ノーベル賞報道を通じてみえるもの  

ノーベル賞の法則性

 

10月11日の経済学賞の発表を最後に、今年もノーベル賞シーズンが終了した。ここ数年、ノーベル賞シーズンに入ると「山中教授受賞か」の文字が踊る。世界に先駆けて、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を創りだした京都大学・山中伸弥教授のことだ。山中教授の成功は、医学研究に新しい可能性をもたらしたわけであるから、受賞が期待されることは自然な流れであるとはいえる。

 

筆者も昨年、今年と、いくつかのテレビ番組から解説役としての出演を打診された。オリンピックのメダル予想やサッカー・ワールドカップの事前予想のごとく、期待をインフレーションさせるような論調が紙面を踊るのをみるにつけ、ノーベル賞のもつネームバリューというか、影響力の大きさを思い知らされる。

 

今回、山中教授は受賞を逃したが、鈴木章、根岸英一両教授が化学賞を受賞した。二人の先達には心からの賛辞を贈りたいし、慶事であることは間違いない。だが沸き立つ報道を眺めると、日本の科学研究がおかれている現状があらわになる。

 

2008年に物理学賞を受賞した益川敏英教授は事前に受賞を予測していたという。本人の著書によれば、ノーベル賞が「古いほうから評価されていく。その順番をみると(中略)二〇〇八年の可能性がいちばん高かった」(新日本出版社『学問、楽しくなくちゃ』より)という法則性を見出していたことによるらしい。

 

今回、実際に医学賞を受賞したのはイギリスのロバート・G・エドワーズ博士だが、その受賞理由である「体外授精技術の開発」は1978年の成果である。日本でも「試験管ベイビーの誕生」として大きく報道されたもので、時系列でみればやはり32年も前の成果である。

 

加えて、不妊に悩む患者を救うための治療法として、すでに全世界で広く利用されているのだ。いくら山中教授の業績が世界の常識を書き換えたものであったとしても、「生理学・医学賞」と銘打たれる賞である以上、研究室の枠内から出ていない研究ということを踏まえて、マスメディア側ももう少し冷静に報道をしてもよかったのではなかろうか。

 

ちなみに、テレビ局からの筆者への依頼は当然流れることとなったが、先方から出演見送りの連絡を受けたとき、科学研究が注目をされる数少ない機会ではあるので、「生殖医療やES細胞研究など、受賞された研究に関係する日本の研究を紹介するなど、深掘りを試みてはどうか」と提案をさせてもらったのだが、今回はもう必要ないですので、との一言で切り捨てられるという残念な顛末となった。

 

 

なぜ「ただの」ニュースキャスターが説明せねばならないのか

 

一方、今回化学賞を受賞した鈴木章、根岸英一両教授の報道は「いつもどおり」というべきか、非常に華々しいものであった。研究の内容から母校、学生時代にはじまり、はてはペットやパートナーとの馴れ初めなど、もはやノーベル賞とも研究とも関係ない世界のものも多く、むしろ受賞から日が経つにつれて後者の方に傾斜していくことが目にみえてわかる。

 

しかし、その立ち上がりも決してまともなものであったとはいいがたい。あるニュースショーでは北大と中継を結び、メインキャスターが鈴木教授にインタビューをしていた。視聴者に分かりやすくしようとしたのであろう、キャスター氏がマジックでベンゼン環の中点を結んだ図を書いてしまった。高校で化学の授業を聴いていればそんな図はありえないとわかるのだが、日常使うことがなければ忘れてしまうもので、キャスター氏を笑うべきではないだろう。

 

そもそもこのような状況のときに、「ただの」ニュースキャスターが説明をしなければならないのか。先にテレビ番組からの出演打診について書いたが、じつはおまけがある。昨年山中教授が受賞を逃した折にも出演見送りの連絡を受けたが、その断りの電話で「この後物理学賞の発表で日本人が受賞した場合は物理学についてもコメントを頂けないでしょうか」との依頼を受けたが、さすがに拝辞し他の方を紹介した。

 

策定中の「第4期科学技術基本計画」でも科学コミュニケーションの重要性が謳われているが、講演会やイベントなどに積極的に足を運ぶ人数などたかが知れている。マスメディアの需要に応じて、トピックに対応できる解説役を送り出すことのできない科学コミュニケーションとはいったい何なのか、根本的にそのあり方を考えなければならない。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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