多元性のある民主主義を取り戻せ――自民党派閥の系譜をたどる

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党内に敵を作らない安倍首相の人柄

 

荻上 では、現在の自民党の派閥を見ながら、これまでの流れを見ていきたいと思います。自民党の派閥は現在8派閥です。

 

細田博之幹事長代行の「細田派」。『清和政策研究会』(『清和会』):95人

額賀福志郎元財務大臣の「額賀派」。『平成研究会』:53人

岸田文雄外務大臣の「岸田派」。『宏池会』:45人

麻生太郎財務大臣の「麻生派」。『為公会』:36人

二階俊博総務会長の「二階派」。『志帥会』:34人

石破茂地方創生担当大臣の「石破派」。『水月会』:20人

石原伸晃前環境大臣の「石原派」。『近未来政治研究会』:14人

山東昭子元参議院副議長の「山東派」。『番町政策研究所』:10人

 

メンバーが多い順に読み上げましたが、伝統的に強い系譜を継いだところはどこなんでしょうか。

 

中北 人数の多い三つですね。「細田派」は岸信介、福田赳夫、安倍晋太郎という岸派の流れをくむ派閥。二つ目の「額賀派」は田中角栄、竹下登、小渕恵三という田中派の流れです。そして三番目の「岸田派」は池田勇人にはじまる宏池会で、大平正芳、宮沢喜一といった首相を輩出した派閥の系譜です。以上の三派が、まず重要だと思います。

 

荻上 その他の派閥は新しいものなのでしょうか。

 

中北 「麻生派」は宏池会から別れた派閥です。麻生さんにオーナー的な力があるので、比較的勢いがある派閥ですね。その次の「二階派」も求心力があります。二階さんは元田中派で、実力のある政治家です。現在、利益誘導政治的という意味で田中派的な派閥というと、額賀派以上に二階派なんだと思います。「国土強靭化」というのも二階さんの政策です。もともと「志帥会」は亀井静香さんが率いていた派閥で、右寄りだったのですが、二階さんに代わってから、ハト派的な方向に変化した印象があります。

 

荻上 看板が同じでもやはりトップが変わると変化があるんですね。政策の議論なども各派閥で行われていると思いますが、それぞれの特色の違いはどう見れば良いですか。

 

中北 そもそも派閥の間の政策の違いは、それほどはっきりしたものではありません。というのも、派閥のメインの役割の一つはポストの獲得です。二つ目は政治資金。政策中心というよりは、この二点でまとまってるという面が大きいのです。その一方で、派閥には政策色もあります。細田派、つまり旧岸派の流れを引いている清和会は右寄りで、岸田派はリベラル、という色彩が強いですね。

 

荻上 最近は「自民党内にハト派って息しているの?」といった印象を受けますが、そのあたりはどうですか。

 

中北 岸田派のメンバーの方と話をしても、今の政権運営に不満を抱いている方は少なくないんです。ただ、派閥として動けるかというと、そうではない。これは安倍さんの巧妙なところなのですが、第二次安倍内閣で一時、岸田派から5人も入閣していたんですね。国会の答弁などを見ていると、安倍さんは野党に乱暴なことを言うイメージが強いと思いますが、党内では巧みに取り込んでいて、ライバルほど処遇しているんです。

 

私が最も重要だと思うのが、幹事長の人事です。幹事長は党の要のポストで、選挙や政治資金を握っています。安倍さんは一番のライバルである石破さん、次いでリベラル派の谷垣さんを幹事長につけてきた。谷垣さんはもともと宏池会の出身なので、安倍さんとは理念の部分で相容れない人なんです。このように党内ではライバルを上手く取り込んでいるので、なかなか不満が出にくい。

 

安倍さんは「民主党憎し」なんです。2009年に政権を奪われたことが、自民党に非常に大きなインパクトを与えました。民主党に対抗するために党内を固めないといけない、という空気が自民党を覆っている。安倍さんの人柄もあるのでしょう。「安倍さんは明るい人で、飲み会の席でも楽しい人だ」という話を新聞記者の方からよく聞きます。安倍さんは外側に厳しい一方、内側に対しては融和的なタイプの政治家なのだと思います。

 

 

かつての派閥政治には戻れない

 

荻上 リスナーからこんな質問がきています。

 

「近年、派閥の存在意義が薄れているように思っていました。というのも、『中選挙区制だからこその派閥』だと思っていたんですが、小選挙区制がとられた今、派閥はどのような意味を持つのでしょうか?」

 

中北 これは非常に重要な点だと思いますね。派閥には幾つかの機能があると先ほどお話しました。一つは選挙で党の公認を得る。二つ目は政治資金を集めて配る。三つ目は国会や党のポストを配分する。選挙について言えば、小選挙区制がメインになったので、党の公認候補が各選挙区1人ですから派閥間の争いが起きにくくなった。自民党の公認権をとるための機能は、ほぼなくなったと言っていいと思います。

 

政治資金の機能については、「派閥から貰うお金と自分が出すお金がトントンだ」という話をよく聞きます。中堅以上になると、「自分で出す方が多い」「パーティー券をさばく負担の方が大きい」とも聞きます。ですからお金についても、かつてのように派閥の領袖が集めてそれを貰う形ではなくなってきています。

 

ポストについても、閣僚・党役員人事に関する派閥の力は相当弱まってきています。ただ、副大臣や政務官、副幹事長など少し下のポストについては派閥の影響力が残っているようですが、派閥の主要な機能が相当失われているのは確かです。

 

それでも、なぜ派閥が存続しているのか。やはり情報交換の機能なんですね。「サロン化」とも言われますが。また、先ほど言った3つの機能のうち若干のものが残っている。こうした理由から派閥はまだ存在しているのではなかろうかと思います。

 

荻上 交流や役割分担なども、派閥だと機能する面もあるでしょうね。そうした中で、これからの派閥の機能はどうなっていくのでしょうか。

 

中北 私は旧来のような派閥政治に戻ることはないと見ています。かつての自民党は「派閥連合政党」でしかなかったんですね。例えば閣僚人事も派閥ごとに比例的に割り振る構造だった。そうしたシステムに戻ることはないと思います。

 

ただし、完全になくなるわけでもないと思います。例えば、総裁になるためには数が必要になってくる。そのための一つの手段として派閥を作る意味はあります。今回、なぜ野田聖子さんが出馬できなかったのか。それはやはり、苦しい時でも支えてくれる仲間がいなかったからです。石破さんはそこに自分の姿を重ね合わせたから、派閥を作ったんでしょうね。

 

荻上 山東昭子さんは女性議員で派閥の中心になっていますよね。そうした事例も今後増えてくるのでしょうか。

 

中北 自民党内のジェンダー的な側面も、少しずつですが変わりつつあります。山東さんの派閥の会長への就任もそうですし、二世議員で女性がでてくることも増えてきました。

 

荻上 議員の割合としてもそうですよね。ただ女性議員が出たとしても、これまでの現状を変えるモチベーションを持っている方がどれくらい居るのかは別問題です。逆に永田町文法のようなものに適用するケースもありますよね。

 

中北 安倍さんの周りは、特にそうでしょうね。そもそも女性が本当に実権のあるポストに就けるのか疑問が残ります。野田さんはそれを目指したんでしょうけど、志半ばで立候補できなかったということです。

 

 

多元性を取り戻す道は、野党の再生のみ

 

荻上 リスナーからこんなメールが来ています。

 

「自民党で要職に就いているのは世襲議員が大半です。さらに、最近の自民党の首相は世襲議員ばかりです。なぜこうなったのでしょうか。」

 

派閥と世襲の関係はどうですか。

 

中北 どちらかというと派閥よりは「個人後援会」の方で世襲を説明する政治学者が多いですね。地盤の継承を考えた時に、一番収まりが良いのは引退した政治家の親族。これが二世議員を増やす背景だと言われています。また、世襲議員が多いのは、若くして立候補しやすいとか、固い地盤があるから当選回数を重ねやすいといった理由も大きいと思います。

 

派閥と世襲の関係についていうと、今は派閥に入らない人が増えてきていて、派閥に残っている人の間で二世議員の比重が高くなっているように見えます。先代からの強いしがらみがある人が派閥に残っているんですね。

 

荻上 なるほど。最後に、「自民党の多元性が失われつつある」と言われている中で、これからの派閥に代わる機能はどうなるのでしょうか。もちろん「各党がその役割を果たすべきだ」といった前提はあるのですが、現状ではそうはなっていない。このままでは、選挙で直接問われないテーマについても、色々な声を国会に反映していくことは難しいように感じます。

 

中北 これだけデモをしても政権が聞く耳を持たないように、自民党にかつてのような多元性を求めるのは、なかなか難しいと思います。派閥について言えば、復活することは望ましくもないし、可能でもありません。やはり野党が再生することで、きちんと日本政治の多元性が確保されていくことが大切でしょう。逆に、多元性ということは野党の再生にとっても重要な鍵になるはずです。多様な意見が反映される民主主義を目指すという戦略です。それを野党は看板にすべきだと思います。

 

荻上 野党として多元性を目指していく道とは、例えば政策なのか、今回出ているような選挙協力をはじめとした協力なのか。どういうものがありえるのでしょうか。

 

中北 野党がどうしてもまとまれないのであれば、もはや選挙制度自体が機能していないということでしょう。小選挙区制は二大政党が切磋琢磨することを予定していますが、一強多弱のままだと小選挙区制のもとでは、一強がますます強くなってしまいます。もし小選挙区制のもとで野党が結束できないのであれば、「選挙制度改革をする」という一点で協力することもあり得ると思います。

 

荻上 それは難しそうですよね。90年代にあれだけ政治制度改革をやったものの、実は国民の関心はそこには向かず、逆に「経済をなんとかしてほしい」という国民の声をずっとスルーしてきた。同じように、たとえ野党が政治制度改革を争点に動いたとしても、与党がまた経済政策を掲げれば、より良い代案を出さないと完全に負けることになりますよね。

 

中北 確かにそうかもしれません。「選挙の前になると経済重視、終わったら安倍カラーの政策」というのが安倍政権のやり方です。ただ、安保法制をめぐって今回これだけ大きなデモが起きたので、この手口がどこまで通用するのかは疑問です。政治改革についても、それほど悲観的にならなくてもよいのではないかと思います。これは希望的観測ですが。

 

荻上 今後の自民党の動きについてはどうお考えですか。

 

中北 安倍さんは憲法改正を何らかの形で目指していくのではないか、と私は見ています。かつて政権を投げ出した安倍さんが、どん底から首相に復帰するまで努力を重ねたのは、その大きな目標があったからです。経済を使って国民の支持を調達しながら、最終的に憲法改正に持っていくのが、現在の戦略のはずです。この点を踏まえた上で、私たちも政治を考えていかなければならないと思います。

 

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