「安保法制関連法案」を徹底検証!

3.自衛隊による外国軍の後方支援の拡大

 

【従来】

そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 第一条)

 

【新法案】

そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態

 

荻上 木村さん、こちらのポイントはどちらになりますか。

 

木村 まず、「後方支援」という言葉について整理しましょう。これは、外国軍が行っている武力行使、つまり国と国とが交戦状態の時に、どちらか一方を支援することを指します。

 

これまで、日本の周辺地域で重要な影響がある事態、あるいはイラク特措法のような法律で特別に認められた場合のみ後方支援ができました。しかし、今回は周辺事態から地理的制約がなくなりました。

 

荻上 また、改正案では、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和共同対処法)を新設し、次のような事態が起きた場合にも後方支援ができるようにしています。

 

【新法案】

第一条 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの

 

荻上 木村さん、こちらはいかがでしょうか。

 

木村 一定の条件を満たせば、イラク特措法のような特別な法律を作らなくても後方支援に出かけていけるようになるということです。

 

国際平和共同対処法により、できる業務も広がっています。日本国憲法の下では、後方支援をするにしても、日本自身は武力行使することが許されません。この点は、外国の武力行使とは一体化しない範囲で行うというルールになっていて、武力行使の一体化にならない範囲で後方支援をする、という法律になっています。

 

これまで、戦闘で弾薬を提供したり、戦闘地域に行く戦闘機に給油することは、明示的に禁じられていました。その理由は、外国からの需要がないから、と説明されていましたが、内閣法制局は、武力行使一体化の懸念があるので、慎重に検討すべき、との立場でした。

 

しかし、今回の法案では、それをとっぱらおうという話がでてきていて、後方支援のメニューも拡大しているのが特徴です。

 

荻上 そうなると、現場ではどういった展開になっていくんでしょうか。

 

小原 重要影響事態というのは日本に直接影響が及ぶ事態で、自衛権にも関わるものですが、国際平和共同対処事態は国際社会における協力のための行動で自衛権は行使されません。この二つの性格が異なることをまず考慮する必要があります。

 

後方支援の内容自体は、自衛隊にとっては同じ行動です。しかし、これから議論していく中で、日本の安全保障に直接かかわりがあるとされているのか、国際社会の貢献で行われているのかは、議論されるべき部分だと思います。

 

荻上 今回の法律は「我が国の平和安全に重要影響が出る事態」とされているので、国際平和とは別の議論になっているわけですね。これから、自衛隊が弾丸や給油をどんどんしてく形になっていくのでしょうか。

 

小原 去年、韓国軍に弾薬を渡そうとした際、向こうが拒否するといったことがありました。どのような時に、どのようなオペレーションができるのか、これまで議論されていると思います。今回の法律では「武器の提供を行う補給を除く補給」ができるということなので、ここの部分をどう解釈するかは考えていくべき問題だと思います。

 

また、国際社会に対する貢献は、国会での例外なき事前承認が必要とのことなんですが、重要事態法になると、今度は原則承認になる。

 

いずれにしても、基本計画を国会に報告することが定められているんですね。この計画なしに動くということはあり得ないわけですから、この法律ができたからと言って、政府が無条件に自由に自衛隊を使うことにはならないでしょう。計画の中にどういった内容のものが含まれるかは、それこそ私たちが見ていかなければならないことだと思います。

 

荻上 木村さん、これ合憲・違憲の判断で言うとどうなんですか。

 

木村 あくまで「武力行使と一体化しない範囲で」と書いてあるので、文言上は違憲とは言い難い面はあります。ただ実際問題として、現場ではいろいろなことがありうるわけです。イラクの時も、兵員を戦闘地域に輸送したということが憲法違反だと名古屋高裁で判断されました。

 

まず必要なのは、現地のオペレーションの中で違憲なことが起きているのをどうやって止めるのかという仕組みを考えることです。

 

それから、後方支援した武力行使が正義にかなったものかどうか、国際法的に正しいものであるのか、そうした点を事後的に検証する手続きを整備することも重要です。たとえば、イラク戦争では、大量破壊兵器の存在を理由にアメリカはイラクを攻撃し、日本もそれを支持しましたが、結局、大量破壊兵器がありませんでした。しかし、責任追及が十分にされたとは言えない。

 

たとえ慎重に判断したとしても、その判断が間違っていたとあとから分かる場合がある。いまは、事前の決定ばかり議論されますが、事後的な責任追及の仕組みを設けることができるのか、これも注目する必要があります。

 

荻上 ちなみに一体化ってどこからが一体化で、どこまでが一体化じゃないというのですか。たとえば、これから飛び立つ戦闘機に給油をするのはダメだと。

 

木村 それはダメです。直接戦闘行為を支援しないというイメージを持っていただければと思います。

 

ただ、武力行使の一体化はだいぶ古い基準がずっと使われているので、本国会で内閣法制局や政府がどんな基準を示すのかで変わってくるでしょう。

 

もちろん、アメリカの戦争中にアメリカと貿易をするのはある意味では戦争の支援ですし、戦闘地域で水を配る、医療行為を行う、武器を提供するといろいろなランクがあるので、そこでどこで線を引くかというのは政府に明確な基準を示してもらう必要があると思います。

 

荻上 法律の外側でいろいろな方針や指針を明確にしなければならないことが分かりました。最後のテーマはこちらです。

 

 

4.集団的自衛権行使の限定容認

 

【従来】

内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。(自衛隊法76条)

 

新条文では、次のような場合にも防衛出動ができるとされている。

 

【新法案】

我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合

 

荻上 木村さん、こちらのポイントはいかがですか。

 

木村 これは、日本自身が武力行使をできる場合の条件になるので、非常に重要なポイントになってきます。これまでは「日本が武力攻撃を受けた場合」という条件だったのが、「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合」という条文に変わるということです。

 

荻上 「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合」は「存立危機事態」とも言われていますが、どう解釈すればいいのでしょうか。

 

木村 これは憲法に適合するように読むこともできます。従来の政府解釈では、「存立が脅かされる事態」とは、日本が武力攻撃を受ける事態のことを言ってきました。

 

つまり、「存立危機事態」は、A国がB国へする武力攻撃が日本への武力攻撃の着手と考えられる事態、のことを指していると、私は解釈しています。そう読むと、個別的自衛権の範疇の武力行使だと言えますし、内閣法制局はそれを前提にOKを出したんだろうと思います。

 

しかし、実際の閣僚の発言を聞いてみると、この文言をきちんと理解していないと感じます。「日米同盟が揺らぐ」とか、「経済的理由でオイルショックが起きる」といった、日本の存立が脅かされるとまではいえないような理由で武力行使ができると言ってる答弁もあったりするので、この点については文言の理解をキチンと閣僚の間で周知徹底することが重要だと私は見ています。

 

荻上 木村さんの見立てですと、とりあえず集団的自衛権を認めた、解釈改憲をしたという手柄がほしい安倍さんが、実質は個別的自衛権の範囲内でできることに、集団的自衛権というラベルを貼って今回の議論を展開しているということですが。

 

木村 おそらくそうなんですね。実は「この我が国の存立が脅かされる明白な危険」という文言が入ることを、安倍総理はかなり抵抗していたといわれています。ただ、公明党との妥協の中でこの文言を入れざるを得なかったので、そこを飲んで、今の閣議決定の文章にいたったという事実はありますね。

 

荻上 そうした中で、具体的な運用の仕方についての議論がある一方で、違憲の範囲も認めてしまうかのような法律の書き方になっている。それでもやっぱり憲法の範囲内で運用していく必要があるのでしょう。

 

木村 そうです。違憲の疑いがある法律は、憲法に適合する解釈が選べる場合、そちらを取らなければいけないという憲法適合解釈の原則というのがあります。したがってこの条文も憲法違反にならないように読む義務があります。

 

荻上 そうなると個別的自衛権の範囲にとどまらない集団的自衛権は相変わらず認められてはいないということですか。

 

木村 ということになると解釈せざるを得ないといえます。逆に、政府や閣僚が、個別的自衛権を超える武力行使ができるとの解釈を示し、それを前提に法律を制定することは許されません。

 

荻上 そういうことになったらもちろん違憲だということですね。小原さん、こちらの文言になる影響はいかがでしょうか。

 

小原 実際の運用の面からいうと、個別的自衛権なのか集団的自衛権なのかという判断は、共同作戦の場合に難しくなります。

 

これまではこういった事態は起こらなかったわけですが、この作戦が本当に日本だけを守っているのかどうか、現場にいる人たちが判断すること自体がまず難しい。さらに、集団的自衛権の行使だと思った場合でも、現に展開しているオペレーションから抜けられるのかという問題があると思います。ですから、基本計画が国会に報告された段階で、現に起こっている事象が日本に対していどのような意味を持つのか、日本はどう対処すべきなのかがしっかり議論されるべきだと思います。

 

荻上 法律が組み換わることによって日本にとってオプションの数が増えるわけですね。そうすると今まで参加を見送っていたものに対してもコミットするように変化する可能性があるということですね。

 

小原 そういうと世界中の国がそのオプションを持っているわけで、オプションがあるからといってみんな攻撃的なのかというとそういうわけではない。

 

安倍総理の話の中でも「自信を持ちましょう」という話がありましたけれども、これは日本人が自分で日本はどうあるべきかを決める時に、日本が「戦争」という選択をすることはないということに、自信を持とうということです。

 

荻上 今後の国民に対して、性善説で期待するような演説だったと思います。他方で、選択肢を得たからには自覚的な議論も求められますよね。

 

小原 そうですね。今後国民が、積極的に日本がどうあるべきか議論していく必要があると思います。

 

荻上 今日は木村さんが上げてくださった4つのポイントを見ていきました。今後の国会での論戦の着眼点はどこだと感じますか。

 

木村 まずは業務が拡大する自衛隊員の安全確保でしょう。そのためにどれだけの具体策を政府が提示できるのか、これを野党の側はしっかり追及してほしいと思います。

 

また、解釈が曖昧であったり、きちんと憲法の範囲に収まる解釈にしないといけない条文がたくさんあるので、そこは逐一指摘して言質を取ることも必要だと思います。

 

特に集団的自衛権の「存立危機事態」については閣僚から出る解釈が非常に曖昧なので、きちんと「個別的自衛権と重なる範囲です」という答弁をさせること。それがないと信用できないのは当たり前ですし、憲法違反との指摘を受けるでしょう。

 

 

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