そもそも「放射能を測る」ってどういうこと?

放射能を測るとは


ここまで、外部被曝を防ぐためにガンマ線の強さを測る、つまり「放射線量率を測る」ことを考えてきました。線源となる放射性物質が体の外にある時は、ガンマ線が危険なのです。環境が放射性物質で汚染されている時には、この外部被曝の影響を一番に考える必要があります。

外部被曝に対して、食べたり吸い込んだりして放射性物質を体内に取り込むことによる被曝を内部被曝と言います。放射線を出す源が体の中に入ってしまうと、近くに影響を及ぼすベータ線やアルファ線の人体への影響が深刻になります。今、食品の放射能汚染では特に放射性セシウムが問題になっていますが、放射性セシウムもこのベータ線を出します。

事故から間もない時期は、空気中に舞っていた放射性ヨウ素やセシウムが野菜の表面に付着し汚染していました。しかし、これらは洗い流せば落とせたのでそれほど問題にはなりませんでした。また、水道水からも検出された放射性ヨウ素は半減期が8日と極めて短いので既にほぼ無くなっており、事故当初に子どもたちが放射性ヨウ素でどの程度被曝したかを推定することも困難になっています。

現在、食品の「放射能を測る」と言うと、ほとんどの場合は食品に取り込まれた放射性セシウム(セシウム137とセシウム134)を測っていることになります。セシウムはカリウムと化学的な性質が似ている元素なので、植物はカリウムと同じように取り込んでしまいます。放射性セシウムで汚染された植物を食べた動物の肉や乳にも移行します。

とはいえ、例えば半減期が30年のセシウム137でも、体内で30年間人体に影響を与えるかと言うと必ずしもそうではありません。カリウムが体内で代謝されやがては排出されていくように、植物や動物が生きている限り、セシウム137も排出されていきます。これは、「生物学的半減期」と呼ばれ、セシウム137の場合、おとなで約100日とされています。

ところで、外部被曝なら空間線量に滞在時間を掛けただけの放射線を浴びることになりますが、内部被曝ではどうでしょうか。体に取り込んだ放射性物質は排出されるまで放射線を出すので、被曝が続きます。そこで、排出されるまでの被曝量をすべてあらかじめ足してしまい、「今食べた分の放射性物質によって将来にわたり合計これだけ被曝するはずだ」という量をその食品による被曝量とするのが便利です。

これを「預託実効線量」といい、やはりシーベルトで表します。つまり「まだそれだけの被曝をしているわけではないけれど、将来にわたりそれだけ被曝するはずだ」という量を、食べた段階で計算にいれてしまうのです。この点が、外部被曝量と内部被曝量を表示する際の大きな違いです。この預託実効線量は、食品中にどれだけの放射性物質が含まれているかがわかれば求められるので、食品中の放射性物質量を測ることで知ることができます。

 

食品の放射能測定


さて、では、実際に食品に含まれる放射性セシウムの量はどのように測るのでしょうか。

残念ながら、市販のガイガーカウンターの多くはこの目的には不向きです。
以前は、ガイガーカウンターを食品に直接当てて測定している例を多く見かけましたが、それでは空間の放射線の影響のほうが強く出て、食品を測っているとは言えません。

食品中の放射性物質量は少ないので、感度が低い市販のガイガーカウンターではそもそも測定が難しく、また、たとえ空間の放射線を遮蔽して長い時間測定したとしても、多くの食品には自然放射性物質であるカリウム40が含まれていてそれと放射性セシウムを区別できません。カリウムは人間にとって必須の元素で、その中には必ず微量の放射性カリウムが含まれています。食品の放射能をきちんと測定すればこのカリウム40も検出されるはずなので、これを放射性セシウムと間違えないようにしなくてはならないのです。

そのため、食品中の放射能濃度を測定する場合、放射性物質の種類を見分けられるヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレーション検出器を用いたガンマ線スペクトロメータなどの測定器が必要です。特に、4月から下限値が引き下げられることから、より精度が高い装置でなければ測定不可能になります。非常に精度の高い測定をしなくてはならない場合には、ゲルマニウム(Ge)半導体検出器が用いられます。これは高価な上、液体窒素で冷やさなくてはならないなど、簡単には使えない装置です。

ただし、大まかに一般食品中の放射能濃度が基準を超えていないかどうか判断する(スクリーニング)ためには、NaIシンチレーション検出器も使用可能です。一般の人も使える民間の測定所などではこのような検出器を使っています。実際の測定では、一定の量の食品(それもかなり多い)を必要とし、それらを細かくすりつぶして容器いっぱいに詰めて測定器にかけます。食品を入れる部分は空間放射線の影響を受けないよう厚い鉛などで覆われています。微量の放射性物質の量を測るには、たくさんの放射線を検出しなくてはなりません。そのため、測定には20分程度かかります。

今はたいていの食品に含まれる放射性セシウムの量が少ないので、測定の誤差が問題になります。測定された量はいろいろな原因でばらついて、何度測定しても同じ数字にはならないのですが、量が少ないと、測定された量とそのばらつきぐあいとがあまり違わなかったり、はなはだしい時はばらつきの方が大きくなったりします。もちろん、その場合には測定された量を信頼するわけにはいきません。極端な場合には、数字の上では放射性物質が検出されていても、実はあるのかないのかすら、はっきりと言えないこともあります。

そのため、測定量には「これより少ないと検出できない」量と「これより少ないと、あることはわかってもどれだけあるかはわからない」量があり、前者を「検出限界」、後者を「定量下限」と呼びます。

NaIシンチレーション検出器の定量下限はおおよそ20~50 Bq/kg程度とされています(これは測定時間によって変わり、測定時間を長くすると10 Bq/kg程度まで可能)。一般食品の新規制値は100Bq/kgなので、NaIシンチレーション検出器で測定するのは大変で、以下のようにすることになっています。

 

 

放射性セシウムの含有が非常に低い、またはほとんどない食品であればスクリーニング検査を行い、50 Bq/kgを超える値があるかを検証します。規制値の50%水準(より厳しい値)である50 Bq/kgを超えるかどうかを測定し、「検出無し」であれば、規制値100Bq/kg以下は満たしていると判断します。しかし、どのような測定器でも、検出限界ギリギリの測定には誤差が大きくなります。もし規制値の50%(つまり一般食品で50 Bq/kg)を超える検出があれば、より感度の高いゲルマニウム半導体検出器による確定測定を実施し、含有量を確定する必要があるでしょう。ゲルマニウム半導体検出器では、精密分析すれば3 Bq/kgまでの測定が可能とされています。

飲料水については、規制値が10 Bq/kgであるため、ゲルマニウム半導体検出器以外では、スクリーニング検査も含め、検査は困難です。
(※引用元:同位体研究所HP)

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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