地方創生アイデア会議――これからの「地方」には何が求められるのか

荻上 地方創生のためには、公的な力と民間の力をうまく組み合わせることが必要なのですね。木下さんは「オガール」というプロジェクトを運営されていますよね。これはどういったものでしょうか。

 

木下 公民連携事業機構でサポートをしている、岩手県紫波町で行っているオガールプロジェクトは、完全に市場と向き合い、「行ってみたい」と思われるまちづくりを念頭に置いて活動しています。それを仕掛けるため、どんどん民間が先に走り、行政がそれに沿ってルールをどんどん変え、スピードを民間に併せて動いています。

 

そもそもは紫波町が、JR紫波中央駅前の町有地10.7haを中心とした都市整備を行う際に十分な運営資金がなかったので、民間側に開発への協力を頼むと、町長さんを筆頭に意思決定をされたことがそもそものはじまりになっています。

 

例えば、図書館を行政が、カフェや地元野菜のマルシェなどを民間が、そしてその施設全体の計画・開発・運営を一貫して「オガールプラザ株式会社」という新しく作られた、民間の特定目的会社が行っています。銀行から借り入れおこして、オガールプラザを開発して経営しているのです。

 

人事とか方向性とか、目的のプロジェクトをトップがしっかり設定すれば、役所の人も頑張れるし、民間の人も頑張れる。紫波町はまだまだこれからではありますが、この数年でオガールプロジェクトのエリアは、地価も上昇に転じ、自治体の歳入も増加しています。まちづくりはこのようにしっかいと総生産を拡大し、それにともなって地に足の着いた雇用も生まれ、結果として自治体にとっても財政的なメリットがあることが必須です。でなければ、行政も民間もまちづくりにかかったコストを回収できませんから。

 

荻上 なるほど。行政側が方向性をしっかりと定めることが必要になるということですね。

 

 

ひとつひとつの地方の事例

 

荻上 今日はリスナーの方からもいろいろご意見をいただいています。

 

「私は東京出身なんですがこの冬、北海道のニセコという場所を訪れたときに驚いたことがあります。いたるところに英語・中国語の案内があり、すれ違う人の半数は外国人。スキー場の職員もラーメン屋の店員さんも英語がペラペラで、果たしてここは本当に日本なのかと思うほどでした。観光という点では、不景気で財布のひもが固い日本人より外国人を呼び込む方が効果的なのかもと思いました」

 

荻上 西田さん、これはいかがでしょうか。

 

西田 場所によっては、そういうことが行われるべきと思います。外国の人が多く来る場所はそのメリットを生かせるような場所にするのが合理的です。

 

ニセコの場合は土地を半分買い占めて、グローバルに売り出すというようなアプローチをしているので、一つの方法として成立していると思います。観光的な資源をもっているところがそうしてエッジをきかせていくところは、ひとつの解決策なんじゃないかと思います。

 

木下 あれは従来の観光振興とは大幅に異なっていて、それが効果をあげていると感じています。いま西田さんも少し触れられていましたけど、日本人が外国人に営業をしているのではなくて、外国の人がニセコ周辺の土地を買って、外国人に売っているわけなんですね。

 

メインストリートの土地も、いまはほとんど外国人のものとなっているそうです。だから、地元の人たちが頑張ることもひとつの道ではあるんですけど、地元ではどうにもらちが明かないと思ったときに、国外を含めた地元外の人たちに活用策を求めるのもひとつの策だとは思いますね。もともとニセコのリ・ブランディングをしたのは、そういった外の目なのですから。ニセコの場合はだいぶダイナミックではありますが。

 

荻上 続いて、このような意見もいただいています。

 

「治安の面などいろいろ議論はありますが、それでもカジノの誘致というのは、地方創生には有効なのではないでしょうか。スタジオの皆さんのご意見をいただきたいです。」

 

カジノというのはいかがでしょうか。

 

木下 基本的にはいいと思います。ただ、単にカジノがくれば地域が活性化するといったものではないと思います。観光として扱うという意味では、単に賭博だけではなく、周辺にいろんなリゾート施設を開発していくことなどが求められるのではないかと。

 

荻上 カジノのあるところにプラスして、レストランやショッピングモールなどを新しくつくるということですね。

 

木下 そうですね。ただ本格的にやるのであれば、アジア圏のなかでも観光の目玉になりうるような、競争力のあるエリアにしなければならないと思います。たとえば、囲い込み型のエリアを作って、その中にカジノを設置するとか。さらに治安維持など含めてマイナス効果にも配慮してトータルで計画を進めるべき、かなり難易度の高い都市開発の一つだと思っています。

 

閉鎖的な空間のなかで海外の方に遊んでもらうというのは全世界どこでもあることですけど、日本の非常に優位な点は、繁華街とかの深夜でも、安全性がしっかり確保されていることなんですね。外国の方でも安心して、歩きながら飲んだり食べたりすることができる。この環境を維持することによって、観光客の夜の街での消費を増やすことは十分に可能です。

 

世界的にも、そういう隔離されていない「健全な」カジノの例はあまりありません。ここがカジノエリアで、ここだけで遊んでくださいというのとは違う形態になりますし、既存産業がそこに食われてしまう、ということにも恐らくはならないですね。

 

全体としてかなりの需要が広がって、かつカジノのエリアとしても、競争力が国際的に上昇するのではないかと思います。ただ、これも細かな組み立てをしないと、絵に描いた餅になりますので、功罪共にしっかり認識した上で進めるべきことであると思います。

 

荻上 また、このようなメールも届いています。

 

「私のふるさと、徳島県の沿岸部にある美波町はIT、インフラ網を整備して、大都市圏のIT企業を呼び込んでいます。かなりうまくいっているようですが、過疎の町といわれていたのに企業がつぎつぎと集まっています。美波町にすむ知り合いからは移住してきた若者はサーフィンや釣りをして楽しんでいるとも聞いています。ある企業は季節ごとに東京と美波町オフィスを選べるようにしているのも人気だそうです。今はインターネットの普及により、東京や大阪など大都市でなくても職場にできる時代になったと思います。企業を誘致できるようなインフラ整備、ライフスタイルの提案、使える策なのではないでしょうか」

 

耳にしたことのある例ですが、実際の事例としてはいかがでしょうか。

 

西田 いまだと徳島の神山町とか、近いところだと鎌倉などで海沿いにオフィスを作って、IT系の企業などでサーフィンをしながら仕事をするというのは流行っていますね。それはブレインストーミングの一環であって、場所を変えることでアイデアを生みやすくするということです。

 

つまり普段の職場、都内のビルの中では新しいアイデアが出てこないから、海に囲まれた静かな地方で、みっちり仕事のことを考えるということですね。いいですね。ぼくもそういう生活にしたい(笑)

 

木下 私は去年美波町を訪れたのですが、そこでは月1万円で家と船の貸し出しが行われていました。働いている人の多くは、別に美波町に住んで働いているという感じではないし、かといって観光でもない。このような少し変わった形でまちにいる人は、いますごく大きな需要だと思うんですね。定住人口でもないし、交流人口でもない、第三の人口です。

 

特にITなど新興系の企業の方々は、非常によく利用される。やはり、環境を変えて仕事をすることは、アイデアの創出においても重要だと思いますし、今後はさらに増えていくのではないかと思います。

 

 

「人」というキーワード

 

荻上 他にも続々、アイデアをメールでいただいています。

 

「最近白いイチゴを食べる機会があったのですが、一粒700円という価格にびっくりしました。製法など難しいことはわかりませんが、工夫次第で付加価値をつけて販売できる農作物はまだまだあるのではないかと思いました。たとえば農業に株式会社を参入させて、白いイチゴのように付加価値の高い商品を開発したり、流通の部分を効率化してより収益を確保することで、地方創生につなげることはできないでしょうか」

 

「地方創生って新しい産業を見つけて育てる必要があるのでしょうか。今あるものの新しい価値、また使い道を考えることこそ重要なのではないでしょうか。つまものに付加価値をつけ、京都の料亭などにおろしたところ、非常に高値で売れたという成功話をきいたことがあります。もちろん、つまものに限らずほかの農産品、海産物、加工品、人、ソフトなども含め、ちょっとした再発見とブランディングで十分に創生のきっかけになるのではないでしょうか」というメールが来ています。

 

「子育て中や介護中の個人や家族が住む特区を限界集落などにつくって、その中では税金をとても低く設定することで活性化してはいかがでしょうか」

 

という意見がありました。「地方創生」という議論になったとき、どこを「地方」とイメージするかによってずいぶん違いますよね。あと一歩の後押しが必要な地域もあれば、そもそも地理的なアピールポイントが少ないような地域もある。それぞれ、別の議論が必要になると思います。

 

一方、安倍総理が「アピールポイントはどこにでもあるはず」という会見をしていましたが、木下さん、それに関してはいかがでしょうか。

 

木下 はい、もちろんないとは言えないですね。従来の人だけでやっていたからその地域が衰退してしまったというケースは少なくはないので、その構成員を変えることによって、変わってくる部分は多少なりともあると思います。

 

基本的には、私はやはり営業力ではないかと思っています。これは個人のコネクションのことでもあって、特定の分野での広いつながりがある人が田舎にいることによって、そこからちゃんと販路を作ったりして、営業につなげることは可能なんですね。

 

先ほどのつまものの話で言いますと、それ自体は全国どこの山にもあるんですけど、京都の料亭に使ってもらうためには、そこにパスがなければいけない。逆に言えばつながりが存在すれば強いですよね。要は、そういうことであると思います。

 

荻上 人のつながりに左右されるとなると、政府が掛け声をかけたから、それができるという話にはならないわけですよね。

 

木下 そうですね、ただ仕掛ける人というものは、地元の中では当然、従来とは違うことをやるわけですから、輪をみだす人だったりもします。だから重要なのは、その地域において異分子となる存在をはじかずに、一度任せてみようと割り切ることだと思っています。

 

荻上 なるほど。西田さんはいかがですか。

 

西田 木下さんのおっしゃる通りだと思います。やはり地方振興というときには、人が鍵になるのは間違いないですね。

 

ただ、これはヘタをすると時間がたって、一部の集団が得をする仕組みに、つまり、ただの既得権益になっていく可能性が否定できません。そうしたことは誰にでも、どんな組織にもあり得ることですね。

 

ですから、組織や個人のパフォーマンスに対して第三者的な機関が、あくまで客観的な評価を続けていくことが必要ではないかと思います。それは政策における透明性をなくしていくことにもつながりますし、「現状に甘んじない」ことが必要ではないかと思いますね。

 

荻上 やはりキーワードは「人」なのだと。これから具体的にどう動いていくのか。クーポンについてはおふたりとも批判的に見ていましたけど、「地方創生」は成功すると思われますか。

 

木下 今申し上げた「人」という部分が、ある意味すべてだと思うんですね。普通の事業だとみんなそうですよね。カリスマ性のある、人徳のある、営業力のある、技術力のあるといったような創業者や創業メンバーがいるからその会社は成長するというのと一緒で、地方創生も一地域における政策が成功したのは、そこに傑出した個人がいたからだと。

 

何か一つのやり方を適用すれば全国が一気に再生するとか、何万人の雇用が生まれるとか、そういうことを期待しても現実には起きないと思っています。それぞれの地域にいる内発的な人がどれだけ独自に他とは違うことができるか。むしろ違うことをやるのが鍵です。逆にそのような他と違うことをやることに躊躇いのない大胆な人が出てくれば、地理的なメリットが少ない地域でも成功するケースはたくさんあるので、才能ある人材の出現に期待したいところですね。

 

ただそれは、単に1人であるとは限らないということです。私のまわりでは2-3人の小さな傑出した個性をもつ人たちが地域を変える最初の一歩の事業を作り出すことが多くあります。個人やその少数グループをいかに大切にして他と違うことをやるか。昔のように他と同じことをやっていれば安心という時代ではないわけですから。問われているものが大きく変わっていることを認識しないといけないと思っています。

 

西田 カリスマがきちんとパフォーマンス評価されるようになることが理想ですね。そして、そのノウハウを現場同士でシェアしてそれぞれの地域にあった形にできれば、「地方創生」にはたしかな一歩が生まれるのではないかと思っています。

 

 

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