日本における政策形成過程をより民主主義的にしていくためのいくつかの提言

さらに重要な問題がある。それは私たち国民・市民・有権者自身の問題である。私たちが、選挙制があり投票できれば、民主主義であると考えていることだ。しかも、有権者の投票率は必ずしも高いとはいえない。

 

先にも述べたように、民主主義は人々・民が支配する政治制度である。その意味で、自己の代表を選出する選挙は重要ではあるが、民主主義はそれだけではない。各国民・各有権者等が、自身の意見を持ち、ときに市民運動やアドボカシー活動・ロビーイング活動などを通じて、社会、議員・政党、あるいは行政に働きかけることや、社会起業家やコミュニティ-活動家として自身で問題解決を図ることも大切なのである。

 

また選挙をはじめとする政治活動に参画したり、政治献金で政治家や政党をサポートすることも重要だ。さらに、今の議員・首長や行政に不満を感じ、現候補から選べないなら、自身で候補者を立てるか、あるいは自身で選挙に出て議員等になること(注8)、行政に様々なかたちで参画することも、じつは民主主義なのである。

 

いずれにしても、そのように考えていった場合、日本の国民・有権者は、民主主義における政策形成過程において、プレイヤーとしての役割を十分に果たしているかという疑問を持たざるを得ないのである。つまり、国民・有権者自身も、政策過程を民主主義的にしてきていないといえる。

 

以上、いくつかの面から、日本における政策形成の現状について見てきたが、それらのことからもわかるように、形式はともかく、実質的には必ずしも民主主義的でないことがわかっていただけただろう。

 

そのことを踏まえて、日本における政策形成過程をより民主主義的にしていくためのいつつかの提言をもって、本稿を閉じることにする。

 

 

(1)事前準備承認制の緩和

 

現状の事前承認制のものでは、国会の立法機能は形式的・儀式的にならざるを得ない。とくに国民の意見が分かれるような政策案や法案などの場合は、より民意が反映されるように、国会で議員がより自由に審議し、その進捗が国民に明示されるようにすべきであろう。そのような審議が可能になるためにも、現在の省庁の人材の一部を出向でなく切り離し、国会の方に異動させ、議員や政党のサポートができるようにするべきである(注9)。

 

また、民意を政策に反映させ、政策が社会的に理解されやすくするために、国会で審議されるよりもかなり前から、それらに関するテーマの政策論議が、日本国内でなされるようにする。その意味では、現在はすでになくなった政党シンクタンクや独立系のシンクタンクの役割が、いま一度見直されるべきであろう。

 

 

(2)民意把握のための新しいチャンネルや手法の開発

 

上述したように、日本の政治・政党も行政も、選挙および世論調査を超える民意把握の方法を有しているとはいえない状況にある。とくに与党は、議員内閣制のもと、情報的に行政・官僚機構に一方的に誘導・操作されないようにするためにも、民意把握の独自の情報源や情報が必須である。

 

その意味で、海外で行われている「政治・政策マーケティング」という手法が参考になる。「政治・政策マーケティング」とは、国民や有権者、政治家・議員、政党、行政そして社会全体が、政策および政治の活動やメッセージなどの創造と交換を通じて、必要性があったり、あるいは望んだ政策や公的サービスを提供する社会的活動・制度・プロセスのことである。

 

より具体的にいえば、マーケティング論やその手法である世論調査やフォークスグループなどを通じて、政治や政策に関する情報収集や分析、ブランディング(ブランド構築)、有権者へのターゲティング、政策や戦略における立案などを行うことであり、バイアスのかかりやすい世論調査とは大きく異なるものである(注10)。なお、最近であれば、これにAIやビッグデータ、ブロックチェーンなどの新しいテクノロジーなども活用することも考えられる。

 

また上記のこととも関連するが、政党の場合は、党代表選(とくに与党自民党の場合、それは総理選出選挙にもなるので)や党の公約づくりのプロセスで、党員を中心により民意を反映し巻き込んでいくことが、小選挙区制においては必要であると考えられる。

 

 

(3)国民・市民・住民・有権者の主権者意識の再認識とそれに基づく行動

 

提案としては最後になるが、これがもっとも重要である。

 

これまでにも述べたように、日本は民主主義の国(少なくとも形式上は)であり、その主権者は国民である。別のいい方をすれば、国民がこの国の決定権を握っており、最終的には国の行末は私たちの責任であるということである。そして、自分たちの意見を政治や社会に反映するのには、選挙だけでなく様々な関わりや行動ができるということである。

 

そのすべてとはいわない、各個々人が自分のできる範囲で、能動的かつ主体的に関わり(注11)、その結果に責任を持つことがいまこそ求められているのである。

 

またこれらのことを、私たち国民が自覚するためにも、子どものうちからの政治教育、有権者教育あるいは市民教育が必要なのである。

 

民主主義社会における政策形成プロセスをより民主主義的にしていくには、これ一つで変えられるというマジックはない。国民・住民等も含めた様々なプレイヤーやアクターが、できるかぎり全体観を持ちながら、日々問題と課題に向き合い、解決していく以外に処方箋はないのである。

 

(注1)「『日本国』の経営診断…バブル崩壊以降の政治・行財政改革の成果を解剖する[検証報告書]」(PHP総研、新・国家経営研究会、2017年5月 https://thinktank.php.co.jp/policy/3780/)参照。

 

(注2)しかも、政治の側がイニシアティブとれることや人事権を握ることのできる仕組みができたことで、行政・官僚は、これまで以上に「忖度」、「配慮」することになり、当然に政策形成における力の発揮が難しくなったのである。

 

(注3)同拙著においては、あまり明確には論じていないが、現在の仕組みでは政治の側が選挙を中心にあまりに多忙であるために、政治が行政をより有効に監視・コントロールすることは不可能に近い。そこで、政治の側を政策的にサポートする人材の育成と存在も必要であることを明記しておきたい。

 

(注4)この場合、官僚は議員間の駆け引き等を勘案・操作しながら、自省庁に有利な方向に、政策案や法案を誘導していくことも多いといわれる。

 

(注5)一部の情報はメディアを通じて社会に流れることもあるが、メディア自身もある意味でそのインナーサークルの中の者であるので、その点でも制約や課題は多いのである。

 

(注6)現在の衆参における議席数で3分の2以上が与党議員で占められている際にはとくにそうである。

 

(注7)近年は、政党やメディアが世論調査を頻繁に行いようになっている。政党はその調査結果を選挙や一部政策づくりに活かしているようであるが、それはあくまで世論調査であり、政治や組織のバイアスがあるものである。国民や有権者の意見を、可能な限りバイアスを減らして、より正確に捉えているとは言い難い面があるといえよう。

 

(注8)代わりを立てられず、現候補者からも、自身の観点から良い候補者はいないと考えるなら、自身が候補者として選挙に出馬するしかないというのが、じつは民主主義の根本だと考える。

 

(注9)本題からは外れるが、筆者は、日本でも内閣提出法案という制度をなくし、すべての法案や政策案を議員立法にすれば、議員の質の向上、国会の立法機能の強化につながるのではないかと考えている。

 

(注10)拙記事「政治とマーケティング[https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120828/236105/]」(日経ビジネスオンライン)を参照。

 

(注11)国民・有権者・市民・住民が、社会的・政治的に関わる活動や動きに関わるのをサポートしたり、推進したりする動きも出てきている。例えば、グラスルーツスクール(https://grass-roots.net/lp/)を運営するグラスルーツジャパン、日本若者協議会(http://youthconference.jp/)、市民アドボカシ―連盟(https://www.facebook.com/lobbyingadvocacy/?fb_dtsg_ag=AdzVl2HvIFmBdICaoJvAY5ViqW9JFwfl-YUSBiPK_9OFdw%3AAdwzDDrc5nFUgN55E_ZZSD8A11Ot2nnypcbg-LCX5QARGg)など。

 

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