2015.06.24

何が再生可能エネルギー大量導入を阻害しているのか?――日欧の政策比較から見えること

安田陽 風力発電・電力系統

科学 #再生可能エネルギー#ベースロード電源

前回までに、世界中でベースロード電源が消えつつある理由を、メリットオーダーという概念を用いて経済学的に分析してきました。今回は同じくベースロード電源が消滅する理由を、政策学的に分析していきたいと思います。今回のキイワードは「優先給電 (priority dispatch)」です。

欧州の再エネ優先政策

欧州連合 (EU: European Union) は独自の法体系を持っており、例えば「指令 (directive)」「規則 (Regulation)」「決定 (Decision)」など、各加盟国の法律の上位に位置づけられる形でいくつかの法令文書が存在します。このうち「指令」とは、加盟国各国に拘束力を持つ法律文書のひとつであり、原則として各加盟国内において関連法の整備を必要とするものです。

再エネに関するEUの指令は、その名も「再生可能エネルギー指令2009/29/EC」(注)(以下、RES指令)というものがあり、2001年に発行され、2009年に大幅改定がなされています。このRES指令では、再エネ電源を優先的に給電する(電力系統に電気を送る)ことが明確に義務づけられています。表1にRES指令の優先給電に関する条項およびその訳文を示します。

(注)European Parliament (2009) Directive 2009/28/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the promotion of the use of energy from renewable sources and amending and subsequently repealing Directive 2001/77/EC and 2003/30/EC (EN)

表1. RES指令2009_29_ECにおける優先給電条項

ここで注目すべきことは、この条項で “shall” という助動詞が用いられていることです。この助動詞は受験英語的にはなかなか訳しづらい言葉で、“Shall we dance?”(映画のタイトルにもなっています)とか、 “You shall die.”(ダースベーダーがルーク・スカイウォーカーと対決するときに言うセリフです)くらいしか使わない、日常的にはあまり馴染みのない言葉です。しかし、実は法令文書や規格文書の中では非常に多く登場します。この助動詞が用いられていることは、法令文書の要求事項の中で最も強い義務的要求を表していることになり、一般に「〜しなければならない」と訳されます。

この条項では「発電設備を給電する場合、・・・再生可能エネルギー資源を用いた発電設備を優先しなければならない」とあり、各加盟国の法律もこの強い要求事項に基づいて法整備をしなければならないことがわかります。これがいわゆる「優先給電」と言われている再エネの優先政策のひとつです。このように、欧州では指令という形によって、トップダウンで政策的に再エネの優先給電が義務づけられているのが特徴です。

EUでは指令という法令文書で再エネ優先給電が明記されているため、再エネを出力抑制する前に先んじて、石炭火力や原子力を出力抑制しなければならないことになります。前々回で実際に欧州各国の石炭火力や原子力が負荷追従制御を行なっている様子を示しましたが、その理由がここからも理解できます。ベースロード電源の消滅が、再生可能エネルギーの導入が盛んな欧州諸国で現時点で既に起こりつつあるのは、まさにこのRES指令の再生可能エネルギー優先給電の義務化にも大きく起因しています。

欧州再エネ政策における出力抑制の位置づけ

なお、表1からわかる通り、厳密には、「各国の電力系統のセキュリティを保った運用をする限りにおいて」との適用除外項目がありますので、いかなる場合も必ずしなければならないというわけではなく、実際には再エネが給電されずに出力を絞ったり、解列する(一時的に電力系統との接続を切る)ことを送電会社から要請されることがあります。これが再エネの「出力抑制」です。

再エネを出力抑制することは電力の安定供給の責務を持つ送電会社の権利であり、これは日本でも欧州でも同様です。しかし、権利を有しているからと言ってその権利をむやみに行使してよいわけではなく、欧州では再エネを出力抑制するのはありとあらゆる選択肢を取り尽くしたあとの「最後の手段」と理解されています。実際にEUの加盟国では出力抑制は1〜4%程度に抑えられていることは、環境ビジネスオンライン・コラム「再エネ出力抑制の日欧比較から見えること」でも紹介した通りです。

このように、再エネ電源の出力抑制は電力の安定供給に責任を持つ送電会社によって判断されますが、出力抑制の理由を透明性高く規制機関に報告しなければならないため、送電会社にとっては気軽に出力抑制を行うことはできません。このような制約は送電会社にとって足枷というよりは、むしろ電力系統技術のイノベーションを生み出す原動力になり、実際に欧米の送電会社はその技術を競い合っている傾向にあります。

確かに電力の安定供給と再エネ大量導入の両者を満足させるのは技術的にひと工夫が必要ですが、それにより実際にさまざまな系統運用技術のイノベーションが発生することになります。「環境規制はイノベーションを阻害するのでなくむしろ促進する」というのはマイケル・ポーターが1991年に発表した仮説ですが(注)、欧米の送電会社はまさにそれを現在進行形で行っているといえます。

(注)日本語で読める資料としては、例えば下記のような文献があります。

伊藤康, 浦島邦子:「ポーター仮説とグリーン・イノベーション ― 適切にデザインされた環境インセンティブ環境規制の導入―」, 科学技術動向 2013年3・4月号, pp.30-39, 2013

さらに、ドイツでは出力抑制は原則として補償され、FIT賦課金とともに電力消費者に転嫁されます。出力抑制は本来売電できたはずの電力量が廃棄されることを意味しますので、発電事業者にとっては機会費用が発生することになりますが、ドイツではこの出力抑制が法的に補償されることにより、発電事業者にとってはたとえ出力抑制されたとしても事業リスクはなく、出力抑制の順番や回数などの公平性にそれほど執着する必要もなくなります。

出力抑制の補償は、電力消費者(≒国民)にとってもメリットがあります。なぜならば、逸失電力量は電気代に転嫁されますが、それは本来の再エネからの発電電力量のわずか数%で済み、それほどコスト増にはならないです。一方、もしこれを消費者に転嫁させずに発電事業者が負担するとなると、その分を事業リスクに見込まねばならず、発電コストやFIT(固定価格買取制度)買取価格を押し上げてしまう可能性があります。

少額でも消費者に転嫁するということは一時的に消費者負担が増える形になりますので、さまざまな方面から厳しい目でみられることになりますが、社会コストの全体最適化の観点からは、その方がむしろ最終負担が軽くなる可能性が高いのです。

このように、系統セキュリティに起因する出力抑制を許容しながらもなるべく小さくする努力をする(さらに場合によっては逸失分を補償する)という政策は、事業リスクをできるだけ低減させたい発電事業者と電力の安定供給に責任を持たなければならない送電会社双方のメリットになり、安定供給と再生可能エネルギー大量導入を同時に両立させ、技術的なイノベーションを引き起こすことに大きく貢献していると言えます。

日本の再エネ優先給電の位置づけ

一方日本では、FIT法(注1)で「特定契約の申込に応ずる義務」(第四条)や「接続の請求に応ずる義務」(第五条)という形で「発電事業者の義務」が規定されているものの、再エネ電源の優先給電を明記した条項は見当たりません。FIT省令(注1)でも同様です。

(注1)法「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」, 平成23年8月30日法律第108号

(注2)経済産業省令「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」, 平成24年6月18日経済産業省令第46号, 最終改正:平成27年1月22日経済産業省令第3号

なお、FIT省令を見ると、「出力の抑制」について定められている条項を見ることができます(表2参照)。しかしながら、同省令では出力抑制は「接続の請求を拒むことができる正当な理由」(第六条)として規定されており、一般電気事業者(電力会社)側の権利として扱われています。

これに対して前述のEUのRES指令では、各加盟国や送電会社に対して「〜しなければならない」と表現を用いており、国や送電会社の義務としての優先給電が定められています。すなわち日本と欧州とでは、再エネ優先の理念が全く逆であることが法律文書からもわかります。また、第六条イ項(1)で規定される「回避措置」の中から、原子力発電が除外されている(すなわち再エネは原子力発電よりも前に出力抑制しなければならない)ことも留意すべきです。

表2. FIT法およびFIT省令における出力抑制の取り扱い

さらに出力抑制に関するFIT省令の記述を詳しく見ていくと、出力抑制の制限については、同省令第六条三のイ項において、「当該抑制により生じた損害(中略)の補償を求めないこと」という文言が認められます。ここで中略部分の但し書きとして、現行省令(2015年1月22日経済産業省令第3号)では「太陽光発電設備に関わる損害にあっては、年間三百六十時間を超えない範囲内で行われる当該抑制により生じた損害に限り、風力発電設備に関わる損害にあっては、年間七百二十時間を超えない範囲内で行われる当該抑制により生じた損害に限る」と定められています。この第六条三の条項だけを読むと、年間360時間(太陽光)ないし720時間(風力)を超えて出力抑制が行われる発電事業者に対しては、ドイツのように補償が行われるとも解釈できます。

しかしながら、2013年7月12日の改正(2013年7月12経済産業省令37号)で新たに追加された第六条七では、「指定電気事業者」という新たな概念が登場し、この指定電気事業者に接続を申請しようとする発電事業者に対しては、上記の年間360ないし720時間を超えても「出力の抑制により生じた損害の補償を求めないこと」と定められています。すなわち、この第六条七の追加により、本来第六条三で定められた補償が骨抜きになり、一般電気事業者が事実上無制限で出力抑制することが可能となってしまいます。

このような法令の抜け穴(ピットフォール)は、再生可能エネルギー発電事業者や投資家に青天井の事業リスクを強いることになり、再生可能エネルギーの開発・投資意欲が大きく損なわれる結果となっているのは、これまでの筆者の論考でも論じてきた通りです。

日欧の政策比較から見えること

以上、再エネの優先給電に対する日欧の違いについて、法令文書を比較しながら分析してみました。このように欧州では、メリットオーダーという市場原理だけでなく政策によっても再エネの導入が進み、その結果、必然的にベースロード電源が消滅しつつあることがわかります。

また日本では、(i) 再エネの優先給電が明示的に規定されていない、(ii) 出力抑制による逸失電力量が発電事業者に補償されない、(iii) 発電事業者にとって無制限の出力抑制のリスクがある、ということが明らかになりました。このように、日本型FIT法令の3つの特徴はEUのRES指令の理念と比較すると完全に真逆であり、再生可能エネルギーの大量導入の促進を阻害する障壁が抜け穴(ピットフォール)のように残されていると言うことができます。

■本稿は、「環境ビジネスオンライン」2015年4月27日号に掲載されたコラム『ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その3)』を転載したものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

■オリジナル掲載:Energy Democracy,ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その3)(2015年5月29日掲載)

エネルギーデモクラシー

プロフィール

安田陽風力発電・電力系統

1989年3月、横浜国立大学工学部卒業。1994年3月、同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。同年4月、関西大学工学部(現システム理工学部)助手。専任講師、助教授、准教授を経て2016年9月より京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。

現在の専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。技術的問題だけでなく経済や政策を含めた学際的なアプローチによる問題解決を目指している。

現在、日本風力エネルギー学会理事。IEA Wind Task25(風力発電大量導入)、IEC/TC88/MT24(風車耐雷)などの国際委員会メンバー。主な著作として「日本の知らない風力発電の実力」(オーム社)、「世界の再生可能エネルギーと電力システム」シリーズ(インプレスR&D)、「理工系のための超頑張らないプレゼン入門」(オーム社)、翻訳書(共訳)として「風力発電導入のための電力系統工学」(オーム社)など。

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