人はなぜ宇宙へ飛び立つのか――187億年の旅への誘い

「そこに山があるからだ」

 

「Why Climb Everest?」「Because it is there.」

 

何か新しい試みに、「どうして?」と聞かれ、「そこに山があるからだ」と答えるのは、言い難い状況をかわす際に我々が使う常套句ですね。元々は英国登山家G.マロリーの言葉と言われていますが、個人の活動として動機を語るには充分なものの公的な活動として理解と賛同を得るには充分ではないでしょう。

 

当代一流のストリーテラーとして筆者が敬愛する作家浅田次郎は、「『そこに山があるから』などとは、舌足らずの言葉。それは、『快』、つまり、自己が楽しいからだ」と喝破しています。「無私の奉公」などの表現も、その状況が実施者に「快」を与えているのであって、すべての活動の評価基準が「自己との関わり」との考え方は納得し易いですね。

 

さて、個人レベルでなく、公的レベルの活動の妥当性を見出す論拠を考えてみましょう。「科学と社会の係わりを見出す4つの視点:(1)おもしろい、(2)役にたつ、(3)挑戦しがいの有る活動、(4)国民統合の営み」は、最近、読んだ本『職業としての科学』(岩波書店)の一節です。著者佐藤文隆氏は、アインシュタインの一般相対性理論の宇宙項研究で成果を挙げた宇宙物理学界の重鎮です。

 

宇宙物理学界では、昨年、「重力概念に根拠を与えるヒッグス粒子の理論的予測と実験的確認」にノーベル物理学賞が与えられるというビックイベントがありました。しかし、この勢いに乗れず、次フェーズの活動に必須とされる粒子加速器「国際リニアコライダー計画」は足踏みしています。一説には2兆円を超えるとも予測されるインフラ整備費がネックとなっているとかで、投資額に見合う社会還元の説明に苦慮し躊躇しているのが実情のようです。

 

巨大科学と一般社会の接点を模索する側面は有人宇宙活動も実験核物理学に似ています。著作中、科学と社会の係わりを見出す論には納得する点が多々あります。ここで「科学」を「有人宇宙活動」に置き換えて、氏が提唱する4つの視点で「人間が宇宙に行く妥当性」と、もう一歩踏み込んで、「必然性」を考えてみましょう。

 

ここでは四つの視点に関連する事例を挙げて、演繹的に論を進めます。まずは一番目の「おもしろい」の視点を「宇宙人」と「心の変容」のテーマで考えてみましょう。

 

 

おもしろいの視点から――宇宙人はいるか?

 

「おもしろい」の観点では宇宙人の話題が一番ですね。宇宙人の存在はいやがおうにも人々の関心を宇宙に向けます。

 

皆さん、「宇宙人」は存在すると思いますか? 筆者の答は「Yes」です。なんとなれば、我々地球人がそもそも宇宙人ですから!

 

宇宙人の存在を科学的に予測する試みがあります。地球外知的生命探査(SETI)の先達、ドレイク博士の、フェルミ推定法に基づく「知的文明数を算出する方程式」です。この方程式は、一年に誕生する星の数、惑星を持つ割合、地球型惑星の数、生物が誕生する割合、知的生物に進化する割合、電波天文学レベルの科学を有する割合、文明の持続期間の7個のパラメータに推定値をいれてNを算出します。N=1であれば、我々地球人だけがこの宇宙に存在することになりますが、ドレイク博士は「N=20000」と予測しました。

 

人類はどうしても、同胞が欲しいのでしょうか? これまで、その確認作業をいろいろ行っています。かのカール・セーガン氏が発案した「人類からの挨拶状」もその一例です。パイオニア10号、11号で、人類からのメッセージを海に流すボトルメールのように深宇宙に投げ込みました。宇宙船に貼付けられたプレートには水素ガス、男女、探査機、太陽系/地球から出発する探査機、太陽系と中性子星(パルサー)の相対位置等を記して、我々の存在を伝えようとしています。

 

ボイジャー1号、2号では、同様のゴールデンレコードに地球上の風景、生物、人間の写真。バッハからビートルズまでの音楽、そして、55か国の言葉で「挨拶」を音声で贈っています。日本語のメッセージは「こんにちは、お元気ですか」です。ボイジャーは人類の存在を地球外生命に告知しようとして、2013年9月現在、地球と太陽の距離の125倍の距離187億kmを飛び太陽系を脱出しました。これは史上初めての億年単位の気宇壮大な人類活動ですね。果たして我々の思いは届くのか? 届いて欲しいですね。

 

 

©NASA

©NASA

 

 

最近の天文学界は、知的生命体が住み得る天体の探索が主流と聞きます。人間と同様な知的生命体が存在し得る「地べたが岩石で、水分が液状である地球型岩石惑星」を探索しています。

 

以前、ドレイク博士は知的活動を想わせる電波の検出を試み、失敗しましたが、昨今の科学技術の進歩により、恒星速度の擾乱や明るさの変動の測定、観測データの統計処理により、地球型惑星の探索が現実のものと成ってきました。天秤座の方向20光年先にある「恒星グリーゼ581」が候補の一つで、生命が存在しうるハビタブルゾーンに位置する惑星gに生命体がいるかもしれないとの新聞報道がありました。

 

2013年11月4日、米国カリフォル二ア州立大学バークレイ校は、NASAケプラー宇宙望遠鏡の観測結果から「42千個の恒星の内、10個が地球型岩石惑星を持つ。最も地球に近いものとしては12光年先に位置する恒星に地球型惑星が随伴する可能性がある」と報告しています。ただし、観測技術の問題から測定にかからない惑星が他にあると推定し、統計的な補正の結果、「恒星の22%が地球型惑星を持つ」と結論しています。つまり、8千個の地球型岩石惑星があるとの見立てです。この数字を見ると宇宙人が居そうな予感がしますね。

 

 

おもしろいの視点から――心の変容

 

話題を「人の心」に変えます。宇宙環境は人の心を変えると言われています。その例として、人間が宇宙に放り込まれた時に生じる「心の変容」を紹介します。

 

立花隆氏の著作「宇宙からの帰還」では、アポロ計画で月に行った宇宙飛行士のインタビューが紹介されています。24人の皆がそうではないのですが、新しい世界に遭遇した職業宇宙飛行士の本音が吐露されています。

 

地球から高度300km位では、まだ地球表面に張り付くような位置なので、眼下の「鮮烈な地球像」に瞠目し、「地球を護る」との「神の目」的な見方が生じるのだそうです。しかし次第に地球から離れ、地球像に比して背景の暗黒の面積比が増えてくると「自己の無力と神の恩寵」を実感し、地球を遠く離れた月圏での無生物/無音の世界では「神の実在」を確信した飛行士もいたようです。

 

宇宙はいろいろな面で極限環境であることは間違いなく、充分に訓練された職業宇宙飛行士でも「心の変容」が生じ得ると伝えます。圧倒的な隔絶感や孤独感を強いられる深宇宙では、「生きる」との能動的な想いから「生かされる」との受動的な想いに変化するのでしょうか。

 

「心の変容」を我々の日常生活から探ってみます。「家に帰った」という安堵感は何者にも代え難いものがあります。妻や子供が待つ家庭が、独特の安定感を生み出すのでしょう。宇宙を旅した宇宙飛行士も、いずれは家に帰ります。NASA宇宙飛行士D.ペピットはISS長期滞在からの帰還後の講演で、その心情の発生を印象深く語っていました。彼の話を踏まえ、我々の世界にあてはめてその安堵感の由来を考えてみましょう。

 

筆者の場合、筑波の職場から自宅のある練馬までは77kmで、自宅に近い駅に着いた時に「家に帰った」との安堵感を感じます。もう少し、遠くに行った場合はどうでしょう。今年、話題の黒田官兵衛の郷里姫路から東京までは650kmになります。多分、新幹線が東京駅のホームに滑り込んだ時に安堵を感じるのでしょう。米国に出張した際、ヒューストンから日本までは10,000km。飛行機が成田空港の滑走路にタッチダウンした時に感じたと記憶しています。

 

宇宙飛行士がISSの長期滞在から帰還するときは地球半周で20,000km。カザフタンの草原でカプセルが着地した時でしょうか。若田飛行士が帰還したら是非聞いてみたいですね。将来、有人惑星探査が実現し、土星まで行った場合、地球までは150,000,000km。帰路だけでも4年半の長旅になります。「帰った」との感覚は地球重力圏に入り、自身の重さを感じた時点でしょうか。皆さんも、「心の安寧」をどこで感じるか、一度、試してみてください。

 

 

 

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