デザイン志向のサイエンスコミュニケーション――科学と社会を対話で繋げるSYNAPSE Lab.とは?

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科学に興味のない人まで届ける

 

―― SYNAPSEはどういった経緯で結成された団体なのでしょうか?

 

菅野 いろいろな流れが複雑に絡まっていて、お話するのがとても難しいんですが……。

 

日本では、科学技術基本法が施行された95年、そして「サイエンスカフェ元年」と呼ばれる05年くらいから、イギリスなどからサイエンスコミュニケーション活動を「輸入」する流れが始まりました。啓蒙活動よりも双方向的で、社会に対して科学側からの積極的なアプローチを行う機運がアカデミアで高められたと言えます。

 

その時期に、独立行政法人・科学技術振興機構(JST)の振興調整費によって、科学コミュニケーターを養成する部門として、北海道大学の科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)、早稲田大学の科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)、そして東京大学の科学技術インタープリター養成プログラムがつくられました。ぼくはその東京大学の科学技術インタープリター養成プログラムの三期生にあたります。東大ではこのプラグラムを大学院の副専攻としていましたので、ぼくは生物学の研究をしながらSYNAPSEに繋がる活動をプログラムの修了研究として行うことになります。

 

三期生となって、いざ活動をはじめようとしたところ、サイエンスコミュニケーションとして大学が発行しているさまざまなパンフレットやウェブページがとにかくダサいことに気付いたんですね。

 

塚田 そうなんです。一般の人に手に取ってもらうことをまったく考慮していないように思えました。私だったら手に取らないかな、と。

 

菅野 たぶん業者も「大学のパンフレットは、幾何学模様で、青を使っていて……」とよくあるフォーマットにそって作っていたのだと思います。それって業者に限らず携わっている科学者も読者をバカにしているというか、かなり手抜きなように感じました。

 

サイエンスコミュニケーションがリーチすべきなのは、業界の内側ではなく外側にいる人たちです。パンフレットを作るなら、科学に興味のない人にも手に取ってもらえるようにしなくちゃいけない。それこそカフェに並んでいる情報誌と比べて遜色ないくらいに。

 

どうすればいいんだろう、と考えていたとき、理化学研究所が映像作家・音楽家の高木正勝さんを呼んでイベントを開いていたということを知りました。さらに理化学研究所は、高木さんに所内を見学してもらい、発生生物学にまつわる映像作品も一緒に製作していました。何故そんなことが可能になったのか、仕掛人は誰だったのかなど、そこにぼくの活動のヒントがあるように感じていました。そんな折り、アップルストア銀座で高木さんの対談が行われることを知り、そこに参加して高木さんにいろいろとお話を伺ったところ、芸術家の高木さんが、もともと科学に興味をお持ちだったということを知ったんです。

 

もしかしたら芸術に関心のある方の中には高木さんと同じように科学に興味のある方もいるのではないかと思い、東京大学で神経科学を研究している坂井克之さんと高木正勝さんをお呼びしてサイエンスアゴラ(http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/)でイベントを開くことにしたんです。イベントでは、お客さんにアンケートを取ったのですが、興味深い結果が複数とれました。たとえば、科学関係のイベントに初めてきた方が全体の6割で、この数字はサイエンスアゴラの来場者全体と比べると、異なった層をイベントに呼び込むことが出来たと言えるのですが、さらに同じく全体の6割の方が科学に対する好感度が上がったとお答えになっていました。

 

また、とくに興味深かったのは、「またこのような科学イベントに参加したいか」という質問に対して、「参加したい」と答えている多くの方は過去に科学関係のイベントに参加されている方で、そうでない方は「場合による」と答えていた点です。

 

これは科学に関するイベントに参加されている方の多くが常連だってことですよね。でもこのイベントで初めて科学イベントに来たという人の好感度が上がっていることを考えると、他にも常連になりうる潜在的なファンがいると言えると思います。寧ろ、そういう人たちにこそ科学のコンテンツを届けないといけないと、イベントを開いてから改めて思いました。

 

ただ、イベントを開いたりSYNAPSEの活動を始めたら「あいつは研究者の癖にちゃらちゃらしている」とも言われてしまったんですけど……(笑)。

 

飯島 アカデミズムの世界って、自分の専門一本に絞って研究するのがよしとされているところがあります。たとえば認知神経科学の研究者が哲学に手をだすとよろしくないとされているんですよね。仮に、学術的に本質的な結びつきがあったとしても。

 

菅野 それって飯島さんのことですよね(笑)。

 

「あるある大事典」が内容のねつ造をしていたことが明るみになって、繰り返し報道されたことがありましたが、そのときに、やっぱりアカデミズムとしても担保されたなにかをやらないといけないと思いました。

 

その際に、シノドスさんのように、アカデミック・ジャーナルを掲げたメディアのあり方というのも、ひとつの解だと思います。でもぼくらは研究者です。研究もしなくてはいけないし、資本も組織もない。さらに、いま科学雑誌は軒並み廃刊になって、残っているのは『Newton』や『日経サイエンス』、岩波書店の『科学』くらいしかありません。そういった厳しい現状を踏まえると、ぼくらはメディアになるのではなくて、たとえば『ブルータス』のような科学の専門誌ではない総合カルチャー誌に、科学について取り扱っているコーナーを増やしてもらうような働きかけをすることが現実的だと思いました。「気に留めてなかったけど科学のこと書いてあったな」くらいがちょうどいいと思うんです。

 

……でも気づいたら時代は変わっていて。震災以降、シノドスさんでも科学関係の記事を取り扱われる機会が増え、ワイヤードが日本で復活して良質な記事を載せている。ぼくらがやりたかったことが世の中に出てきて、いやあ、良い時代になってきたなあって思っています(笑)。

 

 

Art direction: NOSIGNER

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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