「被害者萌え」では救われない――セックスワーク論再考

セックスワーク=貧困!? メディアがセックスワークと貧困の関係をぞくぞくと取り上げている。しかし、その関係性を強調するあまり、別の弊害は出ていないだろうか。今までのセックスワーク論をアップデートするために必要な視点を語り合う。(構成/山本菜々子)

 

 

感染症対策からはじまった「セックスワーク語り」

 

荻上 いま、新たな売春形態やJKビジネスなどにフォーカスをあてる形で、セックスワークが貧困のひとつの受け皿になっている語りが出てきています。ぼくも個人売春に焦点を当てて、貧困とセックスワークの関係について書いています。

 

こうした語りに対し、セックスワーク全般のスティグマ化につながるのではないかとして、要さんは懸念を表明しており、僕のリサーチについてもご批判をいただいたりしています。そこで今回は、SWASHの要さん、研究者の青山さんに、いま改めてセックスワーカーを日本で議論するため、どのような注意が必要なのか伺っていければと思っています。

 

まずは前提として、SWASHはどのような活動をされているのか、ご紹介ください。

 

要 97年に「セックスワークの非犯罪化を要求するグループ」(UNIDOS)で活動していたんですが、当事者に特化したような活動したいというメンバーが集まって、99年にSWASH (Sex Work and Sexual Health)が発足しました。

 

政治的な要求になってくると、どうしても当事者が置き去り、現場が置き去りでインテリな人たちの議論になりがちだから、当事者ベースでやっていきたいという思いがあったんです。

 

最近の活動では、従来の性感染症予防啓発や相談支援の継続のほか、風俗求人サイトでセックスワーカーが仕事をする上で知っておくべきことを毎月情報発信したり、当事者向けのストーカー対策の質問会や風俗店オーナー研修を開催したり、海外でのセックスワーカー会議では発表だけでなく、ここ近年はオーガナイズもするようになるなど、多岐に渡ります。(参照:2014年度SWASH活動報告資料 )

 

荻上 活動はどのように広がっていったのですか。

 

要 当時の厚生省では、HIV予防啓発の中でセックスワーカーへのアプローチがありませんでした。そこと調査協力しながら、性感染症予防に取り組みました。

 

しかし、やはり限界もあって、性感染症予防をメインにしないと助成金が取りづらかったんです。

 

エイズ予防啓発の取り組みのことしか助成金がなかなか得られないので、公衆衛生の面からしか、セックスワーカーを支えようという社会的な機運がなかったと言えます。

 

15年活動を続けていますが、女性支援の助成金や労働者支援関係の助成金を申請すると必ず落ちますね。セックスワークを辞めさせることが目的の申請だったら通りやすいみたいですけど、私たちは、セックスワークは労働という考え方なので弾かれてしまいます。

 

青山 厚生労働省から助成があったとはいえ、あくまで「厚生」の部分、公衆衛生の問題に対する助成です。HIV対策は個別施策層が決まっていて、その中の一つがセックスワーカー。いわば施策のための「研究対象」としてなら助成を受けられるというわけです。

 

要 2008年には派遣村やリーマンショックがあり、その頃から、派遣切りがきっかけでセックスワークに参入するようになった女性がメディアで取り上げられるようになります。そこから、セックスワークと貧困が結び付けられる動きがあるように思います。

 

荻上 いま、SWASHで力を入れている活動はありますか。

 

 風俗店のオーナー研修が新しい活動です。2012年からその可能性についてアプローチをし、去年から開催することができました。去年11月に行った、「セックスワーカーを守るためのストーカー対策研修」では、風俗店店長さん・男性スタッフさん90名にご参加いただきました。

 

今年は4月に「セックスワーカーにとって働きやすい労働環境=在籍率UP!」をテーマに研修&ワークショップを25名の店長さん・スタッフさんたちにさせてもらいました。

 

やっぱり、現場の男性従業員の方々も、セックスワーカーからの相談の乗り方やアドバイスの仕方について悩んでいるんです。「彼氏にDVされている」と言われても、どのようなアドバイスが適切なのかよくわからないと言います。DV被害者の相談機関やシェルターの存在も知らない方が多いので、情報提供できるようにしています。

 

もう一つは、セックスワーカーは悲惨で救済対象という風潮があまりにも強すぎるので、それに対する問題提起をしたいというのがあります。

 

セックスワークってどうしてもネガティブな面しか語られないし、求められないじゃないですか。でも、他の仕事だったら良い面も言われますよね。こんなに仕事で人に喜んでもらえるとか、自己実現できるとか、他の仕事に活かせるとか。

 

でも、そういう話をする人も団体もいないし、取り上げてくれるメディアもないんですよ。メディアはスキャンダラスで悲しい物語が好きです。悲惨な不幸話はみんな大好きで売れるから消費の対象で、それを何とも思わない人が多すぎる。去年、SWASHは「ストーカー問題」という関心でいくつかのメディアに取り上げられたのですが、私たちのメイン活動ではないのにこのような注目のされ方になります。

 

そこで、去年の12月に、「人生で大事なことはすべてセックスのお仕事で学んだ」という自主企画を11人のAV男優さんたちと開催しました。セックスワーカーのスティグマを強めるようなネガティブな話だけではなく、ポジティブな話も発信してバランスよくやらなければいけないと思っています。

 

荻上 マスメディアですと、「可哀想な面」に注目する情報の方が多いです。一方で、ユーザー向けのものなどでは、過剰にポジティブな言説が多い気もします。媒体や領域によって分断されていると思います。

 

いま、貧困とセックスワークとを結びつける言論があります。貧困を再発見することが新たな社会問題として響いた面もあると思いますし、それによってテレビなどでも取り上げやすくなったのは確かです。一方で要さんとしては、「権利」の問題がおきざりのまま語られることにもどかしい思いがあるわけですね。

 

要 そうですね。「貧困だから風俗で働くというのは残念だ、そのような因果関係はなくさないといけない」という考え方を多く人はしていると思うのですが、私が正しいと思う考え方は図解にするとこうです。

 

 

リスク軽減のアプローチ

 

 

左が、貧困とかのネガティブな動機のセックスワーカー、一緒くたの考え方です。右が、労働環境や労働条件の改善によって搾取とリスクをなくすという考え方。

 

前者だと、とにかくセックスワークをしなくて済むようにすることが主眼に置かれます。最近では貧困という言葉は経済的な意味だけでなく、関係性の貧困という言い方も流行っているみたいですが、この考え方もこちらに入ると思います。夜の仕事関係の人間関係しかないのは関係性の貧しい人々だということですね。

 

後者の考え方であれば、性産業内での搾取や暴力をなくすことに主眼を置きますので、当然、夜の仕事関係者の多様性の広がりや、社会関係資本に開かれた業界を目指すことになります。

それから、これもよくある見方として、風俗をいやいやしている人が辞めれるようにとか、好きでやってる人は別にいいけど、みたいな見方があります。これも働いている人を二分する考え方でよくないと思います。

 

実際には一般的な労働者がそうであるように、セックスワーカーも可変性のあるモチベーションです。これも考え方の違いを図解にしてみるとこうなります。

 

 

モチベーションの可変性

 

 

モチベーションがネガティブな場合、その人がセックスワークを辞めることが解決という考えに結びつきがちですが、セックスワークでの嫌な経験や危険な経験のほとんどは、社会的フレームや法的フレームによって引き起こされていて、セックスワークそのものが原因ではありません。だから現場改善の考え方、差別と偏見をなくそうという考え方が大事なのです。

 

青山 セックスワークになると、他の仕事とは違った特殊なものとして扱われます。悲惨な物語を商品にされるか、喜んでいるからいいじゃないか、と、お客の側だけの勝手な物語になるか。

 

当たり前ですが、仕事には楽しいこともあるし、困ったこともあります。セックスが介入するから偏見にさらされますし、肉体的接触を個室でするわけですからそれ独特の危険もあるでしょう。でも、リスクはどの職業についてもあるものなのに、セックスワークについては特別にリスクばかりが強調される。それ自身がすごく不当だと思いますね。

 

 

写真:左から要氏、青山氏、荻上氏

写真:左から要氏、青山氏、荻上編集長

 

 

調査設計のバイアス

 

荻上 僕がいま、セックスワークと貧困の問題についてどのような調査をしているのか、簡単にお話できればと思います。

 

これまで僕は、セックスワーク全般ではなく、出会い系メディアを使って行われる個人売春、通称「ワリキリ」をしている人にスポットを当ててきました。ワリキリはこれまで、風俗論議の対象になってきませんでした。また、現代のワリキリは、90年代の援助交際の議論を当てはめることのできない現象です。そこで、かつて軽視されていた経済的要因に着目したアンケートを行いつつ、当事者のインタビューを続けています。

 

調査によって分かった点は多々あります。ワリキリの実態は多様でグラデーションがあり、貧困型のものもあれば、目標金額を定めて副職として行われるものもあります。

 

そんななかで傾向としては、ここ数年でワリキリ業界の価格がすごく下がっています。マクロ経済や他の市場の変化も影響しているでしょうが、そうなると「低価格でもそこにいる」人が増えていることになる。ワリキリ市場の規模が縮小しているので、もしかしたら他の雇用にいったのかもしれません。

 

要 近年、セックスワークに関する調査が流行っていて、私もよく依頼され協力することがあるのですが、偏った調査が多いと思います。

 

質問の立て方にも疑問を感じるものが多く、「リストカットしたことありますか」「摂食障害ありますか」「家族から暴力がありましたか」とか。リストカットといっても、失恋でリストカットしたかもしれないですし、親からの暴力といってもタオルで「勉強せえよ」パシンってやられたことも暴力に入るでしょうし。全部が全部、セックスワークと結びつくわけではないと思うんです。

 

荻上 調査設計にバイアスがあるのではないかと。ただ、疫学的な話をすれば、他の集団と比べて数値上の違いがある、割合的に多いなと可視化された場合、ではどういうアプローチが求められてくるのかが見えてきます。「全部が全部」結びつけるというのは、そもそもが雑ですよね。

 

要 セックスワークのイメージが悪くなるからとか、そういうことではないんですよ。「被害ベース」と「ニーズベース」の考え方でやっていくべきと思うんですよ。

 

特定層をターゲット化するのではなく、救済のターゲットにされてない人も含めて、その人が必要としていることが適切に届くというのが大事だと思っていて、しんどさを階層的な見方で捉えていくというのは、他者が、それは大したことない、大したことある、の基準を決めていくことに繋がらないか心配です。

 

青山 ボトムラインは、現実的な政策を立てるには「全部悲惨」とまとめてはダメ、ということでしょうね。

 

上の要さんの図にあるように、性産業に従事することをみんなブラックボックスに入れてしまうと、ある状況を改善するための具体的な対策を取ることなく、「風俗は全部つぶせ」という話につながります。

 

みんな一緒くたにしてはいけないという前提を共有していないと、現実に細かに対応しないと減らない危険を増やすことにもなります。

 

荻上 そうですね。さらに言えば、「統計的差別」に使われる可能性はあります。明らかになった傾向を元に、「低学歴のビョーキのやつがやっているんだろう」みたいに語られてしまうとなれば、です。

 

他方で、いま困窮を訴えているワリキリ当事者はいるわけで、便宜的に区別し、社会保障の議論をする意義はあります。要さんは今、経済的問題ばかりが再クローズアップされた結果、権利の話が見えにくくなっているとお感じですか。

 

要 みんな「貧困の女子を助けたい」という気持ちが強すぎて、ほら見たことか、セックスワーカーはこんなに悲惨ですと広告代理店のような発想の扱いになっている。そうなると、どうしても人権ベース・労働ベースの話ではなく、性産業でサバイブしなくて済むようにという婦人保護ベースに偏っていきます。

 

そういう思考に陥ると、スカウトマンも風俗の店長も搾取する人たちというふうにしかみなくなる。いくら当事者が「店長いい人で親切な人です」と言っても、「それは男に騙されているからだ」と断定します。この図は、その視点の違いを表したものです。

 

 

 SWの問題意識

 

 

当事者調査の必要性

 

荻上 困窮に着目した、その先のソリューションに違いがありますね。ちなみに当事者の語りで言えば直近の調査で、ワリキリに対するイメージを尋ねると、フリー回答でまっさきにポジティブな回答をする層が2割、ネガティブな回答をする層が2割くらい、という感じでした。残り6割は、あくまで稼ぐ手段としてフラットにワリキリを語ります。

 

青山 この結果は面白いですね。確かな統計というよりも、調査している人の間で聞く「あるある話」ですが、イギリスなどヨーロッパでは、両極とも「1割、1割」だと言われることが多いです。つまり、一方では被調査者の10%を下回るくらいの人が、人身売買をされたり奴隷のように扱われている。

 

もう一方の1割は、いわゆる「ハッピーワーカー」で、仕事を仕事としてポジティブにうまくやっている。「2割、2割」は、ネガ・ポジにもっと幅を持たせたときの回答か、ワリキリの特徴なのかもしれませんね。

 

荻上 具体的なトラブルを経験しているのは1割ほどです。ポジティブにとらえる層は風俗を経験していて、風俗よりもよい市場として位置付けていました。

 

ネガティブの2割は、一般企業で働いていたり他の仕事を持ち、「ここに落ちてきた」という感覚を持っている。彼女たち自身がワリキリに対する社会的な評価、差別を内面化していて、自分たちをその言葉で切り刻んでいるという感覚ですね。このように全体の中には、剥奪感を持つ人も、獲得感を持つ人もいる。一枚岩ではありません。

 

ところで、「当事者のための調査」と言ったとき、他分野でも今は、「当事者参加型」が重要だとなってきています。そうした調査になっていないという指摘はもっともです。

 

青山 複雑ですよね。当事者調査ができる人たちは、そもそもそんなに条件が悪くない人たちでしょう。そして、ハッピーな人は現状を大きく改善する必要を感じないし、ハッピーじゃないひとは辞めていってしまいます。

 

ハッピーでない当事者自身に、それでも踏みとどまって現状改革のために行動しろ、まして改革までいきつくかどうかわかりもしない調査をしろ、というのは酷な話です。

 

特にワリキリは、ネットワークへのアクセスが制限されますよね。これもさっき要さんが指摘したように、産業の中で多様な人びとのつながりができればそれに越したことはないけれども、そういう現状にいない人は、大変な目にあった時さえ、同じような経験を持った先輩や仕事仲間とつながれない。

 

そもそも、自分たちは「ここに落ちてきた」というふうなミスマッチ感を持っていたら、内部であれ外部であれ、人や社会資源のネットワークにアクセスするのが難しいですよね。

 

荻上 本人がスティグマを内面化していますからね。ポジティブ層には、結婚資金をためるなどの目的があるのですが、彼女たちもやはりスティグマがあって、彼氏ができたり結婚できたりたら辞める。その経験を身近な人たちには言いません。

 

フラット層は、あくまでマッチした労働手段なので、特段「卒業」などは意識していない。そんな中で調査設計に参加する人、となると、そこにもバイアスは生じるんですよね。ワリキリの場合、風俗調査とはまた違う課題が出てきます。「早めの卒業」を望んでいる人が多いため、市場改善に参加数するインセンティブが低いのです。

 

青山 スティグマは社会全体のものだから、そっちが変わっていく必要がありますよね。同時に、当事者といってもさまざまであるとか、自分が底辺にいると感じている人は積極的な行動がなかなか取れないとか、困難は認めたうえで、やっぱり私は当事者調査が大事だというところは譲れないです。

 

学会でも、障碍(者)研究の分野なんかで、最近あらためて当事者中心主義が注目されていますが、研究だって政策だって、もっとも影響を受ける人たちが議論のテーブルにも呼ばれずに決まっていくのは、21世紀になってずいぶん経つのにおかしいですよね。人権とかなんとかいう以前に、「人をなんだと思ってんだ?」てことです。

 

荻上 そうですね。いまは、政府の有識者会議にも当事者団体の方が出てくるようになっていますからね。

 

青山 それなのに、性風俗産業についてだけは、当事者を呼ばないのはどうかとおもいますね。

 

荻上 「私たち抜きに、私たちのことを決めるな」(nothing about us without us)という障害運動のスローガンが、そのまま当てはまるのですね。【次ページに続く】

 

 

 

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