襲撃されるホームレス――聞き取り調査からみえてきた襲撃の実態

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夏場、子ども、複数名

 

続いて襲撃の時期ですが、春が28.6%、夏が57.1%、秋が2%、冬が12.2%と圧倒的に夏が多いという結果になりました。

 

加害者については、夜に襲撃されることが多いために、「その他・不明」と回答された方が4割もいました。ただ、大人が22%、子ども・若者が38%と、大人に比べると子ども・若者のほうが多いということはわかっています。襲撃者の人数をみていくと、2人以上に襲撃された方が75%を占めています。

 

襲撃内容については、暴言や脅迫が25%、蹴る殴る叩くなど身体を使った暴力が25%、ペットボトルや火のついたタバコを投げる、花火を放つ、鉄パイプで殴るなどモノを使った暴力が37%でした。

 

こうした結果を踏まえて襲撃者と内容についてのクロス集計をしたところ、子ども・若者が、モノを使った襲撃を多くすることがわかりました。つまり、子ども・若者が、夏場に、グループで、モノを使った暴力に及んでいることが多いということになります。

 

 

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当事者も交えた対策を

 

今回の調査結果を受けて、われわれは東京都に4つの申し入れを行いました。

 

1つ目が、実態把握のための東京都による調査を行ってほしいというもの。2つ目が、野宿者への差別偏見を減らすための人権研修プログラムを、当事者や支援団体と行ってほしいというもの。3つ目が、やはり当事者や支援団体と連携して教育現場で正しい理解を促して欲しいというもの。そして最後に、襲撃を受けた野宿者がいた場合は、人権擁護機関などが必要な保護を行うと共に、再発防止に向けた協議と当事者や支援団体と行ってほしいというものです。

 

実は2、3、4つ目の申し入れについては、東京都が6月に発表しているホームレス対策の第三次計画の中に書き込まれています。ただ、われわれはそこに当事者や支援団体についても交えて欲しいと要望したんですね。というのも、2002年にホームレスに関する特別措置法が成立した段階から、こうした項目が含まれているものの、95年以降、10名の野宿者が襲撃によって亡くなられているんです。東京都だけでなく、当事者や支援団体も交えて対策をすることが重要だと考えて、今回のような要望を出した、というわけです。私からは以上です。

 

 

野宿者と襲撃者の眼差し

 

稲葉 それでは続いて、今回のアンケート調査に携わったひとりである、社会慈業委員会ひとさじの会代表の吉水岳彦さんにお話いただきます。

 

吉水 私どもは月二回ほど大きなおにぎりをたくさん作り、浅草や上野、山谷や隅田川あたりをまわって、野宿者のみなさんに配る活動をしています。寝床まで伺って直接お渡ししていたこともあり、もともとおじさんたちからいろいろなお話を聞かせてもらっていました。襲撃を受けて怪我をされている方がいることも知っていたのですが、今回のアンケートで改めて、その数の多さを実感しました。

 

聞き取り調査では、最初は「たいしたことされてないよ」とみなさんお話になります。しかし、よくお話を聞いていくと、物を投げられるなどの暴力が日常茶飯事のために、我慢されていらっしゃるようです。中にはおじさんたちにとって仕事先に行くためにとても大事な移動手段である自転車を川に投げ込まれるといった事例もありましたし、最近では、わざわざ水を入れたペットボトルを集団で投げ込んで来るような事例もありました。

 

路上にいる方の眼差しはとても優しいんですね。「襲撃するやつらにも、つらいこととかいろいろ事情はあるんだろう」っておっしゃるんです。でも、繰り返し襲撃を行う若者がいる。どの学校の生徒かもわかっていて、何度か学校に相談しに行ったこともあるけど、襲撃が止むことはない。「あいつらは、俺らのことをモノだとしか思っていないんだ」とお話になる方もいました。とても残念なことです。

 

ペットボトルを投げ込むことも許されることではありませんが、子どもたちが加害者になってしまうような、より激しい襲撃が起きてしまうこともあります。子どもたちが、野宿者のみなさんもまた人間であるという認識がないことはとても恐ろしいことです。教育現場でしっかりと、指導をしてほしい。アンケート調査に携わって改めて思いました。

 

 

墨田区で打たれた再発防止プログラム

 

稲葉 ありがとうございます。続いて、山谷労働者福祉会館活動委員会の向井宏一郎さんにお話いただきます。

 

向井 私は台東区、墨田区、江東区などで日雇い労働者や野宿者の支援活動を続けています。襲撃は10年以上前から続いており、野宿者にとってたいへん深刻な問題です。そうした中で、墨田区で行われているある取り組みが一定の成果を出しつつありますので、そのお話をしたいと思います。

 

墨田区の地域的な特性として、ホームレスの方が他の区に比べて多いというものがあげられます。墨田区でもやはり野宿者への襲撃問題はずっとありました。2000年と2005年には、子どもたちによって殺されてしまうという悲惨な事件も起きています。また一昨年、昨年と、区内の中学生による執拗な野宿者襲撃も続いていました。

 

そうした中で、私たちは区の教育委員会と継続的に話し合いを行ってきました。その結果、再発防止プログラムが、この夏休み前に、区内にある区立小学校の5、6年生と中学校の全学年を対象に打たれました。

 

内容を簡単に紹介しますと、まず生徒たちにホームレスの人たちに対するイメージを率直に出してもらいます。そこでは怖い、汚い、アルミ缶の仕事をしているといった声があがります。その後、学習用DVDや新聞記事などの資料、そして私や当事者が教室に赴き、なぜ路上生活をしているのか、どういう経緯で、どういう生活を行っているのかといったお話をします。襲撃がどこか遠くで行われているものではなく、身近な、地域の問題であることを知ってもらうこと。そしてそうした暴力が、どれだけ残酷で許されないものなのかをきちんと認識してもらうことなどが狙いです。

 

このプログラムが今後、区内の小学校中学校で継続的に行われるようになりました。野宿者への襲撃問題は、ただ野宿しているだけで暴力が行われているという点で、特有な問題を抱えているように思います。今回のアンケートが、襲撃問題を教育現場のみなさんに受け止めてもらう具体的な手掛かりになることを願っています。

 

稲葉 ありがとうございます。では最後に、匿名を条件に当事者の方がインタビューを受けてくださることになったので、向井さんをインタビュアーに、これからお話を伺います。【次ページにつづく】

 

 

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vol.269 

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