ダイエットしたら太る――最新の医学データが示すダイエットの真実(1)

ライフスタイル・生活習慣は簡単には変えられない

 

ここでは肥満と減量の話をしようと思います。体重が健康な範囲内かどうかは、BMIで判断されます(表1参照)。肥満の方々は、ダイエットでは減量が成功しません。ダイエットの代わりにライフスタイル変更が必要とされています(Lifestyle modification、生活習慣の変容とも翻訳されています)。ダイエットとは、ただ単に、体重を意識的に低下させようとカロリー摂取量を制限しようと試みること(Hill, 2017)です。継続的な変更を意味していません。毎日、適切な運動を行い、毎朝、朝食を食し、果物と野菜を摂るといったライフスタイルの全面的な変更が必要です(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)。

 

糖尿病や高血圧などの慢性疾患を患い、肥満が病状に関連している場合、通院のたびに医師から体重管理が指示されます。ダイエットを何度も試みて失敗を繰り返し、自分の生活全体を変えていくことが必要なことに気づくことになります。試験の前日にならないと勉強ができないのと同じです。追い詰められないと行動できないものなのです。

 

減量の幅は、そんなに大きくなくとも良いのです。現実的で達成可能な目標が重要です。肥満の人が、体重を5%減少させることができれば、もうそれだけで十分に、健康上の種々のリスクが改善されます(Magkos, et al, 2016)。具体的には、少し難しい話ですが、脂肪細胞、肝臓、筋肉のインシュリン感受性が改善し、膵臓β細胞の機能も改善します(Magkos et al, 2016)。

 

それでも、減量し、それを維持することはとても難しいことです。もう60年も前に、この分野の権威であるStunkard 先生(Stunkard et al., 1959)が、肥満外来の“悲惨”な結果を報告しています。100例の患者のうち、20ポンド(約9キロ)以上の減量に成功したのはわずか12%で、2年後に、その体重減少を維持できたのはわずか2例(2%)でした。

 

最近の研究でも、米国で肥満の人たちが減量して、10%の体重減少を1年間維持できた割合は、わずか17.3%でした(Kraschnewski, et al, 2010)。この研究では、「昔より良くなった」と報告されていますが、この数字で「良くなった」数字なのです。なぜなら肥満に対する29もの減量プログラム研究を分析した結果(これをメタアナリシスといいます)、1年で過半数は元の肥満体重に戻り、ほとんどは3~5年のうちに元の体重に戻ってしまっていたのです(Anderson, et al., 2001)。

 

そこで治療として、ライフスタイル変更療法(Lifestyle modification)(Wadden, et al., 2012)が行われます。研究結果は輝かしいものです。

 

強力な包括的、集中的なライフスタイル変更療法(Intensive Lifestyle Intervention, ILI)(Look Ahead Research Group, et al, 2013; Wadden, et al., 2012)では、最初の6ヶ月間(24週間)に、月に1回の個人カウンセリングと月に3回の集団カウンセリングを受け、3回の食事のうち2回をスリムファクトという液体補助食品だけにします。体重(米国人です。平均体重101キロです)に応じて、1日1200~1800カロリーの低脂肪食と1週間あたり175分以上の身体的活動(早歩きが一般的です)、行動療法(主に記録による自己監視、セルフモニタリング)により10%の体重低下を目指します。

 

次の7ヶ月目から12ヶ月目までは、月に1回の個人カウンセリングと2回の集団カウンセリングを受け、液体栄養補助食品は1日1回に減ります。2年目から4年目までは、月に1回の受診と月に1回の電話またはメール連絡を行い、ときにグループセッションを行います。4年目以降も月に1回は連絡を続け、年に2~3回は集団教室や数日の講習会を受け、体重低下の維持を目指します。

 

その結果、最初の年には8.6%、4年目でも5%近く、研究終了時でも6.0%の体重減少を維持しました(平均9.6年、8.9~10.3年)(Look Ahead Research Group et al, 2013)。

 

しかし、参加者たちは追い詰められ、覚悟を決めた、ある意味、エリートたちです。II型糖尿病を有し、研究参加時の平均体重が101キロ(標準偏差20)、腹回りが114センチ(標準偏差14)と、まさに主治医から、体重を減らさないと寿命が縮まると警告された人々なのですから。最初の6ヶ月間、仕事を週に1回休んででも、集団カウンセリングや個人カウンセリングに通う決心をして、研究参加承諾書にサインをしても当然です(米国のこの種の承諾書は、分厚く、1センチ位あって、その上、すべてのページにサインを求められます)。

 

体重100キロの人が、毎日の摂取カロリーを1200~1800カロリーに抑え、週に175分歩いたのです。涙ぐましい努力です。美容目的の場合、週に1日、ジムでカウンセリングを受けるために休みを取ることは許されないばかりか、上司に叱責され、家族に猛反対されるでしょう。

 

集中的なライフスタイル変更療法を受けた群は約9年後の体重減少は6%でしたが、介入を受けなかった群でも3.5%の体重減少がありました。介入を受けなかった対照者も追い詰められた人々です。女子中学生が美容目的のダイエットしているのとは次元が違うのです。

 

次回は、ダイエットサイクリング、太り易い体質と話を続けます。

 

文献

・Anderson, J. W., Konz, E. C., Frederich, R. C. & Wood, C. L. (2001) Long-term weight-loss maintenance: a meta-analysis of US studies. American Journal of Clinical Nutrition, 74, 579-584.

・Fairburn, C. G. (2013) Overcoming binge eating : the proven program to learn why you binge and how you can stop, second edition. (Second Edition. edn). New York: Guilford Press (永田利彦監訳,谷口麻起子,江城望訳,(仮題)過食に打ち勝つ,金剛出版、印刷中).

・Goldschmidt, A. B., Wall, M. M., Choo, T. J., Evans, E. W., Jelalian, E., Larson, N., et al (2018) Fifteen-year Weight and Disordered Eating Patterns Among Community-based Adolescents. American Journal of Preventive Medicine, 54, e21-e29.

・Hill, A. J. (2017) Prevalence and demographic of dieting. In Eating disorders and obesity : a comprehensive handbook, Third edition (eds K. D. Brownell & B. T. Walsh), pp. 103-108. New York: The Guilford Press.

・Kraschnewski, J. L., Boan, J., Esposito, J., Sherwood, N. E., Lehman, E. B., Kephart, D. K., et al (2010) Long-term weight loss maintenance in the United States. International Journal of Obesity, 34, 1644-1654.

・Look Ahead Research Group, Wing, R. R., Bolin, P., Brancati, F. L., Bray, G. A., Clark, J. M., et al (2013) Cardiovascular effects of intensive lifestyle intervention in type 2 diabetes. New England Journal of Medicine, 369, 145-154.

・Lowe, M. R. (1993) The effects of dieting on eating behavior: a three-factor model. Psychological Bulletin, 114, 100-121.

・Lowe, M. R. & Kleifield, E. I. (1988) Cognitive restraint, weight suppression, and the regulation of eating. Appetite, 10, 159-168.

・Maclean, P. S., Bergouignan, A., Cornier, M. A. & Jackman, M. R. (2011) Biology’s response to dieting: the impetus for weight regain. American Journal of Physiology – Regulatory Integrative and Comparative Physiology, 301, R581-600.

・MacLean, P. S., Higgins, J. A., Giles, E. D., Sherk, V. D. & Jackman, M. R. (2015) The role for adipose tissue in weight regain after weight loss. Obesity Reviews, 16 Suppl 1, 45-54.

・Magkos, F., Fraterrigo, G., Yoshino, J., Luecking, C., Kirbach, K., Kelly, S. C., et al (2016) Effects of Moderate and Subsequent Progressive Weight Loss on Metabolic Function and Adipose Tissue Biology in Humans with Obesity. Cell Metabolism, 23, 591-601.

・Mattison, J. A., Colman, R. J., Beasley, T. M., Allison, D. B., Kemnitz, J. W., Roth, G. S., et al (2017) Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys. Nature Communications, 8, 14063.

・Neumark-Sztainer, D. & Loth, K. (2017) The impact of dieting. In Eating disorders and obesity : a comprehensive handbook, Third edition (eds K. D. Brownell & B. T. Walsh), pp. 109-115. New York: The Guilford Press.

・Neumark-Sztainer, D., Wall, M., Story, M. & Standish, A. R. (2012) Dieting and unhealthy weight control behaviors during adolescence: associations with 10-year changes in body mass index. Journal of Adolescent Health, 50, 80-86.

・日本肥満学会肥満症診療ガイドライン作成委員会 & 委員長 宮崎滋 (2016) 肥満症診療ガイドライン2016: ライフサイエンス出版

・Stice, E., Durant, S., Burger, K. S. & Schoeller, D. A. (2011) Weight suppression and risk of future increases in body mass: effects of suppressed resting metabolic rate and energy expenditure. American Journal of Clinical Nutrition, 94, 7-11.

・Stunkard, A. & Mc, L.-H. M. (1959) The results of treatment for obesity: a review of the literature and report of a series. AMA Arch Intern Med, 103, 79-85.

・Wadden, T. A., Webb, V. L., Moran, C. H. & Bailer, B. A. (2012) Lifestyle modification for obesity: new developments in diet, physical activity, and behavior therapy. Circulation, 125, 1157-1170.

・World Health Organization (1995) Physical status: the use and interpretation of anthropometry.  Report of a WHO Expert Committee (Technical Report Series No. 854). Geneva: World Health Organization,.

 

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