なぜ、校長は手を出したのか――体罰事件から見えてくる、学校教育の多様な問題

「辞職」というメッセージ

 

荻上 はじめまして、荻上と申します。よろしくお願いします。

 

川本 どうも、こんにちは。

 

藤井 川本さん、と、名前をここで出していますけれど、私の取材も含めて、川本さんは今までメディアには匿名で出られていました。今回、この番組で名前を出されるということには、どういった心境の変化があったんですか。

 

川本 そうですね。いまいろいろなことが起こっているので、やっぱり現場のことを、ちゃんと正直に言わなくちゃいけないと思ったんですね。どんな形で現れるかはわかりませんけれど、やはり事実は事実として伝えないと、結局は一過性のものとして終わってしまうのではないかと思いました。

 

上 今回、川本さんが当時の、一連の出来事に対してどのように思っているかを伺っていきたいんです。まず「ナイフで脅した」という騒動を、どのように知ってどのような気持ちで児童に手をあげるということになったのか、教えていただいてもよろしいですか。

 

川本 最初は、ぼくのところに子どもが報告してきたんですね。校長室は、教職員にも子どもにも保護者にも、これまで「開かれた場」として機能するようにしてきました。だから、私は子どもと常にコミュニケーションをとっているので、話しやすいということで来たんです。

 

藤井 「ナイフを持ってきている子がいるよ、怖いよ」と女の子が言ってきたんですよね。

 

川本 そうです。ただ、やはり組織として、校長が一人で動くわけにはいきませんので、まず子どもたちに担任に言ったのかどうかを確かめました。それで、担任が対応しなかったということがわかったので、私が動くことにしたんです。

 

藤井 ナイフという言葉を聞くと、緊急性も当然感じましたよね。

 

川本 その通りです。やはり子どもの意見というのは真剣に聞かなければなりません。それが確かかどうかは、身近にいる人間、つまり担任や教員がしっかりと子どもと接していたらわかることです。教師側が子どもの言ったことを真摯に受け止めて、判断できないときは、教務主任や教頭に相談する。最後に校長に判断を委ねる。こういった、緊急時の対応が大事だと思います。しかし、今回の事件では取り上げられていませんが、経験豊かとされる教頭、教務主任、担任等は何をしたかということです。組織の中でリーダーシップがとれる教員が少なかったことも事実です。一方で、PTAと学校が十分に連携できていたかということも気になりました。今、各地で起こっている学校に関わる問題もこのこととつながっていると思います。

 

荻上 その後速やかに動いて、子どもの話を聞いて、彼らに説教する中で手を挙げることになったと思うんですけど、どういった想いで児童に話しかけて、手を挙げるということになったんですか。

 

川本 まず、ナイフを持ってきた子を連れだして、話を聞きました。そして、話を聞いた後、関係していた子どもたちも呼びだして、音楽室で怒ったんです。ナイフの子は安全を考えていなかったし、関係していた子たちは以前約束した友人関係のルールを守っていなかったと、そこで私は手を出しました。

 

荻上 今振り返ってみて、その時の手段としては適切だったと思いますか。

 

川本 「今振り返ったら」といわれれば、今となってはいくらでもいえることはあります。手を上げない方が良かったとか。もっと冷静に話しておけばよかったと。

 

藤井 その時はやはり、これは手をあげてしまった、「しまった」と川本さんは思われたんですか。

 

川本 いや、それは思ってなかったですね。極端な話、ナイフを持ってきたことに対してね、やっぱり大人としたらこうすべきだということで、叩いたんです。友達にナイフを突き付けたりしていたということが、私としては許せなかったんですね。

 

藤井 今回はナイフをもってきた子だけじゃなくて、連帯責任として、からかった子たちも叩いているんですよね。川本さんは「みんな仲良くしなさい」と、「悪いことはお互いちゃんと言い合うような仲になりなさい」って日頃から子どもたちに言ったけど、それが守られなかったので、全員の頭をひっぱたいた。

 

荻上 児童の反応はどうでしたか。どんな表情だったのかなど。

 

川本 そりゃ、私がすごい形相で怒っていますからね。怖がっていますよ。連帯責任って言い方になると誤解が生まれるんですけど、ナイフを持ってきた子と、他の7人の子とでは、怒った内容は別です。

 

7人の子に対しては以前、ナイフを持ってきた子に対するいじわるみたいなものがあったんです。過去に子どもたちに対して、こういうことは絶対ダメだと。お互いを仲良くするために、いいことと悪いこと、ちゃんとお互いに言わなくちゃあかんよっていうことを、よく言い聞かせていたんですね。本人たちも理解してくれました。だから今回は、あのとき言ったことがなぜできなかったと、そういうことで怒りました。

 

藤井 ぼくは川本さんに何度もお目にかかっていますけれど、やっぱり、怒ると怖そうな先生なんですよ。熱血漢って感じの先生なんです。きっと、その感情はストレートに子どもたちに伝わったと思うんですね。それに、ちゃんと子どもたちや保護者への、アフターフォローについても他の先生方に伝えていますし、先々のことを考えて何重にも対応しているんです。

 

ただ当時は、桜宮高校事件という、非常に世の中を騒がせた体罰事件があったばかりで、その影響もあって川本さんが戒告処分ってことになったんですね。川本さん、その時処分されるって思われましたか。

 

川本 処分ということは、考えてなかったですね。体罰というより、一人の大人として怒ったという意識が強かったですから。だから、体罰で処分、ということに関してはやっぱりすごく悩みました。

 

荻上 どう悩みましたか?

 

川本 そうですね。処分は、重く受け止めました。戒告という一番簡単な処分だったとしても、一応は校長ですから。処分の軽い重いじゃなくて、責任の問題なんですね。自分がとった行為に対して、責任を持たなければ、職員に示しがつかないと思ったことは事実ですね。

 

荻上 その責任の取り方が、今回の依願退職ということになったんでしょうか?

 

川本 体調も優れませんでした、正直なところ。

 

藤井 川本さんはものすごく頑張り屋タイプの先生で、学校を引っ張るタイプの校長先生なので、体力の消耗も激しかったんですよね。それもたまたま重なっちゃったっていう事情もあったんですよね。

 

川本 はい。そしてもう一つに、私が辞めたとしても、それをきっかけとして教師たちが、「学校」という組織を改めて考えてくれるのではないか。そのように思ったことは事実です。

 

藤井 ぼくも記事に書いたんですけれど、川本さんがやめるというのは、一つのメッセージだったんですね。責任とって辞めるというだけじゃなくて、今ご本人がおっしゃられたように、自分が勤めておられた小学校の教員間の連携とか、行政全体であるとか、他の学校を含めて、横のつながりがうまくいってない状況があった。それを憂う気持ちがあって、自身の辞職をメッセージにしようという思いがあったんですよね。

 

川本 それはやっぱりありますね。いま藤井さんがおっしゃったように、学校の問題には、組織としての連携の弱さがあると思います。うまく出来ている学校はたくさんあると思いますけれど、一方でそれが機能しない学校もたくさんある。そういう学校では、校内で起こっているさまざまな問題がすぐに管理職に伝わっていないんです。報告・連絡・相談が十分じゃない。ごたごたになってくると、当日の夜遅くや次の日に伝わることもしばしばあるんです。

 

その結果、問題の所在はすべて校長の責任ということになってしまうんです。先生たちは、ごめんなさい、遅れましたと言って終わりなんですね。だから、責任の所在とか、報告・連絡・相談がなぜ遅くなったのか。子どもの教育を司るとはどういうことなのかをもう一度しっかりと考えないとだめだと思います。私は今回一番つらかったことは、私が退職すると担任にいったとき、担任が教頭に「パフォーマンスですよね」といったことです。また、教頭は「学校を守るためにやめられるんですね」といいました。この人たちは、今回の事件を自分事と捉えているのか疑いたくなりました。結局、ごめんなさいという言葉もありませんでした。

 

藤井 川本さんの事件が起きた後、多くのマスコミの報道の仕方が、「これは体罰ではない」とか、「これくらいで先生を辞める必要はない」とか、そういう非常に浅い部分で議論がなされちゃったことが、僕はすごく残念でした。川本さんもそう思いませんでしたか。

 

川本 そうですね。メディアが気にするのは表面的な部分だけで、その奥底にあるものについては、詳しくは言及していない。今、最も考えなければならないことは、教師と保護者が現在の子どもの将来の姿を考えなければならないと思います。学校が悪い、親が悪い、といった考えではなく、今起こっている問題はどこに原因があるのかを共に考えなければならないと思います。子どもは育てられたように育つといいます。学校が責任を持つこと、親が責任を持つことをはっきりしないといけないと思います。わからないときは腹を割って話し合う。一緒に考える。こういったことが大事だと思います。特に教員は、自分の意志でその道を目指したんだから自分のやることにはしっかり責任を持つ。やっぱりお金もらって仕事をしているんですから、そこはプロとしてね、きちんとしなきゃいけないと思いますね。

 

藤井 桜宮高校の報道があったものだから、「もう、先生は体罰を振るえないぞ」「(体罰をふるえないから)生徒がまた更に荒れた」みたいな論調も出てきて、逆に「体罰はもっとやるべきだ」という話にもなってきた。川本さんの想いとのずれがどんどん出てきてね。川本さんもそういった論調を見ていて、辛かったろうなと思いました。

 

荻上 川本さん、今回ですね、大阪市の教育委員会の方に、今回の件について質問事項を投げたところ文書で回答をいただきました。一緒にお聞きいただいてもいいですか。

 

川本 はい。

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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