自民党のメディア戦略はどう変わってきたのか

 ネットにおけるコアな支持層に向けたアプローチ

 

荻上 リスナーからメールが来ています。

 

「自民党は最近、ニコニコ動画を使っての広報活動が盛んになっている気がします。どういった意図があってのことなのでしょうか。」

 

西田 安倍総理自身、ときどきニコニコ動画の生放送に出ておられます。本人も、「編集されていない生の情報を届けたい」とおっしゃっていました。まさにそういうことなのだと思います。同時に、若い世代にリーチしやすい。これも諸説ありますが、ニコニコ生放送のユーザーはやや保守的な傾向があると言われています。それはまさに自民党の支持層とも重なりますから、需要があるところにコンテンツを出していく意味では合致しているのでしょう。

 

荻上 ニコニコ動画ユーザーの保守的傾向は確かにあります。私は毎月「ニコニコ世論調査」の司会をやっていますが、毎回のように野党第一党が「次世代の党」になるんです。ほかにも民主党の支持率が1とか2になるくらい、一般のメディアの世論調査とはユーザー層が違うのかなと思います。

 

とはいえ、その癖を踏まえてデータを見れば別に信頼できない調査ではない。そうしたユーザー傾向はこの調査から見えるのかなと思います。逢坂さんは自民党のニコニコ動画などの活用についてはどうお感じですか?

 

逢坂 ニコ動やFacebookはサポーターを可視化してくれる媒体なので、やはり安倍さんとしても気持ちが良いのだと思います。政治家とは不安を抱えているものですから、自信になるのでしょう。ニコニコ動画では、安倍さんが出演されると「88888」(拍手)といったコメントが流れますし、Facebookでも「いいね」が沢山つく。

 

テレビ政治の時代だと、マスメディアと世論調査だけでしたが、ネットだと1万人、2万人の規模で自分をサポートしてくれる人たちが現れる。しかも自分が好きなことを誰にも邪魔されずに喋ることができる。

 

荻上 一方で、以前安倍総理がニコニコ動画の番組の中で安保について議論された際には、一日大体1〜2万再生されていました。つまり今、ニコニコ動画は政治的な視点だけでは見られていない面もあると思います。その中で、安倍総理は誰に向けて呼びかけているのか。ファンの層なのか、それとも今までリーチしていなかった層に届けるために使っているのでしょうか。

 

逢坂 おそらく、コアな支持層に向けてアプローチしていくのではないでしょうか。基本的にネットは興味を持つ人が情報を探していくプル型メディアです。その点は政治家もよくわかっていると思います。

 

今の段階では、他のメディアで叩かれていてもここには支持層がいると思える。自民党にしても、安倍さん個人にしても、マスメディアに相手にされない野党のときにネットを活用して成長してきました。その経緯もあり、ネットではコアなファン層に向けてアプローチしているのだと思います。ですからこれからの時代、もし、ネット上で左派が強くなっていった場合に安倍さんが出続けているかというと、違ってくるはずです。

 

 

民主党政権時代のネットと政治

 

荻上 民主党政権の時代におけるネットと政治の距離感も問われる必要があると思います。西田さんはこの時代のネットと政治の絡みについてはいかがですか。

 

西田 民主党政権は色々な意味で残念だったと思いますが、ネットと政治の関係についても同様でした。というのは、民主党は長らくネットを使った選挙運動の解禁を主張してきて、2010年に野党合意に達しました。しかし、普天間基地問題で鳩山内閣が倒れた時、この議論を棚上げしてしまった。このままではネットでも民主党の支持を失うのではないかと考えたからです。その意味でも、民主党はネットでの活動に踏みこめなかったのだと思います。

 

一方、自民党は政権時代にメディアにずっとちやほやされていたのが、野党になった瞬間にサーっと引いていった。そのとき野党の悲哀を痛感した、と各所で聞きます。それで新しい方法としてネットに真剣に取り組み始めた。自民党サポーターズクラブの開発や、ネットを使った訴求など。どうすれば人々に良い印象を与えることができるのか、技術の開発に取り組みました。ここで一挙に民主党と差がついてしまった。

 

荻上 民主党政権下では尖閣諸島のビデオがネットで流出した事件がありましたね。これからはウィキリークスなど、ネットが報道の形を変えるのではないかと議論されている中で、民主党に対してネットのあり方が打撃を与えた面もありました。

 

逢坂 そうですね。もう一つ忘れてはいけないのは、鳩山政権下で松井孝治官房副長官らがつくった「キョリチカWG(国民と政治の距離を近づけるための民間WG)」の活動です。首相Twitterを最初に始めたのは鳩山政権ですし、首相ブログもそうです。彼らなりに、テレビをバイパスして直接、有権者に声を届けていこうと、「政治のメディア化」に対抗し始めました。ちょうどiPhoneがでてきた2009年ごろのことです。

 

しかし、結局は沖縄の基地問題をマスメディアが大きく報じるなかで、鳩山政権のコミュニケーションは頓挫します。Twitterもリーチが少なく、「正しい意図」は拡がらない。自民党はその姿を見て学んだ面もあるのでしょう。

 

 

西田氏

西田氏

 

 

広告代理店との慣れ親しみの関係

 

荻上 リスナーの方からこんな質問が来ています。

 

「広告代理店の役割はどうでしょうか?」

 

西田 この点に関しては様々な著書が出ていて、僕の本でも書きました。自民党は広告代理店と長い関係性を作ってきたことが知られています。例えばネットの選挙運動の取り組みも、広告代理店が主導しました。むしろ自民党に提案したのは広告代理店だとも言われています。特にアメリカでこの分野は盛り上がっています。ここが新しいマーケットになるのではという目論見です。

 

荻上 それで日本でもやろう、となったのですね。自民党はPR会社に協力してもらい、例えば特定の支持層を狙って演説内容を工夫するようアドバイスを受けたり、「○○を行脚しましょう」「○○駅前に行きましょう」と具体的な戦略を立てたりしていますよね。

 

西田 1950年代から自民党は広告代理店を上手く活用してきました。慣れ親しみの関係を作ってきたのはメディアだけではなく、広告代理店もそうです。

 

荻上 広告代理店との関わりのなかで、ネットに関する知見も調達していった部分もあるんでしょうね。

 

西田 政党としてのネットに対する意識は高く、先ほどの「Truth Team(T2)」など、ガバナンスを用意するところまでは自分たちでやってきた。一方で、具体的に何をするかは広告代理店や、その下にたくさんのITベンチャー企業を並べ、そこに委ねていたところもあります。

 

 

メディアに対して「だから何か?」

 

荻上 第一次安倍内閣と現在を比較して、どの点に変化をお感じになりますか。

 

逢坂 おそらくマスメディアに対する躊躇がなくなったのだと思います。「だから何か?」というような、露骨な態度になってきた。21世紀以前は、自民党の中にも戦前・戦中の経験を持つ方々が多く、「メディアにはあまり口を出すな」という黙契があった感じでした。しかしこの方たちも、ちょうど21世紀に入るころから引退していなくなります。

 

さらに、安倍さん個人について言えば、マスメディアとの関係が大切だという考えと、「一旦ことがあるとマスメディアは容赦なく攻撃してくる」という思いがないまぜになり、非常にガードを固くしている。しかも、ネットでサポートしてくれる人たちもいて、足場ができてきた。90年代まではマスメディアが総攻撃すると政治家は大体潰れていきました。辻元清美さんや鈴木宗男さんは、まだネットが発達していない時代でしたから追い込まれてしまった。

 

一方、例えば小沢一郎さんは西松事件などではテレビや新聞で強く批判されましたが、インターネットのサポーターらを足場にして踏みとどまった印象があります。安倍さんも同じように、インターネットに足をかけながら躊躇しなくなった。「法律に書いてあるんだから、何が悪いの?」というような。ある意味、黙契の破棄ですよね。

 

荻上 安倍さんの言説の内容も、ネットに影響を受けたり共鳴しあっている点はあるのでしょうか。

 

逢坂 安倍さんは下野後の野党時代から、自身のホームページでマスメディアに対する批判は書いていました。また、その不遇な時代を日本会議の人や右派の「チャンネル桜」さんらが、ずっとサポートしてきたわけです。今は、それらのコアなファン層に乗っかりながら、マスメディアを攻撃できるようになった。2012年の選挙の際には、右派の集会において「インターネットで一緒に世論を変えていこう」などと演説しておられました。

 

荻上 つまり、「法律にはこう書いてあるけど、何か?」という立場と「偏向している今のメディアに応答して何が悪いの?」というスタイルが重なっているのですね。「公正」という法解釈の面と、メディアの「中立」に関するバランスの面とで、クロスして応答が行われているように感じます。

 

「中立」は、右と左があればそのセンターに立つこと。「公正」は、立場がどうであれ手続きやプロセスを明確にすること。捏造をしない、きちんと検証するといった別の概念です。自民党は前回の選挙の際にメディアに対して「公正中立」な報道を求めましたが、ここは非常に重要なポイントだと思っています。【次ページへつづく】

 

 

 

◆◆「αシノドス」購読でシノドスを応援!◆◆

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.228 特集:多様性の受容に向けて

・安藤俊介氏インタビュー「『許せない』の境界を把握せよ!――アンガーマネジメントの秘訣」

・【PKO Q&A】篠田英朗(解説)「国連PKOはどのような変遷をたどってきたのか」

・【今月のポジだし!】山口浩 ことばを「『小さく』すれば議論はもっとよくなる」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第九回:こんなところでジャズ