国際政治の視点から改めて考える安保法案

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戦争が起こるメカニズムと抑止力

 

荻上 戦争が起こるメカニズムとはどういったものなんでしょうか。

 

植木 戦争はある日突然始まるのではなくて、それぞれの国が大切に思っていることについて争っていて、それが話し合いでは解決できないから実力に訴える、という話になります。

 

では、どんなときに戦争が起こりやすくなるのか。まず一つは、勝敗の結果に対する不一致があるときです。つまり、双方の国が戦争すれば勝てると思っている、あるいは負ける方の国が勝てると読み間違えている場合です。そうでなければ、最初から戦争をせずして解決できるわけですから。

 

しかし、戦争したら負けるとほとんどの国民が思っていても、国内ではそう言いにくい環境だったり、 情報が足りなかったりすると、国の指導者の間で共有され難くなります。

 

荻上 言論の自由がないとか、自由があっても抑圧的なムードが高まったりした場合も判断を誤りそうですよね。他に、戦争が起こるにはどんな条件があるのですか。

 

植木 よく私は「タイムセールの危険」と言うのですが、 早い者勝ちという状況は非常に戦争の危険を生みやすいです。機関銃やミサイルなど攻撃優位の兵器がありますが、これらは先に仕掛けた方が優位に立つと考えられています。

 

また、短期楽勝だと考えている時も危ないです。外交交渉が煮詰まっていても、「実力を行使すれば簡単に解決できる、軍事的・技術的にそれが可能だ」と信じている時です。また、お互いに短期楽勝だと思っているとより危険です。

 

そもそも、過去の戦争を見てみると、短期楽勝なんて勝った方にとってもありえないのです。2003年に始まったイラク戦争でも、始まった2ヶ月後にはブッシュ大統領が戦闘終結宣言に近いことを言っていました。ところが太平洋戦争よりも長い期間ずっと戦いは続き、未だにイラクの情勢は混沌としています。

 

荻上 戦争の危険を抑止するためにはどうすればいいんですか。

 

植木 リーダーたちがしっかりと戦争の悲惨さを分かる必要があります。

 

よくこんな例えをします。もし未来が見える水晶玉があれば、戦争を防げるのではないか。戦争をすれば悲惨なことが待っている、それを見せてくれる水晶玉があれば、片方の国が相手の国にそれを見せて説得すれば、思い止まらせることができるのではないか。

 

水晶玉をのぞいて、勝てるのではないかと攻撃を考えている国に対して、勝てないというより鮮明な水晶玉に映る景色を見せること、これが抑止になりますよね。戦争を仕掛けたらどういうことが起こるのか、しっかり認識させることが必要なのです。

 

 

手の内を明かすメリット

 

安倍総理は、集団的自衛権行使容認の閣議決定をした去年の7月と、安保法案の閣議決定をした今年5月の会見で、それぞれ次のように話しています。

 

『万全の備えをすること自体が、日本に戦争をしかけようとする企みを挫く大きな力を持っている。これが抑止力です。』

 

『もし日本が危険にさらされたときには、日米同盟は完全に機能する。そのことを世界に発信することによって、抑止力は更に高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていくと考えます。』

 

この発言に関してはどうお考えになっていますか。

 

植木 総理の意図するところは、先ほどの水晶玉の話と同じだと思います 。「攻撃したら日米同盟が機能するので勝てないぞ」と言って、軍事力を使わずに思い止まらせようということでしょう。

 

しばしば抑止力は軍事力とほぼ同じ意味で使われていますが、抑止とはもっと複雑なことで、 それには二種類あります。一つは懲罰的抑止。攻撃したらば報復するぞ、ということです。もう一つは拒否的抑止。攻めても成功しないぞ、と拒否することです。

 

懲罰的抑止は核戦争において考えられることで、最初に核ミサイルを撃っても、相手も同じように核兵器で報復してくるのでどうしても勝てない、というものです。しかし日本や多くの国がやろうとしているのは核戦争ではないので、最近言われているのは拒否的抑止です。つまり、通常の兵器で強い軍備を持って、相手に攻撃させないようにすることです。

 

荻上 安倍総理は力をつけること、そして日米関係を機能させることが抑止力なんだと言ってました。しかし、具体例を挙げてくれと追求する野党に対しては、それを明らかにすると抑止力が下がるんだと言って避け続けていますよね。これはどう理解すればいいんですか。

 

植木 総理は、具体的な事例を示すと細かい所の議論で守りにくくなるとか、外交的に支障があると思っているのかもしれません。もしくは、手の内を見せないほうがいいと何度もおっしゃっているので、本当にそう信じている面もある気がします。しかし手の内を見せると抑止が下がるというのは誤解で、本当は手の内を明かしたほうがいいのです。

 

そもそも、抑止が成功する条件は3つほどあります。

 

一つは、反撃する軍事的な実力があることと、それを使う意図があることです。ここが今日本で強くしていこうと考えられている一部だと思います。

 

二つ目は、「こちらには実力があって、それを使う意図があるんだ」と相手の国に正しく伝達することです。このためには、日頃から意思疎通ができていること。さらには、危機に際しても意思の確認ができる制度が必要です。はったりで言っているのではない、と相手に信じさせるためには、一定の信頼関係も必要です。

 

三つ目は、お互いが状況を共有していることです。例えば「橋を越えたら反撃するぞ」という場合は、逆に言えば橋を越えなければ絶対に攻撃しないのであって、それを相手にはっきりと理解させることが重要です。そうでなければ、越えなくても攻撃されるなら越えてしまえ、となります。これは安心供与と言われていますが、抑止を成功させるためには、脅すだけでなく、安心させることが、とても重要なことだと考えられています。

 

つまり、外から見て何をするのかはっきり予測できれば、抑止は成功するのです。例えば北朝鮮のような国は、何をするのかわからないので周りの国が少し警戒しています。他方、ソウルを火の海にする、と脅してもハッタリだと思い、他国は真剣に受けとめません。

 

しかし、日本のような大きくて民主的な国は、手の内を明かして国内の議論を透明化させたほうがいいのです。首相だけでなく、普段は意見が違う野党も世論も皆、同じことを言えば、それだけ信憑性が高くなる。この一線を越えれば、日本は必ず反撃する、と産経新聞と読売新聞だけでなく、朝日新聞も毎日新聞も赤旗までもが統一していたら、それは明確なシグナルになります。

 

 

安全保障のジレンマ

 

荻上 安全保障の内実を示すことについて考えるために、民主党の長妻昭議員と安倍総理のやり取りが5月26日特別委員会で行われました。

 

長妻議員『総理は抑止力ということをよくおっしゃります。抑止力が高くなるから全体として安全が確保できると。しかし安全保障の世界には、セキュリティジレンマ、安全保障のジレンマという言葉があるわけですね。これは総理もご存知だと思いますのでご説明いただければ。』

 

安倍総理『安全保障のジレンマというのは、抑止力を効かせるためにこちらが軍事力を増長していくことによって、相手方も反応していくということです。ただ、それは抑止力を全く効かせなくていいというわけにはいかないわけで、しっかりと抑止力を効かせていく中で外交努力をしていくというのが当然のことだろうと思います。』

 

長妻議員『抑止力を高めていくと、相手も抑止力を高めて、どんどんエスカレーションして結局は抑止力が効かなくなる。こういうリスクも考えていかないといけないと申し上げたわけです。』

 

安倍総理『先ほどの、言わば抑止力のジレンマについて言えば、相手が色んな疑念を持ってくるということにも繋がっていくわけではありますが、我が国の場合は透明性を持っています。100%透明性を持って、防衛費も防衛力についてもお示しをしているわけですから、我が国がどれくらい大きいものを持っているんだろうという他国の疑念の中において、さらに自分たちの軍事力を増やしていくということには、基本的にはならないということは押さえておく必要があるんだろうと思います。』

 

日本は透明性を確保しているから、ジレンマは起こらないんじゃないかという話ですが、植木さんどう思われますか。

 

植木 安全保障のジレンマというのは、意図に対して起こるものです。日本はどのような武器を保有しているか、という軍事的な装備については、比較的透明にしているというのは確かです。100%明らかにしているかどうかは別として。

 

しかし、日本自身は防衛目的で持っていると思っている軍備を、他の国は攻撃のために持っているのではないかと疑う可能性もあります。そうなると、防衛のためにとった行為が、相手の軍備を強くしてしまう結果を招き、安全保障を下げることになる。これが安全保障のジレンマと言われています。

 

手の内を見せなければ、日本が持っている軍事力がどんな時にどのように使われるのか明白でないので、安全保障のジレンマが起こるのです。

 

荻上 抑止力と外交努力の二つが注目されがちですけど、その間にあるような透明性の確保や説明力が双方にとって効いてくる、それが欠けると双方がだめになるということですね。

 

 

日米同盟は抑止力になるか

 

荻上 こんな意見が届いています。

 

『集団的自衛権の行使容認によって、日米同盟がより強固なものとなるため、北朝鮮や中国にとっては大きな 牽制になると思います。しかし、アメリカと軍事的に強く結び付くということは、日本人がまたテロの標的にされる危険性もあります。』

ということで、抑止力が向上する分、リスクもあるという指摘もあります。

 

植木 集団的自衛権をある場面においては行使してアメリカを守る、あるいは活動範囲を広げてアメリカや他の国の後方支援をすることで、協力関係が強くなります。そうなることで、日米を攻めたらこんな結果になると見せる効果があると思います。また、平時から日米が一緒に訓練し、軍事的に高いレベルの協力ができることを他の国に見せるのが抑止には重要だと政府は考えています。

 

しかし問題なのは、いったい何を抑止しようとしているかが見えないことです。具体的に、中国が何をしたらば阻止するのか、その一線が見えない。これを越えなければ何もしないという安心供与もできていない。それが国内でも日米間でも議論されてないと思います。そういう意味では、抑止は成功しないかもしれないと言えます。

 

荻上 個別的自衛権ではなく集団的自衛権でなければ抑止力が高まらないというのは、どういった筋書きで議論されているんでしょうか。

 

植木 いくつかあると思うのですが、高度な訓練を普段からして相手に見せるというのが一つと。あとは世界的な構造の変化を考えると、他の場面でアメリカを守るからと言って日本を守ってもらうことを担保する仕組みだと思います。

 

荻上 日本国内においては、アメリカの覇権秩序が崩れることに対する懸念はあまりありませんよね。ですからパワーバランスを変えないように対抗するのではなく、こちら側がこうするからもっと守って、というような発想が強いということですか。

 

植木 国際社会の大きな変化を感じて段々住みにくい世界になることを心配している人が、政府の中にも外にもいるのは確かです。しかし今回の安全保障法案については早い段階で国連の中での集団的自衛権は使わないと言っているので、そちらの方の問題はあまり重視されていないのかなと思います。

 

荻上 最後に、これからの議論でどういった点に注意が必要でどういった議論をしてほしいと思いますか。

 

植木 どこに線が引かれているのか明確になることが大事だと思います。そうでないと抑止が成功しないですし、安全保障のジレンマが起こる危険があります。国民の議論が外から見えることで、何をするか分からない国ではないということに繋がるんだと思います。

 

 

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