そもそも「放射能を測る」ってどういうこと?

新規制値について

 

厚生労働省は、平成24年4月より、従来の暫定規制値より大幅に厳しい食品中の放射性セシウムの新規制値案を適用する方針を打ち出しています。

新たな基準は、「一般食品」の放射性セシウムの基準値が、1kg当たり100Bq/kgです。これは、これまでの暫定規制値 (500Bq/kg) の5分の1の値になります。また、成人より放射線の影響を受けやすい子供用の食品「乳児用食品」、および「牛乳」は50 Bq/kg、「飲料水」は10Bq/kgと定められています。「乳児用食品」や「牛乳」については、子供が摂取する食品区分であるため、流通する食品のすべてが汚染されていたとしても影響のない値ということで、100Bq/kgの半分の値である50 Bq/kgが基準値とされました。

 

 

表1:基準値の見直しの内容 (新基準値は平成24年4月施行予定。一部品目については経過措置を適用)

表1:基準値の見直しの内容
(新基準値は平成24年4月施行予定。一部品目については経過措置を適用)
単位はBq/kg
厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課「食品中の放射性物質の新たな基準値について」より作成

 

 

なぜ規制値が変更されたの?


では、そもそもなぜ急に、規制値が5分の1になったのでしょうか。これまでの暫定規制値が緩すぎたのでしょうか?

食品衛生法に基づく放射性物質に関する暫定規制値は、原子力安全委員会が示した「飲食物摂取制限に関する指標」に沿って設定されていました。それは、以下のようなものでした。

 

 

1:食品からの被曝に対する年間の許容線量を、放射性セシウムについては5mSvと設定し、食品カテゴリー(飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他)ごとに1mSvずつ割当てを行う

2:汚染された食品を食べ続けた場合等の前提条件を置いた上で、設定した線量を超えないよう、食品カテゴリーごとの摂取量等をもとに、規制値(Bq/kg)を算出(成人、幼児、乳児それぞれの摂取量や感受性にも配慮し、年代別に得られた限度値の中で最も厳しい数値を全年齢に対して適用)

 

 

今回行われた見直しに関して、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課の発表した資料には、「暫定規制値の値は健康への影響が無いと一般的に評価されている値であり、安全は確保されているが、よりいっそう、食品の安全と安心を確保する観点から、現在の暫定規制値で許容している年間線量5mSvから年間1 mSvに基づく基準値に引き下げる」ためと説明されています。

また、年間1mSv自体に変更した理由としては、

 

 

1:食品の国際規格を作成しているCODEX委員会の現在の指標で、年間1mSvを超えないように設定されていること

2:モニタリング検査の結果で、多くの食品からの検出濃度は、時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること

 

 

があげられています。2は、この基準が達成可能だからという意味です。

また、特別な配慮が必要と考えられる「飲料水」、「乳児用食品」、「牛乳」は区分を設け、それ以外の食品を「一般食品」にまとめ、全体で4区分とすることも定められました。

規制の対象となる放射性物質の種類(核種)は、福島第一原発の事故により放出された物質のうち、原子力安全・保安院がその放出量の試算値リストに掲載した核種の中で半減期1年以上の核種 (セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、 プルトニウム、ルテニウム106 )とされています(放射性ヨウ素については既に無いと判断して除外)。

この中で、セシウム以外の核種は、測定に時間かかかるため、セシウムを基準とすることを決めています。ストロンチウム90が考慮されていないと誤解する人も少なくないようですが、セシウムの量に比例するとして計算されています。

まず、土壌から農作物・畜産物への移行、土壌から川や海、そして魚介類への移行、そして、最終的に人体へ移行するこれらの経路ごとに各放射性核種の移行濃度を解析します。その上で、産物・年齢区分に応じて放射性セシウムがどの程度人体に影響するのかといった寄与率を算出し、合計で1mSvを超えないように基準値を設定しています。この介入線量レベル(年間許容量)を、食品ごとに割り振ります。

例えば、一般食品には、年間1mSvから飲料水の割当線量(0.1mSv)を引いた値、0.9mSv/年が割り当てられます。この線量を、年齢区分別の年間摂取量と換算係数で割ることにより、限度値(Bq/kg)を算出します(この際、流通する食品の50%が汚染されているとします)。具体的に見てみると、1歳未満で460Bq/kg、19歳以上の男性で130Bq/kg、女性で160Bq/kgが限度額として算出されています。

 

 

表2:「一般食品」の基準値の考え方

表2:「一般食品」の基準値の考え方
厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課
「食品中の放射性物質の新たな基準値について」より作成

 

 

この中で、限度値がもっとも低いのは、13~18歳の男性の120Bq/kgです。新規制値の一般食品100Bq/kgは、すべての年齢区分の限度値のうち最も厳しい基準値であるこの120Bq/kgを満たすように設定されているのです。

これらの新基準値は、原料については4月1日から規制が開始されますが、準備に時間がかかる食品(米や牛肉、大豆、それらの加工品など)については、市場の混乱を避けるために、米・牛肉は10月まで、大豆は1月まで規制が猶予されます。

ただし、基準値を厳しくしすぎることには批判も少なくありません。実際、現状でも実際に流通している食品のほとんどは放射性物質が検出されないか、されたとしても少なく、食品から受ける年間の内部被曝量は非常に少ないと考えられます。現在の暫定基準値は、すべての食品が基準値ぎりぎりまで汚染されているとしても、内部被曝が年間5mSv以下になるという設定ですが、その前提はかなり非現実的だということです。ところが、基準値を厳しくすると、対応できない測定器がかなり出ると考えられる上、測定にも時間がかかるようになり、できるだけたくさんの食品を測定するという観点からはむしろ逆効果と考えられます。

 

 

基準値の信憑性


では、これらの基準値の信頼性についてはどうでしょうか。

そもそも基準値は、とても低い値に設定されています。

一般食品で120Bq/kgに定められていた13~18歳の男性の場合、想定される被爆線量は0.8mSv/年程度と見積もられています。しかし、上述のように、現時点でも、多くの食品から放射性セシウムは検出されていません。実際に基準値上限の食品だけを摂取し続けることは通常の食生活では考えられませんので、もし仮に一時的に基準値上限に近い食品を摂取してしまったとしても、実際の被曝線量はこれよりかなり小さい値になるはずです。

新基準にのっとり、基準値を超える汚染が検出された食品は市場に流通しません。

問題は自家消費の野菜や自分で採集したきのこなど、検査されない食品類です。実際、ホールボディカウンターによる内部被曝測定で内部被曝していると判断された方々のなかには、自家消費の野菜を食べていた方が多いようです。福島県近隣で自家消費のために自分で野菜を作っておられる方は、一度、測定をお願いしてみてはいかがでしょうか。

植物の種類によってもセシウムの移行係数が違っています。キノコ類やベリー類など、セシウムの移行が高い確率で確認されている作物もあります。放射能測定器を設置して自分で測定できる測定所もいくつかできています。たとえば株式会社ベクレルセンターが提供している「ベクミル」というレンタルスペースでは、自身で持ち込んだ検体(食品や土壌など)を、自身の手で機器を操作して測定します。自分で測定してみるのはいい勉強にもなります。一度試してみてはいかがでしょう。

 

 

引用・参考資料
1)NaIシンチレーション検出器とゲルマニウム半導体検出器をどのように使い分けるかについては、同位体研究所の以下のページを参照しました。
http://www.radio-isotope.jp/tech/regulatory_limit.html

2)新基準値については下記、厚生労働省の資料2を引用しました。図表の出展も下記。
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html

 

資料2:(参考)食品中の放射性物質の新たな基準値について
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/120117-1-03-01.pdf

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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