なぜ、校長は手を出したのか――体罰事件から見えてくる、学校教育の多様な問題

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質問 どういう経緯で、戒告処分を出すに至ったのでしょうか。また、一教員ではなく、校長という立場を重く見ての処分だったのでしょうか。

 

回答 本件に関しましては、児童がナイフを持参し、他の児童に対して脅かす行為を行っていたとして、命に関わる大変危険な行為であり、校長が自ら厳しい指導を行ったことは、適切な指導であると認識しております。しかしながら、校長から別室に呼び出され、校長の口頭指導に従い、ナイフを校長に提出し、指導を受け入れ、反省する態度であった児童らに対し、校長が児童らの頭を叩いた行為は、指導及び正当行為とは言えず、体罰であると言わざるを得ません。教育委員会としましては、桜宮高校の痛ましい事案を受けて、体罰、暴力行為を防止する取り組みの徹底を図っている中、今回のようなことが起こってしまったことは、極めて遺憾であります。また本来、こうした取り組みにおいて、教職員を指導する立場にある校長が、自ら体罰を行ったことは弁解の余地がありません。本件に対しましては、厳正に対処した次第です。

 

質問 一連の騒動、校長の処分に関して市民の反応はどうでしたか?また、教育委員会にはどのような意見がどのくらい寄せられたのでしょうか?

 

回答 本件に関し、新聞などで報道された以降におきまして、ナイフを所持した児童の危険行為を制止するため、叩く行為を行ったと捉えられた方々から、当該校長への処分は不当であるとのご意見を数多くいただきました(すべてを集約できておりませんが、件数は数百件ほどありました)。

 

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荻上 質問に対する教育委員会側の回答を聞いていただいたんですけど、川本さん、今のやりとりをどのようにお聞きになりましたか。

 

川本 行政はそういうしかありません。指導するものが叩いたことは問題だと。戒告処分ということは厳しく受け止めます。その通りですから。

 

「子どものため」ってよくいいますが、教員も保護者もそのためにどんな姿を見せているのでしょうか。子どもは大人の真剣な姿を見てそこから考え学んでいきます。感じさせるということが大事だと思います。教員はそのために何をするの、親は何をするのということを再度考えてほしいです。小手先の対応ではなく、真剣に腹を割って向き合う姿が私は大事だと思います。何か学校に問題が起こる度に保護者が学校にとことんクレームをつける。また、ママ友内でメールで広げていく。一方、学校側は知らなかった、申し訳ないといって謝罪する。しかし、同じような問題が繰り返し起こる。私は、教員、学校、保護者の意識の違いに原因があると思います。やっぱり親と教員、あるいは学校がどれだけ問題を共有し協力関係を築いていくこと大切だと思います。それが一番の根本です。

 

藤井 今回の事件は川本さんの決断だと、僕はそう思います。僕は、メディアの中では最も詳しくディティールを書いたと思っているんですけど、これでもやっぱり、書ききれないことがたくさんあるんですよ。細かいいろんな要素や事実が複雑に入り組んで、今回のことが起きているわけですから。一つひとつのケースに対して、親と行政も含めた先生たちが一緒になってやらないと、なかなかそこは取り組めないと思いますよ。

 

荻上 そうですね。教訓というものを、掴んでいく事は難しいですよね。川本さん、ありがとうございました。

 

 

一つひとつの事例を読み解く

 

荻上 というわけで、初めて実名で、今回の経緯を語っていただけました。改めて藤井さん、こうやってお電話でお話を聞けたことはいかがですか?

 

藤井 前よりも落ちつかれていて、自分の考えをまとめていらっしゃるなという印象でした。やっぱりご本人も当初は戒告処分に関してショックを受けておられて、責任感がすごく強い方なので、動揺されていたんですね。そういう期間が何ヶ月間も続いたと思うんですが、今回こうした形でお話になるということで、自分の中できちっとこう、考えをまとめられたと思います。社会に発信したい、今回起きてしまったことを、今後に生かしていきたいというお気持ちになられたんじゃないかなと、そのように思いましたね。

 

荻上 twitterの反応もすでにたくさん頂いているんですけど、その中で例えば、今回いじめというキーワードが出てきたので、「いじめ加害者が問題じゃないか」という反応もあるし、一方で担任が取り合わないから校長に言ったということで、「担任はなにやっていたんだ」とか、そういう反応もあったんですね。これらについては、どう思われますか。

 

藤井 ぼくも最初は、これは「いじめ」という構図で捉えた方がいいのかなという気もしましたし、それを捉えきれなかった担任の先生にも、もちろん問題はあると思いました。いじめの問題は多くの場合、だいたい仲のいいグループというか、一緒に遊ぶグループの中で起きることが多いじゃないですか。今回のこともそうなんですよね。その子だけが集中的にパージされているような状況じゃなくて、普段は遊んだり、ふざけあったりとかしている仲でもあるので、完全に対立した加害者と被害者という二項対立では捉えられない部分がある。だから、その微妙な子ども同士の人間関係を調整するような、先生や専門家が入ることも必要なのだろうと、そのように思いました。

 

荻上 極端な事例に関してはまた別だと思いますけれども、今回のケースを、善と悪に図式化して、悪を懲らしめようってしたりとか、それから個人の行動を問題だとして、その人を辞めさせろとなると、間違いの大きな原因だと思うんですね。複雑な背景を丁寧に、読み解いていかなければならない。

 

藤井 そうですね。体罰は暴力ですけど、でもそれが生み出されるということは、いろんな感情が複雑に、どろどろとしたものが絡み合っているからだとも思います。それはもちろん悪なら悪で、問題視すべきなんですけど、その暴力が生まれる背景とか、素地というものをきちんと分析していかないと、やっぱり根治することは難しいと思います。また、起きてしまった場合はどのように問題を収束させるかなど、対応策を確立させることが必要だと思います。そのためにも、一個一個の事例を細かく分析していくべきだと思いました。

 

荻上 暴力は問題。だからこそ、安直に罰せよとか処分せよとか反応するんじゃなくて、冷静に何があったのかを読み解いていくことが必要だと。今回のケースを受けての、教育委員会の反応とかその後の対応については、藤井さんはどう見ていますか。

 

藤井 大阪市も大阪府の教育委員会はやっぱり、桜宮ショックが相当大きくて、それを教訓化してやっていきたいというのは、取材中すごく感じましたね。でも、先ほど言いました通り、それを分析、調査していく人的な数が足りないので、もう少し層を厚くする必要がある。体罰がこういう形で禁止されちゃったら、逆に生徒がなめてかかってくるとかね、そういう話もあるじゃないですか。

 

荻上 「体罰禁止の副作用だ」といった意見もありますけども、いかがですか。

 

藤井 そこに関しては、ぼくは全然違うと思っています。そんな短絡的な解釈をするべきじゃない。どういう対応をしていけばいいのか、きちんとケーススタディを積み重ねる中で練るべきなんですよね。

 

荻上 教育委員会に、「生徒への個別指導を導入していくと報じられているが、それはどういうものか」という質問をしたところ、「問題行動を起こす児童をランク付けして、一定ランク以上の子は隔離をして指導する」という回答をいただいています。

 

藤井 まだ案の段階ですけれど、ぼくは、首をかしげざるを得ないです。いったい誰がランク付けをするのか、どういった行動を問題行動とするのか。それに、それこそ川本先生みたいなエネルギッシュな人がいれば話が別かもしれないけど、なかなか問題のある子どもと向き合いたいという先生はいないでしょう。誰がそういう子のケアをするかですよね。

 

荻上 そういうことができる専門家って誰なんでしょう。

 

 80年代に荒れる中学校の対応策として、出席停止処分がとられるようになりました。それも根本的な解決にはならなかったですよね。単に一時的な隔離をするだけで終わってしまう。今回もそのケースと大差ないような気もしますし、実際にこれに効力があるのかとか、誰が担うのかとか、疑問だらけです。とくに一九八〇年代から、スクールソーシャルワーカーなどが機能してきた実績も日本の学校にはあるので、そういう人達と力を分散して対応するのがいいと思っています。

 

荻上 問題化される前に、労働環境や教員の現状を改善するということが前提として議論されず、厳しい処分が先行する。

 

藤井 そうですね。川本先生もおっしゃっていたけど、教師間の連携をどのように強化していくのとか、子どものいろんな個性とか、障害を持った子どもに対する専門知識を持った先生の養成とか、そういう対応も少ないと思います。隔離政策の前にやることって、いっぱいあると思うんですよね。

 

荻上 具体的な政策の議論をするためには、やっぱり丁寧に事例を読み解かなければいけない。読み解かなければ、ここでいろいろと出てくる議論も、ちょっとどうなんだろうという疑問が残ることになると。藤井さんに取材報告でお話を伺いました。

 

サムネイル「市川学園旧校舎」naosuke ii

https://flic.kr/p/8DBeHu

 

 

 

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vol.264 

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