再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造(その3)

前々回、前回と、「いわゆる接続拒否」問題について取り上げてきました。この3回連続シリーズの最終回として、前回までの接続可能量問題や接続料金問題の議論と一見無関係のように見える「透明性の問題」について議論したいと思います。

 

電力系統や電力市場の透明性 (トランスペアレンシー) は特に欧州と北米でこれまで深く議論が進められてきています。この透明性の問題こそが、今回の一連の問題で多くの人が不平・不満に思い、かつ誤解と神話が生まれやすい最大の要因であると筆者は分析します。

 

 

再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造

再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造(その2)

 

 

なぜ多くの人が不満に思うのか?

 

今回の一連の電力会社の接続申込回答保留は、再エネ事業者(特に太陽光発電事業者)やその出資者に大きな衝撃を与えました。発電事業者の中には、なぜ高額な接続料金を請求されるのか、なぜ突然保留して検討する時間が必要なのか、十分に説明されず不満に思っている事業者も多いようです。この不信感や不安感は事業の不確実性や投資リスクを増大させ、結果的に再エネ導入にブレーキをかけてしまいます。公益性が高い電力系統を所有・運用する会社は、たとえ私企業であっても国民や社会全体に対して高い説明責任を追わなければなりません。それができないと、市場支配力の不当な行使、と多くの人の目に映ってしまいます。

 

例えば、前回で「価格シグナル」について言及しました。これは今回の透明性の問題を示す良い例だと思います。本来、「ここにつなぐと国民負担が増えますよ」「よその空いてるところでやった方がお安いですよ」というメッセージ自体は日本全体の再エネ導入の観点から決して悪いことではないのに、多くの事業者は「なぜそんなに高額なんだ?」「接続拒否だ!」と猜疑心を抱く結果になっています。それはなぜでしょうか? その理由は、その「価格シグナル」が適切に設計された透明性の高い市場から発せられる本当の意味での価格シグナルではないからです。透明性の高い市場が整備されていない限りは、電力会社がいかに「丁寧に」説明しようとも、最後まで不透明性がつきまといます。

 

例えば株式市場のような透明性の十分高い市場から出た価格シグナルであれば、「その情報はウソだ!」と疑心暗鬼になったりせず多くの人が納得することでしょう。現在の株式市場をはじめとするさまざまな市場は、市場プレーヤーから(ひいては国民全体から)それなりに信頼されています。それは、ひとえに高い透明性があるからです。裏を返せば、多くのプレーヤーが不平不満を言うのは、システムとして透明性が欠如しているという別のシグナルだと見ることもできます。

 

とはいえ、透明性や説明責任の欠如を感じたとして、電力会社をやり玉に挙げるだけでは問題はほとんど解決しません。電力会社の現場の方々は誠心誠意頑張ってると思います(少なくとも私が知ってる電力マンはみなそうです)。しかし、透明性は現場の努力や誠意だけで解決するものではありませんし、現場に責任を押し付けてもいけません。この問題はそもそも制度設計の構造的問題だからです。そしてここで言う透明性とは、単に情報開示や説明責任だけでなく、格差のない情報収集や公平な意思決定というプロセスまで包含します。

 

以下、出力抑制問題を例にとって、透明性が如何に重要であるかを例証していきたいと思います。出力抑制については前々回で短く触れましたが、この問題も先の「価格シグナル」と同様、透明性と制度設計の問題に還元することができます。

 

 

出力抑制が物議を醸すわけ

 

例えば九州電力では、現在接続申込の回答を保留中ですが、無補償の出力抑制などの一定の条件を満たす場合は個別協議に応ずる、としています。これは、保留を避けたい発電事業者は不利な条件を仕方なく飲むしかない、という意味にも解釈でき、「市場支配力の不当行使だ!」と発電事業者の不平や不満が集中しているようです。

 

太陽光や風力など燃料を備蓄できない再エネ電源の出力抑制とは、「余ったら捨てる」ことを意味します。これは一見無駄でもったいない行為のように見えますが、日本全体で考えると「ミクロに見たら一見損なことでも、マクロに見たら得になる(日本全体でもっと再エネが入る)」という問題に置き換えることができます。このような全体最適化問題に対しては、一部のプレーヤーが一時的に損をするように見えるため、より一層の透明性高い情報開示と意思決定と説明責任が必要とされます。

 

実際に、ある地域のピーク電力とほぼ同じくらいの再エネ電源の設備容量が導入されたとして、発電が需要を完全に上回ってしまう期間は、春秋の晴天日の日中数時間であることを考えると、時間数にして年間100〜200時間程度しかありません。これは年間歴時間8,760時間のわずか1〜2%です。この分の売電収入が得られなかったとしても、本来高い買取価格が保証されているFITスキームでは事業採算性を圧迫するほどの損失にはなりません。風力発電の場合も同様で、需要が最も低くなる春の夜間強風時を想定しても年間100時間を上回ることはあまり考えられません。

 

上記の試算は雑駁で必ずしも正確ではありませんが、一旦このような傾向を知れば、年間のわずか数%の時間帯に発電事業者が少しずつ出力抑制に応ずることにより、発電過剰の問題は十分解決できることがわかります。必要なのは、太陽光などの設備容量 (kW) があとどれだけ入る/入らないという「入口論」の論争ではなく、日本全体としてどれだけ再生可能エネルギーからの電力量 (kWh) を取れるか、という「出口論」の議論です。そしてその kWh が多くなればなるほど化石燃料を減らすことができ、CO2排出量や輸入依存度・貿易赤字を確実に減らすことができるのです。

 

 

不透明な「30日ルール」

 

一方、FIT法施行規則(経産省省令)では「当該抑制により生じた損害(年間三十日を超えない範囲内で行われる当該抑制により生じた損害に限る。)の補償を求めないこと」とあり、年間30日までは無補償で一般電気事業者(電力会社)が出力抑制を行ってよいことになります。この「30日ルール」が再エネ事業者と電力会社の間で無用の疑心暗鬼を引き起こしている、と筆者は見ています。

 

この省令で明記された「30日」を単純に計算すると、年間365日のうち約8%にも達します。ここが疑心暗鬼の発生源です。例えば、電力会社(特に送電運用部門)から言えば「いや、30日と書いてありますが、実際に抑制をお願いするのはそのうちの数時間なので、8%も止めることはないですよ」となります。一方、銀行など投資家にとっては「法令文書で書かれている以上、最悪の場合を考えてリスクを想定しなければならない」となります。年間で8%もロスがあることを見込めば、それは当然FIT買取価格を不要に押し上げることになってしまいます。特に今回の回答保留を受け、経済産業省の系統WG案は30日を超えた出力抑制分も補償しないことを示唆しています。事業リスクはますます青天井で上がってしまうという不安が事業者に蔓延するのも無理はありません。

 

一方、出力抑制に関する国際的な評価手法としては、風力発電が年間に発電するはずだった発電電力量 (kWh) に対して送電会社の要請により発電できなかった電力量の割合(%)で表す手法があります。スペインやアイルランドの風力発電の実績では年間1〜2%程度というデータが出ています。また前述のように簡易的に、総時間数で考える方法(年間8,760時間に対して○時間など)もあります。このような評価手法を用いるだけで透明性がぐんと上がり、不確実性(ひいては事業者の事業リスク)を低減させることができます。経済産業省の系統WG案でも現在このような方法が議論されており、これは評価できる点です。

 

では具体的に、現状の九州や東北でどれくらい出力抑制を見込めばよいのでしょうか? その答えは筆者にもわかりません。なぜなら日本は国レベルの広域的な系統研究をしたことがないからです。欧州や北米では、ある国や地域に大量の再エネが導入された場合、出力抑制も含めた電力系統の運用をどうすべきかということは、国家プロジェクトレベルで系統シミュレーションが行われています。このような研究は「グリッドスタディ」と呼ばれ、例えばドイツではDENA Grid Studyという有名な報告書が既に2005年の段階で公表されています。日本でも早急に国全体でこのようなグリッドスタディを行うべきです[*1]。これにより、現時点での技術や法制度でどの程度出力抑制が発生するのか、技術や制度が変わればどの程度それが低減できるのかが、ある程度わかることになります。このように国レベルで透明性の高い研究をすることにより不確実性を下げ、多くのプレーヤーの不満や不安を解消することができるようになります。【次ページにつづく】

 

[*1] ちなみに、現在系統WGで議論が進んでいる各電力会社管内の接続可能量の計算は、風力発電や太陽光発電の出力を確率論的に模擬する手法(2σ手法)を用いたり連系線の活用を考慮しないなど国際的に推奨されていない方法を用いており、とてもグリッドスタディと言えるレベルではありません。各国のグリッドスタディに関しては以下の文献(特にp.87〜89の表22)を参照下さい。「国際エネルギー機関 風力実施協定第25分科会 (IEA Wind Task25): 第1期最終報告書「風力発電が大量に導入された電力系統の設計と運用」, 日本電機工業会 (2012)」

 

 

 

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