選挙やデモのほかにも方法が!?社会を変える”ロビイング”入門

関心のある人としっかりつながる

 

荻上 別のイシューでロビイングをされていた方にもお話を伺いたいと思います。「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんです。田中さんは超党派の議員に依存症問題に関する要望書を提出するなどの経験をお持ちです。よろしくお願いします。

 

田中 よろしくお願いします。

 

荻上 田中さんはどういったところからロビー活動を始められたんですか。

 

田中 私の場合はまず、落選されて政界復帰を狙っていらっしゃる先生のところにお願いに行きました。現職の議員でない方は時間にも余裕がありますし、じっくり話を聞いてくれるわけです。そこでその先生の知り合いの現職の議員の方につないでいただけないかお願いをする。現職議員の方にお会いするときは、元議員の先生にも同行していただきました。そうすると無下にはされないので、話を聞いてもらえる可能性は高くなります。

 

荻上 最初に落選された議員の方に打診されたのはなぜですか。

 

田中 第一には、時間に余裕がおありかと思ったので話をじっくり聞いてくれるのではないかと考えたからです。同時に、私たちは本当にただの主婦だったので、政治のことなんて全く知らなかったんです。なのでそもそも国会議員の方が話を聞いてくれるのかもわからなかった。だから、今や一般市民になっている、元議員の方のほうが話しやすかったんです。

 

荻上 最初はどのような話を持ちかけたのですか。

 

田中 まずはシンポジウムを開催したいとお話しました。そのシンポジウムは依存症問題が世間で取り立たされた波に乗って無事に開催できました。

 

荻上 波ですか。

 

田中 ええ。カジノ法案が国会に提出された時です。ギャンブル依存症に関する問題が注目を集め、対策法案を作ってもらう絶好のタイミングでした。シンポジウム開催に関しては以前から話をしておりましたので、そのタイミングで改めてプッシュしたところ、割とスムーズに話が進んだ感じですね。

 

荻上 シンポジウムには各党から議員の方がいらしたのですか。

 

田中 そうです。最初は話を持ちかけた元議員の先生が所属されている政党の方に話を通していただきました。全くつながりのない党に関しては、ファックスでシンポジウムの趣旨を説明して、誰かに来ていただけないか打診しました。

 

荻上 シンポジウム後はどのような活動をされたのですか。

 

田中 お礼という形で秘書や議員の方々にお会いしました。その時にこちらの話に関心を持ってくださった先生のところに、具体的に困っている内容などをお話した感じです。団体内での近況などもお伝えしていました。そうしたことを続けるうちに、その先生から国会で質問してあげるから、1番困っていることを教えてくれと言っていただいたんです。そこからその先生のアイディアで勉強会を開催したり、いろいろと進んで行きました。

 

荻上 まずはシンポジウム、そして議員の方とのつながりを作り、勉強会に至ったというわけですね。

 

田中 はい。そういったことをやっていくうちに超党派の勉強会が実現しました。勉強会には各省庁から官僚の方が参加されるので、そこで官僚の方とつながりもでき、個別の案件について具体的にお願いに行くようになりました。

 

もちろん勉強会も最初から議員の方がいらっしゃるとは限りません。秘書の方が代理で見えることも多々ありました。けれど集まりを続けているうちに、熱心に関わってくださる、頼りになる先生がわかってくるんです。そうした先生に質問趣意書などのお願いにあがりました。質問趣意書についても最初は何も知りませんでしたが、元官僚の方に書き方を教えていただいたり、ここでもつながりはとても重要でした。

 

荻上 そうして知識が浸透し、具体的な立法につながっていったのですね。

 

田中 ええ。こちらも先生方からの質問に答えていくうちに、一般の方々が、依存症のどんなことを御存じないのか?こちらが当たり前と思っていても、実はその小さなことが重要な論点であったりと、法律を作るうえで必要な情報などが見えていきました。

 

荻上 やはり議員の方にあたりながら関心をもってくれる人としっかりつながっていくことが重要なのですね。田中さん、ありがとうございました。

 

 

ロビイングを受けて知る問題もある

 

荻上 ロビイングを受ける立場の方からもお話を伺いたいと思います。厚生労働副大臣の橋本岳氏においでいただいております。よろしくお願いします。

 

橋本 よろしくお願いします。

 

荻上 橋本さんは実際にロビイングを受けているわけですが、依頼はどのくらい来るのでしょうか。

 

橋本 ロビイングにはさまざまな種類があります。明智さんのように草の根的に面会に来られる方もいらっしゃいますし、団体や後援会の集まりで政策について話をする事もあります。全てを合わせるとかなりの数がありますね。

 

荻上 草の根ロビイングで初めて知った問題などはありましたか。

 

橋本 いくつかありました。LGBTの問題はまさにそうです。他にはパーキンソン病に関するお話などもそうですね。パーキンソン病の方は薬が効いていれば動けるのですが、切れると動きが止まってしまうんです。面会中にお話を伺っていた方の薬が切れて、動けなくなってしまう様子を目の前で見て驚く、といった経験もありました。他にも医療事故調査制度の議論をしていた時は、関係者の方からの何十通ものメールを拝見して、その切実さを知るということもありました。

 

 

橋本氏

橋本氏

 

荻上 セクシャルマイノリティの話で、明智さんが見えたときはどのようにお感じになりましたか。

 

橋本 自民党内では、それまでLGBTの問題はほとんど取り上げられていませんでした。もちろん個人的に関心を抱いていた人はいましたが、党の議題として上がることはほぼゼロだったんです。そうした状況で明智さんからお話を伺って、それは確かに取り上げなければならない問題だと思いました。そうして何か力になれないかと動くようになったんです。

 

当時LGBTの問題に関しては党内に正式な機関もない状態でしたので、まずは内々に仲間を増やそうと動きました。また、LGBTの問題に関心を持っている人の中でも、実際どのような方がどのように悩んでいるのか、具体的には知らない状況でしたので、まずはそうしたことをちゃんと理解しようと、数人で勉強会を始めたんです。

 

荻上 やはり勉強会が重要なのですね。勉強会を作る上でロビー活動者が気をつけるべきことなどはありますか。

 

橋本 ひとつにはその問題の公益性を明確にすることです。もちろんその問題がご自身にとって切実な問題であることは、政治家が活動する動機として重要なものなのです。しかし同時にそれが単に個人の問題ではなく、社会全体の問題なのだとわかれば、みんなで議論しなければならないという意識が芽生えやすくなります。

 

あとは、やはり当事者の声やエビデンスがしっかりしていることが重要ですね。ロビー活動者からの話を聞いて議員が動くことになると、今度はその議員が周囲の人間を説得していかなければなりません。具体的なデータや資料があれば、そうした説得は格段にやりやすくなります。

 

荻上 よく、若手議員の勉強会などがありますが、やはりキャリアのある方が入っていないとなかなか事が進まないこともあるのでしょうか。

 

橋本 確かに若手は新しいことに関心を持ちやすく、勉強会の設立などにも積極的なことはありますね。ただ、キャリアのある方でも、この人なら話を聞いてくれそうだな、という人はいます。そうした人に声をかけて入っていただくと、「あの人がやっているなら」と、その周囲のシニアの方たちが認めてくださる。そうやって流れを作っていきます。

 

荻上 議連や勉強会は超党派で行うことも多いかと思いますが、超党派のメリット・デメリットなどはあるのでしょうか。

 

橋本 最終的に議員立法を目指すのであれば、全党が賛成してくれるのが目標になりますから、超党派で協力して進めていくことには大きな意義があります。ただ、1番最初に話を持ちかける段階で、「あの党もやっているんだからお宅も」といったアプローチをされると、あまり気乗りしないことはあります。「ぜひあなたの党にやってほしい!」くらいの言い方をされると悪い気はしません。こちらも人間ですので持ち掛けられ方ひとつで対応が変わることはあります。ロビイングをされる方は参考にしてみてください。

 

 

成功の鍵は「公益性」

 

荻上 リスナーからはロビイングを通じて議員と市民の癒着が進むのではないかと懸念する声もありますが、いかがでしょうか。

 

橋本 一般の議員の方に、政策の話をされる程度でしたら、そこまで神経質になる必要はないと思います。ただ、贈賄や収賄など法律で禁止されていることはありますし、直接の職務権限に関わることは話を持ちかけられても受け付けられないといったことはあります。そうした点には気をつけていただければと思います。

 

荻上 ロビイングと癒着との関連について、明智さんはどう思われますか。

 

明智 私の場合はLGBT当事者なので、同じ当事者の中から癒着などの批判がないように、超党派の中で各党の方にどれだけ公平に接することができるかかなり注意していました。

 

荻上 特定の政党を支持するイメージが強い市民団体もあると思いますが、そうした団体からの話だと聞きやすかったり、聞きにくかったりということはあるのでしょうか。

 

橋本 特定の政党を応援している団体だからといって話を聞かないということはありません。社会として取り組まなければならない公益性のある問題であれば、もちろん話は聞きます。やはり話の中身によりますね。

 

荻上 具体的にはどのようなステップを経て議員立法までたどり着くのでしょうか。

 

橋本 まず議員立法がゴールかというと、必ずしもそうではありません。省令の改正を目標にする場合もありますし、ロビイングのゴールはさまざまです。その問題に対する既存の枠組みがあるのであれば、その枠の中で出来ることを考えますし、全くなければ法律を作るところから検討する必要がある。そうした目標設定をするためにも、勉強会が存在するんです。

 

荻上 もともとある枠組みに手を加えるのと、新しく法律を作る場合では、ロビイングの難しさは変わってくるのでしょうか。

 

明智 そうですね。私の経験では、自殺総合対策大綱の時は、文面に「性的マイノリティ」を入れてください、というだけだったので比較的スムーズに進みました。しかし国際連帯税や休眠預金法案の場合は立法に向け議連から作らなければならなかったので、その分ハードルは高かったです。例えば休眠預金法案に関しては6年くらいかけてロビー活動をしました。

 

荻上 統計を取ったり海外の事例を集めたりもしたわけですよね。

 

明智 ええ。休眠預金法案の場合はイギリスや韓国の事例を入れたりして休眠預金白書というものを作り、国会議員や官僚の方に配るところから始めました。

 

荻上 こうした具体的な証拠や、海外の事例などがあると話は進めやすくなるわけですね。

 

橋本 「保育園落ちた」のTwitterが注目され法案が出たときは、具体的な証拠があったわけではありませんので、議員を動かすために100%エビデンスが必要とは言い切れませんが、一般論として事例や統計があることは大前提になりますね。

 

荻上 さまざまなロビイングを受けた経験を踏まえ、ロビー活動者にアドバイスなどありますか。

 

橋本 ロビイングもテーマやゴール設定によって、やり方はさまざまです。その時の政情で誰に何の話をすべきなのかといった戦略も変わってきます。世論の援護があれば勢いに乗っていく方法もあるし、そうでなければコツコツ認識を広めていく活動が必要になる。

 

ただ、先ほど田中さんのお話にもあったように、関心を持ってくれる人をしっかり把握して、そこから糸口をつかんでいく、というのは非常に大切だと思います。落選した議員に打診しに行くというのはいいアイディアだと思います。時間もありますし、伝手もありますからね。

 

荻上 ロビイング以外にも署名やデモなど、さまざまな政治活動がありますが、影響力に違いはあるのでしょうか。

 

橋本 私個人としては、直接面と向って話をして「自分たちはこれだけ困っている」「社会にはこうしたことが問題なんだ」と訴えられた方が響きます。とはいえデモを見て「なるほど」と思う人もいるでしょうし、それは人それぞれですね。

 

荻上 最近は特定の支持政党を持つ人も少なくなり、団体による活動も縮小ぎみですが、今後の市民活動についてはどのように思われますか。

 

橋本 政党に所属して、選挙で選んでもらう立場としては、支持政党というものは大事にして欲しいと思います。とはいえ私たちも当選したいだけで議員をしているわけではありません。多くの議員はやはりこの社会をよくしたいと思ってこの仕事をしているんです。なので、一緒に社会を良くしようといわれれば、「そうだよね」と乗ってくる議員はいるはずです。そういうところから始めて欲しいと思います。

 

荻上 最後に明智さん、草の根のロビイングの可能性、どうお考えですか。

 

明智 やはり選挙やデモだけだと、政治家とのつながりって希薄になってしまうと思うんです。もちろんデモがメディアで取り上げられることで、世論が動いて追い風になることもあります。ただ、ロビイングを通じて、直接面と向って対話し、政策や制度、法律、さらには国を動かしてきた身としては、こうした活動ももっと広まるといいと思っています。デモや署名活動と連動して、よりよい社会に向けて動いていけるといいですね。

 

 

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