デザイン志向のサイエンスコミュニケーション――科学と社会を対話で繋げるSYNAPSE Lab.とは?

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総長と学生のGrooveの合流点=SYNAPSE?

 

―― なるほど(笑)。それからSYNAPSEが生まれるまでのお話をお願いします。

 

塚田 最初に菅野がお話したように、すごく経緯が複雑なんです。SYNAPSEの誕生には「Academic Groove(http://academicgroove.net/)」という活動についてのお話がかかせません。

 

菅野 『Academic Groove』は、「学問はわくわくするほど面白い」というコンセプトを掲げた有志(東大構成員)が、東京大学創立130周年記念出版物として上梓したムック(書籍)です。このムックに登場されている研究者はそうそうたる顔ぶれですが、特に注目いただきたいのは、装丁がオシャレだということです(『Academic Groove』を制作した有志は、現在、SYNAPSE Lab.(およびSYNAPSE project)と密接な関係を持つ任意団体『Academic Groove』として活動している)。

 

塚田 わたしはこの本を、SYNAPSEが始まるよりずっと前に青山ブックセンターに並んでいるのをみて、装丁に惹かれて購入しました。ちょうど自分でフリーペーパーを作っていた時期だったので、こんな世界もあるのかと興奮したのを覚えています。

 

菅野 青山ブックセンターがチョイスするような本だったということがヒットのポイントだと思います。ダサいパンフレットじゃないんですね(笑)。科学コーナーに行こうという目的を持っていない人でも手に取ります。

 

サイエンスアゴラでのイベントを終え、副専攻での修了研究をまとめながら今後の方向性を模索していたぼくがイメージしていた理想的なかたちが東大からでていたことに驚いて、仕掛け人の一人であり、当時東大本部広報にいた清水修さんに藁をもすがる思いで電話をしたところ「ぜひお話をしよう」とおっしゃってくれたんです。そこで意気投合して清水さんと一緒になにかをやろうという話になったものの……。

 

飯島 なにかをやるには資金がいる。だけどぼくらにお金はない。どうやって資金を手に入れるか……と頭を悩ましていたら、東大が毎年開いている学生企画コンテストの受賞企画には賞金が出ることを知ったんです。そこで<東京大学を編集して魅せる>という企画書を書いて応募しました。

 

ぼくらはすでにイベントを開いていましたし、学者の仲間もたくさんいます。塚田のような雑誌の編集者も、『Academic Groove』を作った清水さんもいた。他の企画に比べて圧倒的に実現可能性がありました。

 

菅野 いま思うと大人げないことだったのかもしれません(笑)。ほとんどの企画は、学部生によるもので、ぼくらは博士課程の院生だったので。

 

ここからが面白くて。審査結果を待っている間に、東大の濱田純一総長が「オープンキャンパスやホームカミング・ディにあわせて、東大の学問を紹介するフリーペーパーを作りたい」と言い出したんですね。しかも清水さんに、「学生や職員でチームを結成して、作って欲しい」と仰っていた。

 

塚田 「それなら、すでにありますよ」と(笑)。

 

飯島 下からのぼくらの流れと上からの総長の流れが清水さんで合流したわけです。

 

菅野 そのとき生まれたのが「SYNAPSE vol.01」なんです。

 

 

Art direction: NOSIGNER

Art direction: NOSIGNER

 

 

余談ですけどここでちょっとした問題が発生しました。「大学の予算で作ったSYNAPSEと同じような企画がコンテストに出ている。誰かが裏から手を引いているんじゃないか」って大学側が問題にしたんですよ。清水さんは大学から事情聴取まで受けてしまいました(笑)。が、総長からのフリーペーパー制作依頼より前にコンテストにエントリーしていましたから、すぐに潔白は証明されました(笑)。

 

 

科学と他分野の共通点:「観察と記述」

 

―― 学内のいろいろな流れがSYNAPSEの誕生で一つの形に結実したわけですね。SYNAPSEの活動を続けられるにあたって、特に意識されていることはありますか?

 

菅野 SYNAPSEは研究者が主体の活動です。編集者から取材を受けて、編集者が伝えたい内容にそって作られた原稿に承認の判を押すような、ウラ取りのための存在ではありません。

 

長々とインタビューを受けて、一部分をカットされて掲載されたものに「意図と違う」と文句を言うだけではいけないと思うんです。SYNAPSEは、科学者の口調も含めて、考えも癖も、科学者という生態や営みそのものを伝えられるメディアにしたかった。

 

なぜなら、たとえば原発事故のあとによく耳にした「可能性はゼロではない」といった科学者の発言がありましたが、あの発言って、科学者特有の言い方であることを知っているかいないかで、まったく受け取り方が変わってしまうんですよね。

 

でも何かを伝えるときには、かならずメディアを介することになります。そしてメディアは、紙媒体なら紙媒体の、ウェブ媒体ならウェブ媒体の伝え方があり、それによって伝わり方がかわる。そしてぼくら研究者が一方的に言いたいことを言っているだけじゃ伝えたい人たちに伝えられない。だからぼくらは企画の段階から、科学者も編集者もデザイナーも一緒になって考えています。実は、清水さんも東大に来る前はフリーのライターでいらっしゃいました。元はアカデミアではないところで仕事をされていた「外」の人だったんです。そんな方が、『Academic Groove』を作ったんです。

 

塚田 みんな同じ場所から始めたかったんですね。

 

菅野 一緒にやることが大事です。まあ、喧嘩になったり、お互いのバックグラウンドが違いすぎるので辛いんですけど(笑)。

 

 

―― 伝える内容だけでなく、伝え方も一緒に考えないといけないわけですね。最初にお話になられていた、「専門分野の枠組みを超える」は、科学者が編集者、デザイナーといった分野とも繋がることができるということなのでしょうか。

 

塚田 そうですね。それこそ科学者とは視点の異なる編集者やデザイナーが一緒に企画を考えることで、それぞれの専門分野を超えることができている。

 

菅野 芸術家だって、きっとそうです。高木正勝さんに制作活動に関して今後も「科学は興味をもつに値するものなのか」と質問をしたとき、反対に「科学ってなに?」と聞かれました。「現象の観察とその記述が過不足ない答えです」と答えたら「それは芸術も一緒だよ」っておっしゃった。

 

ぼくらのような自然科学者は、物質の定量、 紫外線のような電磁波の観測、脳活動の可視化等の手法を用いて、世界を記述しようとします。飯島さんならヘモグロビンの酸素化の状態を可視化することで脳の活動を観察しているし、ぼくは切断した脳を染色して脳の活動を見えるようにしている。音楽家の高木さんは、世界を絵と音で表現しようとしています。

 

飯島 「観察と記述」には受動的な印象があるかもしれませんが、観察は単純に受動的な行為ではなく、どの観点で世界を切り取るかという選択を行っている時点で既に能動的な営みなんです。アートと科学に共通する側面だと思います。

 

 

―― 科学は、他分野と共通する部分もたくさんあるということですね。とはいえ、やはり他分野とは違う、科学特有のものもあるわけですよね。

 

菅野 そうですね。抽象化された部分では共通点がありますが、それぞれの方法論に目を向ければ、似ていると言ってしまうと齟齬がたくさんあります。

 

それでもなぜ繋がることができたのかというと、ぼくらに協力してくださった方は、それぞれの分野が既存の体系のままではいけないと思っている方が多かったからだと思います。

 

いま、どの業界もお金がないので、自らのパイを広げるためには、他分野に対して、自分たちの分野の意義を伝える必要があると感じているように思います。そのときに「われわれは素晴らしいことをやっているから金をくれ!」ではいけません。一緒にやってくださる方にメリットを感じてもらうことが重要なのだと思います。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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