないでよ」と言われた。被害者をベッドに倒し、仰向けにさせ首を絞めた。

被告人は、「息をしていたら通報されたら困るから」殺した。被害者の体が痙攣するのを確認しながら、遺体の下腹部の刺青、陰毛をライターで炙り、身元を確認できないようにしようとした。午前4時、いったん自宅に戻る。渋谷で知人に犯行を言った。午後7時渋谷警察に出頭。

 

・検察から、裁判官に、注目してほしい点

1、 動機が短絡的で身勝手

2、 情状が悪い

3、 結果の重大さ

4、 遺族感情等

●被告人の弁護人からの陳述

 

被告人の犯行は追い詰められた結果、A子さんを殺してしまった。注目してほしいポイントを述べます。被告人は福島県出身。母親は新興宗教の熱心な信者、父親はおらず、被告人が小さい頃に離婚して母子家庭で育った。友達との交わりについて母親から、「宗教を信じていない友人と友達になってはいけない」と、一定の制約を受けていた。その結果、友達づきあいに苦手意識を持つようになった。

高校中退の理由は、母親とのそういった葛藤があったから。スポーツは宗教にとって許されないものだった。それで、自立をしたくて、高校を中退し、上京した。父親に強い憧れがある。弱い自分をまわりにみせることができなかった。むしろ、自分を知らない人と話したほうが自分を素直に話せる。なぜ事件を起こしたのか? 誰かと話をしたいと思い、出会いカフェに行った。そこでA子さんと知り合った。A子さんと居酒屋に入り、1時間が経ち、A子さんから「もう1時間話そう」と言われ、2時間居酒屋で話をした。さらに、A子さんから「ホテルなら3万円、カラオケなら1万円」と言われた。居酒屋で、「お金に困っている」「今日の目標が5万円」と聞いていて、お金を持っていなかったから、ホテルに行く前にお金を取りに、被告人の家に行った。そのあとホテルに行った。性交を終えてシャワーを浴びている間にお金を取られたと思ったので口論になった。

被告人:「1万円返して」

被害者:「ほんとはホテルなんかに来たくなかった。無理矢理連れて来られたって警察に言う」

被告人:「警察に言って困るのはそっちだろ」

被害者:「警察以外にも、私のために動いてくれる人はいる。あなたの家の住所だって知っている」

(帰ろうとするA子さんを引き留め、肩をつかんだ。)

被害者:「首を絞められたことも言ってやる」

それで追い詰められた。ベッドに押し倒し、騒ぐA子さんの首を絞めた。A子さんの動きが止まった。唇が紫色になってきた。ここままではA子さんの言うとおりになってしまうと思った。どこか遠くに行って死のう。その前に住む家を提供してくれた大家さん(Iさん)に話そうと思った。Iさんに会って話したら、死のうとしてた自分が間違いだと思った。罪から逃れることはできない。

裁判員の人によく考えてほしいのは、この裁判がどういった場所で起こったのか。位置関係について確認してください。二人がホテルに行くまでの様子にも注目してください。

●検察官から、証拠資料の説明

・(裁判員たちが遺体発見時の写真をみる)

・(裁判員たちが居酒屋、コンビニ、ホテル等、二人で行った状況についての写真を見る。写真は防犯カメラの画像)

・被告人の自首を説得した、I氏の供述調書の朗読

・被害者父の供述調書の朗読(下記、概要)

家庭の経済状況はあまりよくなかった。それで娘がこんなことになったのは自分のせいではないかと、自分を責めるようになった。自分は元大手銀行員で、転職して建設会社で働いていたが倒産。娘が中学二年生のときにタクシー運転手を始め、現在に至る。収入は銀行時代の半分になった。

娘は奨学金で大学に行っていた。高校生のときからおこづかいを渡さなかった。妻からも、「銀行を辞めなければ娘はこんなことにならなかった」と言われ、夫婦関係も悪くなった。

・被害者母の供述調書の朗読(概要)

娘の生い立ちについて(省略)。三姉妹の末っ子でおばあちゃん子だった(裁判員らが被害者の小さい頃~成人式までの写真をみる)。成人式のときにおばあちゃんに晴れ着を見せたいと、一人暮らしのおばあちゃんが住んでいるところまで行って一緒に写真を撮った。最近は忙しくなっておばあちゃんに会いにいけなくなったから、おばあちゃんに手紙を書いたりしていた。娘が殺されたとおばあちゃんに電話したとき、おばあちゃんはすごく泣き叫んだ。

娘はファッションやインテリアが好きで、将来の夢は自分のファッションブランドを立ち上げることだった。だから、まず、大学を卒業したらファッション関係の会社に就職するつもりだった。出会い系は、「コネを見つけられるかもしれない」と言っていた。「お食事するだけでお金をもらえるバイト」と言ってたので、「大丈夫なの?」と言ったことがある。「馬鹿なまねはしないから大丈夫」と言っていた。

娘が殺されてから毎日泣いて暮らしている。娘が首を絞められてどんなに苦しかったか、自分でわかろうとして、なんども自分の首を絞めてその苦しさを知ろうするが、あまりの苦しさに耐えられずに息をしてしまう。

被告人には、ただ死んでもらうだけではなく、娘と同じように、自分の首を絞めて、娘と同じ苦しさを味わって死んでもらいたい。

2011年2月16日 第二回公判

●被告人質問(検察からの質問)

(犯行当時、犯行状況の詳しい具体的な細かい質問が行われる。ついたて越しに、被害者の母親が泣く声が聞こえる。途中、母親が泣き叫ぶように、被告人に向かって、「(死体を)ライターで炙ったんでしょ!」と叫び、裁判が一時中断した。)

―― 母親の宗教から学ぶことはなかったか。

「多少はあった。母は熱心だったので厳しく感じた。学んだことは、人に対するやさしさ、思いやり、どのようなことが悪いことで、というようなこと。」

―― 事件当時はそのようなことを考えなかったのか。

「そういう気にはならなかった。」

―― これまで女性に手をあげたことは?

「中高時代に反発して、母に手をあげたこともある。そのときは宗教のことで言い争いになり、『あんたなんか産まなければよかった』と言われ、母の頭を殴った。今まで二度そういうことがあった。」

―― 平成22年6月までつきあっていた、アイリッシュパブのバイトで知り合った彼女には?

「別れ話はメールで彼女のほうから。自分はそれをみて取り乱して彼女に電話をした。彼女から『一緒にいても楽しくないし』と言われた。それで、『バイトのほかのスタッフが好きなのではないか』とか言ってヒステリックに怒鳴った。そして、『死んでやる』と言った。」

―― 彼女がなだめてもだめだった?感情を抑えられない面があるのでは?

「感情を溜めこんでいく面がある」

―― そういうことがよくあるのか?

「彼女と母親のことだけ」

―― 出会いカフェに行く前のことについて。カフェの前に別の場所に行こうとしてなかった?

「風俗の無料案内所」

―― デリへルに電話したことは?

「電話した」

―― サービスを受けようと?

「受けようとした」

―― なぜサービスを受けなかった?

「HPをみて、気に入った女は出勤していなかったから」

―― 風俗案内所では?

「店を案内してもらった。でもそこまで性欲があったわけではなく、誰かと話したいんだなと思った」

―― その後(出会いカフェの)「キラリ」に?

「はい」

―― 今まで行ったことは?

「8月に行った」

―― そのとき初めて登録した?

「はい」

―― そのときは?

「女性と交渉した。女性が『割り切りでホテルに行く?』と言ってきたので応じた。」

―― 対価は?

「女性は、『2.5万』と言ったが、高いと思ったので、1.5万を払って性交した。」

―― 「キラリ」はそういう場所だとわかって行ってた?

「はい」

―― 被害者の本名や住所は聞いた?

「いいえ」

―― あなたは言ってた?

「いいえ。居酒屋では下の名前を本名で教えた」

―― 被害者の女性は何をしている人か知ってた?

「大学生で、服飾関係の勉強をしていると言ってた」

―― 暴力団とつきあいがあると言ってた?

「いいえ」

―― 被害者は、ホテルでもどちらでもという感覚だった?

「そのように思えた。それでホテルを選んだ」

―― 対価を払ったことについてどう思う?

「被害者は明るく、悩みを聞いてもらったので、高いと思ったけど、話も弾んだし、全額支払うことに納得した」

―― 性交も満足した?

「Aさん(被害者)は親身になって話を聞いてくれたし、その日の目標が5万だと聞いていたので」

―― サービスの対価として納得したのですね?

「はい」

―― あなたはなぜ彼女の目標額を気にしてあげないといけないのですか?

「なぜ出会いカフェにくるのか理由を聞いて、その流れでその日の目標が5万と言っていたので」

―― べつに協力しなくてもいいのでは?

「親身になって話を聞いてくれたし、少しでもAさんの助けにと思ったので」

―― ホテルに入ってからのことについて。『首を絞めないでよ』と言われたのですよね?首を絞めてどうしようと思ったのか?

「感情的になってたので、首を絞めて黙らせてやろうと」

―― 言葉で強く言うだけではだめだったのか?

「冷静になれなかった」

―― 黙らせるほかの方法は考えなかった?

「考えなかった」

―― 右手の親指はどこを押さえてた?

「喉の右はずれあたり。」

―― 力を入れて絞めた?

「はい。」

―― 左手は?

「右の親指と左の親指をクロスする感じ。」

―― すぐにベッドに押し倒した?

「はい。」

―― お腹のあたりに乗っかった?

「はい。」

―― 手加減は?

「加減はしていない。」

―― 手で? 体重で?

「両方。」

―― 被害者が「やめてよ」と言った後、声は?

「なかった。」

―― 首を絞めてからどれくらい?

「すぐに。」

―― はじめ手をバタバタさせていたのはどのように?

「私の手を叩く感じでバタバタ。」

―― 被害者の足は?

「わからない。」

―― バタバタさせるのを辞めたのは、首絞めはじめて何分くらい?

「1~2分くらい。」

―― 体が動かなくなってからも1~2分?

「はい。」

―― なんで?

「とても感情的になってて。」

―― 2~3分危険な首を絞めてたときはどんな気持ち?

「怒りで何も考えてなかった。」

―― いつ手を放すか考えなかった?

「唇の変色を見るまでは。」

―― 我に返ったきっかけは?

「唇の変色をみて。」

―― 呼吸はあった?

「はい。」

―― どうしてわかった?

「体が温かかったり、動いているように見えた。」

―― 息はしてるけど、意識はなくなってる感じ?

「はい。」

―― 我に返ってどう思った?

「このままでは自分が悪くなってしまう。」

―― やりすぎた、かわいそうとか思わなかった?

「やりすぎたという気持ち。」

―― 顔色はどう変わっていった?

「土系色。」

―― 赤黒いような?

「はい。」

―― 首絞めはじめてどれくらいで?

「2~3分。」

―― 痙攣したのは?

「順番わからない。」

―― 途中で手を離そうと思わなかった?

「このままではAさんの言い分が通ってしまうと思った。」

―― 首絞めて、さらにまた首絞めるまでは?

「2~3秒。」

―― 殺した理由について。被害者が意識を取り戻したらどうなると?

「警察に連れて行かれたり、男の人たちが部屋にくると思った。」

―― 通報されたらどうなると思った?

「首を絞めたのも事実だし、Aさんが私からお金とってないというのも、Aさんの思いどおりになると思った。」

―― 警察に捕まると?

「はい。」

―― 悪いことをした認識があった?

「はい。」

―― 被害者の言い分が通ってしまうというのは、具体的にどういうこと?

「無理矢理ホテルに連れ込まれて、首を絞められたという言い分。」

―― 自分で警察に説明しようという気はなかった?

「首を絞めた後はなかった。」

―― 逮捕は何が嫌だった?

「自分の言い分が通らないことや、周りに迷惑をかけること。」

―― 何の迷惑を?

「私によくしてくれた人たちを失望させたり、裏切られたと思われたり、他の人も取り調べを受けたり。」

―― そこまで心配すること?

「はい。」

―― 被害者の言い分が通ってしまうというけど、ホテルのフロントを通るとき、被害者と揉めたのか?

「いいえ。」

―― コンビニでも買い物をしたけどそのときトラブルは?

「ない。」

―― ラブホテルは男女の合意の下で行くところですよね?

「『私のために動いてくれる男がいる』とAさんが言うから。」

―― どういう男のこと?

「『私のために動いてくれる男がいるし、店の人間もいる」とAさんが言っていたから。」

―― その人々が家に来たらどうなると?

「殴られたり、ゆすられたりするんじゃないかと思った。」

―― だったらなおさら警察に言えばよかったのでは?

「Aさんは、『警察では私の言い分が通る』と言っていたので。」

―― その理由、根拠は?

「Aさんは居酒屋ではとても明るく、親身だったが、表情が全く違っていたので。」

―― 言い方などそれだけですか?

「表情とか声の大きさとか。」

―― 首絞めて殺すまで躊躇いは?

「なかった。」

―― そんな心配があってもなぜ命を奪うまでした?

「感情的になって考えがまわらなかった。今ではとてもつりあいのとれることではなかったと思う。」

―― 被害者の言い分は通じないと思ったんですよね?

「はい。首を絞めた後は事実になったから。」

―― 警察に言うのは面倒くさいと思った?

「私の思いを信じてもらえないと思った。」

―― フロントに電話をして120分も延長したのはどうして?

「理由はない。」

―― 110番しようとは思わなかった?

「もう放心状態。どうしたらいいかわからなかった。」

―― 後悔もなかった?

「そのときは逃げることを考えていたので。」

―― 被害者の手、わき腹の入れ墨をライターであぶったのはなぜ?

「入れ墨などの特徴で身元が早くわかるのではと思った。」

―― 途中で辞めたのは?

「意味ないと思った。」

―― 陰毛を炙ったのは? 途中で止めたのは?

「遺体になんてことしてるんだと思ったから。」

―― 自宅に戻って2時間の間、なぜそのとき出会い系サイトのメールをチェックした?

「どんなメールがきてるのかと思ったから。」

―― 自首しようと思わなかった?

「逃げようと思った。」

―― 最後のお別れのあいさつをするために渋谷で会った、住居提供者のIさんとはどういう経緯で知り合った?

「10年前に池袋の飲食店で声をかけられた。引っ越しをする際はIさんが保証人になってくれることもあった。月に1~2度仕事で東京に来た時に、Iさんの仕事の雑用、車の手配、映画、芝居を観に連れて行ってもらったりもした。」

―― Iさんの気持ちに応えるのは疲れた?

「同世代の女性や友達と遊んだりするのをよく思っていない印象があった。」

―― なぜIさんはそういうふうに?

「父がいなかったのも知っていたし、自分も父のように思っていたし。」

―― 最初の取り調べで、Aさんに脅された話はなかったが?

「受け取られ方の違いかと。うまく整理できていなかった。」

―― 拘留満期の20日間で?

「はい。」

―― 調書の署名をなぜ拒否した?

「受け取り方にズレがあった。」

―― 捜査全面協力したと思う?

「全部話した。」

―― 母親から拘置所に手紙とお金(1~2万)の仕送りを受けていましたよね?

「今はない。」

―― 借金が200万以上ありましたね?

「引っ越し代や生活費で。10月から派遣会社でコールセンターの仕事がきまってた。」

裁判員による質問

―― 今まで自殺を考えたことはあるか?

「宗教の影響で、生死について考えたことがある。」

―― 自首は考えなかったのか?

「逃げれるとこまで逃げて死のうと思ってた。」

―― 自殺しようと思ったのはいつ? 床屋で人相変えようとしたりしましたね?

「池袋の自宅で。床屋の後、本を買ってホテルにチェックインしたとき。」

―― 被害者の死を確認後、1時間何をしてた?

「Aさんの所持品をみたり。」

―― 指紋を隠ぺいするために使った時間は?

「20分くらい。」

―― 顔写真もカフェにあるし、タトゥーを消しても身元はわかるのでは?

「我に返ってから無意味だと思った。」

―― 11:45にビデオ店を出て、2時に床屋、その間は何をしてた?

「みなとみらい駅から山下公園の方に向かって歩いていた。」

―― 何を考えていた?

「その日は日曜日で、カップルや家族連れをみて、自殺や刑務所のことを考えていた。」

―― Iさんに連絡するまでに、携帯以外から連絡したことは?

「ない。」

―― 彼女や母親に怪我をさせてしまったことは?

「母にはあった。」

 

●裁判官による質問

―― 「キラリ」以外で出会いカフェに行ったことは?

「ない。」

―― 口論になって首を絞めたのは、黙らせようと思ったと言ったけど、どうして馬乗りになった?

「自分を抑えられなくなり感情的になったから。」

―― ホテルに行くまでは大金を払ってたけど、急に態度が変わったのは、お金を取り返したいと思ったから?

「はい。急変した彼女にショックも受けたから。」

―― 携帯をなぜIさんに渡した?

「友人にお金を返そうと思ったので、連絡とれなかったので、電話がかかってくると思って。Iさんが説明してくれると言ったので。」

―― 被害者は「私のために動いてくれる男がいる」と言っていたそうだが、男たちの属性は?

「属性は言ってなかった。」

―― あなたの危惧は、殺害してもなくならないと思わなかった?

「思わなかった。」

―― 殺す段階でタトゥーは見えていたのか?

「ジーパンを下げた。」

―― パンティは?

「下に下げた。」

―― それは陰毛を焼くとき?

「はい。」

―― ライターで炙るのが一番いいと思った?

「そのとき混乱していたので。」

―― 今考えると全然有効にならないでしょ? 身元判明を防ぐ気持ちしかなかったのか?

「身元判明を遅らせたい、そういうのもあった。」

―― 所持品を分けて、横浜のゴミ箱、ホテル、自宅に分けた基準は?

「ない。」

―― 母親の宗教の教義は?

「人を思いやり、助けたりすること。宗教の人以外は、世界が滅ぶと生き残れない。」

―― その宗教でスポーツがだめな理由は?

「サッカーは人と戦うものだから。」

●証人尋問(被害者の姉)

―― 夢に向かって努力していたことは?

「行きつけの美容師と仲良くして古着をもらったり、自分なりにアレンジしたり、ファッション誌をまとめたり。」

―― 被害者のお母さんは夜眠れている?

「リビングで娘の帰りを待っている状態。」

―― お父さんは?

「仕事に行っていない。事件後2~3週間後、葬式の後、「自分のせいだ」と落ち込んでいる。食事もとれない。人に会えない。部屋に閉じこもっている。「自分が情けない」と、家族の話をしたがらない。だから参考人にも来れなかった。」

―― 被害者の妹と対面したときは?

「顔もパンパンにむくんでいて、顔も変わっていて、見た目はいつもの妹ではなかった。口も開いていた。」

―― いなくなってどうですか?

「当たり前の光景がなくなった。」

―― 将来約束していたことは?

「結婚して子ども産んだら遊ばせようと言っていた。」

―― 被告の処罰については?

「法律について勉強したが、無期、死刑は難しいらしい。長くて30年。できるだけ30年近く刑務所に入れてほしい。」

●被害者の母親の証言

「インターネットで娘のことが中傷されているようだが、出会いカフェだからといって、殺されてもいいなんて思わないでほしい。」

2011218日 判決

判決・懲役14

 

検察は懲役16年の求刑だったが、懲役14年の判決が言い渡された。

判決の主な理由は、以下。

・被害者を殺す目的、殺意を持って確実な方法で死なせたこと。

・意識を失った被害者にしたことの悪質性。

・遺族の心情の過度な精神的苦痛。

・犯行後の経緯で隠ぺいや逃避、動機も被害者の態度の急変に怒った短絡的犯行。

・被害者に1万円を取られたと思うのは信用できるが、被害者の口封じのために殺害したのは身勝手。

・被害者の言動や態度にも問題があった側面はみられ、被告人のために汲むべき事柄。

・自己の行動をかえりみた形跡はない。

・被告人の出頭、供述態度は反省を認める。

この裁判をどう見るか――コミュニケーションバイトが生む労働の対価と、危険な“善意のお金”

奇しくもこの裁判の傍聴記録を書いているのは、A子さんが出会いカフェの客に殺された9月26日の深夜だ。3年前の今日、A子さんはラブホテルで首を絞められ殺された。

私は3年前の今日のことをよく覚えている。翌日の9月27日に、ライターの渋井哲也氏に取材同行をお願いし、池袋「キラリ」に行った。A子さんが殺された翌日もなにもなかったように「キラリ」は営業していた。そして、若い女の子たちも出入りしていた。そこにいた女の子一人だけ話を聞くことができた。彼女自身も危険な目に遭ってもなお、「キラリ」に来続けていた。当時のメディアは、「危険な犯罪と売春の温床となっている出会いカフェを取り締まるべき」という論調で、インターネットでは、殺されたA子さんの誹謗中傷が書き込まれていた。

(つづきは「α-Synodos vol.133」で! → https://synodos.jp/a-synodos)

_a-synodos_big_133

α-synodos vol.133 事実をまっすぐ見直して

石田勇治「麻生副総理が憲法改正をめぐって引き合いに出した“ナチス”について。あの時代から学ぶべき教訓とは――TBSラジオ『荻上チキSession-22』

門田瑠衣子氏インタビュー「エイズ孤児を救え!――NGO・PLASの挑戦」

荻上チキ「読書、時々、映画日記」

片岡剛士「経済ニュースの基礎知識TOP5」

要友紀子(SWASH)「池袋出会いカフェ女子大生殺人事件 裁判傍聴記録」

プロフィール

要友紀子SWASH代表

1976年⽣まれ。セックスワーカーとして働く⼈たちが安全・健康に働けることを⽬指して活動するグループSWASH(Sex Work And
Sexual Health︓スウォッシュ)で1999年から活動。主な著作は、『⾵俗嬢意識調査〜126⼈の職業意識〜』(⽔島希との共著・ポット出版、2005年)、『売る売らないはワタシが決める』(共著・ポット出版、2000年)、「性を再考する」(共著・⻘⼸社、2003年)ほか。2018年夏頃発売予定「現場から考えるセックスワーク・スタディーズ(仮)」(SWASH編著、日本評論社)
web: http://swashweb.sakura.ne.jp/
twitter: @swash_jp
facebook: https://www.facebook.com/swashweb/

この執筆者の記事