何が再生可能エネルギー大量導入を阻害しているのか?――日欧の政策比較から見えること

日本の再エネ優先給電の位置づけ

 

一方日本では、FIT法(注1)で「特定契約の申込に応ずる義務」(第四条)や「接続の請求に応ずる義務」(第五条)という形で「発電事業者の義務」が規定されているものの、再エネ電源の優先給電を明記した条項は見当たりません。FIT省令(注1)でも同様です。

 

(注1)法「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」, 平成23年8月30日法律第108号

(注2)経済産業省令「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」, 平成24年6月18日経済産業省令第46号, 最終改正:平成27年1月22日経済産業省令第3号

 

なお、FIT省令を見ると、「出力の抑制」について定められている条項を見ることができます(表2参照)。しかしながら、同省令では出力抑制は「接続の請求を拒むことができる正当な理由」(第六条)として規定されており、一般電気事業者(電力会社)側の権利として扱われています。

 

これに対して前述のEUのRES指令では、各加盟国や送電会社に対して「〜しなければならない」と表現を用いており、国や送電会社の義務としての優先給電が定められています。すなわち日本と欧州とでは、再エネ優先の理念が全く逆であることが法律文書からもわかります。また、第六条イ項(1)で規定される「回避措置」の中から、原子力発電が除外されている(すなわち再エネは原子力発電よりも前に出力抑制しなければならない)ことも留意すべきです。

 

 

表2. FIT法およびFIT省令における出力抑制の取り扱い

 

 

さらに出力抑制に関するFIT省令の記述を詳しく見ていくと、出力抑制の制限については、同省令第六条三のイ項において、「当該抑制により生じた損害(中略)の補償を求めないこと」という文言が認められます。ここで中略部分の但し書きとして、現行省令(2015年1月22日経済産業省令第3号)では「太陽光発電設備に関わる損害にあっては、年間三百六十時間を超えない範囲内で行われる当該抑制により生じた損害に限り、風力発電設備に関わる損害にあっては、年間七百二十時間を超えない範囲内で行われる当該抑制により生じた損害に限る」と定められています。この第六条三の条項だけを読むと、年間360時間(太陽光)ないし720時間(風力)を超えて出力抑制が行われる発電事業者に対しては、ドイツのように補償が行われるとも解釈できます。

 

しかしながら、2013年7月12日の改正(2013年7月12経済産業省令37号)で新たに追加された第六条七では、「指定電気事業者」という新たな概念が登場し、この指定電気事業者に接続を申請しようとする発電事業者に対しては、上記の年間360ないし720時間を超えても「出力の抑制により生じた損害の補償を求めないこと」と定められています。すなわち、この第六条七の追加により、本来第六条三で定められた補償が骨抜きになり、一般電気事業者が事実上無制限で出力抑制することが可能となってしまいます。

 

このような法令の抜け穴(ピットフォール)は、再生可能エネルギー発電事業者や投資家に青天井の事業リスクを強いることになり、再生可能エネルギーの開発・投資意欲が大きく損なわれる結果となっているのは、これまでの筆者の論考でも論じてきた通りです。

 

 

日欧の政策比較から見えること

 

以上、再エネの優先給電に対する日欧の違いについて、法令文書を比較しながら分析してみました。このように欧州では、メリットオーダーという市場原理だけでなく政策によっても再エネの導入が進み、その結果、必然的にベースロード電源が消滅しつつあることがわかります。

 

また日本では、(i) 再エネの優先給電が明示的に規定されていない、(ii) 出力抑制による逸失電力量が発電事業者に補償されない、(iii) 発電事業者にとって無制限の出力抑制のリスクがある、ということが明らかになりました。このように、日本型FIT法令の3つの特徴はEUのRES指令の理念と比較すると完全に真逆であり、再生可能エネルギーの大量導入の促進を阻害する障壁が抜け穴(ピットフォール)のように残されていると言うことができます。

 

■本稿は、「環境ビジネスオンライン」2015年4月27日号に掲載されたコラム『ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その3)』を転載したものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

 

■オリジナル掲載:Energy Democracy,ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その3)(2015年5月29日掲載)

 

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