「被害者萌え」では救われない――セックスワーク論再考

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アウトリーチの難しさ

 

荻上 JK散歩が話題になりました。仁藤さんの『難民高校生』が評判ですが、同じくJK散歩の取材をしていた自分として、いま一般に語られているリアリティと、自分の感じたことは違います。

 

たとえば、話を聞いた子の大部分は「なにが悪いの」ってあっけらかんとしているし、裏オプをやる子はすごく少数です。

 

要 そうなんです。でも、一般の人はJKビジネスを売春するところだと思っています。

 

荻上 裏オプをやっている子は一部ですし、だまされた子も一部です。でもメディアも警察もそこに注目する。JK散歩規制条例も、青少年保護や福祉を名目としつつ、近隣住民の迷惑視という流れで進んできた。街づくり、景観、秩序の論理ですね。

 

JK散歩といいつつ、多くは「女子高生」ではない。18才以上の子も多いというだけでなく、16,17歳だがいわゆる「女子高生」ではない、学校に通っていないという子も多い。そうした子にとって、「マックよりも稼げるバイト」として魅力なんですね。でも、そうした「選択」はありえないとされる。

 

青山 JKビジネスのスキャンダルでは、「幼気な女子高生がこんな被害に遭ってます」と女子高生のイメージを売っているわけですよ。そこでまた「被害者萌え」を喚起している。ビジネスを運営している側と売ってるモノに変わりがない。

 

それに気づかない救済者は、売春婦救済の歴史と同じく、このしくみを根本的に変えることはできないでしょう。もちろん、未成年労働の観点からも問題ですが。

 

荻上 もちろん、いやな目にあって、規制してくれという人がいてもおかしくありません。それが、散歩と言う形態のせいなのか、客や店員の傍若無人な扱いが嫌なのか、問題を因数分解していく必要がありますよね。

 

青山 セックスワークだけのせいにしてしまう人が周りに多いほど、業界内の人も問題について発言しづらくなってきます。それもスティグマの効果ですよね

 

荻上 セックスワークの支援について、様々な団体が出てきています。懸念はありますか。

 

要 「なんでも困ったことあったら相談してください」と私が門戸をひらいても、私となんとなく相性合う人しか来ないと思います。仁藤さんも相談を受けつけていますが、やはり一般的に、共鳴するものがあったり似ている人が集まる傾向はあるでしょう。私もあんまりギャルぽくないから、ギャルっぽい子とは続きにくいですよ。

 

そうなると、「連絡してね」といっても、本当にアプローチしたい層には届きません。アウトリーチするには、デリヘルの待機室に入れてもらったりして、直接出向いていって相談電話をかけないような子にも知ってもらうような現場介入(現場相談・講習)ができることも大事だし、支援者個人のキャラや努力に頼ってもしょうがないことなので、オーナーの人たちと協力して、ワーカーが必ず目にするライングループ等に情報回してもらったり、風俗の会社やグループで出しているワーカー向けの「○○通信」のようなグループ内の新聞に載せてもらったりすることです。

 

お店が働いている子たちに相談先としてSWASHを紹介していると、ワーカーも安心して電話をかけられますよね。そして一番大事なのは、SWASHがいなくても、SWASHのような立ち振る舞いができる店長さんやスタッフさんを増やしていくことです。

 

荻上 なるほど。結構なNPO組織は属人的で、代表の個性と支援者がマッチングしないと支援が難しいという限界もあります。本来社会は、「窓口の人と相性が悪いから払わない」ではなく、普遍的な制度を提供するものです。そこからこぼれた人に個別で対応するのがNPOになっているので、そこは難しい問題ですね。

 

要 私もサポーターになっている、若者のキャリア教育支援をするD×Pという団体があるのですが、経済環境や養育環境の違いによる若者の未来の可能性の不平等の問題を解決しようとしています。

 

若者の選択肢を広げるためにいろんな仕事・人生経験のある大人と若者を繋げたり、若者に未来の幅広い展望を持ってもらえるような試みなのですが、若者をキャリア教育に繋げるアウトリーチワーカーとしてホストやスカウトマンと一緒にできたらいいですよね。夜の仕事している人らの中にも社会貢献したいと思っている人はいますから。

 

やはり一般的に、支援者に出会う入口として、ホストやスカウトマンのお兄さんがいたり、セックスワーカーもいたら、いいと思います。

 

夜寝てる昼間の生活圏の大人たちが、“「裏社会」の人々を「表社会」に引っ張り出す”ためにがんばってたりしていますが、私たちも現場だという意識で、例えばスカウトマンをオルグして育てて、アウトリーチワーカーや、セックスワーク・コミュニティ・ソーシャルワーカーにするべきです。

 

でも今の支援ではスカウトマンや風俗関係者を目の敵にしているものがありますよね。「女性を性の対象としてみる文化を無くそう」だとか、そういう方向にいっています。

 

荻上 無垢な女の子が被害にあうと言うストーリーがメインですよね。かつての援交論と逆転していますが、ひとつの物語として消費するという意味では対になっているとも言えるものです。

 

 

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写真:要氏

 

 

風俗とハーム・リダクション

 

荻上 幾人かの方が、僕の『彼女たちの売春』を引用する形で、風俗の規制化を主張されていました。昨今の、「需要を減らせば市場が消滅する」という論理で、買春を規制しようとする論理についてはどう思いますか。僕は反対です。

 

要 SWASHのサイトで、オーストラリアの報道番組「LATELINE」のセックスワーク特集の一部、「スウェーデン、買春する客を処罰対象に」(http://swashweb.sakura.ne.jp/node/143)の翻訳を紹介していますが、買春者処罰法があるスウェーデンでは、セックスワークをする場所提供は厳しく罰せられるので、路上でセックスワークするか、あるいは客の家に行くかという二つしかありません。しかしこの二つの方法は、セックスワーカーにとってはよりリスクが高くなるのです。

 

同番組では昨年買春者処罰化が決まったカナダのセックスワークの様子も紹介されたのですが、警察の監視が強まった結果、客と事前に交渉する余地もなく、客の車にすぐに乗ってしまわなければならなくなったり、客とお金の交渉がしにくくなり、仕事とプライベートの境界線を引きにくくなるなど、セックスワーカーの負担やリスク増大の声が出ています。

 

犯罪化してしまうと、「危ないからやめよう」という人は来なくなって、「それだからイイんだ、セックスワーカーの弱味を握れる」という危険な客がくるようになる。それと、セックスワーカーが、自分のお客さんが逮捕されないように客を守りながら働かなくてはいけない状況になるでしょう。

 

荻上 脅迫事案も増えそうですよし、窓口でのピンハネも増えるでしょう。不可視化することで、リスクはより増大します。

 

青山 犯罪化については国によってもですが、国連の中でも意見が分かれています。たとえばWHO、UNFPD、UNAIDSなどは、ハーム・リダクション(危害の軽減)という考え方にのっとって、犯罪でなくすることでセックスワークのリスクを低くすることをめざしている。

 

その対極のセックスワークは「すべて悪い」という発想で、厳罰化によって撲滅をめざす派閥もある。私は後者には実効性はないと思っています。

 

荻上 残念ながら、今の日本の政治状況からすると、ハーム・リダクションは縁遠い状況ですね。買春規制により需要を減らそうという議論は反対ですし、逆効果です。しかし非犯罪化を目指せる政治的状況にあるかといえば難しいとも感じています。

 

ぼくは、『彼女たちのワリキリ』の中で、「買春男たちに彼女たちを抱かせることをやめたいなら、社会で彼女たちを抱きしめてやれ」という表現を使いました。道徳論者に対する皮肉のつもりでしたが、セックスワーク批判だと捉えられる人もいました。

 

青山 この分野、皮肉はなかなか通じませんよね。抱きしめた上で、「可哀相だ、厳罰化しよう」と萌える人たちが多いのですから。

 

非犯罪化する(犯罪でなくする)と、まず、本人たちが暴力などの具体的な被害に遭った時に、警察に飛び込んで助けを求めやすくなりますよね。

 

それが今はできないから、良心的なお店で、女の子の権利と言うよりも、気持ちよく働いてもらえばおたがいに儲かるWin-Winだろうからなんとか守ってやるのが精一杯です。

 

荻上 諸外国の中で一番取り組みが進んでいるのはどこでしょうか。

 

青山 いま一番進んでいるのはニュージーランドですね。非犯罪化を2003年に実現して、それも当事者の活動が政策につながっていった。感染症予防のためでないと助成金が出にくいのは、どの国でも多かれ少なかれ指摘される共通の課題です。

 

でも、ニュージーランドではとくに、当事者団体がそのような調査をすることで、資料が集めやすくなったり、当事者のニーズに答えながら偏見なく進められたりした結果が非犯罪化でした。政策決定者側も、これと協力すれば実効性の高い法律が出来ると考え、それが実行されたんです。

 

もっと具体的に言うと、性感染症については、オーストラリアでも、セックスワーカー当事者が積極的に担う運動が政府の性感染症対策にも参加するという事実があり、セックスワーカー人口の方が、その他一般人口より感染率が低いという結果に結びついています。健康省が公式見解を出しています。

 

私としては、外国の事例をみていると理屈としては非犯罪化がいいと思います。私の知る限り犯罪化や厳罰化に賛成する当事者団体はありません。非犯罪化でスティグマが減少することが期待されています。ですが、急に日本で、売防法も風営法も無くしましょうとはいかないでしょう。

 

働く人の安全面でもそうです。法律で規制されている店舗型だからこそ、SWASHがしているような講習などの介入が可能なんです。規制が無くなってしまって、誰がどこで何をしているのかがますます分からなくなるのは、いまはリスクが高すぎる。「法律で規制せよ」という主張が理解を得るのは当然のことだと思います。

 

荻上 非犯罪化をめざしてはいるけれども、テクニカルにそれをどう実現するのかが難しいと。

 

青山 非犯罪化するには、労働者の権利が守られるという社会的な基盤が必要なんですよ。セックスワークだからといって特別な法律で取り締まられることはない。その代わり、他のどんな仕事とも同じように労働基準法などで働く人は守られる。他のどんな仕事とも同じように、その中で事件が起きれば事件、盗まれれば窃盗、殴られば暴行、強姦されれば強姦として扱われるってことです。

 

だけど、そもそも他の仕事でも労働基準法がなし崩しになっている日本の現状では、性風俗産業独特の規制をも無くす非犯罪化は、理想でしかないと感じています。

 

 

差別を利用されないために

 

荻上 ぼくはこれからも調査を続けますし、記事にも関わるでしょう。要望はありますか。

 

要 一言説明を増やしてほしいと思います。「セックスワーカー」だけではなく、他の仕事でも同じように、仕方なく仕事をしている人たちがいる。その人達がみんな社会教育や支援なりキャリアアップできればいいという言い方だとすごくフェアだし、スティグマにならない。

 

また、セックスワーカーの差別やスティグマを利用して、ほかの社会問題を訴えるのも差別の助長です。「セックスワーカーはバカで貧乏な人たちがこんなに多いから、社会福祉や教育をもっと良くしていかないとだめだ、就労問題を解決しないとだめだ」という取り上げ方です。

 

社会の不平等や格差のせいで、セックスワークという、人がやるようなもんじゃない仕事に就いている人たちがこんなにいるじゃないか、という差別的な煽り方をしなくても、社会問題は語れるはずですし、それはセックスワーカーだけの問題じゃないです。

 

それと同じくらいみんな気づかない問題は、女性や若い女の子たちだけがセックスワーカーであるかのように語れば語るほど、セクシュアルマイノリティのセックスワーカーが声を出しにくくなるということです。そこだけ気にしてもらえれば、いいかなと思います。荻上さんと私は、問題意識は同じだと思うので。

 

荻上 重く受け止めます。議論の「だし」にするのではなく、その市場、その当事者のための議論になるかと考えることが必須ですね。それから、生態系を共有することは大事です。どの部分をクローズアップしているのかについて自覚的にならないと、たまたまみた部分が全体だと認識されてしまいます。

 

自分が問うてきた一つは、性労働をめぐるミスマッチの問題です。排除を受け、そこにスティグマのある市場があったから、この仕事にやってきたという層が現にいます。ここにおいてスティグマが、参与者の選別を行う機能を持っている。その生態系を見ながら語りましょうということと、スティグマを無くすこと、そしてそれ以外のゴールイメージを持つ必要があると思います。

 

要 セックスワークの仕事以外にも、社会から排除されたと思って働いている人はたくさんいると思いますが。わたしは、差別があるから被害が起ることをもっと知って欲しいんですよね。自業自得や自己責任だと言われるのも差別があるからです。努力しないあなたがこんな仕事しているからだと。それを当事者も内面化する。

 

性感染症に感染しても、感染することを前提で働いているからでしょうと思われているわけ。セックスワーカーに危険な仕事をさせていい、そういう仕事でしょ、って、まともな仕事と思われてないという差別があるからだし、貧乏で頭の悪い人たちがやっているからしょうがないとか、お金もたくさんもらっているからリスクはしょうがない仕事、と思っている人が多いから、性感染症対策も進まない。

 

お店の悪い人や悪い客は、セックスワーカーへの差別や偏見があるという弱味を利用して悪いことをします。「こんな仕事していることをばらすぞ」と脅迫して、写真を取ったり誓約書を書かせたり、ストーカーするのも、差別を利用して行われます。

 

私達は、差別や人権の問題を主張しているのですが、それってプライドの問題だと思われてしまうんですよ。本当は差別によって被害があって、被害があるから差別をなくそうと言っているのに、「セックスワーカーの仕事をリスペクトしろ」と聞こえてしまうらしい。

 

青山 恵まれた人たちだと思われている部分はあるよね。

 

荻上 構造上の差別が利用されるということですね。そのとおりだと思います。差別や社会的状況を変える努力を長期的にやっていくと同時に、短期的には労働環境を改善しつつ、ミスマッチだから辞めたい人が辞められる状況もつくっていく。差別は今日明日で無くなるものではないけれど。

 

青山 それは両方できますよね。構造的な差別とスティグマを無くせば、ミスマッチ現象自体が減るわけですから、矛盾しない。

 

荻上 お二人の話は、ぼくが取材をしても絶対たどり着けない部分が多数あるので、ぜひこれからも情報交換できればと思います。本日はありがとうございました。

 

 

■SWASHイベントのお知らせ

「SWASH活動報告会」4/29(水曜・祝日)18:00~千駄ヶ谷区民会館、参加費千円。

「超リアルなストーカー対処策を考える」5/17(日)19:00~ロフトプラスワンウエスト、5/2前売券発売。

(※詳しくはHPをご覧ください。http://swashweb.sakura.ne.jp/

 

 

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