方言とコミュニケーション――「ヴァーチャル方言」とその効能

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「方言」とネット

 

「話しことば」には、「何」に相当する言語情報に加え、「どう」に貢献するイントネーションや口調、声の大小や緩急の付け方、声の質といった副言語情報や非言語情報がたくさん付与されている。対面コミュニケーションの場合は、さらに表情やしぐさなど、意識化されたものかどうかは別にして、「どう」に関連する情報を多様な方法で相手に発信している。

 

それに対して、「書きことば」や「打ちことば」のような文字を中心とした視覚的情報によるコミュニケーションにおいては、副言語情報や非言語情報によって伝わるニュアンスが欠落する。そのため、携帯メイルなどを中心に、記号・絵記号・絵文字・顔文字などを用いた新しい配慮表現が発達した(三宅和子2011)。

 

「デコメール」(※11)などは、そういった配慮表現欲求に応えて、商品化されたものである。LINEのスタンプなどは、視覚的情報を用いた配慮表現の最新形といえるかも知れない。

 

私的な場面で用いられることばである「方言」は、「話しことば」においても、ホンネらしさを覗かせたり、平板な共通語的日常を打ち破ったりするには、使い勝手のよいツールである。

 

文字を中心とした視覚的情報に基づくコミュニケーションにおいては、欠落しがちなニュアンスの補填ツールとして、「ヴァーチャル方言」とそれと結びついた方言ステレオタイプは重宝するのである。

 

これが、「方言コスプレ」がネット時代を経て前景化してきた大きな理由のひとつである。

 

ジャストシステムが開発した日本語入力システムATOKの「話しことばモード」は、「関西」「北海道九州」「関東」「中部北陸」「中国四国」「九州」の各地方言に対応している(※12)。これは、「話すように打ちたい」というユーザーのリクエストに応えるかたちで関西弁を皮切りに、順次導入されたという経緯がある(新田実2003)。

 

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(図:「話しことばモード」)

 

 

「話しことば」が主であった「方言」は、こうして「打ちことば」として「見える化」された。そのことによって、さらに「方言」を用いた「打ちことば」コミュニケーションの一般化が後押しされ、「方言コスプレ」が多くの人の目に触れるようになってきたのである。

 

 

「ヴァーチャル方言」の効能

 

土地と結びついたリアルな方言が、それを受けとめる人びとの心に温かい何かを充たす。たしかに「方言」にはそういった効能もある。しかし、さまざまなコミュニケーションにおいてヴァーチャルな方言のもつ力もあなどれない。「ヴァーチャル方言」がリアルなコミュニケーションを円滑化するという、近年前景化してきた「方言」の新しい用法とその効能は見てきたとおりである。

 

「ヴァーチャル方言」のリアルに対する効能としては、ポスト東日本大震災ドラマとして位置づけられるカップリングドラマ(※13)の対照的な「ヴァーチャル東北方言」の使い方を指摘しておきたい。

 

大河ドラマ『八重の桜』(※14)においてヒロインの八重が時代とともに流転しながらも一貫して用いる「会津ことば」と、連続テレビ小説『あまちゃん』のヒロイン・天野アキが用いる「ニセ東北弁」である。

 

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(左から『八重の桜』八重、『あまちゃん』天野アキ イラスト・風間綾乃)

 

このふたつのドラマは、時代背景・内容・ムード・演出などさまざまな観点において対照的だが、「方言」の用いられ方においてもウラオモテの関係にあるといっていい。

 

『八重の桜』における土地との結びつきに焦点を絞ったリアルさを追求した「ヴァーチャル方言」による“地元”へのエールと、『あまちゃん』のヨソモノが獲得していく「ニセ方言」を用いた生まれ育ちという観念とは別の“大好きな地元”に対するエール。

 

「ヴァーチャル方言」のもつ効能の可能性を感じさせる好一対ではないだろうか。

 

【引用文献】

岡室美奈子(2014)「方言とアイデンティティー―ドラマ批評の立場から―」金水敏・田中ゆかり・岡室美奈子編著『ドラマと方言の新しい関係―『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ―』(笠間書院)

金水敏・田中ゆかり・岡室美奈子編著(2014)『ドラマと方言の新しい関係―『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ―』(笠間書院)

齋藤健作・二瓶亙・関口聰・三矢惠子(2014)「朝ドラ『あまちゃん』はどう見られたか―4つの調査を通して探る視聴のひろがりと視聴熱―」『放送研究と調査』2014年3月号(NHK放送文化研究所)

佐藤和之(1999)「方言主流社会」佐藤和之・米田正人編『どうなる日本のことば』(大修館書店)

柴田武(1958)『日本の方言』(岩波書店)

田中ゆかり(2011)『「方言コスプレ」の時代―ニセ関西弁から龍馬語まで―』(岩波書店)

田中ゆかり・前田忠彦(2012)「話者分類に基づく地域類型化の試み―全国方言意識調査を用いた潜在クラス分析による検討―」『国立国語研究所論集』3(国立国語研究所)

東北大学方言研究センター(2012)「第3章 方言は被災者を支えることができるか」『方言を救う、方言で救う―3.11被災地からの提言―』(ひつじ書房)

新田実(2003)「漢字仮名変換〈方言モード〉開発の道のり」『月刊言語』32(5)(大修館書店)

三宅和子(2011)『日本語の対人関係把握と配慮言語行動』(ひつじ書房)

 

【脚注】

(注1)『出身地鑑定!!方言チャート たぶん…完成版』
(注2)方言研究の文脈ではこのようなことばのことを「気づかない方言」と呼ぶ。『方言チャート』を立ち上げた東京女子大学の篠崎晃一教授は、この「気づかない方言」の専門家。
(注3)「共通語はもちろん通じるのだが、方言を使って生活をした方が地域社会の中での人間関係をうまく保てる社会」(佐藤和之1999)。
(注4)「共通語志向」から「方言志向」への移行は、おおむね1940年代生まれから1960年代生まれにかけて、進行した(https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0248700/top.html )。
(注5)東北大学方言研究センター「東日本大震災と方言」
(注6)NHK連続テレビ小説一覧『あまちゃん』
(注7)齋藤健作・二瓶亙・関口聰・三矢惠子(2014)。
(注8)現代用語の基礎知識編2013年ユーキャン新語・流行語大賞のトップテン年間大賞に「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「倍返し」とともに選ばれた。
(注9) 2012 http://www.ninjal.ac.jp/publication/papers/03/
(注10)方言に対する否定的感覚のこと(柴田武1958)。
(注11)NTT Docomoの入力した本文に合わせて、ワンタッチでデコメ絵文字やデコメピクチャを簡単に挿入するサービス(https://www.nttdocomo.co.jp/service/communication/deco_mail/ )。
(注12)「5分で分かる!かしこいATOKの使い方」
(注13)岡室美奈子(2014)。
(注14)大河ドラマ一覧『八重の桜』

 

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