町に、舞台芸術祭という「フラグ」を立てる――KYOTO EXPERIMENTの取り組み

「開場時間」をなくします

 

—— 運営面でもユニークな取り組みをしていて、今年から、開場時間をなくすと表明されています。これは、どういうことか少し説明していただけますか?

 

橋本 演劇やダンスの公演チラシに、たとえば開演時間が7時で、6時30分開場って書いてある。でも、この30分前って、だれがどうやって決めているのかということが、ずっと気になってたんです。

 

—— たしかに。慣習なんですかね?

 

橋本 そう、慣習なんです。でも実際、30分前に行っても座っている人はまばらなんです。それだったら、ロビーで待っててもらって、扉は閉じておいて、ぎりぎりまで作品の調整や準備をしたほうが、よりいい舞台になるんじゃないかなと思って。何のためにその30分があるのかよくわからなくなってきたんです。

 

実際、たとえば500人のお客さんに入場してもらうのに必要な時間は、30分もいらなくて、5分ちょっとで全員着席できるはずなんです。

 

 

—— うーん、着いたらすぐ始まっちゃうみたいな感じですか?

 

橋本 いや、劇場ロビーがありますから、もちろん早めにきてロビーで本を読んだり、一緒にきた人とおしゃべりしたり、そういうこともいいし、バーやカフェがある劇場だったらそこで何か飲みながら過ごしてもいいと思います。で、そろそろ開演時間だなと思ったら、ドアの前に人が集まって、時間になったらドアを開けて、さっと入って、みんな席に着いたなというところで、上演が始まる。

 

 

—— 映画館ってそんな感じですね。

 

橋本 そうです。

 

 

—— じゃあ、開場時間をなくすというか、開場時間と開演時間を同時にする。

 

橋本 ほぼ同時にするということです。最初は少し混乱があるかもしれませんが、私たちは満員電車にきちんと整列して乗車できる国民性なわけですから(笑)、大丈夫だと思っています。運営側は、お客さんからクレームを受けることを恐れるがあまり、30分前に開場するとか、ちゃんと整列させるとか、過剰なサービスになっているような気がするんです。

 

 

—— 助けが必要な人がいれば、その人にはスタッフがだれかケアに行けばいいわけですしね。

 

橋本 そうです。実際、開場時間を明確にアナウンスする文化って日本だけなんです。

 

どちらかというと、観客に考えさせるというか、観る態度として能動性を要する作品を紹介しているので、劇場という環境自体もそういうふうに調整して、お客さんに自然に能動的な姿勢になってもらえれば、ということです。

 

 

芸術祭と町との関係

 

—— そういうことも含めて、EXPERIMENT(実験)なんですね。

 

橋本 そうですね。作品の内容が先鋭的かどうかというだけの話ではないなと。もちろんそういった新しい作品を紹介したいという気持ちはありますけど、それより重要なのは、京都という街で演劇やダンスを紹介する、その仕方、どうやったら街に舞台芸術を根付かせていけるのかという取り組み自体が実験だと思っているので。運営の仕組みとかもどんどん更新しながら試していきたいと思っています。

 

何かを変えるとか、枠を飛び越えるときは、多かれ少なかれ、必ず、周囲の社会との衝突なり軋轢なりが生じる。そのときに、まずまわりの人たちと話をすることが非常に重要だと思っているんです。社会ときちんと向かい合ってはじめて、自分たちがやっていることの意味を考えたり発言したりできるようになる。

 

今年から、それぞれの劇場のそばのレストランなどと提携して、オリジナルメニューを出してもらうとか、チケットを持っていったら割引になるとか、そういうプランも考えています。地域の人にも、普段と違うお客さんがきていますよってことをお知らせできたらいいかなと思っています。

 

 

—— お客さんにとっても楽しみが増えますね。

 

森山 大きな流れで言うと、舞台芸術に限らず、東京以外の場所でやるアートフェスティバルが増えましたよね。大都市じゃない場所でフェスティバルをやること自体はすでに長い歴史があることですが、それが町おこしや観光のような要素と合流している部分がある。アートに関心がある人にとっては、作品やフェスティバルを観るために移動することに対して、心理的なハードルが下がっていることはたしかだと思います。瀬戸内やあいち、今年で言えば札幌もありますし。

 

 

—— 東北もありますし。

 

森山 大分とかね。

 

 

—— ここまでフェスティバルが増えるとお客さんも分散しちゃうのではないかと思ったりもするのですが。

 

森山 その懸念はあるとは思いますが、今のところは相乗効果があるんじゃないでしょうか。

 

橋本 私としては、ほかの地方都市にももっと舞台芸術祭があればいいなと思っています。それぞれの都市が、さらにまた、海外も含めた別の都市とネットワークを作っているような状況。京都には京都のネットワークがあり、福岡だったら福岡のネットワークがある、というようになるとそれぞれのフェスティバルに独自色が出てくる。そうすれば、たとえば私のようなディレクターが福岡に観に行って、今まで知らなかった地域や国の新しいものを発見する、ということも多くなると思います。一つのところに集約するんじゃなくて、それぞれ異なるネットワークがはりめぐらされているほうがおもしろい状況ができるんじゃないかなという気はしています。

 

 

結節点としてのフェスティバルに

 

—— それには、KYOTO EXPERIMENT立ち上げのときに橋本さんが果たしたような役割をする人が重要かもしれませんね。橋本さんは、京都のプログラムを今後どういう方向に発展させていきたいというような、ビジョンはありますか?

 

橋本 難しいですね。というのは、KYOTO EXPERIMENTは今年で5回目を迎えます。私が、あんなことしたい、こんなことしたいと言い続けるよりは、あんなことやこんなことしたいのにと欲求不満をつのらせている若手に、いずれは譲れたらいいなということを考えているんです。……いいんですかね、こんなこと言っちゃって。

 

森山 あくまでもディレクターとしての個人的な思いだから、いいんじゃないかな。

 

橋本 プログラムを組む際には、いわゆる、われわれが芸術だと見なしていないようなジャンルも、プログラムの中に取り込んでいきたいと思っているんですよ。たとえば、建築であったり、プロダクトであったり、ファッションといったデザインなども。芸術文化だけじゃなくて生活の文化に関わるようなもの。しかし、そこには、私たちが生きていく上で重要なものの考え方が潜んでいる。そういうものを取り入れたい。これはいったい何のフェスティバルなんだろう、というようなことにしてみたい。

 

 

—— すごくおもしろそうです。……どうなるかイメージがつきませんけど。

 

橋本 どうなるかわかりません(笑)。

 

森山 演劇も何かを伝えるためのツールであると考えれば、デザインが並列されていても全然おかしくないのかもしれません。ある意味では、演劇はもっとも簡単で単純なメディアですから。18世紀の「曾根崎心中」なんて、実際に起こった事件を取材した動く瓦版のようなものだったわけです。それが、テレビがあり、ネットがあり、という時代になれば、役割は変化して当たり前です。一方で、新興の領域を見ると、ソーシャルデザインやコミュニケーションデザインは、非常に演劇的な要素をベースにしているところがある。ワークショップみたいなことをやるとかね。演劇の側にも、ソーシャルデザインに近い手法をとる作品も現れている。だからこそ、逆に今、非常に面白い状況だなと思います。

 

橋本 そうですね。過去に演劇が果たしていた役割が他のメディアに取って代わられたのだとしても、また別の意味を演劇が見いだして、進化すればいいんじゃないかっていう気がしています。

 

森山 たぶんこれから、ヨーロッパだけじゃなく、アジアとのネットワークもどんどん増えてくると思うし、変わり目なんじゃないでしょうか。

 

橋本 フェスティバルの形式を選んだもう一つの理由はそこにあります。京都でつくった作品が海外のいろんなフェスティバルに行って上演されると、また新しいネットワークができていく。そこで私自身も刺激を受けた経験がありました。京都がネットワークの拠点の街の一つになるといいなと考えています。

 

 

—— フェスティバルがあると、呼びやすかったり、呼ばれやすかったりするということですね。観客としても、京都を訪れる理由が一つ増えますね。

 

橋本 そうですね。劇場をはしごしながら京都を歩くと、いわゆる観光マップに書かれているルートとはちょっと違う、京都の街を発見できるんじゃないかなと思います。そういうことも含めての「京都の実験」を、楽しんでもらえればと思います。

 

 

森山直人さん(左)と、橋本裕介さん。

森山直人さん(左)と、橋本裕介さん。

 

 

イベント情報:

KYOTO EXPERIMENT

http://kyoto-ex.jp/

 

期間:2014年9月27日(土)〜10月19日(日)

会場:京都芸術センター、京都芸術劇場春秋座(京都造形芸術大学内)、元・立誠小学校、京都府立府民ホール“アルティ”、西京極スタジアム(西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場)、Gallery PARC ほか

内容:11組のアーティストによる公式プログラム/フリンジ「使えるプログラム」、フリンジ「オープンエントリー作品」 ※そのほか関連イベントを開催予定

公式プログラム参加アーティスト:ティナ・サッター/ハーフ・ストラドル、高嶺格、村川拓也、ルイス・ガレー、She She Pop、木ノ下歌舞伎、contact Gonzo、悪魔のしるし、フランソワ・シェニョー&セシリア・ベンゴレア、地点、金氏徹平

主催:京都国際舞台芸術祭実行委員会(京都市、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会、京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター、公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団 )

 

 

 

 

 

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