2015.06.10

地方創生アイデア会議――これからの「地方」には何が求められるのか

木下斉×西田亮介×荻上チキ

社会 #荻上チキ Session-22#地方

政府のまち・ひと・仕事創生本部は緊急経済対策の柱として、今年度の補正予算に盛り込んだ地方自治体が使える交付金、総額4200億円の具体的な使い道の例をまとめあげた。この中では、自治体内で使用できるプレミアム付き商品券の発行や、地域の中小企業が大都市の人材を受け入れるおためし就業の助成などが示されている。果たして、その妥当性は。また「地方創生」のために求められる、今後の課題とは。2015年01月16日(金)放送、TBSラジオSession-22「地方創生アイデア会議」より妙録。(構成/若林良)

■ 荻上チキ・Session22とは

 TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

「若い人」がいない現状

荻上 今夜のゲストをご紹介します。まず、一般社団法人、エリアイノベーションアライアンス代表理事で、内閣官房地域活性化伝道師も務める木下斉さんです。よろしくお願いします。

木下 よろしくお願いします。

荻上 まず木下さんが代表を務める、エリアイノベーションアライアンスについてお聞きできればと思います。どのような団体なのでしょうか。

木下 うちは元々北海道から沖縄まで複数の地域で不動産オーナーと共同出資会社を創設するなどして稼ぐ事業の開発に尽力してきました。ただたんに稼ぐ事業を開発するだけでは意味がないので、それらのノウハウも体系化し、全国でしっかり買っていただくためのプラットフォームも作ることで、先進的な地域にはそれだけの情報的な価値が生まれ、地域での事業で稼ぎ、そのノウハウでも稼げるようにする事業を展開しています。

荻上 木下さんはたしか32歳ですよね。若手で、こうして各地で「地域活性化」に携わっている方は、今どのくらいいらっしゃるんでしょうか。

木下 私は高校1年の時にこうした分野の仕事をはじめまして、今年で17年目なのですが、地域活性化へ関心を持つ人は確実に増えているという印象はあります。「地方」に対して興味を持って、実際に関わりたいと思っている若い人もかなり現れていますね。

荻上 一方で新聞の社説などでは、「地方で若者が減っている」という論調もありますよね。そのあたりはいかがでしょうか。

木下 「若者が減っている」というよりも、「若者を排斥している」という方が正しいと私は思っています。若者に頑張ってもらいたいと言いながら、その一方で「頑張り方」は上が勝手に決めてしまって、若者に自由に考える余地を与えていないと感じています。

現在まち・ひと・仕事創生本部の指示に基づいて全国で会議が行われています。次の世代をいかに地域に呼び寄せるか、どういった仕事が彼らにとって魅力的かということを話し合うわけですけど、例えば、そもそも会議のほとんどに若い人がほとんど参加していない。

基本的には40歳以上のおじさんが大部分で、32歳の僕なんかでも、行けばだいたい最年少になります。32のおじさんで最年少ですからね。若者のいない会議で「若者の問題」を話し合うのは正直こっけいです。10-20代の意見もどんどん聞くべきでしょう。なぜ地元を離れていくのか、残りたい若者としても出て行かなくてはならない理由はなにか。それをどう我々大人は解決できるのか、差し迫った課題はそこにこそあります。

さらには最悪な場合には、会議の内容が単なる「若者批判」で終わってしまうことも多いです。若いやつは我慢を知らないとか、すぐに根をあげるとか。いったい何のための会議なのだと思います。

本当に若い人に活躍してもらいたいと思うのであれば、その構成員を10代~30代だけで固めるくらいのことはしてもいいと思うんですね。

荻上 会議の内部でそういった意見は出ないのでしょうか。

木下 誰かが新しく出るためには、その会議に出ているおじさんの誰かが欠けなければいけませんよね。

「会議に出る」ということはある意味地元におけるステータスを示している面もあるので、自分が外されることで「俺は今回声がかからなかった」とへそを曲げる人がやはりいる。それが若者参加の、大きなネックになっているところはあると思います。

荻上 具体的な制度の話などについては、木下さんにこれから詳しくうかがっていければと思います。続いて、この番組ではおなじみ、立命館大学大学院特別招聘准教授で、公共政策や地域振興などを研究する西田亮介さんです。よろしくお願いします。

西田 よろしくお願いします。

 

荻上 西田さんはいまおいくつでしょうか。

西田 31才です。

荻上 「地域」というテーマで議論するときに若い人がほとんど参加しないというお話でしたが、西田さんの感覚としてはいかがでしょうか。

西田 僕はキャリアの最初のころから「地域」に関心があって、神奈川県の条例を作成する委員会や、街づくりのプロジェクト、地域ブランド作りなどに関わっていました。現在も兼職として、非常勤の地方公務員をやっていたりします。そこに若い人はいたものの、ある種の選別が行われていたように感じます。

言ってしまえば、上の世代の人に認められた、上の人にとって都合のいい「若い人」だったということです。だから、おじさんたちの主張ともそんなに差はなくて、結局そこから革新性は出てこないのではないか、とはおぼろげに感じていました。

「プレミアム商品券」の効用

荻上 今日は30代前半のメンバーで、「地方」と「若者」というテーマについて話し合いたいと思いますが、このふたつは切っても切り離せない問題といえます。

なぜなら地域において若者が減少することは、高齢化・過疎化とそのまま密接に関係するからですね。ですので、若者の雇用や居場所をどうつくるかということは、地方における大きな課題ではあるのですが、今回はその具体的な事例についてうかがっていきたいと思います。

まず、地方創生交付金の使い道に関して。最近ニュースで「プレミアム付き商品券」の発行についてとりあげられていますよね。木下さん、このプレミアム付き商品券とはそもそもどういったものなのでしょうか。

木下 ここ数年、商店街においてはなじみの深い補助金事業なんですけど、要は一般の方が10000円分の商品券を買うと、20%、2000円分が税金で補填されて、その街では12000円分の買い物ができるという仕組みのものですね。10000円が12000円分で使えるわけなので、売れます。

荻上 使用できる場所や、期間を定めて販売するかたちだと。ということはすべての地域でやるわけではなく、いくつかの地域で限定的にやるということになるのでしょうか。

木下 そうですね。希望する自治体が地元の商業団体などと連携して行うかたちになりますので、基本的にはローカルなものと言えるのではないかと思います。

西田 となると、税金で地域ごとの消費を後押しする、というかたちになるわけですよね。

木下 そうなりますね。

西田 需要が低下しているときに、プレミアム商品券などを使って消費を喚起すること自体は悪くないと思います。ですが、同時にもっと根本的な、これまでの構造を変えるようなインセンティブに乏しいことも問題だと思うんですね。

たとえば、一瞬盛り上がったときにうまく新しい商品を作るための枠組みを作るとか、人材育成のスキームを作るとか、そういうことをやらないままにおしまいとなるのは、持続的な変化を生みだすことにはつながりえないと感じています。

木下 そうですね。地方創生という観点から考えると、プレミアム商品券はただのブースターにしかならないので、商店街全体や地元の商業団体などの「大きな枠」についてもセットで考えなければ、効果は一時的なものに終わってしまうと思います。また、商品券購入は経済力のある人のほうが沢山購入できますから、そういう意味では、購買力のある人に税金をつかってさらに物を買わせるという意味で行政的ではない側面もあります。

荻上 ここでリスナーの方から質問が来ています。

「政府主導の地方創生と言えば思い出されるのが竹下内閣のふるさと創生一億円と、小渕内閣が流通させた地域振興券。どちらも効果があったという印象はありません。こうした過去の地方振興の総括や検証は十分に行われたのでしょうか。今度の政策には、過去の反省はどう生かされたのかを教えて欲しいです」。そしてTwitterから。「この手の地方起こしはわけのわからないコンサルががっつりお金をとって、結果責任をとらないという歴史が続いている」

これは政策としてはひとつの手段だが、地方創生という議論とはまた違うということですね。

木下 そうですね。これをやったから地方が急に元気になって、東京から若者が地方に押し寄せるという話にはならないという。

荻上 たとえば、特定の自治体、特定の条件を満たした地方にこれが導入されて、観光で若者がくるとなったらそれはそれでひとつの活性化手段ではあるけれども、ではその地域に国民の税金を使うとなると、なかなか合意がとりづらいわけですよね。また、本当にそれで効果が出るのかも見えづらいとなると、実行には移しにくい。

西田 まさにご指摘の通りで、国の行政は、原則としてひとつの自治体に限定してお金を落とすという施策はらないことになっているので、まんべんなく、うまく分けるくらいしかないんですよね。

雇用を生み出すことの困難

荻上 プレミアム商品券についてはいまの話でわかりました。次に、地域の外の人が特産品を購入したり、地域へと旅行した際に使うことができる「ふるさと名物商品旅行券」というものへの助成もあります。木下さん、これはどういったものでしょうか。

木下 これはプレミアム商品券に似ている部分があるんですけど、たとえば特産品のようなものを作った場合、そこにはまず、いきなり正規価格では買ってもらえないだろうという懸念が発生しますよね。それでお試し商品など、買いやすくするための助成をしようというものです。また、現地に足を運ばせるための企画、たとえばモニターツアーなどについても助成をしていきましょうと。そういう事業ですね。

荻上 こちらの事業については、西田さんはどう思われますか。

西田 これはちょっと微妙だと思います。まず、市場をゆがめる可能性がある。たとえばもともと売れている商品Aがあって、しかしその競合商品Bが観光客向けに割安になったりすると、Aが急速に廃れてしまう可能性があります。

もうひとつは、なかなか一般に伝わらない。つまりどこかに行く時にこういう制度があるのだと、人々はそんなに調べはしないだろうという話で、結局はあまり利用されないままに終わるんじゃないかと思いますね。

荻上 なるほど。ちなみに今の話は地域に行って買い物をしようというプランでしたけど、一方で雇用の創出についても、多額の予算がつけられています。目標として掲げられているのが、農業に5万人、中小企業に8万人の雇用を作るということで。西田さん、この目標設定についてはいかがでしょうか。

西田 これは目標が高すぎてすごく難しいと思います。その達成のためにはまず、雇用創出系の事業は現時点ですらあまり円滑に動いてはいない。

予算の活用の仕方として、「人件費の3分の2を補助する」というようなやり方になると思うんですけど、そこでは「解雇しない」ことが前提になるんですよね。つまり国の補助を受けて人を雇った場合は、ずっと雇い続けなければならないわけです。

仮に迎え入れた人材が期待外れだったときのデメリットを考えると、まず多くの企業は手を出さないだろうと思いますね。

これまでの雇用支援の実績を考えても、たとえば「育て上げネット」という日本で、もっとも成果を挙げている若年向けの就労支援をおこなっているNPO、そこの理事長である工藤啓さんは僕の『無業社会』という本の共著者でもあるんですが、10年間で2万人くらいなんですね。

だから、いきなり中小企業で8万人とか、そういった規模の雇用を生み出すというのは、規模感として現実的とは思えません。もうちょっと、段階を踏んだ方がいいのではないかと思います。

荻上 なるほど、木下さんはどう思われますか。

木下 僕も厳しいと思います。売り上げが今後伸びるという見込みがないままに短期的に支援がついたからといって、経営者の立場からすれば、ただやみくもに人を雇い続けるというわけにはいかないですよね。

ひとつの会社を大きくしていろんな人を雇うよりも、むしろ中小企業を新しく作ったり、個人事業主となってものづくりを行ったりするほうが現実的に、私達の取り組む事業でも増加しています。成果的にはもちろん少しずつしか増えないので地味ですが、予算で生まれる100人の雇用より、地道な1人の雇用のほうが継続性があり、地域にとっては重要であると思っています。従来の産業と雇用の関係を前提に考えないと、なかなか現状に見合ったものにはならないと感じますね。

荻上 では、「○万人」という数値を目標とするところについてはいかがでしょうか。

木下 それについても、あまりいいとは思えません。最初から何万人を雇わなければいけないとなると、その計画にどんどん縛られていって、本質的な課題認識や今後目指すべき目的がおざなりにされてしまう可能性が高いです。

「目標が達成できなかった」とは言いづらいので、手を変え品を変え、明らかに需要がないところに、「雇用」が無理やり作りだされることにもなる。予算の力ですね。そうなると当然長続きはしないので、その期間に数値が達成されたとしても、翌年には逆もどりとなるだろうと思いますね。

納得できるかたちでの「雇用」を作るには、ある程度の長い時間、また土台がなければ難しいと思います。結果として事業拡大の先に雇用拡大というものに数字があるわけであって、最初から意図して計画経済的に数字を達成できるのであれば、どこの企業も苦労しません。

西田 木下さんの意見にはおおむね賛同なのですが、僕はむしろ、数値目標はあった方がいいのではないかと思います。

もともと日本の行政組織には無謬性の原則、つまり「決して間違いを起こさない」という前提が存在します。つまり、行政が主導となった政策が効果をあげなかったとしても、彼らはそれを認めません。2000年代にはPDCAという進捗管理のフィードバック手法が大変流行したのですが、現在では数値目標のない、ただの進捗管理に成り下がっているケースも少なくありません。

しかし、数値目標がある場合には、最低限検証をすることが可能になりますし、その内実がどうだったか、見直す機会にはなるかと思います。「誤りを見つける」ということもそうですが、これまでの政策を見直す上で、数値目標を設定することには一定の意義があるのではないかと思います。

「行政」と「民間」はどのように結託するか

 

荻上 ここでメールを紹介します。

「地方創生、いまの安倍政権が掲げているプランはどこかで見たような感があり、本当に成功するのかと思ってしまいます。たとえば、アイデア出しも含めて民間企業に委託し、民間主導で開発を行うというのはいかがでしょうか。最近ではTSUTAYA図書館の事例も話題になりましたし、企業サイドからのアイデアによって思わぬ発見があるかもしれないと感じています。」

TSUTAYA図書館の事例は「話題」にはなりましたが、それで「成功」といえるのかは微妙でしょう。但し、民間企業の主導で成功したケースは確かに存在するでしょう。その反面、さらにダメになったというケースもまた存在するわけです。任せるべきかどうか、その選別は難しいところがありそうです。

今までご自身が関わってきた案件の中で、民間と行政はどのように関わるのが理想だと感じていますか。

木下 そうですね、地方や街をどうするかといったことは基本的に行政がやる仕事だと皆が思ったりしているのですが、実際にただその対象となる「まち」というものは、ほとんどが民有地なんですね。つまり民間の人たちが普通にもっている土地。

行政は個人の土地について、強制的にこうしろ、あれをやれといったことは基本的に言えません。だから、そこには当然民間側の意志も重要視されて、また知恵を借りる必要も出てきます。

地方が変わる上では、むしろ民間が勝手に取り組むことを行政側がいかにあまり関与しないか。もしくは、彼らがやりたいということを、どう可能にするかというところが重要になってくるように感じていますね。

たとえば、民間側がこういう事業をやりたいと言ったときに、行政が施設を貸し出して拠点づくりを支援するというのもありますし、その土地に面した道路などの活用をどんどんやってもらうこともできる。補助金や交付金はだめですが、金融機関を紹介したりはできる。

そういったことは、基本的には「ルール」という形で明記されてはいません。だから、個別に民間から申し出があれば、どういう法律に基づいて施設や土地の賃貸ができるのかということを、行政側がしっかりと調べて民間に提示する必要があるのではないかと。できるようになるすべは必ずありますし、それをしっかりやっている自治体は、民間の力が非常に発揮されています。

昔は行政が民間を規制してきましたが、これからはそれでは経済はどんどん縮小していきます。いちばん最悪なのは、自治体が勝手に自分たちの都合でルールを作って、あとはよろしくと民間に投げるパターン。これは大体失敗します。施設開発でもよくあります。行政ががんじがらめの仕様を作って自由がなければ、民間側はその民間ならではの力が発揮しようがありません。行政側には、相手に対して柔軟に対応を変える姿勢が求められていると感じています。つまり、イニシアティブは民間にある。民間主導行政参加の時代だと思っています。

西田 同感です。地方の場合だと、エリートのキャリアは地元の国立大学を出て就職先に地方自治体、あるいは金融機関というルートがある意味一般的なんですけど、地域内で相対的には意識が高く、優秀な人たちが多いんですね。

ただ、先ほど木下さんがおっしゃられたように民間との連携、また人材のマッチングがうまくできていない。たとえば融資をする人間が金融機関の、それも年配の人だけで固まっていたりとか、中小企業診断士が補助事業にぶら下がっている人ばっかりで、リスクを見る目がなかったりとか。だから、そういう細部を変えていく必要はあると思いますね。

荻上 地方創生のためには、公的な力と民間の力をうまく組み合わせることが必要なのですね。木下さんは「オガール」というプロジェクトを運営されていますよね。これはどういったものでしょうか。

木下 公民連携事業機構でサポートをしている、岩手県紫波町で行っているオガールプロジェクトは、完全に市場と向き合い、「行ってみたい」と思われるまちづくりを念頭に置いて活動しています。それを仕掛けるため、どんどん民間が先に走り、行政がそれに沿ってルールをどんどん変え、スピードを民間に併せて動いています。

そもそもは紫波町が、JR紫波中央駅前の町有地10.7haを中心とした都市整備を行う際に十分な運営資金がなかったので、民間側に開発への協力を頼むと、町長さんを筆頭に意思決定をされたことがそもそものはじまりになっています。

例えば、図書館を行政が、カフェや地元野菜のマルシェなどを民間が、そしてその施設全体の計画・開発・運営を一貫して「オガールプラザ株式会社」という新しく作られた、民間の特定目的会社が行っています。銀行から借り入れおこして、オガールプラザを開発して経営しているのです。

人事とか方向性とか、目的のプロジェクトをトップがしっかり設定すれば、役所の人も頑張れるし、民間の人も頑張れる。紫波町はまだまだこれからではありますが、この数年でオガールプロジェクトのエリアは、地価も上昇に転じ、自治体の歳入も増加しています。まちづくりはこのようにしっかいと総生産を拡大し、それにともなって地に足の着いた雇用も生まれ、結果として自治体にとっても財政的なメリットがあることが必須です。でなければ、行政も民間もまちづくりにかかったコストを回収できませんから。

荻上 なるほど。行政側が方向性をしっかりと定めることが必要になるということですね。

ひとつひとつの地方の事例

荻上 今日はリスナーの方からもいろいろご意見をいただいています。

「私は東京出身なんですがこの冬、北海道のニセコという場所を訪れたときに驚いたことがあります。いたるところに英語・中国語の案内があり、すれ違う人の半数は外国人。スキー場の職員もラーメン屋の店員さんも英語がペラペラで、果たしてここは本当に日本なのかと思うほどでした。観光という点では、不景気で財布のひもが固い日本人より外国人を呼び込む方が効果的なのかもと思いました」

荻上 西田さん、これはいかがでしょうか。

西田 場所によっては、そういうことが行われるべきと思います。外国の人が多く来る場所はそのメリットを生かせるような場所にするのが合理的です。

ニセコの場合は土地を半分買い占めて、グローバルに売り出すというようなアプローチをしているので、一つの方法として成立していると思います。観光的な資源をもっているところがそうしてエッジをきかせていくところは、ひとつの解決策なんじゃないかと思います。

木下 あれは従来の観光振興とは大幅に異なっていて、それが効果をあげていると感じています。いま西田さんも少し触れられていましたけど、日本人が外国人に営業をしているのではなくて、外国の人がニセコ周辺の土地を買って、外国人に売っているわけなんですね。

メインストリートの土地も、いまはほとんど外国人のものとなっているそうです。だから、地元の人たちが頑張ることもひとつの道ではあるんですけど、地元ではどうにもらちが明かないと思ったときに、国外を含めた地元外の人たちに活用策を求めるのもひとつの策だとは思いますね。もともとニセコのリ・ブランディングをしたのは、そういった外の目なのですから。ニセコの場合はだいぶダイナミックではありますが。

荻上 続いて、このような意見もいただいています。

「治安の面などいろいろ議論はありますが、それでもカジノの誘致というのは、地方創生には有効なのではないでしょうか。スタジオの皆さんのご意見をいただきたいです。」

カジノというのはいかがでしょうか。

木下 基本的にはいいと思います。ただ、単にカジノがくれば地域が活性化するといったものではないと思います。観光として扱うという意味では、単に賭博だけではなく、周辺にいろんなリゾート施設を開発していくことなどが求められるのではないかと。

荻上 カジノのあるところにプラスして、レストランやショッピングモールなどを新しくつくるということですね。

木下 そうですね。ただ本格的にやるのであれば、アジア圏のなかでも観光の目玉になりうるような、競争力のあるエリアにしなければならないと思います。たとえば、囲い込み型のエリアを作って、その中にカジノを設置するとか。さらに治安維持など含めてマイナス効果にも配慮してトータルで計画を進めるべき、かなり難易度の高い都市開発の一つだと思っています。

閉鎖的な空間のなかで海外の方に遊んでもらうというのは全世界どこでもあることですけど、日本の非常に優位な点は、繁華街とかの深夜でも、安全性がしっかり確保されていることなんですね。外国の方でも安心して、歩きながら飲んだり食べたりすることができる。この環境を維持することによって、観光客の夜の街での消費を増やすことは十分に可能です。

世界的にも、そういう隔離されていない「健全な」カジノの例はあまりありません。ここがカジノエリアで、ここだけで遊んでくださいというのとは違う形態になりますし、既存産業がそこに食われてしまう、ということにも恐らくはならないですね。

全体としてかなりの需要が広がって、かつカジノのエリアとしても、競争力が国際的に上昇するのではないかと思います。ただ、これも細かな組み立てをしないと、絵に描いた餅になりますので、功罪共にしっかり認識した上で進めるべきことであると思います。

荻上 また、このようなメールも届いています。

「私のふるさと、徳島県の沿岸部にある美波町はIT、インフラ網を整備して、大都市圏のIT企業を呼び込んでいます。かなりうまくいっているようですが、過疎の町といわれていたのに企業がつぎつぎと集まっています。美波町にすむ知り合いからは移住してきた若者はサーフィンや釣りをして楽しんでいるとも聞いています。ある企業は季節ごとに東京と美波町オフィスを選べるようにしているのも人気だそうです。今はインターネットの普及により、東京や大阪など大都市でなくても職場にできる時代になったと思います。企業を誘致できるようなインフラ整備、ライフスタイルの提案、使える策なのではないでしょうか」

耳にしたことのある例ですが、実際の事例としてはいかがでしょうか。

西田 いまだと徳島の神山町とか、近いところだと鎌倉などで海沿いにオフィスを作って、IT系の企業などでサーフィンをしながら仕事をするというのは流行っていますね。それはブレインストーミングの一環であって、場所を変えることでアイデアを生みやすくするということです。

つまり普段の職場、都内のビルの中では新しいアイデアが出てこないから、海に囲まれた静かな地方で、みっちり仕事のことを考えるということですね。いいですね。ぼくもそういう生活にしたい(笑)

木下 私は去年美波町を訪れたのですが、そこでは月1万円で家と船の貸し出しが行われていました。働いている人の多くは、別に美波町に住んで働いているという感じではないし、かといって観光でもない。このような少し変わった形でまちにいる人は、いますごく大きな需要だと思うんですね。定住人口でもないし、交流人口でもない、第三の人口です。

特にITなど新興系の企業の方々は、非常によく利用される。やはり、環境を変えて仕事をすることは、アイデアの創出においても重要だと思いますし、今後はさらに増えていくのではないかと思います。

「人」というキーワード

荻上 他にも続々、アイデアをメールでいただいています。

「最近白いイチゴを食べる機会があったのですが、一粒700円という価格にびっくりしました。製法など難しいことはわかりませんが、工夫次第で付加価値をつけて販売できる農作物はまだまだあるのではないかと思いました。たとえば農業に株式会社を参入させて、白いイチゴのように付加価値の高い商品を開発したり、流通の部分を効率化してより収益を確保することで、地方創生につなげることはできないでしょうか」

「地方創生って新しい産業を見つけて育てる必要があるのでしょうか。今あるものの新しい価値、また使い道を考えることこそ重要なのではないでしょうか。つまものに付加価値をつけ、京都の料亭などにおろしたところ、非常に高値で売れたという成功話をきいたことがあります。もちろん、つまものに限らずほかの農産品、海産物、加工品、人、ソフトなども含め、ちょっとした再発見とブランディングで十分に創生のきっかけになるのではないでしょうか」というメールが来ています。

「子育て中や介護中の個人や家族が住む特区を限界集落などにつくって、その中では税金をとても低く設定することで活性化してはいかがでしょうか」

という意見がありました。「地方創生」という議論になったとき、どこを「地方」とイメージするかによってずいぶん違いますよね。あと一歩の後押しが必要な地域もあれば、そもそも地理的なアピールポイントが少ないような地域もある。それぞれ、別の議論が必要になると思います。

一方、安倍総理が「アピールポイントはどこにでもあるはず」という会見をしていましたが、木下さん、それに関してはいかがでしょうか。

木下 はい、もちろんないとは言えないですね。従来の人だけでやっていたからその地域が衰退してしまったというケースは少なくはないので、その構成員を変えることによって、変わってくる部分は多少なりともあると思います。

基本的には、私はやはり営業力ではないかと思っています。これは個人のコネクションのことでもあって、特定の分野での広いつながりがある人が田舎にいることによって、そこからちゃんと販路を作ったりして、営業につなげることは可能なんですね。

先ほどのつまものの話で言いますと、それ自体は全国どこの山にもあるんですけど、京都の料亭に使ってもらうためには、そこにパスがなければいけない。逆に言えばつながりが存在すれば強いですよね。要は、そういうことであると思います。

荻上 人のつながりに左右されるとなると、政府が掛け声をかけたから、それができるという話にはならないわけですよね。

木下 そうですね、ただ仕掛ける人というものは、地元の中では当然、従来とは違うことをやるわけですから、輪をみだす人だったりもします。だから重要なのは、その地域において異分子となる存在をはじかずに、一度任せてみようと割り切ることだと思っています。

荻上 なるほど。西田さんはいかがですか。

西田 木下さんのおっしゃる通りだと思います。やはり地方振興というときには、人が鍵になるのは間違いないですね。

ただ、これはヘタをすると時間がたって、一部の集団が得をする仕組みに、つまり、ただの既得権益になっていく可能性が否定できません。そうしたことは誰にでも、どんな組織にもあり得ることですね。

ですから、組織や個人のパフォーマンスに対して第三者的な機関が、あくまで客観的な評価を続けていくことが必要ではないかと思います。それは政策における透明性をなくしていくことにもつながりますし、「現状に甘んじない」ことが必要ではないかと思いますね。

荻上 やはりキーワードは「人」なのだと。これから具体的にどう動いていくのか。クーポンについてはおふたりとも批判的に見ていましたけど、「地方創生」は成功すると思われますか。

木下 今申し上げた「人」という部分が、ある意味すべてだと思うんですね。普通の事業だとみんなそうですよね。カリスマ性のある、人徳のある、営業力のある、技術力のあるといったような創業者や創業メンバーがいるからその会社は成長するというのと一緒で、地方創生も一地域における政策が成功したのは、そこに傑出した個人がいたからだと。

何か一つのやり方を適用すれば全国が一気に再生するとか、何万人の雇用が生まれるとか、そういうことを期待しても現実には起きないと思っています。それぞれの地域にいる内発的な人がどれだけ独自に他とは違うことができるか。むしろ違うことをやるのが鍵です。逆にそのような他と違うことをやることに躊躇いのない大胆な人が出てくれば、地理的なメリットが少ない地域でも成功するケースはたくさんあるので、才能ある人材の出現に期待したいところですね。

ただそれは、単に1人であるとは限らないということです。私のまわりでは2-3人の小さな傑出した個性をもつ人たちが地域を変える最初の一歩の事業を作り出すことが多くあります。個人やその少数グループをいかに大切にして他と違うことをやるか。昔のように他と同じことをやっていれば安心という時代ではないわけですから。問われているものが大きく変わっていることを認識しないといけないと思っています。

西田 カリスマがきちんとパフォーマンス評価されるようになることが理想ですね。そして、そのノウハウを現場同士でシェアしてそれぞれの地域にあった形にできれば、「地方創生」にはたしかな一歩が生まれるのではないかと思っています。

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プロフィール

木下斉一般社団法人公民連携事業機構理事

1982年7月14日東京都生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房 地域活性化伝道師。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業等。著書に『まちづくり:デッドライン』(日経BP、共著)『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)『稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則』 (NHK出版新書)など。公式サイト http://www.areaia.jp/ ( twitter : @shoutengai )

この執筆者の記事

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

この執筆者の記事

西田亮介東京工業大学・大学マネジメントセンター准教授

1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。専門は、地域社会論、非営利組織論、中小企業論、及び支援の実践。『中央公論』『週刊エコノミスト』『思想地図vol.2』等で積極的な言論活動も行う。

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