南相馬市立総合病院の内部被ばく検査から

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求められるWBCの規格化、検査体制の拡充

 

三つ目はWBC自体や、その情報を処理するリソースが不足しているということです。今現在に南相馬市立総合病院では1日あたり110人ずつの検査が行われておりますが、この速度では全く必要な検査数をこなせません。今年中に、相馬市、南相馬市で計5台のWBCが稼働する予定です。フルに稼働すればこの地域の検査は十分にまかなえるようになるはずですが、これらの相互連携など課題も多いです。

検査に関するスタッフも多く必要です。問診記入の補助、着替えや検査の誘導、外部汚染のチェックに3,4名、そして検査自体を行う放射線技師と結果説明のための医師です。また結果のデータや問診票は紙ベースなので、それらの打ち込みやファイリングを行ってくれるスタッフもいます。

当院では、結果郵送後、結果説明の外来の予約を取っていただき再度来院していただく形をとっています。説明はどれだけ短くても1人15-20分程度はかかります。理想的には全員に細かく結果説明をしたいところなのですが、現実的には希望者にのみしか行えていません。

また残念ながら、この検査自体は医療行為になりません。検査の器械自体を放射線技師さんのような資格のある方に操作していただく必要は、本当はありません。結果の説明自体も医師がやらなければならないという規定もありません。

しかしながら、今後継続的に定期的に検査をして行き、生活習慣、食生活に併せて検査方針やアドバイスを変えなければならない状況は、通常我々が行っている医療行為と何ら変わらないと思っています。医療者がもっと積極的に介入してほしいと思っています。非常に特殊な検査をしている訳ではありません。

 

WBCの規格化がなされていないことも問題です。東京大学の早野先生が指摘されていらっしゃるように、今の福島で、きっちり遮蔽されていない部屋内での椅子型WBCは役に立ちません。大量の内部被ばくをしていないかを確認するスクリーニングとしての意味は持つかもしれませんが、現在フォローのターゲットにしているような体内セシウム量まで検出限界を下げることが出来ないからです。

当院でもキャンベラ社製のWBCが導入され、検出限界を250Bq/body程度まで下げることが出来ましたが、椅子型のもので検出限界を3桁以下とするには、1人あたり10分という検査時間が必要でした。ウクライナでは、厚さ10cm以上の金属の壁に囲まれた特注のWBCが稼働していましたが、もっと細かく計れるWBCや、小児のための特注WBCも必要です。

スペクトル解析のソフトウェアの性能もまちまちです。セシウム134や137の分離を失敗することがあり、実際には存在しているのに「存在しない」と判断したり、間違って多く(少なく)見積もったり、違う種類の核種と間違えたりすることがあるのです。明らかに検出するときはソフトの動作は問題ないのですが、今現在我々がフォローのターゲットとしているような、検出限界ぎりぎりの値の解析の際には特に問題となります。今は当院の放射線技師が手作業でそのずれを修正してくれています。この問題を解決するため、ソフトウェアの微調整を行い、テストしながら計測をさらに進めています。

 

問題の多いWBC検査ではありますが、当院では今後もこの地域の方々のために継続的な検査と評価、情報公開を行って行きたいと考えています。皆の努力で試行錯誤しながら少しずつ問題点を解決して行くしかありません。

ご支援賜りますようどうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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