何が再生可能エネルギー大量導入を阻害しているのか?――日欧の政策比較から見えること

前回までに、世界中でベースロード電源が消えつつある理由を、メリットオーダーという概念を用いて経済学的に分析してきました。今回は同じくベースロード電源が消滅する理由を、政策学的に分析していきたいと思います。今回のキイワードは「優先給電 (priority dispatch)」です。

 

 

欧州の再エネ優先政策

 

欧州連合 (EU: European Union) は独自の法体系を持っており、例えば「指令 (directive)」「規則 (Regulation)」「決定 (Decision)」など、各加盟国の法律の上位に位置づけられる形でいくつかの法令文書が存在します。このうち「指令」とは、加盟国各国に拘束力を持つ法律文書のひとつであり、原則として各加盟国内において関連法の整備を必要とするものです。

 

再エネに関するEUの指令は、その名も「再生可能エネルギー指令2009/29/EC」(注)(以下、RES指令)というものがあり、2001年に発行され、2009年に大幅改定がなされています。このRES指令では、再エネ電源を優先的に給電する(電力系統に電気を送る)ことが明確に義務づけられています。表1にRES指令の優先給電に関する条項およびその訳文を示します。

 

(注)European Parliament (2009) Directive 2009/28/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the promotion of the use of energy from renewable sources and amending and subsequently repealing Directive 2001/77/EC and 2003/30/EC (EN)

 

 

表1. RES指令2009_29_ECにおける優先給電条項

 

 

ここで注目すべきことは、この条項で “shall” という助動詞が用いられていることです。この助動詞は受験英語的にはなかなか訳しづらい言葉で、“Shall we dance?”(映画のタイトルにもなっています)とか、 “You shall die.”(ダースベーダーがルーク・スカイウォーカーと対決するときに言うセリフです)くらいしか使わない、日常的にはあまり馴染みのない言葉です。しかし、実は法令文書や規格文書の中では非常に多く登場します。この助動詞が用いられていることは、法令文書の要求事項の中で最も強い義務的要求を表していることになり、一般に「〜しなければならない」と訳されます。

 

この条項では「発電設備を給電する場合、・・・再生可能エネルギー資源を用いた発電設備を優先しなければならない」とあり、各加盟国の法律もこの強い要求事項に基づいて法整備をしなければならないことがわかります。これがいわゆる「優先給電」と言われている再エネの優先政策のひとつです。このように、欧州では指令という形によって、トップダウンで政策的に再エネの優先給電が義務づけられているのが特徴です。

 

EUでは指令という法令文書で再エネ優先給電が明記されているため、再エネを出力抑制する前に先んじて、石炭火力や原子力を出力抑制しなければならないことになります。前々回で実際に欧州各国の石炭火力や原子力が負荷追従制御を行なっている様子を示しましたが、その理由がここからも理解できます。ベースロード電源の消滅が、再生可能エネルギーの導入が盛んな欧州諸国で現時点で既に起こりつつあるのは、まさにこのRES指令の再生可能エネルギー優先給電の義務化にも大きく起因しています。

 

 

欧州再エネ政策における出力抑制の位置づけ

 

なお、表1からわかる通り、厳密には、「各国の電力系統のセキュリティを保った運用をする限りにおいて」との適用除外項目がありますので、いかなる場合も必ずしなければならないというわけではなく、実際には再エネが給電されずに出力を絞ったり、解列する(一時的に電力系統との接続を切る)ことを送電会社から要請されることがあります。これが再エネの「出力抑制」です。

 

再エネを出力抑制することは電力の安定供給の責務を持つ送電会社の権利であり、これは日本でも欧州でも同様です。しかし、権利を有しているからと言ってその権利をむやみに行使してよいわけではなく、欧州では再エネを出力抑制するのはありとあらゆる選択肢を取り尽くしたあとの「最後の手段」と理解されています。実際にEUの加盟国では出力抑制は1〜4%程度に抑えられていることは、環境ビジネスオンライン・コラム「再エネ出力抑制の日欧比較から見えること」でも紹介した通りです。

 

このように、再エネ電源の出力抑制は電力の安定供給に責任を持つ送電会社によって判断されますが、出力抑制の理由を透明性高く規制機関に報告しなければならないため、送電会社にとっては気軽に出力抑制を行うことはできません。このような制約は送電会社にとって足枷というよりは、むしろ電力系統技術のイノベーションを生み出す原動力になり、実際に欧米の送電会社はその技術を競い合っている傾向にあります。

 

確かに電力の安定供給と再エネ大量導入の両者を満足させるのは技術的にひと工夫が必要ですが、それにより実際にさまざまな系統運用技術のイノベーションが発生することになります。「環境規制はイノベーションを阻害するのでなくむしろ促進する」というのはマイケル・ポーターが1991年に発表した仮説ですが(注)、欧米の送電会社はまさにそれを現在進行形で行っているといえます。

 

(注)日本語で読める資料としては、例えば下記のような文献があります。

伊藤康, 浦島邦子:「ポーター仮説とグリーン・イノベーション ― 適切にデザインされた環境インセンティブ環境規制の導入―」, 科学技術動向 2013年3・4月号, pp.30-39, 2013

 

さらに、ドイツでは出力抑制は原則として補償され、FIT賦課金とともに電力消費者に転嫁されます。出力抑制は本来売電できたはずの電力量が廃棄されることを意味しますので、発電事業者にとっては機会費用が発生することになりますが、ドイツではこの出力抑制が法的に補償されることにより、発電事業者にとってはたとえ出力抑制されたとしても事業リスクはなく、出力抑制の順番や回数などの公平性にそれほど執着する必要もなくなります。

 

出力抑制の補償は、電力消費者(≒国民)にとってもメリットがあります。なぜならば、逸失電力量は電気代に転嫁されますが、それは本来の再エネからの発電電力量のわずか数%で済み、それほどコスト増にはならないです。一方、もしこれを消費者に転嫁させずに発電事業者が負担するとなると、その分を事業リスクに見込まねばならず、発電コストやFIT(固定価格買取制度)買取価格を押し上げてしまう可能性があります。

 

少額でも消費者に転嫁するということは一時的に消費者負担が増える形になりますので、さまざまな方面から厳しい目でみられることになりますが、社会コストの全体最適化の観点からは、その方がむしろ最終負担が軽くなる可能性が高いのです。

 

このように、系統セキュリティに起因する出力抑制を許容しながらもなるべく小さくする努力をする(さらに場合によっては逸失分を補償する)という政策は、事業リスクをできるだけ低減させたい発電事業者と電力の安定供給に責任を持たなければならない送電会社双方のメリットになり、安定供給と再生可能エネルギー大量導入を同時に両立させ、技術的なイノベーションを引き起こすことに大きく貢献していると言えます。【次ページにつづく】

 

 

 

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