宇宙医学研究は「究極の予防医学」

有人宇宙飛行と宇宙医学

 

人類は、古の昔から宇宙に行くことを夢見てきた。第二次世界大戦が終わり、1950年代に入ると世界は冷戦時代に突入。米ソの両大国は人工衛星や有人宇宙開発に躍起となった。

 

これまで経験したことのない宇宙環境で生存し、安全に帰還させる技術を獲得する必要が人類にはあった。ロシア(ソ連)は、ライカ犬を人工衛星スプートニク2号に乗せてバイコヌール宇宙基地から打ち上げる。地球軌道に到達したスプートニク2号から生命維持装置や生体モニター装置の稼働を確認。その後、軍のテストパイロットから厳重な医学検査と負荷試験により飛行士を選抜し、人間もまた宇宙へと飛び立つようになる。

 

1961年には、ガガーリン(ロシア)は人類初の宇宙飛行に成功。1969年には、とうとうアームストロング(アメリカ)が月面踏破に成功する。そして現在にいたる50年あまりの間に500人以上が宇宙飛行を経験し、それにつれて宇宙飛行士の健康管理技術は改善されてきた。

 

当初、人類の新たな極限環境へのサバイバル技術として開始された宇宙医学は、今日では宇宙飛行の医学的リスクを軽減し、個人やチームのパフォーマンスを向上させる「究極の予防医学」に発展してきた。宇宙では、加齢と同じ変化が急速に起こるため、宇宙医学研究で発見された健康管理技術は、地上での健康増進の秘訣ともなるだろう。

 

本稿では、宇宙環境における医学的リスクと、リスクを軽減する宇宙医学研究について紹介したい。

 

 

宇宙環境と医学的リスク

 

国際宇宙ステーション(International Space Station、以下ISS)で飛行士は、微小重力、閉鎖空間、および宇宙放射線などの過酷な環境に、6か月間宇宙滞在する。

 

ヒトは進化の過程で、地球環境に適した構造と機能を獲得してきたが、その機能は宇宙環境に対してどのような適応するのだろうか。

 

地上では視覚情報と、耳石や足底の重力情報を統合して平衡バランス反射が働くが、無重力の宇宙では重力情報が消失するため、平衡感覚が混乱してしまう。突然発生する吐き気や嘔吐、頭痛などの症状、いわゆる宇宙酔いは、初回搭乗宇宙飛行士の3分の2に発生するが、飛行士は、照明のある面を天井として上下を認知することで、居住空間と自分との位置関係を把握して徐々に適応していく。

 

地球では下半身に引っ張られている体液は、無重力環境では約1.5リッター上半身に移動する「体液シフト」が生じて、頭部・顔面の膨張と鼻づまりを生じさせる。しかし「体液シフト」では、心臓への静脈還流(血液が心臓へと戻る働き)が増加するので、抗利尿ホルモンの分泌が抑制されて尿量が増加し、次第に頭部や顔面の腫脹は軽快する。

 

このように宇宙環境に適応できる症状もあれば、骨・カルシウム代謝の変化による骨量の少は、宇宙滞在の時間経過とともに進行する。また生体リズムの変調や精神的ストレスは、滞在期間が長期になるにつれて顕在化するので、予防対策が必要になる。

 

 

 

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