定数格差とねじれ国会

たとえば、人口100人、総定数10、選挙区数5で構成される議会があったとします。人口と定数の配分が表1の通りであれば、最大最小値はG列から15÷5=3となりますが、LH指標はF列の合計30%を半分に割った15.0%となります。人口シェア、定数シェアというふたつの変数の差の絶対値を取り、その総和を2で割ったのがここで使用する定数格差指標です。

 

 

表1 定数格差指標の数値例(1)

表1 定数格差指標の数値例(1)

 

 

この議会で定数配分を表2のようにやり直せば、最大最小比は15÷8.33=1.8倍、定数格差LH指標は絶対値の合計を2で割った5.0%となります。

 

 

表2 定数格差指標の数値例(2)

表2 定数格差指標の数値例(2)

 

 

一票の格差がまったく存在しない状況では、この定数格差LH指標は0の値をとり、議席が不均衡に少数の選挙区に集中しているほど100%に近づきます。最大最小比に比べて使用頻度としては一般的ではありませんが、LH指標は全選挙区の不均衡を等しく考慮しているため、議席配分不均衡の全体的な傾向をより正確に把握するのに便利です。

 

図2は、衆参それぞれ選挙区と比例代表(または全国区)を、それぞれの全議席に占める割合を元にウェイトをつけて計算したものです。たとえば2009年の衆院選挙では480議席のうち、300議席が小選挙区から、180議席が比例代表ブロックから選出されました。小選挙区、比例代表ブロックの割合はそれぞれ300÷480=62.5%、180÷480=37.5%で、LH指標にウェイトを掛け合わせて処理したのものです。参議院の選挙区、比例区についても同様に扱いました。

 

 

図2 衆参両院における定数格差の変遷(加重平均)

図2 衆参両院における定数格差の変遷(加重平均)

 

 

図2から分かるように、戦後すぐの選挙では衆参両院の定数格差に大きな違いはありませんでした。参議院には全国区があったため、院全体での定数格差はそれほど深刻な状況にはなりませんでしたが、反対に当時の衆議院は中選挙区制をとっていました。衆議院での定数格差是正が、一部の極端な値をとる選挙区で申し訳程度にしかなされなかったため、定数格差の状況はつねに参議院よりも深刻な状況にあったのです。これは図1で見た最大最小比が大きく改善した70年代において、衆議院全体の定数格差がほとんど改善していないことに如実に表れています。

 

衆議院が中選挙区制だった時代、全国区のある参議院に比べて、衆議院が地方を過大代表する傾向にありました。反面、全国区を通じて都市部をより強く代表していたと想定される当時の参議院ですが、実際には自民党がほぼすべての一人区を独占することで、全国区での苦戦を相殺する状況にありました。

 

この点は注意しなければならないのですが、じつは人口一人当たり議員定数の定数格差だけでなく、選挙区定数のバラツキ自体が、代表民主主義での様々な不平等につながる可能性があるのです。たとえば5人区と1人区では、候補者を擁立したり実際に当選する政党の顔ぶれが大きく異なります。5人区では野党がそれなりに当選する可能性がありますが、1人区は与党を過大代表しがちです。つまり、衆議院の選挙制度が中選挙区制だった時代、自民党は衆参両院において、農村地域の政治的利害を過大代表することで、ねじれ現象が発生することを防いでいたのです。

 

ところが、このバランスは衆議院の選挙制度改革によって大きく崩れてしまいました。小選挙区と比例ブロックを組み合わせた並立制は、当初300の小選挙区と200の比例区議席を組み合わせたものでした。比例区議席は2000年選挙を前に180に減らされています。いずれにせよ、図2から分かるように、選挙制度改革と同時に、衆議院での定数格差は劇的に改善されたのです。それだけでなく、衆議院と参議院がそれぞれ代表している有権者が、違う集団になりました。衆議院が都市型に、参議院が農村型になってしまったのです。

 

98年参院選の敗北をきっかけに、自民党は都市型の選挙対策をとりはじめることになりました。反面、農村地域を中心に同党の集票組織が徐々に弱体化を余儀なくされました。公明党と連立を組むことで、自民党の都市型選挙対策は盤石なものになっていきますが、地方では取りこぼしが目立つようになっていきます。この傾向は小泉政権でもつづきますが、公明党との選挙協力が円滑に進んでいたことと、首相への高い支持率が党全体の選挙結果を下支えしたことから、ねじれ現象は暫く起こりませんでした。しかし一旦政党支持率が低下すると、都市型の衆議院で勝てても農村型の参議院で勝てないという矛盾が顕在化することになります。

 

2007年参院選で、民主党は一人区を中心に勝利を収め、結果的に衆議院で政権交代を実現する足がかりを得ました。しかし反対に2010年参院選では、一人区を中心に自民党が圧勝し、総得票では民主党が上回るものの、議席数では自民党が上回るという状況が発生しました。

 

 

 

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