食材としての昆虫とそのリスク――野外で採集し調理する「プチジビエ」を楽しむには

2013年に国連食糧農業機関(FAO)は報告書「Edible insect -Future prospects for food and feed security-」(以下FAO報告書;写真6)を出したが、ここでも昆虫の加熱による調理を推奨している。

 

 

【写真6】FAOの報告書「 Edible insect -Future prospects for food and feed security-」

【写真6】FAOの報告書「 Edible insect -Future prospects for food and feed security-」

 

 

このFAO報告書によると、食用昆虫に存在する微生物やその毒性に関する調査はまだわずかなようだ。しかし、一般に昆虫が固有で持つ微生物や昆虫の腸内細菌群は、脊椎動物の病原体と比べて分類学的に異なり、哺乳類動物で見られるような人間の脅威となる病原体が存在する可能性は低いという。また、デング熱を媒介するヒトスジシマカなど、蚊をはじめとする衛生害虫はウィルスや細菌等の病原体を媒介することがあるが、恐れるべき点は血液感染あるいは無加熱による食中毒である。加熱処理を行い摂食する分には問題とならない。

 

 

注意点その2. 食べると害を及ぼす昆虫もいる

 

多くの昆虫は食用に適するが、衛生面以外にも考慮すべきことがある。昆虫の持つ毒だ。毒針毛をもつイラガ、チャドクガや、ペデリンをもつアオバアリガタハネカクシなどは触れると皮膚炎を引き起こすため注意が必要である。

 

また、ツチハンミョウやカミキリモドキ類の体液中に持つカンタリジンは、加熱しても失われない毒性を持つ。そのほか、アルカロイドなどの有毒物質をもつ植物を食べ、体内に毒を蓄積する昆虫も食には適さない。ガガイモ科の植物を食べるアサギマダラなどのマダラチョウが該当する。食植生の昆虫は多くが決まった植物を食べるため、毒性のある植物を食べる昆虫は避けるべきである。さらに、腐食性の昆虫も衛生上避けた方がよいだろう。

 

昆虫からの分泌物を食べる際にも注意が必要な時がある。野生のミツバチの巣から蜂蜜を摂取する際は、有毒植物の花蜜を集めている可能性があるので注意を要する。日本でもトリカブトやタバコ、シャクナゲ、ホツツジから採蜜した蜂蜜を口にして中毒を起こした事例が報告されている。蜂蜜は我々の生活に身近な食品であるが、養蜂家らが知識をもって安全に採蜜したものが販売されていることは論を待たない。無防備に自然と関わっていくことが、時に大きなリスクをもつことを教えてくれる良い例である。

 

以上のように、「プチジビエ」を実践する際には、キノコ狩りほどの専門知識は必要ではないにしろ、捕獲した昆虫が食べているもの、昆虫の生息環境といった知識は必要であるといえる。

 

 

注意点その3. アレルギーリスク

 

他の食品同様、昆虫にもアレルギーリスクが存在する。アレルゲンは筋肉中のトロポミオシンとよばれるタンパク質とされている。甲殻類,ダニやゴキブリの持つトロポミオシンは、エビなど甲殻類が持つトロポミオシンと高い相同性を持っているため、甲殻類に対するアレルギーを持つ人は食用昆虫においてもアレルギー反応を起こす可能性がある。ただし、これまで甲殻類アレルギーがあるが昆虫アレルギーが起こらなかったケースも確認されており、あくまでも昆虫アレルギーと甲殻類アレルギーは「交差する部分がある」ということに注意していただきたい。

 

筆者らが人々に料理を提供する際、事前に甲殻類系のアレルギーをもっているかどうか、昆虫を食べるリスクに同意を得たうえで試食してもらうことにしている(表2)。

 

 

【表2】昆虫試食アンケートの一部

【表2】昆虫試食アンケートの一部

 

 

これまで筆者らは総計1941名にイベント等で人々に昆虫料理を提供してきたが、そのなかで昆虫食アレルギーを発症した人は2名であった。これにより、昆虫食アレルギーの有病率は2 / 1941(1381+560)=0.103%となる。発症した2名のうち、30代の男性が軽いかゆみ程度を発症、20代の男性が重篤なアレルギー症状を起こしている。2人とも甲殻類アレルギーを有しておらず、20代男性ついては過去にカイコ蛹粉末入のカレーパンを少量だけ食べた経験があった。重篤なアレルギー症状を起こした件の原因については、発症当日、発症者は過度の睡眠不足と肉体疲労にあったことが判明している。このように、昆虫のような新しい食品を食べる際には、念のため甲殻類アレルギーを持っていないかどうかを確認し、健康な状態で少量食べることが望ましい。

 

 

将来の新規食品として

 

FAO報告書によれば、世界中で食べられている昆虫種は1900種にのぼるという。しかし、国際的に食品としての管理の対象に組み込まれていないのが現状である。2010年にラオス人民民主共和国は、自国で養殖しているコオロギ(写真7)の貿易と食品安全の基準を設定することを、国際的食品規格委員会に提案したが、受け入れられなかった。これは検証に値するほど昆虫の貿易が行われていなかったためである。

 

 

【写真7】食用に養殖されているヨーロッパイエコオロギ。(タイにて;写真提供:高松裕希)

【写真7】食用に養殖されているヨーロッパイエコオロギ。(タイにて;写真提供:高松裕希)

 

 

しかし、食用昆虫を新規食品と位置づけ、国際基準の枠組みを定めていこうとする試みが世界で少しずつ進められている。FAO報告書では食用昆虫の適切な国際および国内規格と法的枠組みの確立を推進していくことが打ち出されているほか、ヨーロッパでは、欧州食品安全機関(EFSA)が食用昆虫に関するリスクアセスメント実施にむけたデータ収集を開始している。また、オランダでは2008年より創設された昆虫養殖協会(VENIK)では、HACCP規格に準拠した食用昆虫の生産ラインを規定しており、社会システムの整備の面から昆虫食の普及活動を行っている。

 

 

日本における昆虫食

 

FAO報告書が一つのきっかけとなり、先進国でも昆虫が食用として認知されつつある。なかでも日本は先進国でありながら、昆虫食文化が廃れず続いている珍しい国である。イナゴや蜂の子は、いずれも日本食品標準成分表に掲載されており、国民が摂取する食品の一つとされている。

 

筆者ら食用昆虫科学研究会は3年間昆虫の試食提供を行ってきたが、イナゴや蜂の子を食べたことがあるという人々は小学生から高齢者まで幅広い年代にわたっていることがわかった。なかには日常的に近所の田畑で捕えたイナゴを食べているという参加者もいた。

 

イナゴや蜂の子だけではなく、水生昆虫、カイコ、セミなども古くから食べられてきている。それらは法的な安全管理の枠組みには入れられていない食べ物である。しかし、経験の積み重ねで確立してきた安全な調理保存方法が、人々の安心感を支えている。前述のような国際規格が制定され、広く昆虫が食されることが望まれる一方で、その土地でのみ消費され親しまれる昆虫食文化も大事にしたい。

 

昆虫は食糧危機を救う代替食材として有望である、といった昆虫食の紹介記事が最近目立つ。昆虫は今の食べ物の“代替”ではなく、れっきとした“食べ物”である。また、食糧難がきて仕方なしに食べる食材でもない。昆虫食が、日本の四季折々の恵みの中で得られる豊かな食文化のかたちの一つになっていくことを、筆者は願ってやまない。

 

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