自衛隊海外派遣論議が深まらないわけ

共通する盲点――政策効果

 

このように国際協調と国際的評価を重視する点で共通している積極派と消極派であるが、双方に共通して欠けがちな点も指摘できる。政策効果(ここでは、現地の平和維持や平和定着に対する効果と定義する)をめぐる議論である。

 

自衛隊の海外派遣に積極的な立場をとるのであれば、その論拠として、十分な政策効果が期待できるという見通しが示されなければならないが、一般的に多国籍軍やPKO派遣の政策効果が自明ではない以上、この予測は容易ではない。政策効果がどの程度あるのかについては、研究者の間でも意見が割れているのである。

 

多国籍軍については、第三者が介入するのではなく当事者同士を徹底的に戦わせる方が紛争は再発しにくいと示唆する見解が示されている一方で、一定の場合には成功を収めることがあるとして、その条件を探る研究がなされている(2)。その内容は様々であるが、ここでは、あらゆる場合に多国籍軍派遣が成功すると捉える研究は皆無に等しい点を確認しておきたい。また、PKOについては、効果の存在にはほぼ合意があるものの、強力なPKOであるほど効果が高まるのか、伝統的なPKOであっても効果が変わらないのかについて、甲論乙駁が繰り返されている(3)。

 

また、近年では、効果の意味合いを再考しようとする動きがある。上述のように、政策効果に関する研究は、紛争が再発したか否か(派遣後の平和の継続年数)に着目して立論されることが多いが、そのような短期的・消極的な意味での平和ではなく、より長期的・積極的な平和を模索するべきだとの主張がなされることが増えてきた。例えば、被介入国の住民の人間開発や福祉といった観点をも重視するべきだとの主張や(4)、欧米型の自由主義や民主主義の被介入国への導入をもって平和の達成とみてよいのかといった問題提起がなされている(5)。紛争再発の有無に比べて測定の困難さはあるが、傾聴に値する指摘だろう。

 

このような知的関心を集め続けている問題であるにもかかわらず、日本では政策効果に関する議論は、四半世紀のあいだほとんどみられず、あたかもそれが自明であるかのように扱われてきた。さらにいえば、積極派は、自衛隊派遣に際しての政策効果の見通しを語らないばかりか、派遣がなされた後の検証さえも十分に行なってきたとはいい難い。アフガニスタン(インド洋)やイラク、南スーダンなど、自衛隊が派遣された地域の現状について真剣に検討した者が一体どれだけいただろうか。そうした議論が皆無に近いことは、自衛隊の派遣自体が目的化しているのではないかという疑念を抱かせるものである。

 

消極派にしても、ひとたび派遣がなされれば、諦観の念が強くなるのだろうか、政策効果を問いなおすことで積極派と議論しようといった姿勢はほとんど見受けられない。かつて丸山眞男は、組合運動や原水爆反対運動を例に、「盛んに反対したけれども結局通っちゃった、通っちゃったら終りであるという…勝ち負け二分法」に批判を加えたが(6)、この批判が、そっくりそのまま当てはまるのが現状ではないだろうか。

 

もっとも、違憲の疑いが強い政策については、そもそもその効果を問うても詮無いことだという考えから、政策効果論を敬遠する向きもあろう。この考えには一理ある。しかし、自衛隊の海外派遣に消極的な立場からしても、違憲論のみを頼みとして政策効果について十分に考えないままでは、憲法が変わってしまった際には、主張の根拠をすべて失うこととなる。学術的にも甲論乙駁繰り返されている政策効果について考えることは、決して積極派のみを利するものではないし、憲法をめぐる昨今の国内政治状況からしても十分に検討に値するのではないだろうか。

 

 

論難から対話へ

 

以上のとおり、積極派と消極派は、重視している観点(国際協調・国際的評価への配慮)と盲点(政策効果の看過)が実は共通している。そうだとすれば、実質的な議論のためには、積極派と消極派が観点の共有を自覚して対話に向かいつつ、新たに政策効果をめぐる議論を活性化することが必要になるだろう。

 

例えば、もし積極派の立場をとるのであれば、消極派の「侵略戦争のトラウマ」を払拭することを考えてみてはどうだろうか。侵略戦争への歴史的責任(対内的には立憲主義や民主主義の尊重、対外的には侵略責任の自覚)を果たさないうちには自衛隊が海を越えるべきではないと考える人々と議論を深めるには、侵略戦争の反省から政府に厳しい制約を課す現行憲法が誕生した経緯を銘記することが求められる。

 

具体的には、仮に憲法解釈の変更や改憲を行なうのであれば与野党の合意(少なくとも最大野党の同意)を得るための熟議を経ることや、歴史認識問題における侵略責任を軽視しているかのような言動を自制することが挙げられる。前者については、安保法案が性質の異なる活動を十把一絡げにして提出されたことで、国連平和活動に関してはほとんど意見に隔たりのない民主党(当時の最大野党)との間で議論を深める障害となったことは、教訓とされるべきだろう

 

また、消極派の立場をとるのであれば、積極派の「湾岸戦争のトラウマ」を払拭することを考えてみてはどうだろうか。軍事的貢献をしてこそ国際的な評価を得られるのであり、憲法の制約のためにそれができないと考える人々と議論を深めるには、軍事的措置を慎みさえすれば平和になるとは限らないのと同様、軍事的措置が必ず現地の平和維持・平和定着につながるものではないことを踏まえ、いかなる措置が現地の、ひいては国際社会の平和につながり、国際的な評価を得ることになるのかを検討することが求められる。

 

その好機は、アフガニスタンやイラクへの自衛隊派遣後であったように思われる。「成果」が注目を集めた湾岸戦争と異なり、アフガニスタンやイラクにおいては、かえって現地の治安が悪化したとの評価が一般的になっている。こうした点を直視していれば、集団安全保障に加わりさえすれば現地の平和維持や平和定着が自動的に達成されるものではないことが浮き彫りになったはずである。湾岸戦争時は「乗り損ねた」と思っていたものが、ときに「乗らない方がよい」ものである可能性も有することが明らかになったはずなのである。政策効果について論じてこなかった結果、この好機を逸したことは、教訓とされるべきだろう。

 

武力のせいで平和がこわれることもある一方で、武力によって平和がつくられることもある。このような根本的なディレンマを孕んだ難問に、容易に出せる答などあろうはずがない。問題の難しさを認識し、観点と盲点の共通を自覚したとき、私たちは自陣営にこもっての論難合戦をやめ、共に解決に当たるための対話を始めることができるだろう。

 

 

(1)坂本義和『相対化の時代』岩波書店、1997年、72-75, 152, 155-159頁; 坂本義和「まえがき」『坂本義和集3 戦後外交の原点』岩波書店、2004年、x-xii頁。

(2)Edward N. Luttwak. “Give War a Chance”, Foreign Affairs vol.78(4), 1999, pp.36-44; Patrick M. Regan. Civil Wars and Foreign Powers: Outside Intervention in Intrastate Conflict, The University of Michigan Press, 2000; Sarah-Myriam, Martin-Brûlé. Evaluating Peacekeeping Missions: A Typology of Success and Failure in International Interventions, Routledge, 2017.

(3)Virginia Page Fortna. Peace Time: Cease-Fire Agreements and the Durability of Peace, Princeton University Press, 2004; Michael Doyle and Nicholas Sambanis. Making War and Building Peace,

Princeton University Press, 2006; Martin- Brûlé, op.cit.

(4)Roland Paris and Timothy D. Sisk eds. The Dilemmas of Statebuilding: Confronting the Contradictions of Postwar Peace Operations, Routledge, 2009, p.306; Edward Newman. “A Human Security Peace-building Agenda”, Third World Quarterly vol.32 (10), 2011, pp.1737-1756.

(5)Oliver P. Richmond. “UN Peacebuilding Operations and the Dilemma of the Peacebuilding Consensus”, International Peacekeeping vol.11 (1), 2004, pp.83-02.

(6)丸山眞男「政治的判断」『丸山眞男集 第七巻』岩波書店、1996年(初出1958年)、343-345頁。

 

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