新しいセックスワークの語り方―― 風俗、援デリ、ワリキリ…、同床異夢をこえて

セックスワーカーの生態系

 

荻上 ワリキリの当事者調査では、元風俗嬢、兼業風俗嬢もかなりいます。彼女たちが、風俗で働くことに対する不満のトップ2としてあげたのが、「客を選べない」「風俗の給料では食べていけない」。セックスワーカー同士の競争において、「風俗(だけ)では食えない」人が、個人売春を行うというルートがあります。

 

とはいえ、個人売春も、決して高所得ではない。月単位で言えば、大卒の初任給くらいです。沢山のお客さんに対してチューニングを合わせることが難しい、そうしたスキルが身につけられないっていう個人的な問題もありますし、市場の変化によって単価がさがり、風俗だと自分で客が取りづらいっていうところもあったりする。風俗業界の内部においてこうした格差は感じますか?

 

水嶋 2005年以前の店舗型の時代から風俗嬢をやっていた私のようなタイプは、当時からの固定客をいまだに持っていたりしますし、あるいはお客さんをリピートに繋げるノウハウを持っていたりもします。

 

逆に新参の人だと、そうしたノウハウを学ぶ前に野に放たれてしまったことでお客さんの繋げ方が分からず苦しんでいたりする。あるいは、もっとラフに、ある意味では適当に仕事をしているアルバイト感覚の子もいたり、と生態系が非常に複雑になっているように感じますね。

 

荻上 わがことながら、この生態系観察の問題は非常に根深く感じます。生態系のどこの層を見ているかで語り方が変わってくるんですね。自分がみた「部分」をもって、「自分はサルをみた」「いやトラだった」「いやいや、ヘビだ」みたいに語ってしまっていたが、実はヌエだったみたいな。

 

そうしたことを避けるためには、業界をより大きく構造化して見る必要があると思うんですが、その点、この本はその構造化に成功している本であり、どういう人がどういう形で風俗業界というエコシステムの中にいるのかということが可視化できるようになっていると思ったんです。

 

ワリキリにくる人にもまた色んな人がいるんですけど、その中には風俗だけではなくて、他の企業などで働くことも難しい層がいます。生育環境などのデータをみても、別の雇用であろうが福祉であろうが、そうした人にとっての道筋の少なさみたいなものを感じるんです。じゃあ苦痛であればセーフティネットにつながれるかといえば、そうではない現状がある。

 

水嶋 道筋の少なさは本当に問題で、私も本の中で風俗嬢の転職事情について少し書きました。また、苦痛の自覚があるんだったら社会保障に繋ぐという話が出ましたけど、私はそこに少し慎重で、そもそも風俗をセーフティネットと捉える視点に対しても全く反対というわけではなく、アンビバレントな眼差しがあるんですね。

 

たとえば、実際に講師として活動する中で、「この子にはこの仕事向かないだろうな」と感じることはしばしばあります。たとえば物覚えが非常に悪かったり、身体の動きが悪かったり、コミュニケーション能力が低かったり。そういった子たちに対して、ミスマッチを理由に別の仕事を勧めるということも必要だとは思うんですが、それをきちんとやっていくと風俗は本当に狭き門になってしまいます。

 

そこで私の場合、そういった子たちを変に型にはめようとするのではなく、「ここをこうやったら上手に見えるよ」とか、「こういうごまかし方もあるよ」とか、上手になってもらうというより、下手なりの生き延び方を教えるようにしているんです。

 

あるいは、もしお客さんと周波数が合わないなって思った場合、「うちのお店のAちゃんはすごい愛嬌があって人気があるから是非入ってみて」といったように、他のキャストを紹介することによって、店全体としての利益に繋げることはできたりするということ、要はクロージングの掛け方をちゃんと教えてあげるんですよね。

 

そこが重要なポイントだと思っていて、お店側から見た時に「この子は、指名はあまり持ってこないけど店リピは残してくれる」という評価になれば生き残れるんです。

 

そうしたリレーションの視点を経営者側にもきちんと持ってもらうことができれば、風俗嬢という職業のハードルも大分下がるし、そうした経営の合理化が引いては社会福祉にも繋がっていくんだと思ってます。

 

荻上 サッカーでいう「得点率」と「アシスト率」の話みたいですね(笑)。アシスト率をきちんと集計することによって、経営者に適切に評価できるようになるみたいな。そうした観点が共有され、「使い捨て」という発想から離れていくことができるなら、これは非常にいいことだと思います。

 

鈴木 絶対に必要ですね。今、支援者サイド、とりわけ女性の貧困であったり、女性の性的搾取の問題をクローズアップしている人達は、「相談者を待つのではなくアウトリーチしよう」といったことに挑戦しているわけですが、アウトリーチするのであれば風俗店と一緒になって行うのが一番効率的なんです。むしろ、それ以上の方法はないのに、実際は支援者と風俗周辺者はほぼ敵対関係になっている。結局、一生懸命に街で声を掛けるといったアウトリーチ活動をしたとしても、それは余りにも非効率です。

 

とはいえ、おそらく、現時点で水嶋さんが仰ったような視点をもっているハイスペックな業者というのはごく一部で、ほとんどの業者は何も考えていないんですね。だから、まずは働いている子の適性のグラデーションというのを業者が把握する必要がある。

 

これは経済活動の上でも効果的ですし、逆に100%不適な子というのが分かれば、その子たちは完全に支援対象となるわけで、もしセーフティネットとしてやっているという自覚が業者側に少しでもあるんであれば……。

 

まぁ「ある」って言う周辺者は、特にスカウト業などにも多いですけど、それならば、完全に不適な子たちをきっちりと支援者に繋げていくような連携を取っていくべきだと思うんです。

 

 

性風俗と社会福祉

 

荻上 水嶋さんは風俗が「セーフティネット」として語られることについてはどうお考えですか?

 

水嶋 難しいところですね。そもそも、この業界は福利厚生の部分が非常に薄いので、現状では福祉感なんてとても感じられません。基本はみんな経済活動のためにこの業界に参加しているわけですから。

 

鈴木 そこにはジェンダーの壁というものがある気もします。たとえば、男性の世界では土木が昔から雇用の創出だとずっと言われてきている。今はあらためて土木業界をホワイト化しようとなり、社会保障の問題などでパニクってます。

 

ではなぜ同じロジックで女性の性産業が語られないのかって言ったら、そこに「女が体を売るなんて、はしたない」って頑然たるジェンダー論の壁があるからと思うんです。しかし、そこをブレイクスルーしない限りはダメだと思う。ブレイクスルーしたら、確実に雇用の創出にもなるし……、と思っていたんですけど、こんなに風俗の仕事がハイスキルなものだとは僕は思ってなかったんで、今となってはなんとも(笑)

 

荻上 ただ建築の仕事でも今はハイスキルになってますよね。また逆に、ワーキングプアの議論は、他の仕事であっても福祉の議論と隣り合わせだったりする。「セックスワークだからこそ福祉の議論で語る」というのは間違いですが、ブラックなセックスワークについては福祉の視点も欠かせない。

 

他方、ワリキリを調査して背景を追ってみると、彼女たちの状況というのが「詰みやすい」のも確かです。特に「貧困型売春」の場合、他の仕事を望むけれど、手段がみあたらずミスマッチでセックスワークにコミットしているという層がいる。

 

もちろん付言しておけば、特段の苦労もなく、楽しんで続けている人もたくさんいる。だから、業界内部の労働環境について考えることと同時に、業界の外側やマクロの話も同時にしていかないとならないなと思います。

 

水嶋 風俗の問題がテーマになると、色々な関係性が分断されてしまうというか、本来はマクロな視点が必要な場合でも風俗だけがずぼっと取り上げられて、そうした問題を抱えている産業は無くしてしまえ、みたいな乱暴な議論になってしまいがちなんですよね。

 

いま私は東京オリンピックをすごい心配していて、それこそ歌舞伎町が変化していくことで居場所を失ってしまう人達の行き場を考えなきゃいけないな、と思っています。

 

 

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(写真左から荻上チキ、水嶋かおりん、鈴木大介)

 

 

誰にとって何が問題なのか

 

荻上 逆に、風俗業界の状況が改善していくことによって、そこからむしろ追い出されてしまう人もいる。今まで働けていた人達が働けなくなる。ワリキリ調査の側から眺めてみると、そうした状況が露骨に見えてくる。一定のハンディキャップを持った人に、リスクを押し付ける社会の縮図にもなっている。

 

労働状況の改善と同時進行で、働けなくなってしまう人達に他の選択肢を考えるなり、福祉を利用するなりといった部分が必要だと思うんですけど、水嶋さんから見てそのバランスはどうですか?

 

水嶋 まず、さっきも少し言いましたが、リレーション的な視点を取り入れるなど経営者側の革新が必要だというのが一点。その上で、たとえば生活保護の取り方などを経営者の方が知っているということが重要だと思います。もちろん、そこにはリスクもあって、女の子に取らせた生活保護のお金を店側が管理してしまうというようなことになってしまう懸念もありますが。

 

鈴木 その懸念はかなりありますね。これまで男性の土木業では労働力にならなくなった作業員は囲い屋へ、という形で一つのビジネスになってしまっていますから。ところで、僕は次の雇用に繋げるって考え方が少し違うんじゃないかなって気がしています。

 

セックスワークで稼げない子、あるいはちょっとしか稼げない中で生活を切り盛りしている子の中には、セックスワークを選ばなかったら生活保護を受けるか餓死するしかないという人がいっぱいいるんです。その人達にすぐ次の仕事をというのではなくて、まずは生活保護を与えてきっちり休ませてあげてほしいんですよ。

 

なぜかと言うと、その状態でずっとやってきた人って相当に摩滅してるんです。借金なんかも重なってたり、子供もいたりとかなってくると問題が山積していて混乱してしまっている。その人達をその状態のままで次の職場に繋げても絶対に続かないと思うんですよ。

 

ベストとしては業界の最適化をしていく中で、適性がないと判断された人達をピックアップして就業ができるまでの休息時間を与えていく作業を行うことだと思いますね。その点において、いわゆる福祉、支援サイドのアウトリーチと、セックスワークの最適化っていうのは完全に同じ道を向いていると思うんです。

 

水嶋 そこには少し懐疑的です。アウトリーチをしたいという人達は「彼女たちにとって何が問題なのか」という部分と、自分たちの問題意識をちゃんと摺り合わせできているのか、かなり怪しいところがあって……。

 

鈴木 たしかに現状ではセックスワークの犯罪化を目指している人達が多いですよね。

 

水嶋 買春者罰則規定についての議論もそうですけど、現場の声とリンクできているのかが疑問です。

 

荻上 買春者罰則規定については、ポジティブに機能するイメージが湧きませんね。結果、そこで働いている人にとってマイナスにしかならないだろうと。たとえば、買春者と売春者の直接交渉がリスクだとなれば、中間に紹介業者ができそうですね。するとセックスワーカーの取り分が減ることになる。

 

 

同床異夢をこえて

 

荻上 今日の一つのポイントは、グラデーションをいかにグラデーションのままとして理解してもらうのか、ということにあると思います。

 

この鼎談でも実は、3人とも観ているフィールドがそもそも違うんですね。そこで、各話者が、グラデーションを意識しながらも自分がそのグラデーションのどの部分について語っているのかということを議論しあっていくことが必要だと思うんです。

 

そのうえで、それぞれを読み通すとなんとなくセックスワークの全体像が見えてくるという状況になってきているようにも思います。すると、今度はアウトプットの段階、それぞれのニーズに対してどんな方法論が必要なのかということを考えていけるのではないかなと思うんです。

 

水嶋 そうですね。本書のタイトルが『風俗で働いたら~』であって『セックスワークやったら~』ではないのは、そういうことなんです。風俗で働いたらという形で、あえて部分を切り取って語らせてもらった。それはすごく重要なことで、私の得意分野は、セックスワークの中でも法令遵守に関わるような場所だっていう意識がある。自分の立ち位置が分からないとできない仕事というのが実はたくさんあるですよね。

 

荻上 僕の場合、セックスワークについて語れることはワリキリに限定されていて、大介さんだったら援デリの話になるんですね。それぞれ、自分の語りを全体化するということにはブレーキをかける必要があると。ただ相互で語ってみると、なんとなく全体の生態系が浮かび上がってくる。

 

鈴木 耳が痛いですね。僕なんか結局、売春に関わる女性も業者も10年取材し続けて来て、すぐ隣にあるはずの風俗嬢のスキルについて考えも想像も及んでいなかったわけです。

 

水嶋 目印になる人がグラデーションの各層にいることが大事かなと思っています。誰が何をできるかがまだ分からない状態ですから、それらを定期的に繋いでいくことで全体を確認しつつ連帯していく。その上で、やはり一番困ってしまうのが有害善意で、純粋な善意から「この仕事をやめなさい」みたいな感じでこられてしまうと、対話のしようがないというか。

 

荻上 「有害善意」の認識そのものもバッティングすることもあります。権利の向上、労働環境の改善、スティグマの排除を目指している団体がありますよね。個人的には支持します。一方で、劣悪な環境に置かれている、望まない労働を強いられている女性を福祉に繋げる団体もあります。これも支持できる。ただそこから先の手段に何を選ぶかでバッティングする。「より犯罪化する」路線と「非犯罪化する」路線とで、互いを有害善意だと思っている。僕は後者に近いですが。

 

鈴木 僕は著作物からすると露骨な「犯罪化」路線に取られかねませんが、後者ですね。結局何よりも大事なのは、風俗でも売春でも、そこにいる当事者の向いている方向を考えなければ、支援も業界の健全化もすべて有害善意の罠に陥りかねないということだと思います。

 

水嶋 そうですね。私もある意味では有害善意と取られてしまいかねない。本にも書きましたが、プロ意識を持とうと主張することで、単純なセックストレードを希望している人を疎外してしまうことになりかねないんです。

 

ただ、その上で俯瞰力っていうのが大事だなと思っていて。自分が何かを発信しようとした時、自分が誰を傷付けてしまうのか、自分が何に対して実害になってしまうのか、それらを理解した上で、「ごめんなさいね、傷付けてしまうかもしれないけど、こういうこともありますよ」っていう語り方をしていく必要があるな、と思っています。

 

荻上 そうした意味でも、今回の鼎談から学ぶことは多かったです。

 

 

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