メディアから官邸へ ―― 決断の本当の理由と、今だから話せる官邸の第一印象

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「明日の新聞の見出し」を作ろうと思って入ったが…

 

難波 官邸に入るときには、当初はどういう抱負を持っていかれたんですか?

 

下村 とにかく、パイプになりたい。民主党が政権とってから、完全に国民との間のパイプが詰まっている。ぼくは、水道管の詰まりを取りにいくつもりでした。

 

具体的に言うと、「国民はこう思っているよ」ということを、菅さんとダイレクトに繋がっていることを活かして、総理大臣の耳に伝えていこうと思いました。普通だったら、その前の組織ピラミッドの各段階でさんざん取捨選択されて、なかなか総理大臣の耳にまでは鮮度のいい情報が届かないだろうから、そういうのを一切飛び越えて、たとえば喫茶店で隣のおばちゃんが話していた話をいきなり総理大臣の耳に届けるということを、ぼくの立ち位置ならできる。

 

そうやって《インプット》をすることと、あとは、ついこの間までジャーナリズム界にいたその目線で、批判的な目も持ったままで官邸の中で“取材”をして、世間の疑問をちゃんと織り込んで応える官邸からの《発信》をしていこう。そのふたつをやろうと思ってました。結局、果たせぬ夢でしたけど。

 

難波 実際、入ってみてどうでした?

 

下村 まずぶつかった壁が、…あ、いきなり、着任するまでが壁だったんだ。9月末で「サタデーずばッと」を降板して、10月1日から着任のつもりでぼくも菅さんもいたんですが、いつまでも連絡が来ませんでした。10月の中旬ぐらいになって、菅さんが総理執務室からぼくの携帯に電話して来て、「どうなってんのよ」って言うんです。冗談じゃない、「どうなってんのよ」はこっちの台詞ですと。もう番組辞めちゃったんだから、「ゴメン、この話はなし」とか今さら言わないでよ、と思うぐらい、見通し不明でした。

 

あれも象徴的だったと思います。いちばん情報の頂点にいるべき人が、自分の側近に加える者の手続き状況すら知ることが出来ない構造で、本人に直接訊いてくるって。これは、菅直人という《人間》の問題というより、日本の総理大臣を取り巻く《構造》の問題が基本にあると思います。今にして思えば、ほんとに、あの「どうなってんの」というセリフを、原発事故後にどれだけ聞くことになったか…。

 

難波 構造の問題と言いますが、そこは、なぜ詰まってたんですか?

 

下村 なんか手続きに時間がかかってます、とか言われて、ズルズル10月22日になったんです。赴任したときにはもう滝のように急降下する支持率、その流れが止まらなくなっていて、入ってみたら、すでに官邸の空気は新任総理のイケイケどんどんではなくて、完全に防衛モードになってました。あれ言ったら批判される、これ言ったら攻められる、なるべく無難に無難に行こうという中に、異分子が入っていくというアンラッキーなタイミングになってしまいました。それを跳ね返せなかったのはぼくの力量不足のせいですけど。

 

端的に言えば、ぼくは総理の広報の仕事に入ったら、いわば「明日の新聞の見出し」を作りにいくつもりでした。しかし入ってみたら、いかに「明日の見出しにならないか」っていう方向で側近の皆さんが頭を悩ませてたわけです。正反対だったんですよね。

 

ビックリしたのは、菅さん自身も、防衛モードだったんです。当時ぼくの所には、テレビ界からの転身についての取材申し込みが何件も来てたんですが、それに対して、菅さんが「1ヶ月は黙ってろ」と。それが最初のぼくへの業務命令でした。メディア人時代の感覚でものを言っちゃって、それがストレートに総理の見解と思われたら、いろいろと問題が起きる可能性があるから、慣れるまで1ヶ月は一切取材は受けないでくれと。

 

難波 それで、1ヶ月は黙ってたんですか?

 

下村 言うこと聞いて、全部取材拒否ですよ。当然、昔から菅さんを応援してた学生時代の仲間とかは、やいのやいの言ってきました。

 

当時ボランティアで必死になって選挙を手伝った仲間は、菅さんが総理になって以来、何やってんの?と思っていました。しかし、それぞれに仕事があって手伝えない。そのとき、下村が渦中に入って行った。がんばれよと期待したところが、下村が、また何やってんだかわからなくなっちゃった。ミイラ盗りがミイラになった、とね。

 

とくに、学生ボランティアで同期だった久和ひとみ(早大生当時、菅さんが初当選した直後からボランティア入り。その後、民放ニュースキャスターとして活躍し、40才で急逝)には、自分の非力が申し訳なくて顔向けできない思いでした。存命なら、彼女が担っていただろう役割でしたから。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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