書くのは簡単、消すのは大変――ネットで中傷、どうすれば?

殺人事件の犯人だと間違われてネットで執拗な中傷と嫌がらせを受けたスマイリーキクチさん。ネットでの誹謗中傷の書き込みの削除の他、TwitterやFacebookで誹謗中傷を投稿した加害者の情報開示請求に日本初で成功した清水弁護士。ネット中傷問題に取り組んでいるお二人に、もし自分がネット中傷被害にあったとき、どうしたらいいのか、お話いただきました。(構成/片瀬久美子)

 

 

ネット中傷対策に蔓延るあやしい業者

 

キクチ 普段、ネット関連の番組がないか注意してテレビの番組表を見ているんですよ。それで、たまたま見た番組で清水さんがお話されている内容にすごく興味を持ちました。真剣に取り組んでらっしゃるなぁと。もっと言うと、中傷された人の気持ちを考えた話だったので、ああこの弁護士さんは信頼できそうだと思ったんです。

 

清水 そうでしたか…。

 

キクチ 僕がこれまで、ネットいじめ関連で10人、20人の専門家の方々と会ってみたんですが、真剣に取り組んでおられる方は、今まで数人しかいなかったんですよ。実際にお会いしてみて、すごく安心しました。(笑)清水さんはネット中傷問題に関する講演とかはされていないんですか?

 

清水 依頼を受けた時にやるくらいで、自分からは積極的にやりません。ほとんどやらない、というか、やったことがないですね。

 

キクチ そうなのですか。結構、ネット関連の講演は、いつもどこかで誰かがやっているんですよね。

 

清水 最近、やっている人は多いみたいですけれどね。集客目的もあるかもしれません。

 

キクチ そうなんですよ。何人か聞いたことはあるのですけれど、信用できるのかなと疑問を持つものが多いです。正直、自分の体験から見ると、ネットの危険性や対処法の話を聞いていても、適当に言っている人がいて…。「ネットの誹謗中傷対策します」という広告をみかけますが、ちょっと怪しそうな業者も多いですね。

 

清水 非弁提携という問題があって、弁護士以外の者が依頼者を代理して削除を依頼することはできません。誹謗中傷対策とかで検索すると企業がたくさん出てくると思います。実際に誹謗中傷対策で検索すると、ここも、ここも…。こういう会社などが、削除の依頼をすることは法律違反になるんです。弁護士法72条というものがありまして、代理してはいけないことになっています。

 

キクチ 違反になってしまうんですか。

 

清水 はい。削除というのが最近はまずいということが分かってきているみたいで、明確には書いていないところが増えてきていますが、実際には削除依頼をしていたりします。

 

こういう業者と弁護士がつながって、弁護士がバックマージンを受けることをやっているケースもあります。講演をしている業者の中には、そうしたものがあるかもしれませんから、注意が必要ですね。

 

キクチ ネット中傷対策をしている団体には、あやしいものも多いみたいですね。僕のブログにも中傷を受けている人から相談のメールが来るのですが、僕に来るってことは、多分いろいろ手を尽くしてダメだったからではないかと思っています。

 

片瀬:やはり、経験者からのアドバイスが欲しいと思っているのではないでしょうか。

 

キクチ もしかしたら、相談する人がいなかったり、警察にも行ったけれどもダメだったから、僕のところに相談に来たのかもしれません。自分のわかる範囲で答えてはいるのですが、なかなか力になれなくて申し訳ないと思うことが多いです。

 

僕は削除などをどうこうできないので、証拠の集め方や警察に行く前の準備と手順を伝えて、「どこの課へ行って下さい」という話しをしています。結構多いのが、知らずに交番に行ってしまうというケースです。交番は地域課なので、担当が違ってしまうんです。

 

清水 そうですよね。できれば警察署の刑事課に。

 

キクチ 一応、リベンジポルノとかストーカーに関しては、生活安全課がやってくれるという形式上の話しはするのですが、安心面なら刑事課に行く方がいいと思います。

 

清水 そうですね。

 

キクチ 僕の場合は、担当してくれた刑事さんが「俺、パソコンオタクだから」という方だったので、本当に運が良かったです。でも、そういう人が各署に1人いるかというと、いなくて。

 

清水 いないですよね。

 

片瀬:ネットの名誉毀損は、そもそも警察が請け負うものじゃないという考えの人も多かったりしますよね。警察に行って訴えても、それまで刑事事件として扱った経験がなくて、「そういう揉め事は民事でやりなさい」と言われる場合がよくあるようです。

 

清水 やはり、「どうせ口げんかレベルだろう」という偏見で見られがちですよね。

 

 

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清水弁護士

 

 

清水弁護士がネット中傷対策を始めた経緯

 

キクチ 清水さんが、ネット中傷対策を始めたのはいつ頃からですか?

 

清水 2009年くらいからです。

 

キクチ 清水さんが弁護士になられた時には、何か目指す専門分野はあったのですか?

 

清水 ネット関係の事をやろうというのは、当初はあまり考えていなくて、面白い分野があればそれをやればいいか、という風に考えていました。特にビジョンもなかったのですが、3年くらいで独立しようとは思っていました。

 

キクチ では、ネットでというのは、最初はあまり考えていなかったのですね。

 

清水 全然、考えていませんでした。1年で最初にいた事務所を辞めてコンサルティング会社に行ったのですが、そこでリスクコンサルティングのような仕事をしていました。企業不祥事があった時に、プレスリリースを作ったり、記者会見の原稿やQ&Aを作ったり、あとはマスコミからの問い合わせをどういう風にさばくかなどをやっている会社でした。

 

企業不祥事があった時には、企業がいろいろと叩かれるわけです。ネットでもいろいろと書かれるので、何とかしたいという相談があり、「弁護士さんだから何か対策方法を考えて」と無茶振りをされまして(笑)。

 

その時に、IT関係の仕事をやっていた友達の弁護士から、「2ちゃんねるの削除と情報開示の依頼を受けたけれども、共同受任でやらないか?」と声を掛けられたのでやってみたんです。

 

キクチ その時には、まだ経験はないのですよね?

 

清水 ありません。自分もだからそれで、面白そうだなと。仕事で普通に検索くらいですがネットは使いますし、まあ丁度良いなという事で始めてみました。それで1件目が上手く行き、削除ができました。今の2ちゃんねるとはちょっと違う方法ですが、まあ、それはそれで上手く行って、削除をしてもらえたし開示もしてもらえたという事で、そこから始まりましたね。

 

キクチ へぇ。でも、元々ネットに関しては知識もあったのですか?

 

清水 いえ、全然ないです。

 

キクチ そうなんですか。

 

清水 IPアドレスとか、そういう知識は必要ですけれど、本当に多少の勉強でなんとかなります。自分は文系なので、もともと知識はないですし今でも技術的な事はほとんど知らないです。

 

キクチ じゃあ、元々インターネットに興味があったとかパソコンに詳しかったというのではないのですね。

 

清水 全然。そういうわけじゃないですね。もちろん仕事でパソコンもネットも使っていましたが、どちらかというと、ネットで困っている事件を解決する道具として使う様になったという感じです。

 

キクチ いろいろとネット関連のニュース、特に中傷や人権に関するものを調べていたので、そうすると必ず全国初とか、何かというと清水さんのお名前が出てくるので、ずっと興味があったんです。僕が困っていたのは2007年から2008年頃でしたが、その頃清水さんは?

 

清水 丁度、弁護士になったくらいですね。2007年から弁護士でした。

 

キクチ  2008年当時に、ネットで調べても誹謗中傷の対策であまり弁護士事務所は出てこなかった記憶があります。多分、広告がなかったのでしょうね。今でこそ笑って話せますが、最初に相談した弁護士さんに中傷の書き込みをプリントアウトして見せた時、URLを指しながら「このダブリュダブリュって何?」と聞かれました。

 

「2ちゃんねるの住所と電話番号を調べて下さい。誰がやったか聞くから」と言われた時には、ほんとに藁にも縋る気持ちで行ったのに落胆しました。情報の秘密と情報の開示の争いをしなければいけないのに、掲示板の運営会社が「分かりました、じゃあ電話で言われたその通りその相手の住所を教えます」ってなるわけがないだろうと。

 

清水 そもそも匿名掲示板ですからね。

 

キクチ その時には、ほんとにインターネットでそういう裁判をやった事があるっていう弁護士さんというのが珍しくて、探すのがもう大変な状況だったのです。

 

清水 そうですよね。分かります。自分も、最初にやった時に、何かないかなとやっぱり探すわけですが、調べても全然出てこなくって。書籍も探してみたのですけれど、なかなか無くて。

 

キクチ 今は、その時に比べると何倍も開示請求などの事例が増えていますね。実際、清水さんのところには月にどれくらいの相談がくるのでしょうか?

 

清水 年明けから4月くらいまでは多かったですね。やはり、新学期が始まるとか、新年度が始まるのと関係しています。あとは、例えば企業の採用活動で、転職サイトなどでブラック企業などと誹謗中傷をされているから、それを削除したいとかですね。というので、1月から4月くらいまでかなりの量の相談が来ていましたね。

 

キクチ 清水さんの事務所では、個人と企業では何か対応に違いはありますか?

 

清水 それは特に差が無いですね。費用も変わりません。

 

キクチ どういう形で相談を受けているのでしょうか?

 

清水 基本的に電話で受付をすることはほぼなくて、メールフォームがHPにあるので、そこから問い合わせをして頂いています。内容を見ないと対応できるかどうか分からないので、そこにURLと、掲示板などでしたら具体的にレスの番号とか、それと書かれた事が本当なのか、その辺の事情を書いて頂いて、それに基づいて対応できそうかどうかを判断しています。そのメールのやりとりは基本的にお金をとらずにやっています。

 

キクチ 僕の時は弁護士さんとの相談料が1時間で3万5千円だったんです。しかも、2人だったので7万円でした。でも、友達の紹介だったので安くして頂いたのですが、通常ですと、この料金のようです。

 

清水 タイムチャージ制の大手事務所へ行くとそうなりますね。大手事務所のパートナー弁護士になると、1時間5万じゃきかないケースもあると思います。

 

キクチ そこも、他の人に紹介する時に気になるところです。依頼者にとっては弁護士さんにかかる費用も重要ですからね。

 

清水 メールでの問い合わせで相談料をいただくことは基本ないですね。面談の場合は、一応、30分5000円と言っていますがいただかないことも多いです。

 

キクチ それって良心的ですよね。警察で捜査をして頂く前、民事で裁判の準備をしていた時に、詳細についてどういう意味なのか分からないところがあったので電話で質問をすると、それも料金にカウントされていたので、僕はそうした経験がなかったから、いろいろと戸惑いました。(笑)

 

清水 まあ、弁護士に相談する経験がないのが一番ですけどね。(笑)

 

キクチ 僕が弁護士事務所に行く時には、相談料がかかってしまうので、事前に図書館に行って、いろんな刑事訴訟や民事訴訟の本を読んで、ある程度の知識を得てから、分からないことを直に聞くという様にしていたのです。

 

清水 そういう事務所も、あります。タイムチャージ制だとそうなりますよ。【次ページにつづく】

 

 

 

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