初学者のためのロケット開発史入門

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全段国産化(高圧水素エンジンLE-7の開発)

 

次ステップとしては、3段固体モータを小型水素エンジン(推力2kN級)に置き換える「後段階H-Iロケット」が計画されていましたが、H-Iロケット/LE-5エンジンの開発成功に伴って、全段国産化の機運が高まり、一気にブースタエンジンの開発研究が加速します。

 

当初には、水素のほか、ケロシン、メタンも推進薬候補に挙がりましたが、LE-5技術の継承上、また1981年には、米国Space Shuttleが初飛行に成功しており、世界水準の追求などをも意図した上、H-IIロケット/高圧水素ブースタエンジンLE-7の開発着手が決定されました。

 

その結果、H-Iロケットの静止衛星打ち上げ能力550kgから、後段階H-Iの800kgをすっ飛ばし、H-IIで世界水準の同2,000kgまで一挙に拡大することになるのです。もちろん既定路線をひっくり返すには、紆余曲折あったはずで、ここも別稿に預けますが、素早く方向転換できたこと自体、奇跡的時代だったと思えてならないのです。

 

さて、1985年には、我が国初のブースタ(1段)エンジンの開発にかかりますが、海面上(大気圧)から真空中まで通して運転するブースタエンジンには、特別な設計配慮が必要でした。

 

燃焼排気ガスをより大きく膨張させて、噴射速度を向上させると、必然的に排気ノズルの内圧が低下します。真空中では問題ありませんが、海面上では、負圧が過ぎると、周囲の大気圧がノズル外周から侵入・逆流し、予定の噴射性能が得られないばかりでなく、不安定な流れ(剥離)や振動を引き起こします。さらに、外圧によって、ノズルがペシャンコに潰れる事故例も報告されていました。

 

性能を守りつつ、これら問題を回避するためには、ノズルの出口圧力が下がり過ぎないように、高燃焼圧エンジンが望まれたのです。故に、米国スペースシャトルの主エンジン(SSME)の燃焼圧力Pcも、20MPaと水素エンジンでは類を見ない高圧となり、連動して水素ポンプの必要吐き出し圧力も、40MPaを越え、3段構成の高速遠心ポンプが採用されています。

 

米国の開発経過を見守りつつ、また、我が国のターボポンプ軸振動のトラブル事例を反映して、水素側には2段構成遠心ポンプを採用し、結果として、我がLE-7エンジンは、Pc=15MPaを狙うことになりました。それでも、水素ターボポンプの定格回転数は、3次危険速度を上回ることになり、最初の躓きの原因になるのですが、詳細は別稿に譲ります。

 

エンジン推力は、先立つLE-5が100kNであったところから、当初、500kN程度は手が届くと想定しました。しかしロケット全体の設計が進むにつれて、700kNが必要と見直され、さらにその後、1,200kNと要求が高騰し、一時、開発担当者は青くなったのですが、担当各企業にも折り合っていただき、ようやく計画が固まりました。

 

開発体制には、LE-5開発実績を踏襲したほか、水素脆性、溶接など、新規技術課題に応じて、国内専門家に結集いただきました。それでも開発は難航を極め、予測できなかった技術課題に足をとられた結果、二度、開発計画を見直すことになりました。遅延・目標切下げの原因となった故障事例を挙げておきます。

 

 

タービン翼熱クラック→翼欠損

 

タービンは、24.5MPaの酸水素燃焼ガスで駆動されますが、高熱伝達率などを考慮し、ガス温度は730℃(1,000K)以下に設定しました。

 

当初はCo含有合金で水素ポンプ駆動タービンを試作したのですが、初期試験中に遠心力を受ける主要構造たるディスクの破壊を発生し、急遽にディスク材料、翼材料の選定をNi基合金(INCO718)に見直すこととなりました。

 

耐熱性の高い材料を採用したにもかかわらず、停止時の急冷などによる熱衝撃は予想を上回り、その後にもクラック(ひび割れ)を多発しました。最終的に翼形状の最適化、また回転数、燃焼ガス温度の低減によって、最終的に対策できました。動作環境、分布、時間変化に対する理解不足が原因でした。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.268 

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