自民党が圧勝。立民が野党第1党に〜総選挙の結果から見えてくるもの

合意争点を問う選挙戦略

 

荻上 今の話ですと、安倍さんは、生活争点と社会争点の2つを同時に出したようにも感じられます。「国難突破」で社会争点、国民生活、少子化対策、保育などで生活争点を、それぞれ争点化することで、どちらの争点を重視している人からも支持を得たと。

 

小林 実は、争点は社会争点と生活争点以外にも分け方があります。対立争点と合意争点といいますが、例えば消費税を上げるか上げないかは対立争点、憲法改正するかしないかも対立争点です。しかし、保育園幼稚園を無償化したほうがいいかというのは、どの党も反対しません。これは合意争点です。北朝鮮にも、今経済支援をしたほうがいいと言っている政党はないですよね。ですから、これも合意争点です。

 

合意争点は本来、争点になりません。そもそも対立軸がないわけです。今回の選挙も、憲法改正を争点にしたら違う結果になったかもしれません。しかし、そういう対立争点を解散の大義名分にはしないのです。合意争点を大義名分にする。そうすると現状維持になるのです。実際に与党の議席もほぼ現状維持です。安倍さんは同じ消費税の争点も、税率を問う対立争点ではなく、子供のために使うという合意争点で持っていきました。選挙のやり方が非常に長けています。

 

荻上 あらかじめこの争点で解散した方が有利になる、ということを踏まえた上で解散権を行使できるとなると、「民意を問い直す」という大義名分も権力に都合のいい格好で使われかねない部分がありますね。

 

南野 圧倒的に与党が有利ということですよね。さらに今回のように野党が人事でゴタゴタしていたり、選挙の準備が整っていないところを狙ってやるとなると、その条件の差はますます大きくなります。首相の「伝家の宝刀」などといわれる自由な解散権行使のあり方が、はたしてそのままでいいのかという点は、今後重要な論点として考えていかなければならないと思います。

 

荻上 いろいろと議論を呼んだ稲田さんも、地元では圧勝しましたよね。この辺りはいかがですか。

 

小林 彼女の選挙区は福井ですが、福井県は全国一幸福な県なのですね。幸福度調査というものがあって、あまり知られていませんが、福井県は何を見ても日本でトップクラスが多いのです。例えば失業率が日本一低い、求人倍率が日本一高い、一人あたりの家の面積や小中学生の全国統一テストも日本一、二を争う。通勤時間は東京都や神奈川県の半分くらい。一人あたりの預貯金高は東京などに次いで全国4位くらいです。第二次産業を中心に仕事があるのです。

 

その理由は、福井県は知事が箱物主義ではないのです。だから福井県には貨物や小型飛行機用の福井空港はあっても、普通の旅客空港はないし、新幹線もまだ通っていません。その代わり、その分のお金を教育に使っているのです。だから義務教育も他県では40人学級だけれども、福井県ではもっと小人数でやっているし、JETプログラムという高校でのネイティブ教員による英語のヒアリング授業なども他県の倍やっている。その分を県の予算でやっています。そういうことがあって、割と皆さん生活に満足しているのです。

 

荻上 今回稲田さんは「日本を福井化する」をスローガンに戦っていましたが、そこにはそんなに深い意味があったんですか。

 

小林 意外に知られていないのですが、非常に幸福な県です。福井県の高校を出て県外の大学に進学した後、男子学生に限っては64%が福井県に戻っています。これは他県にはない非常に珍しいケースです。さらに、47都道府県庁所在地で一番出生率が高いのも福井市です。福井県では3人目から病院や幼稚園保育園などが無料になりますし、待機児童もゼロです。

 

稲田さんの得票にはそうした背景もあるので、選挙の結果は必ずしも候補者だけの問題ではないのです。

 

荻上 希望や維新など、ポピュリズムの動きに関してはいかがですか。

 

小林 希望の党と日本維新の会の関係で言うと、本来はギブ・アンド・テイクでやる予定でした。東日本は希望の党が小選挙区で候補者を立てて、比例代表は維新に入れるかもしれない。西日本は逆にすると。これが調査をすると、ギブ・アンド・テイクになっていないのです。

 

関西で日本維新の会が候補を立てた小選挙区で維新の候補に入れた人は、それなりに比例代表では希望の党に入れています。ところが東日本では小選挙区で希望の党の候補に投票した人で、比例代表を日本維新の会に投票している人はあまりいません。維新というと、今でこそ党名が日本維新の会ですが、以前は大阪維新の会でしたし、大阪のイメージが強いのでしょうね。

 

さらに、安倍さんが自民党の中でもどちらかというと保守的な方だとすると、政策的に日本維新の会との違いがわかりにくい。身を切る改革かそうでないかというのはわかるのだけど、そこのところがなかなか一般の有権者には伝わりにくいのではないでしょうか。

 

同じことは希望の党にも言えて、小池さんの協定書に安全保障と憲法改正が盛り込まれていましたが、自民党とどう違うのかがわかりにくい。選挙戦中、マスコミは三極構造と言いましたが、世論調査をすると有権者の目からは二極構造になっています。それぞれの政党の政策がどこにあると思いますかと有権者に問うと、立憲民主党と共産党とそれ以外という2極にはっきり分かれています。なお、二極構造の対立の中では、共産党より立憲民主党の方が入れやすかったのか、共産党が減っています。

 

 

争点にならなかった改憲問題

 

荻上 南野さんは今回の選挙の中で、憲法議論についてはどうお感じになりましたか。

 

南野 僕自身は、そんなに争点化しなかったと思っています。自民党に投票した人たちが、自民党の改憲の主張を支持して投票したか、あるいはそこを重視して投票したかといわれると、必ずしもそうとはいえないでしょう。

 

私は福岡から来ましたが、福岡での選挙戦を見ていますと、ほとんどの候補者は憲法のことを訴えていないんですよ。インタビューなんかでマスコミに聞かれると、表層的なところは答えていましたが、普通の演説ではほぼ誰も言っていません。

 

荻上 演説では何を言っていたのでしょうか。

 

南野 消費税、北朝鮮、それから希望の党批判ですね。あとは前職(現職)の方は自分たちの実績をおっしゃっていました。大物が応援演説に来たときもそうで、憲法に言及されたのは枝野さん、志位さん、社民党の吉田さんだけで、与党系の方たちはほとんど触れていませんでした。ですから有権者は、今回憲法を争点として、自民党に投票すれば改正してくれるだろう、というような考えでは投票していないと思います。

 

 

南野氏

南野氏

 

 

荻上 過去の衆議院選挙から都議選、都知事選を含め、これまでの選挙でも、やはり生活や暮らしをよくしてくれる政策を重視して投票する傾向が強いですよね。

 

小林 有権者に何が一番重要な問題か聞くと、例えば景気対策、それから財政再建、年金、医療、そういう生活争点がズラッと並んで、社会争点である憲法という答えは3%しかありません。

 

荻上 3%!

 

小林 憲法問題が表面化すると、改憲と護憲で半々に分かれますから、これ与党にとっては不利になるかもしれない争点です。ですから選挙戦略として、そういう対立争点はなるべく争点化しないようにします。なるべく生活争点で合意できる争点を選ぶことになります。保育園や幼稚園を無償化とか北朝鮮に経済制裁、どれも誰も反対しないですよね。現状維持をするために、こういう合意争点を出していくのです。

 

荻上 野党があえて社会的な争点として、加計・森友隠しだとか、あるいは特定秘密保護法、共謀罪、安保法などを訴えていったわけですが、投票行動を見る限り、今回はそうした争点は響いていないということでしょうか。

 

小林 それ程は響いていないです。加計学園の問題は野党の関係者も絡んで、必ずしも与党だけの問題ではありませんし、安保法制になると、日本人の傾向として、決まったことは仕方ないと関心が薄れてしまう。集団的自衛権の行使についても聞いてみましたが、集団的自衛権の行使について賛成が53.8%、反対が46.2%でした。安保法制が通る前とはだいぶ態度が変わっているわけです。

 

それでも約半分が反対しているのですが、この反対派の投票行動が分かれてしまう。この反対派の人たちの中で立憲民主党に入れた人が40.2%で一番多いのですが、希望の党に21.5%、共産党に16.7%と、バラバラに分かれでしまうのです。一方、53.8%の賛成派は、そのうち61.3%が自民党に入れていて、まとまっています。この歩留まりがそのまま選挙結果に出るという感じです。

 

荻上 争点もそうですし、受け皿のつくり方も含めて野党はまだまだ不利な状況ということになるんですね。

 

小林 憲法改正だけで言うと、賛否半々なのですけどね。ところが質問を少し限定して、九条の1項と2項は残して、3項に自衛隊の存在を明記するという改正であれば賛成か反対かと聞くと、賛成が62.3%、反対が37.7%になります。確かに自衛隊は災害救助などの場面で認知されていますから、それだけならいいと判断する人もいるかもしれないです。

 

荻上 投票行動としては優先順位が低かったかもしれませんが、今後憲法議論を進めようとする動きは活発化しそうです。今後の議論の進め方なども含めて、どういった点に注目すべきでしょうか。

 

南野 今年の5月3日に、安倍首相が、いま小林先生がご紹介くださった9条3項、あるいは9条の横に自衛隊を明記するという改正案を主張しました。この改正案は私に言わせると非常にクセ球で、一見何も変わらないように見えます。現状をそのまま書くだけなので、受け入れやすいし、ひょっとしたら、9条1項、2項には指一本触れないと言っている公明党も賛成できるかもしれません。

 

しかしながら、よくよく考えてみるとさまざまな影響が出てくるかもしれない。そういう点について今後もう少し説明を尽くしていくと、いま小林先生が紹介してくださったような評価とは変わってくる可能性があります。憲法改正というのは、当然のことながら、ふわっとした気分でやるものではありません。変えてしまうと長期的なスパンでかなり大きな影響が出てくるものです。そして、実際にこういう改正をするとこういう影響が出てくる、という説明をすることは我々憲法学者の仕事だと思います。さまざまな予測を立てて、それを説明して、そして国民にきちんと理解してもらって、最終的に国民が判断する。そういう流れになると思います。

 

他方で、政治家のほうも、これから国会で憲法改正議論をするのであれば、なんのためにこうした改正が必要なのか、この改正をすることで何を狙っているのか、因果関係や目的をしっかり説明して欲しいですね。果たして法律では対応できないのか、本当に憲法改正しなければできないのか、必要性とか不可欠性の説明が丁寧にされることが必要だろうと思います。

 

荻上 そもそも憲法改正の発議をするまでには、どういった手続きがあるのですか。

 

南野 その点については、第一次安倍内閣時に成立した、国民投票法に定められています。衆議院では100人以上、参議院では50人以上で憲法改正原案が提出できます。それをそれぞれの院に置かれている憲法審査会で審議をして、原案を過半数で確定する。確定すると、それが本会議にいって、憲法96条の手続きで、3分の2以上の賛成が得られると可決されます。これが普通の法律案と違うところです。衆議院と参議院の両院で3分の2という特別多数が必要なのです。そしてこれが可決されると、今度はいよいよ国民投票にかけられます。発議されてから、60日から180日の期間をおいて、国民投票をするということになります。

 

荻上 ということは、憲法に関しては少なくとも2カ月以上は議論するということになる。

 

南野 はい。そしてそもそも発議のために憲法が3分の2の賛成を求めていることにも、やはり理由があります。3分の2という数字は、与党単独では通常出せない数です。このハードルを超えるためには、与党が野党を説得する、あるいは憲法審査会で議論を深め野党も呑める案に修正するなど、対立関係にある相手に自分たちの案を受け入れてもらうためのプロセスを踏まなければなりません。3分の2という規定は、そういう時間のかかるプロセスを強いることで、改憲案をよりマイルドなものにするとともに、その議論を国民に周知し、その必要性を問いかけるためのものだと考えることができます。

 

荻上 強行採決とか、抜き打ち採択をしにくくし、より熟議を求める格好になってるわけですね。

 

南野 そう思います。

 

荻上 発議されて、国民投票になった場合、国民の2分の1ではなくて、投票に行った人の過半数で憲法は変わるのですか。

 

南野 はい。「最低得票率」の制度については国民投票法を制定するときに議論になったのですが、現時点では定められていません。ですから極端な話、国民の10%しか投票に行かなくても、行った人の過半数で決まることになっています。この点については改善の余地がありますね。

 

また最近指摘されているのは、国民投票では、普通の選挙運動と違ってあまり細かい制限がありません。ですから例えばCMなども、大量に流すことができます。憲法改正を推進する与党は大量のお金を持っていますから、人や資金をつぎ込んで、憲法改正賛成のための大々的なキャンペーンを展開することでしょう。そうなると、相当いびつな投票運動になるのではないかと心配されます。

 

荻上 国民投票では、通常の選挙とは違って、放送法や公職選挙法まで適用されないんですよね。こうなった場合、何をもって公平な報道をするのかも今までとは違ってくるのでしょうか。

 

南野 今のところ、本当に国民投票が来年、再来年中にあると考えていなかったので、規定や制度設計が不十分な部分があると思います。しかし、憲法改正が現実的になってきた以上、もう一度国民投票のシステムを見直す必要があるような気がします。

 

荻上 小林さんはこれからの国会の動きを見ていく上でどんな点に注目しますか。

 

小林 憲法改正を発議するのであれば、そもそも今回の衆議院で大いに議論すべきであったと思います。それを大義名分に解散しても良かったのではないでしょうか。しかしそうはしなかったので、3%しか関心寄せられませんでした。

 

今回の衆院選で自公が3分の2の議席を取りましたから、改憲発議がすぐにも通りそうな感じがするかもしれませんが、参議院があります。実は参議院では、自民党とこころが統一会派を組んでいるのですが、それに公明党と日本維新の会を足しても161議席です。参議院の3分の2は162議席なので、1人足りないのです。希望の党に所属している人が3人、どの会派にも所属していない人が5人いるので、かろうじて参議院での改憲発議は可能かもしれませんが、ギリギリです。

 

これはうがった見方ですが、こうした状況の中で、なぜ今解散をしたのかというと、ひとつの可能性としては2年後の参議院選挙のときに同時選をやる可能性もゼロではないのではないかと思います。衆議院と参議院を同時に実施すると、野党同士の選挙協力がかなり難しくなってしまう。そうすると、改憲派が参議院でもう少し余裕を持った3分の2をとれる可能性があります。その上で改憲発議をして国民投票に持っていくと考えている人がいるかもしれません。

 

もちろん他にもやり方はあると思います。ただ、そこまで重要な問題だったら、やはり衆議院できちんと議論したほうが良かったのではないかと思います。今の憲法でどこまで自衛隊が行動しているのか、しっかり理解した上で、9条3項を加えることによりそれがどこまで広がるのか。その影響の部分もきちんと見た上で、議論を進めて欲しいと思います。

 

荻上 小林さん、南野さん、ありがとうございました。

 

 

Session-22banner

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください。

 

憲法主義:条文には書かれていない本質

著者/訳者:内山 奈月 南野 森

出版社:PHP研究所( 2014-07-16 )

定価:

Amazon価格:¥ 1,296

単行本(ソフトカバー) ( 256 ページ )

ISBN-10 : 4569819133

ISBN-13 : 9784569819136


 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」