スペースデブリ、宇宙のごみ問題の解決策を探る!

進む除去実験

 

荻上 スペースデブリはどのような方法で除去するんですか。

 

加藤 まずは除去する対象物を決め、アメリカの宇宙監視網のデータでその軌道を捕捉します。それに向かって除去衛星と言われるものを打ち上げます。除去衛星はじりじりと対象物体に近づき、対象物体の周囲を周回しながら、対象物体の動きや保持し易い部位の位置を探ります。

 

対象物体の状態を把握できたら、今度はそれを捕獲する行動に出ます。捕獲する方法としては、銛を打ち込む、投網で包みとる、ロボットアームで捕まえるなどいろいろありますが、ここで問題になるのは、対象物体がスピンしている場合です。姿勢が安定していれば検知も捕獲も比較的簡単になるのですが、廃棄された衛星やロケットの多くがスピンしている様子が観測されています。捕獲する衛星は2トンとか、大きいものだと5トンくらいあります。対する除去衛星は500kgもありません。オオカミがゾウを捕まえようとするようなもので、そのままつかみかかっても逆に振り回されてしまいます。ですので賢い除去方法としては、まずは姿勢が安定している物体に狙いを定めてそこから除去していくということが必要です。

 

荻上 捕獲後はどうするのでしょうか。

 

加藤 低軌道のものであれば進行方向に対して逆方向の推進力を与えて高度を降下させる、静止軌道であれば運用中の衛星と衝突しないように上空に再投入します。高度を下げる方法としては、JAXAが1月28日から実験を行うテザー方式の他にも、小さなエンジンを噴射して逆推進力で減速する方法や、イオンエンジンという電気的推進装置を使う方法もあります。軌道が低ければ帆を広げて大気抵抗を利用して落下させる方法もあります。こうしたさまざまな方式が各国から提案されていますが、今のところ本格的な除去に成功した国はないです。

 

荻上 今後の宇宙開発は使わなくなった衛星をどうするのかという観点も含めて計画していかなければならないですね。

 

加藤 そうですね。軌道に放置してから後で除去するというのは経済的にも技術の面でも大きな課題があります。すでにデブリとなってしまった物体に関しては、除去するしかありませんが、これからの宇宙開発では役目を終えた衛星やロケットはできるだけ早期に落下させるように操作していかなければならないですね。

 

荻上 さまざまなデブリ対策が検討されているようですが、松浦さんはこうしたことを取材されていて、どのようにお感じですか。

 

松浦 基本的に回収や引きずりおろしは技術的に非常に難しいんです。だから最初からデブリを出さないことが重要になってきます。ロケットも衛星も設計段階からデブリを出さないように設計し、運用するべきです。実際日本のH2Bロケットでは、軌道に入る際に補給船を切り離してから、ロケットはもう1回逆噴射をかけて、あらかじめ設定した海域に落としてしまうということをやっています。

 

荻上 1月28日からはJAXAが「こうのとり」を使ってデブリ除去の実験を行うそうですね(1月26日放送時点)。

 

加藤 ええ、今回の実験では、先ほどご紹介した、テザー方式で高度を下げる技術の一環で、テザーと呼ばれる導電性の長い紐を伸展させて種々の機能を確認する実験です。

 

荻上 どのような方法で高度を下げるのですか。

 

加藤 導電性テザーで逆推進力を与える方法です。「こうのとり」からテザーと呼ばれる長いひもを降ろし、そこに電流を流します。地球には地場がありますから、地場の中で電流が流れると、テザーには「ローレンツ力」と言われる力が働きます。その力を利用して大型デブリに逆推進力を与えて、落下させようというものです。

 

荻上 ローレンツ力の利用、ですか。

 

加藤 高校の実験などで、向かい合った磁石の間にブランコのように電線を垂らし、そこに電流を流すとローレンツ力でブランコが揺れるという実験をされた方もいらっしゃると思いますが、その原理です。

 

荻上 もう少しわかりやすく説明願えませんか?

 

松浦 いわばブレーキです。衛星の動きとは逆向きのローレンツ力が働くので、衛星の速度は徐々に落ちていく。そうすると衛星の軌道が下がっていって、最後は落下するんです。

 

加藤 とはいえ今回の実験は、そのための準備段階のようなもので、テザーに電流を流す機能や、そもそもテザーがちゃんと伸びるのか、といった技術的な実験を目指しています。

 

松浦 宇宙空間でひもを伸ばすのはすごく難しいんですよ。アメリカはイタリアと共同で実験を行いましたが、途中でひもが引っかかって失敗しています。現段階では伸ばしたあとに無重力の宇宙空間でひもがどう挙動するかもわかっていない。JAXAは2025年くらいに除去衛星の実用化を実現したいとしているそうですが、道のりは厳しいですね。

 

加藤 今回の実験では700mの放出を目指していますが、実際にデブリ除去に使うとなると10km近い長さのひもを伸展させなければならなくなります。それを伸ばしきるというのはそれだけでかなりの技術で、今後も事前実験を必要とします。こうした実験が進むことはデブリ除去に向けた大きな進展だと感じています。

 

 

松浦氏

松浦氏

 

荻上 デブリが小さいと回収しやすかったりするのですか。

 

加藤 10cmくらいの小さいものに関しては降下させるのではなく、レーザーで焼くというアイディアも出ています。もっと小さなデブリは、寒天のような大きな面積の吸着物体を軌道に展開してくっつけてとってしまうというアイディアもあります。しかし、小さなデブリは何万個もありますから、焼石に水のように思います。それよりも衝突事故を起こすと多量のデブリを発生する恐れのある大型の衛星やロケットの残骸を除去する方が効率的だと思います。

 

 

これ以上ごみを出さない

 

荻上 ごみを出さないためにはどうしたらよいのでしょうか。

 

加藤 国連のスペースデブリ低減ガイドラインの中では7つの提言を行っています。まず1番目が意図的に部品類を放出しないこと。例えば衛星とロケットの結合部を宇宙空間に残さないように設計するということですね。

 

2番目は破砕事故を起こさないこと。破砕事故で1番起きやすいのはロケットの推進系です。例えば一つの推進剤タンクに、酸化剤と燃料が1枚の隔壁で仕切られて搭載されている構造になっている場合、隔壁に亀裂が入ると酸化剤と燃料が接触して爆発を起こしてしまうことがあります。酸化剤と燃料はそれぞれ独立したタンクとして設計するといった対策が可能です。

 

3番目が衝突事故を起こさないこと。衝突警報がでたら確実に回避行動をとる。このために衛星に軌道変更能力など回避機能を持たせることが推奨されています。

 

4つ目は意図的に破壊しないことの徹底。衛星は安全保障面でも非常に重要な役割を果たしますから、それを破壊しようとする試みがあるかもしれません。そうしたことをしないように徹底するということです。

 

5番目は、運用終了後の破損事故の防止。衛星は運用終了後に破砕事故を起こすことがあります。この原因は例えば残留推進薬が爆発するといったことです。そうしたことが起こらないよう、運用終了後は推進薬を排出するなどの対策をとることが推奨されています。バッテリーの過充電による破裂事故も考えられるので充電ラインを遮断するなどの対策も行われています。

 

6つ目は、低い軌道、具体的には高度2000km以下の軌道で運用する衛星は運用終了後は25年以内に落下させるように設計すること。ただし、地球上の人や財産、環境に害を及ぼさないように設計する必要があります。

 

最後が、静止衛星についてですが、高度36000kmで運用を終了する静止衛星は静止高度より約300km上空に移動させること。これはITUという世界の無線を管理する団体の規定にもありますから、世界のほとんどの衛星が守っています。ロケットも静止軌道と干渉しない飛行経路を設定する必要がります。

 

更なるデブリを生まないためにはこの7項目を守る必要があります。

 

荻上 リスナーからはスペースデブリの回収は世界各国で役割分担が決まっているのか、それとも自国の分は自国で回収するのか質問が来ています。スペースデブリの除去をビジネスチャンスと考えることもできるのではないかとのことですが、いかがでしょうか。

 

加藤 そうした国際ビジネスへの参入の狙いがあるのは事実ですね。日本が導電性テザー方法にこだわっているのは、コストが安いからです。これならば国際競争に勝てるだろうという思惑があります。いずれは衛星を1機打ち上げるごとに国連などが打上げ国から税金のようにお金を取り立て、それで基金を設置し、その基金で除去作業をどこかの国に委託するという方式がとられるようになるかもしれません。そのような状況になれば除去ビジネスが成立するかもしれません。

 

荻上 今後除去を実行していく中で注目していくポイントはありますか。

 

松浦 まず重要になってくるのは全世界が足並みを揃えることができるかということですね。2007年に中国が破壊実験を行った話もありましたが、ようするに中国はガイドラインを守らなかったわけです。今北朝鮮もミサイル実験を重ねていますが、彼らが国際基準を守ってくれるようにできるのか、そこがカギだと思います。

 

デブリは基本的にはこれからの問題です。すでに出てしまったごみについては、これから導電性テザーのようなもので一つずつ、徐々にですが片付けていかなければならない。しかしなによりも、今後出さないことが重要です。中国だけなく、過去にはアメリカやソ連も爆破実験をやってきました。実際に衛星破壊兵器を打ち上げていた時期もあるくらいです。しかし、もう今後そうしたことはしてはならない。少しずつ回収しながら、今後ごみを増やさないことが何より重要だと考えています。

 

荻上 ガイドラインの存在を多くの人が認知して、世界の宇宙開発状況をチェックしていくことが必要ですね。加藤さん、松浦さん、ありがとうございました。

 

 

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はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書) 

松浦晋也(著)

 

 

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スペースデブリ: 宇宙活動の持続的発展をめざして(地人書館)
加藤明(著)

 

 

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