性的マイノリティの老後――暮らし、老い、死ぬ、生活者の視点で語りたい

こうすればゲイも老後を迎えられる

 

当初は私一人で呼びかけたLP研だが、いつしか仲間が集まり、2013年春、NPO法人パープル・ハンズが設立された(認証は同年8月)。そのさい同性愛者の冠をとって性的マイノリティ全体を対象とすることにした。性的マイノリティの高齢期を考え、つながる場として、LP研(勉強会)のほか、カフェや電話相談をコツコツと続けている。

 

また、私ごとながら同年、行政書士の資格を取得し、登録・開業した。法律家のハシクレとして、現行の法制度を十分活用した高齢期サポートの提供に、仕事としても取り組みたいと思っている。

 

足かけ5年のLP研などの活動から見えてきたのは、「自分が死ぬまでお金はもつのか」「故郷に置いてきた老親どうする」「子のない自分の老後はどうなる」に多くの人が悩んでいることだった。私はこれをゲイの三大難問と呼んだ。それに応えるのがライフプランニングだ。

 

ライフプランニングというと富裕層の蓄財話と聞こえるが、まずは現行制度の熟知と活用、加入が義務の社会保険をベースとした生活防衛策を語った。なるたけ金を使わない方法、使うならゲイの現実にあった使い方を編み出そう――それがLP研の持ち味だ。同性婚がないから生命保険に入れない、とよく話題になるが、子どもがなく共働きならそもそも生命保険に入る必要がない、その分のお金は違う使い方をしたほうが賢明では、というのもその一例だ。入院だって、社会保険(健康保険の高額療養費等)でじつはなんとかなる。

 

むしろ、結婚や家族の制度に守られていないぶん、自己決定と書面などによる外部への表示が大切だ。相続における遺言、発病・意思不明時に備える緊急連絡先カードや医療の意思表示書などはその典型だ。そして、究極、これらは自筆でも作成することができる(書式例も『にじ色ライフプランニング入門』にすべて掲載しているし、LP研等でも紹介している)。実際、LP研などでも個人情報保護法のために「家族でない」として病室に入れなかったとか、医師からパートナーである患者の情報を聞けなかったなどの経験が報告されている。

 

LP研は、カネのある人狙いの「ここだけの、おトクな情報のご紹介」ではない。こうすればゲイも老後まで(そこそこ)生きていけるのではないか、それを「ライフプランニング」という補助線を引いて、技法の点から保障しようというのがその趣旨である。いわばゲイなりの「人生の春夏秋冬」「人生の型」を作りたかったのだ。政府や経済界から強制される「自助努力」には強い警戒を示したいが、「ちょっと努力が必要だけど、私たちにもできることがある」「あなたも一緒に歩もう」「だから早く死にたいなんて言わないで」――当事者へ本当に伝えたいのは、このメッセージだ。

 

 

二丁目にあるコミュニティセンターaktaで開催されている「ライフプランニング研究会」の模様。ゲストのトークに続き、会場からもさまざまな質問が出る学び合いの場だ。(カメラの手前にも参加者がいます。)

二丁目にあるコミュニティセンターaktaで開催されている「ライフプランニング研究会」の模様。ゲストのトークに続き、会場からもさまざまな質問が出る学び合いの場だ。(カメラの手前にも参加者がいます。)

 

 

「情報センター」型NPOから「独自事業」型NPOへ

 

LP研は現在もパープル・ハンズの基幹イベントとして継続している。2014年度は、高齢期を考えるための社会のさまざまなセクターと繋がるシリーズとして、非当事者のゲストをお招きしてきた。当事者だけでは老後は送れない。介護のケアマネージャー、中野区社会福祉協議会のかた、不動産業者、区内の葬儀業者……。はじめはオファーを受けて、おっかなびっくりのゲストもいたが、終わってみるとお互いに「へーーー」という繋がりが生まれた。今後はシェアハウスに取り組むかたや、お墓を考えるために宗教者のかたとも繋がりたいと思っている。

 

中年以後の当事者が、(ゲイバーなどの場では話題にしづらい)介護や老後のテーマを語りあう「パープル・カフェ」も、貴重な場として続いている。

 

2014年の春には、創立1周年のイベントとして、「おひとりさまの老後」でも知られる上野千鶴子さんの講演会を開催し、当事者/一般をあわせ約100名が参加した。「在宅ひとり死」を精力的にフィールドワークする先生の話は、いたずらに「孤独死」におびえる当事者の視点を変えたのではないだろうか。

 

現在のパープル・ハンズは、「情報センター」型NPOと言ってよいだろう。将来は「独自事業」型NPOへ脱皮していけたらと思っている。

 

 

・  ライフプラン相談、カップル間での任意後見や遺言作成などの法務サポート提供

・  高齢一人暮らしゲイなどへの見守りサービス受任

・  死後事務受任(遺品片付け、遺言執行等)、葬儀(コミュニティ葬)や合同墓(にじのお墓)の運営

・  単身者の集住支援(いわゆるシェアハウス。空き家を借り受けてなども)

 

 

そんな当事者向け事業を夢見ている。また昨年、助成金を得て事務所のある中野区内の介護事業所へ、これからニーズが顕在化する性的マイノリティやHIV陽性者についての研修会を開催した。こうした社会環境の改善も、並行して進めていくつもりだ(介護職の当事者ともつながりつつある)。

 

 

パープル・ハンズの活動を紹介する読売新聞(2014.10.30)。YOMIURI ONLINEにも転載http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=107825されている。

パープル・ハンズの活動を紹介する読売新聞(2014.10.30)。YOMIURI ONLINEにも転載http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=107825されている。

 

 

人頼みではなく、「欲しいものは自分で作る」

 

性的マイノリティの活動をする団体には、社会へ向けての啓発を主眼とするところもあれば、パープル・ハンズのように当事者支援(というか、当事者コミュニティの構築)を行なうところもある。現在、啓発系団体の努力により性的マイノリティの情報は浸透しつつあり、社会もまた「聞く耳」を持ちはじめた観がある。むしろ、いまいちばん変わらなければならないのは、当事者自身かもしれない。

 

70年代、女性たちは「わかってもらおうは乞食の心」(田中美津)と喝破し、わかってほしいと男にすがるのではなく、女たちの自前のネットワークを築いていった。

 

80年代、障がい者は施設で手厚く保護される福祉を拒み、「当事者主権」を合い言葉に自立生活センターを作って町で暮らしはじめた。

 

もちろん性的マイノリティには、「生きづらさ」に寄り添う社会的理解も包摂的な施策もまだまだ必要だろう。それに取り組む事業もある。だが、他のマイノリティ領域の当事者たちが過度な庇護に背を向け、「欲しいものは自分で作る」「私たちはそんなにカワイソウじゃない」と、みずからの足で立ち、切り開いていった道を、私たち性的マイノリティも歩めないはずはない。政治も悪い、社会も悪い、メディアも悪いし教育も悪いだろう。しかし、それでも私は生きていかねばならないし、老いもする。メディアや企業がちょっとLGBTを取り上げてくれた、と一喜一憂している場合ではない。

 

パープル・ハンズには、どちらかというと、自分を〈福祉イメージ〉に当て嵌められるのが苦手な人が集まるようだ。あなたのマスコットにはならないよ、せめて半径10mは仲間と機嫌良く過ごせる環境は自分で作る――そんな〈自立する小さな共同体〉とそれがDNAチェーンのようにも連なるイメージを、私は性的マイノリティの老後の生存戦略として抱いている。それは自分のためでもあり、上の世代として、最初に紹介したツイートの若いゲイたちのためでもあるから。

 

 

永易04

 

 

シノドスは一般読者を対象としているメディアだが、私は拙稿をなによりも当事者へ向けて書いた。ただ、性的マイノリティの「当事者」はつねにグラデーションだ。パープル・ハンズも「性的マイノリティおよび多様なライフスタイルを生きる人びと」のNPOである。拙稿が「非当事者」とされる人にもなにか得るところがあったなら、望外の喜びである。

 

■パープル・ハンズ 

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