事業仕分けと学術研究 

暗雲垂れこむ日本の学術界

 

現在、事業仕分け第三弾として、昨年の仕分け第一弾で指摘された点が改善されなかった事業に対して、再仕分けが行われている。そこには、去年につづいて文部科学省の事業で、学術研究に密接に関係する「競争的資金」(優れた研究計画に対して研究費を補助する制度)や「グローバルCOEプログラム(G-COE)」(世界的に高度な研究をしている大学院を日本の研究・教育の拠点として育成するプログラム)などが盛り込まれた。

 

この原稿の執筆時点では帰趨は分からないが、18日に行われる再仕分けでは、非常に厳しい結果が予想されている。はたして、この仕分けは有益なものなのであろうか。

 

筆者は昨年の事業仕分け自体はやむなしとする立場をとったが、今回の再仕分けに関しては納得がいかない。大型予算は理系・科学研究に偏りがちであるから文系研究者には関係が乏しいものとして、関心が薄い向きもあるかもしれない。しかし、競争的資金は文系にも開かれており、G-COEも文系領域の研究者を多く抱えている。これは科学研究のみならず、日本の学術系全体に対して暗雲をもたらす決定であるといわざるを得ない。

 

平成21年11月に、国が行う事業(449事業)を対象に事業仕分けが行われた。このときには、科学予算にまつわるさまざまな事業も俎上に上り、きわめて厳しい批判にさらされた。蓮舫行政刷新大臣が声名を高らしめた「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言は、科学研究に携わる人間からはいまもって評判が芳しくないが、筆者は指摘された事業が抱えている問題点をシンプルに指摘した、きわめてよい発言だったとの考えは変えていない。

 

もちろん、仕分けの結果は研究予算に対しては苛烈な影響を残した。学術研究の競争的資金である日本学術振興会科学研究費補助金では、若手研究A、B、Cとあった三つの研究費のうち、S(42歳以下の研究者が ひとりで行う研究で、期間5年、おおむね3000万円以上1億円程度)が募集停止され、2つあった新領域学術研究のうち課題提案型(確実な研究成果が見込めるとはかぎらないものの、当該研究課題が進展することにより、学術研究のブレークスルーをもたらす可能性のある、革新的・挑戦的な研究で期間3年、単年度当たり1000万円程度の予算)という枠が削られることとなった。

 

G-COEも事業仕分けの決定通り、もともとの予算の総額から律儀に30%が縮減されている。元来研究費の大きな内訳には直接経費と間接経費があり、直接経費は実験のための試薬や備品を買ったり、研究に必要な書籍を購入したりする予算である。雇用される研究者の人件費もここに含まれる。一方間接経費は事務に関わる諸経費や事務職員の雇用、つまり機関の管理などに必要となる経費に当てることができるお金で、文科省から支給される競争的資金や、G-COEの予算の30%がこの間接経費に指定され、大学の懐に入る。文科省はその間接経費を丸々カットすることで行政刷新会議の決定を履行したわけだ。

 

 

科学研究コミュニティの変容

 

だが、このショックは科学研究コミュニティに対して大きな影響をもたらした。若手研究者を中心に、ポスドク問題をはじめ、科学研究のあり方をどうするべきか検討する機運が高まり、さまざまな団体から声明が発表された。これまで、日本の研究者にとって「政治への容喙」はタブー視されていたことでもあり、積極的に政策的な提言を行おうとしたことは非常に画期的な出来事であった。

 

また、こうした動きの中で、若手研究者によるアカデミー活動の振興を目的として、昨年日本学術会議内に「若手アカデミー委員会」が組織されている。これまでビッグボス・ビッグネームの意志のもと行動することが多かった研究者コミュニティにおいて、若手の意識を積極的に取り込む姿勢を見せたことは、ガバナンス意識、自治意識の芽生えとみることもできる。

 

さらに、事業仕分けで指摘された「科学的成果の可視化」という点が重視され、間接的な研究資金の提供者である国民への説明責任を果たすために、政府の総合科学技術会議は、年間3000万円以上の国の研究資金を獲得する研究者に、一般向けの講演会や小中学校での出前授業などを事実上、義務化する方針を決めている。

 

もちろん、研究者自身の「出前授業」なるものが聴衆の耳に届くものなのか、実効性は未知数である。しかし、科学と社会のあり方について、真剣に検討されるようになったことは大きな前進であっただろう。

 

ただ、仕分けの結果生まれた副産物をもってよしとすることではない。たとえば、自民党政権では大学を法人化させ、各大学に対する運営交付金を縮減する、という決定がなされていた。これは優秀な研究者の育成・確保、つまり競争的研究費の獲得や技術移転によって大学の運営経費を獲得させ、経営努力などのガバナンス能力を高めていく、という米国型の大学運営を志向するものであり、それを覆さないまま間接経費を削るというのはあまりにも悪手である。

 

 

 

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