自民党のメディア戦略はどう変わってきたのか

スマートなメディア対応

 

西田 僕はスマートになった点と、戦略性がキーワードだと思っています。躊躇がなくなった、という話とも関係があります。スマートになったとは良い意味ではなくて、うやむやにするのが上手くなった、と思っています。従来の中立公正の考え方と違うものを持ってきているのに、「これが中立公正だ」と言っている。どっちもどっちに見せるのが上手くなったと思います。似た論点を提示することで、あまり政治に詳しく無い人に、理性的な判断を難しくさせるような手法です。

 

もう一つの観点で言うと、ばらまきを使ったアプローチは鳴りをひそめた。形式的合法性は過去と比較しても高くなったと思います。つまり形式的には納得出来る側面は増えた。例えば政府広報において随意契約を用いたアプローチは減ったとか。そういう形式的な合法性の範囲の中で何をするかの工夫が長けている。その意味でスマートになりました。

 

戦略性はそこにも対応します。単にネットだけを見る、マスメディアだけを見る、選挙運動だけを見るのではなくて、これら全てを総合して見ながら、さて次はどの打ち手をするかを考える。戦略的意図を見出せるようになったのも特徴です。

 

荻上 安倍総理はどういう事例にメディア対応を学んだと感じますか。

 

西田 これは推論の範囲を出ませんが、試行錯誤の結果だと思います。安倍総理は小泉内閣のときに党と政府の要職を経験されていて、かつ第一次安倍内閣で首相を務めて、他方でメディアから強いプレッシャーを受けて敗北した。その経験の中で、チームも同様の経験をしてきました。個人的な資質もそうだし、組織能力も向上し、洗練されてきた。

 

逢坂 おそらく彼自身の経験だけでなく、祖父である岸信介さんの経験からも学ぶことがあったのだと思います。岸さんは、60年安保を巡ってマスメディアとの対立があった方ですから。それに忘れてはいけないのは、大叔父の佐藤栄作さんも、外務省機密漏洩事件など様々なメディアとの対立があった方です。この二人を直系の人にしている点も大きいと思います。

 

もう一つ、徹底的なモニタリングを行っていること。インターネットだけでなく、テレビも丁寧にモニタリングされています。定期的でかつ徹底したモニタリングが、チームとして行われている。ここが特徴だと思います。傷つけられたぶん、マスメディアの権力性を非常によく知っている。

 

 

「内向きのプリンス」

 

荻上 ネットの活用という点でいうと、橋下徹大阪市長のTwitterの使われ方がよく話題に上がります。これと安倍総理との違いはいかがでしょうか。

 

逢坂 確かに、安倍さんも橋下さんに学んだ点はあると思いますが、安倍さんはずっと前から、マスメディアに対する批判はブログで書いていました。ただ、この5、6年、特にスマートフォンが登場してSNSが普及してくるなかで、マスコミュニケーションの全体的な状況が変わってきています。

 

これまではマスメディアが国民の情報環境を取り巻いていたのが、今はマスメディアをインターネットが取り巻いている状況ですよね。徐々にマスメディアがネットのネタを後追いをし始めるなど、いわば図と地が変わってきました。

 

つまりマスコミュニケーションにおけるマスメディアの位置が、昔は図だったのが、だんだん地になってくる。その変化の中で、安倍さんは上手くインターネットも使いながら、マスメディアもきちんとモニタリングしてきました。

 

そして、インターネットで支持者を呼び込みながら政権と一緒に、マスメディアを挟撃するようなやり方をしています。

 

荻上 以前、歴代首相のメディア出演回数をカウントしてみたのですが、安倍首相は新聞、雑誌、夕刊紙も含めてトップクラスなんです。その意味でも、メディアとの距離感は変わってきているのだと思います。

 

一方、安倍さんが橋下さんから喧嘩の仕方を学んだという指摘はその通りですが、質的な違いはあります。橋下さんは、テレビのバラエティー番組のノリで敵を打ち負かしていく快楽を学んだ。安倍さんは保守論壇の雑誌などで、左派のマスメディア批判や歴史観批判を学んでいった。「内向きのプリンス」という立場が基軸となっていったのだと思います。

 

第一次安倍内閣では教育再生などの内向き感を外に出そうとして失敗したけど、第二次以降はバランスがより調整されるようになった。チームとしての練度が上がり、個人としての観点も変わったのでしょう。

 

西田 橋下大阪元市長は言葉の選び方がすごく上手い。彼の場合は組織というより俗人的な能力が長けているのだと思います。それに対して安倍総理さんの場合は、Twitterのようなリアルタイムでどんどん書いていく媒体には踏み出せずにいる。だからFacebookなど、比較的クローズドで安定して、リアルタイムでなくても済むような形でアップしていく。そして支持層の忠誠心を高めていく。そういう違いがあります。

 

荻上 Twitterの橋下さんとFacebookの安倍さんで使い方も違いますよね。また橋下さんは選挙の時も、Twitterで維新の党の候補者を応援するような親分肌は全然示さないんですよね。

 

でも安倍さんはFacebookを使ってサポートしている地方の候補者の写真をアップしたりしている。肩を組んだり手をつないだり、演説している模様を撮ったりして、結構応援している。自民党独特の党の絡み方が、Facebookに向いていたのかなって感じはしますよね。

 

西田 まさにその通りだと思います。橋下市長の場合、俗人的なスキルは極めて高いが、一極集中型で同時に安定感を欠く。維新の党全体で見ると一人しかその能力を発揮できないので、うまく機能しない。

 

それに対して、自民党にはきちんとした体制があって、そこにお金を突っ込んでいくので組織能力が安定しています。外れ値はないけど、平均点が高い。この組織能力には様々な応用の仕方がありえます。これまでは選挙の時に活用してきましたが、今は平時のメディア対応においても生かすようになっている。

 

 

逢坂氏

逢坂氏

 

 

メディアの政治対策が追いついていない

 

荻上 メディア戦略を変更しつつ学んできた政権側に対して、メディアの側は政治対策はどうなのでしょうか。

 

逢坂 21世紀になってマスメディアの中で進んできたのは、一つは「分極化」です。新聞ごと、テレビごとで主張が分かれてきました。もう一つは2000年ごろに始まったことですが、報道全体の「エンタメ化」が進んでいった。例えば杉村太蔵さんなど、タレントのような政治家が出てきました。それによってエンタメ化が加速され、テレビで政治が軽く扱われるようになっていった。第二次安倍内閣になっても、分極化はそのまま進行していますよね。

 

エンタメ化も進行はしていますが、政治の扱いは全体的に腰が引き気味になってきたと感じます。それを牽引してきた日本テレビ番組「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。」や、みのもんたさんのTBSテレビ番組「朝ズバッ!」などがなくなり、政治に対する揶揄性や批判性が徐々に失われていきました。

 

荻上 その二番組は政治家をキャラクター付けしていく番組でもありましたよね。ワイドショーの報道も、選挙の期間はむしろ減っていたり、媒体によって違いはありますが全体的に政治色が弱くなっているように感じます。

 

逢坂 とても難しいところだと思うのは、安倍さんには「今までマスメディアが政治をどう扱ってきたのか」という批判が根っこにあると思います。同じくネットの人たちも、なぜ自分ではなくマスメディアが偉そうに情報を伝えているんだという対抗意識がある。インターネットは基本的にはマスメディアと対抗関係にありますから、「マスメディアやジャーナリズムってそれほどまともなのか?」という批判を受けるような状況になっているのです。

 

荻上 テレビが政治面で新しい新陳代謝を起こせていない状況がある。新聞はデータジャーナリズムで軸を模索していて、成功している記事もあると思います。しかしテレビは政治との距離感が落ち着いていないように見えますね。

 

逢坂 もう一つ、安倍さんは特にメディアに対して優位的環境をはっきりさせていますよね。東京新聞に対しては選挙時のインタビューを受けないとか。また、記者クラブが首相を囲い込んでいるという批判を背景にルールを変え、首相が会見に応じるメディアを自由に選べるようになってきた。

 

すると「うちは安倍さんにアクセスできない」というところが出てきますが、安倍さんはそれでいいって思っちゃっているようにみえます。90年代のマスメディア批判が、結局ジャーナリズムの弱体化につながっている面もあって、なかなか難しいところです。

 

荻上 メディア批判としては妥当なのだけど、それを言う政治権力批判の担保が欠けたままだと、どこかでリバランスしなくてはいけないですよね。

 

西田 先ほどの分極化の話に対応して、分断統制が進んでいるのだと思います。メディア同士もゲームチェンジが起きていることはわかっている。でもそれに対応して何をしていいのか分からない状況にあるのだと思います。

 

メディアの新しい取り組みとしてのデータジャーナリズムは、従来の政治報道と切り離されているんですよね。ですから全く有機性がなくて、結局、権力監視の機能を果たしていない。政治のメディア戦略の洗練と高度化にジャーナリズムが対応できていなくて遅れています。

 

荻上 新しいジャーナリズムの形を模索していくことも求められていますね。

 

西田 そのとおりです。他方で、これは繰り返しいわれていることなので、早くやらないと、メディアも政治に緊張感を与えられないし、政治も政治のなかで緊張感を作り出せないと思います。マスメディアの存在理由が問われますね。

 

 

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