デザイン志向のサイエンスコミュニケーション――科学と社会を対話で繋げるSYNAPSE Lab.とは?

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「子どもにもわかるように」ではない

 

―― 伝える側ではなく、伝えられる側はどういった層を想定されていらっしゃるのでしょうか。

 

菅野 ぼくらは、子どもにもわかるように噛み砕いた説明をするつもりはありません。

 

震災・原発事故以降、ミュージシャンやアーティスト、著名人の方々の中には、原発もしくはその背景にある科学技術に対して「反○○」という姿勢をとって、さまざまな運動をしたり、行き過ぎた発言をされた方がいました。おそらく、そういった姿勢をとるのは、(間接的にせよ)彼らに情報を提供している誰かがいるんだと思うんですよね。分析的であることよりも、イデオロギーによるバイアスが強い印象があります。一部の学者ですら、そうではありますが……。

 

世間の人々が何を議題にするのかも、多くの場合は、人々に情報を提供するマスメディアが左右しているように思います。そして、その議題に対して賛成をするか反対をするかは、もっとローカルな、コミュニティのカリスマ的な存在に強い影響を受ける。

 

先ほどお話したように、ぼくらにはマスメディアを動かせるほどの力はありません。たとえばサイエンスカフェのようなイベントには、毎回2、30人くらいの方が参加されます。ということは、何かを動かせるほど多くの方に伝えるためには、何度も何度もイベントを開かなくちゃいけない。

 

そうした状況でぼくらができることって、きっと最初にお話したようにカルチャー誌に小さな連載や特集を持つとか、1万人の読者をもつ人気ブロガーに対して情報を提供するといった活動だと思うんです。おそらくそういった人たちは、深みがないものは簡単に見透かしてしまうでしょう。だとしたら、安易にわかりやすいものを作るのではなくて、ある程度しっかりしたものを作りたい。そう考えています。

 

 

Art direction: NOSIGNER

Art direction: NOSIGNER

 

 

科学の営み全体を伝えるメディア

 

―― 波及効果のある人たちに伝えて、より多くの方に広めていくということですね。先ほど科学者の営みを伝えたいとお話になられていましたが、きっとそれは具体的な知識とは違う、別のなにかを伝えたいと考えているのだと思います。

 

飯島 もちろん、自然科学によって生産された知識は有用で、大事なものです。でも科学の本質は、知識そのものではなく、むしろその知識がどのようにして生み出されたかという生産行為にあります。そうした知識生産のノウハウは、日常において人々が直面するさまざまな問題に取り組む際にも、きっと有効なものであるはずだという確信があります。

 

菅野 そうです。方法、結果、そして考察という科学の営み全体を伝えたい。どういった方法でそのデータが取られて、そこからどのような結果が得られたのか、そしてその結果をどのように考察するか、それをトータルで伝えたいんです。そうでなければ、あるデータから得られる考察が、ひとつではなく複数あるということを納得してもらえないと思うんです。科学が嫌われる理由の一つは、一方的に答えを押し付ける存在であるかのようにとらえられがちだからだと思います。でも本来、科学はそのような存在ではありません。

 

シノドス編集長の荻上チキさんの『彼女たちの売春(ワリキリ)』(扶桑社)って、最後に統計データを書かれているじゃないですか。それをみて「もしかしたらシノドスさんも同じことをやろうとしているんじゃないか」と思いました。これからはデータから適切な<選択肢>を導くジャーナリズムをやらなくてはいけないと思います。小さなメディアとして活動するうえで、どういう方法があるのかを探り探りではありますが、ぼくたちなりに有用なカタチを見つけていきたいと思います。

 

これまでの活動を通して、普段あまり科学と接していない人たちの中にも潜在的な興味を持つ人たちがいることは分っています。そういった人たちとはゆるやかにコミュニティを形成しつつあり、このコミュニティを今後の具体的な活動に繋げていきたいと考えています。今回の連載企画でもその点の議論を深めたいと思います。ただ、そういう方々とは基本的に最初から協力的な関係がつくれるのですが、実際の社会問題では異なるコミュニティ間で何らかの意見対立が起こり、対話すら可能ではなくなってしまう場面もあります。その背景には科学技術に対する反感や嫌悪感などもあると思うのですが、そういった内容についても議論していきたいと思います。

 

シノドスさんのような大きな影響力を持っていないので活動の有用性に悩むこともありますが、研究者として、そして一般市民としてメディア活動をすることで、なにかがわかるのではないか。そうした一例として今後も活動を続けていきたいと思っています。また、この活動が、新しい学術領域を創ることにも繋がるようにしていきたいです。

 

―― シノドスとしてもぜひ応援させていただきたいと思います。今日はお忙しいところありがとうございました。

 

(2013年某日 渋谷にて)

 

【SYNAPSE Lab.×SYNODOS】

 

本インタビューをきっかけに、SYNAPSE Lab.とSYNODOSのコラボレーション企画として、SYNAPSE Lab.から「科学と社会をつなぐ」をテーマに様々な記事を提供いただくことになりました。

 

科学と社会をつなぐSYNAPSE project。様々なカルチャーやライフスタイルの側面から、現代社会と科学の関係を考察する連載シリーズ。科学研究に携わる人間自身が編集者と共にイベントやインタビューを通して人々と対話する。その先に見えるモノとは? 不定期更新(次回更新は5月予定)。ご注目ください!

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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