なぜベースロード電源は消滅しつつあるのか?――「メリットオーダー」の観点から

「ベースロード電源編」第2回です。前回は、世界では実はベースロード電源は既に消え去りつつある、ということを各国の系統運用の実測データを提示しながら例証していきました。また、その理由として再エネの大量導入が挙げられることを示唆しました。

 

今回は、なぜベースロード電源消滅という現象が発生しているのかを解明していきたいと思います。まずは経済学的な考察を行います。今回のキイワードは「メリットオーダー」です。メリットオーダーという概念を用いると、再生可能エネルギーの大量導入によりベースロード電源が消滅することが、明快に理論的に説明できるのです。

 

このメリットオーダーという用語および概念は、おそらく日本では非常にマイナーで、限られた分野の研究者や実務者以外にはほとんど知られていないのではないかと思われます。少なくとも新聞やテレビなどではほとんど全く見かけることはありません。そもそもメリットオーダーとは何かということを、わかりやすく解説した日本語の資料も少ない状態です。

 

■本稿は、「環境ビジネスオンライン」2015年4月20日号に掲載されたコラム『ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その2)』を若干の修正の上、転載したものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

 

 

電力市場取引とメリットオーダー

 

メリットオーダーとは、端的に説明すると、「短期限界費用順に並べた発電プラントのリスト」ということになります。ここで、「限界費用 marginal cost」は完全に経済学用語ですが、まずは限界費用とは何かというところから出発します。

 

限界費用とは、経済学の教科書的には、「ある商品をもう1単位生産するために必要となる追加的費用」を意味します。数式を用いると、費用(コスト)をC、生産量をQとした場合、限界費用MC = ΔC /ΔQと表され、限界費用は「費用の差分」とあることがわかります。∂C/∂Qと偏微分で表現する教科書もあります)。図示すると、限界費用は費用曲線の接線に相当します(図1)。

 

 

図1 費用曲線と限界費用

図1. 費用曲線と限界費用

 

 

限界費用には短期と長期がありますが、短期限界費用はランニングコスト、すなわち発電所の場合は燃料費と人件費を含むメンテナンス費(O&Mコスト)に相当します。なお、長期限界費用とは、長期的な生産設備の更新も含めた生産要素の調整を考慮した限界費用のことですが、本稿ではさしあたり短期のみで説明できるので、これは無視することにします(この短期と長期の問題は厳密には無視することができず、「容量市場」などの議論につながりますが、それについては次回以降に触れることにしたいと思います)。

 

さて、欧州や北米など電力市場の環境が整っている地域では、図2のようなメリットオーダー曲線に基づいて電力の市場取引が行われています。「曲線」と名がついていますが、実際は限界費用を低い順に並べたものなので、右上がりの階段状の折れ線になります。

 

図2では同じ発電方式であれば同じ限界費用と仮定して模式的に簡単化していますが、実際には各発電事業者が入札する価格はまちまちですので、正確なメリットオーダー曲線はもっと複雑になります。電力市場の管理者は発電事業者からの入札情報に基づきメリットオーダー曲線を作成し、このリストに基づいて市場取引が行われることになります。

 

 

図2 メリットオーダー曲線の概念図

図2. メリットオーダー曲線の概念図

 

 

ここで重要なポイントは、縦軸は実際の発電コストではなく短期限界費用である、ということです。すなわち、ある発電事業者があと1単位電力生産を増やしたい場合(つまりあと1 kW出力を上げたい場合)、基本的に必要な追加的費用はランニングコストのみで済むからです。再生可能エネルギー(水力発電、風力発電や太陽光発電)は燃料費がゼロであるため短期限界費用が安く、メリットオーダー曲線上では、原子力や石炭火力より上位(図の左側)にリストアップされます。したがって、電力市場ではこれらの電源が必然的に優先的に落札されていきます。

 

 

図3 メリットオーダーによるスポット価格の決定

図3

 

 

図3は電力市場におけるスポット価格決定の概念図を示しています。ここでは、需要曲線は図3のようにほとんど垂直の直線となります。それは電力という商品が基本的に在庫を持つことができず、その都度同時同量を満たさなければならないからです。したがって、需要曲線は刻一刻と水平方向に移動し、メリットオーダー曲線と交差する点でその時刻における市場のスポット価格が決定されます。ちなみに、需要曲線と交差したときのメリットオーダー上の電源プラントを「限界プラント」と言います。

 

図3では模式的に高負荷時(ピーク)と軽負荷時の需要曲線を描いていますが、高負荷時は石油火力などの限界費用が非常に高い電源も調達しないといけないので、市場で決定されるスポット価格も高い価格となります。また、軽負荷時はメリットオーダーの上位(図の左側)の電源だけで足りるので、石炭火力や原子力が限界プラントとなり、スポット価格は必然的に低下します。日本の教科書的説明では石油火力がピーク電源で、原子力や石炭火力がベース電源だという説明がなされていますが(前回参照)、その説明は、このメリットオーダー曲線からも説明できます。【次ページにつづく】

 

 

 

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