最高裁判事の国民審査では何を判断すべきなのか?

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最高裁判事はどのように判決を書くか?

 

それでは、今回の審査対象になる裁判官は、どのような人たちなのでしょうか。

 

今回対象となる五名の裁判官は、いずれも安倍内閣によって任命されています。経歴は、それぞれ立派で、法律家が一見して「なぜ、この人をわざわざ?!」と思う人物は含まれていないといってよいでしょう。

 

とはいえ、その経歴だけで判断するのは、あまり気持ちの良いものではありません。それぞれの法律家としての個性を掘り下げてみたいところです。では、何を見ればよいのでしょうか。

 

現在、最高裁には、3つの「小法廷」があり、それぞれ5人の裁判官が所属しています。最高裁に上告された事件は、まず、この小法廷で取り扱われます。そして、憲法違反が疑われるとか、重要な判例変更が必要だといった重要性があるものだけが、「大法廷」に送られます。

 

「大法廷」は、15名全員が参加する法廷です。裁判所の判断は、裁判官の多数決で決まります。例えば、大法廷で「無期懲役」が10人、「死刑」が5人となった場合、判決は「無期懲役」になります。このとき多数派になった意見のことを「法廷意見」と言います。

 

ただし、裁判官は、それぞれ、自分の「個別意見」を述べることができます。意見には、次の三種類があります。

 

【最高裁判事の個別意見】

 p-2

 

 

どのような法廷意見を支持したのか、また、どんな個別意見を書いたのか。ここを見ることで、裁判官の個性や法律家としての能力を評価することができます。

 

裁判官の個性が表現された個別意見の例を、一つご紹介しましょう。

 

1995年(平成7年)から1997年(平成9年)にかけて長官を務めた三好達さんという元裁判官がいます。三好さんは、東大法学部卒業後、裁判官になり、最高裁調査官や東京高裁長官などを歴任し、最高裁長官に任命されました。

 

そんな三好さんが、退官間際に、愛媛玉ぐし料事件を扱った訴訟で、反対意見を書きます。

 

愛媛玉ぐし料事件は、愛媛県知事が、靖国神社・愛媛県護国神社のお祭りに公金を支出した事件です。大法廷の法廷意見(最高裁大法廷判決平成9年4月2日民集51巻4号1673頁)は、15名中13名の支持を受け、違憲説が圧勝。神社のお祭りに公金を出しているわけですから、政教分離原則に反すると言われてもやむを得ません。

 

しかし、三好長官は、こう述べます。

 

【三好長官の反対意見】

戦没者に対する追悼、慰霊は、国民一般として、当然の行為であり、また、国や地方公共団体、あるいはそれを代表する立場にある者としても、当然の礼儀であり、道義上からは義務ともいえるものであること、また、靖國神社や護國神社は、多くの国民から、日清戦争、日露戦争以来の我が国の戦没者の追悼、慰霊の中心的施設であり、戦没者の御霊のすべてを象徴する施設として意識されており、現実の問題として、そのような施設は、靖國神社や護國神社をおいてはほかに存在しない……。

 

要するに、靖国神社・護国神社は、「戦没者の追悼、慰霊の中心的施設」であり、そこで追悼・慰霊の意を表するのは「国民一般」の「義務」だ、という意見です。

 

靖国神社・護国神社については、様々な評価があるところですが、宗教団体であることを否定する人はいません。明らかな宗教団体に公金を支出するのが、「道義上からは義務」だから政教分離違反でないと断言する見解に、多くの法律家はあっけにとられたと伝えられます。

 

このような反対意見を見ると、最高裁判事については、経歴とは別に、どんな意見を書く人なのか、ということもチェックしておきたい、と思うところでしょう。

 

 

11月26日大法廷判決の個別意見

 

その点で、2014年(平成26年)11月26日の大法廷判決が参考になります。この判決は、記憶に新しい2013年(平成25年)夏の参議院選挙の有効性を扱ったものです。この選挙では、最大で4.77倍となる一票の格差が問題となります。

 

ここでは、今回審査の対象となる裁判官が、それぞれ個性を発揮しています。

 

【2014年(平成26年)11月26日判決における5名の裁判官の立場】

p-3

 

 

この判決の法廷意見は、4.77倍の格差は違憲状態ではあるものの、それを是正するための時間がなかったので、2013年の参院選は合憲だとしました。

 

「時間がなかった」という判断には、それなりに理由があります。実は、最高裁は、参議院の定数配分については、「都道府県」という枠を維持するために、ある程度の不均衡は生じて良いとしていました。

 

しかし、2012年(平成24年)10月17日の最高裁判決は、もはや都道府県という枠組みに拘ることは許されないとして、それまでの基準を大きく変えたのです。今回の判決の法廷意見は、国会が違憲状態を認識したのは、この2012年(平成24年)の最高裁判決が出た時点で、そこから今回の選挙まで9か月しかなかったのだから、立法のために十分な時間があったとは言えない、というわけです。

 

池上政幸裁判官(検察官枠)は、この法廷意見に参加し、個別意見は執筆していません。さっぱりとした態度と言えるでしょう。他方、山崎敏充裁判官(判事枠)は、法廷意見に参加しつつ、「次の選挙が是正の期限ですよ」と釘を刺す補足意見を書いています。

 

他方、鬼丸かおる裁判官(弁護士枠)と木内道祥裁判官(弁護士枠)の二人は、参議院では長年、5倍近い格差が続いてきていて、改正のための時間は十分あったとして、選挙は違憲だったと判断します。ただ、選挙自体は有効とし、違憲の宣言に止めるべきだとします。

 

これに対し、山本庸幸裁判官(行政官枠)は、一人一票は唯一絶対の基準なのだから、今回の選挙は違憲であり、違憲なのだから無効だと、最も強硬な意見を執筆しています。

 

山本裁判官に比べると、他の裁判官は穏健に見えるかもしれません。しかし、これまでの裁判官やその他の裁判官に比べると、安倍政権下で任命された裁判官は、総じて一票の格差に厳しい姿勢をとっていると言えます。

 

国民審査では、このような各裁判官の意見も参考にしていただければと思います。

 

サムネイル「Scales of Justice – Frankfurt Version」Michael Coghlan

 

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