サンデル教授の「コミュニタリアニズム的」共和主義を斬る 

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去る4月からNHKの教育テレビで連続放送された「ハーバード白熱教室」が、異例の話題を呼んでいる。

 

 

規範哲学の復権

 

マイケル・サンデル教授が担当するその講義は、ハーバード大学史上最多の履修者を誇る名講義で、受講した学部生は延べ一万四千人以上にのぼるという。大講堂で繰り広げられるその熱血授業に、テレビを通じて魅了された人も多いであろう。8月25日には東大での公開講義もあって、話題は再沸騰した。

 

ここにきて規範哲学は、昨年までの「ノウハウ本」ブームに代わる新たなニーズを呼び起こしたようである。

 

サンデル人気にあやかって、雑誌『東洋経済』は、ビジネスマンのための「実践的「哲学」入門」を特集した(8/14-21合併号)。サンデルの講義本『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍訳、早川書房)は、アマゾンのベストセラー第一位に輝き、またサンデルの主著とされる『民主政の不満』の上巻(勁草書房)が去る七月に発売されると、同書はただちに版を重ねている。

 

これだけ影響力が大きいとなると、サンデル自身の思想的立場がいったいどんなものか、あらためて検討に値するだろう。

 

 

サンデルの思想的立場

 

もともとサンデルは、1982年の著書『リベラリズムと正義の限界』によって、リベラリズム思想の中心人物、ロールズの『正義論』が前提とした「負荷なき自我」像(価値の文脈に埋め込まれていないがゆえに自由で自律的に選択できるというカント的人間像)を批判して注目を浴びた。

 

そして近著『民主政の不満』では、「負荷のある自我」を基礎に自らの理想社会を描くべく、アメリカの憲法論争史を素材にして、「コミュニタリアニズム的共和主義」という価値理念を明確に打ち出している。

 

このたび翻訳された上巻は、アメリカの憲法解釈が、しだいに手続き的なリベラリズムによって支配されてきた過程を丹念に追っている。憲法解釈の一般的傾向に抗して、衰退しつつある別の解釈伝統に光を当てようというのが、サンデルの企てだ。

 

 

五つの解釈伝統

 

サンデルが擁護する解釈伝統は、大きくわけて五つあるだろう。

 

第一に、「良心の自由」にかかわる各人の信仰は、自由な意思に基づくものではなく、自由に選ぶことができない確信の問題であり、その確信は「市民的美徳」を滋養することができるという主張。

 

第二に、ポルノグラフィーは、女性に対する集団的な名誉毀損や、共同体の道徳的水準の低下をまねくという理由で、禁止しうるという主張。

 

第三に、妊娠中絶に反対する立法は、たとえ憲法で認められないとしても、各州の法律に任せて実現可能にすべき、という主張。

 

第四に、同性愛者の結びつきは、婚姻と同様に神聖で相互貞節を特徴とする場合には、人間の重要な善を実現するものとして認めるべき、という主張。

 

そして最後に、離婚した場合の扶養料は、離婚後に女性が経済的に自立しなくても、一人で子供を育てられる水準に引き上げるべき、との発想である。

 

 

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